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名前変換
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「みょうじ、そこの書類取って。」
「はい。」
「みょうじ、何か書くものくれ。」
「はい。」
「みょうじ、茶。」
「はいはいはーい。」
土方さんは何かと人使いが荒い。名目上隊士としてここ真選組で働き始めた私だったが、どちらかと言うと雑用と言ったほうが正しいかもしれない。それくらい私は未だ仕事らしい仕事を与えてもらえていなかった。本来なら勘定方に就いて重役まで上り詰め、そろばん片手にぶいぶい言わせているはずだったのに、どこでどう道を間違えてしまったのか。今の私は傍から見たら本当にただのパシり以外の何者でもない。
程よく温かい緑茶を湯飲みに注ぎながら溜め息が漏れた。なんか、自分で言っていて虚しくなってきたぞ…。
そうこうしている間にまたしても自分の名前が呼ばれるのが聞こえる。
「おいこらみょうじ。」
「はいはい何ですかっと。」
湯飲みが二つ乗った盆を手に、多少小走りで声の元へ向かう。どうぞ、と一つ差し出すと黙って受け取られた。口を付けながら、彼は言う。
「ぬるい。」
「えぇー…」
「もう一回。」
目も合わさずに湯飲みを突き返されてしまい、コノヤロウなんて思いつつも、気が弱い私は黙って突き出された湯飲みを受け取るしかないのである。ああなんて情けない。
(いやなやつ…)
気が付かないうちに急須にお湯を注ぐ動作が少し乱暴になっていた。(い、いかんいかん…!)それにしても、台所で女中のおばちゃんたちに交ざって昼間っからお茶を入れている女子って一体…。私、一応隊士だよね。私の青春、こんなんでいいのだろうか。何だか悲しくなってきた。
「お茶、お持ちしました。」
今度こそと意気込んで差し出したお茶はどうやら合格点に達していたようで、ぐいっと一気に流し込むと空になった湯飲みは机の隅にそっと置かれた。
そういえば、もうそろそろお昼休みだ。意識しだした途端、なんとなくお腹が空いてきたような気がするから不思議だ。くきゅるるーと小さく胃が悲鳴を上げたので恐る恐る口を開いた。
「ひじ、かたさん。」
「あん?」
もう仕事も無いようですし、わたくしそろそろ休憩に入りたいのですが…。
そう言おうとしたのに、顔を上げて盗み見た土方さんがなぜかそわそわしていたから言うに言いだせなくなってしまった。空の湯呑みに手を伸ばしたり、書類をパラパラめくってみたり、仕舞には頭を抱え込んで、何もないはずの空中の一点をじっと睨み付けたまま動かなくなったりなんかして。前髪から覗く鋭い視線が恐ろしいような、かっこいいような…。
右手に握られたシャーペンはこつこつこつこつと意味もなく机を突いていた。
「土方さん。」
「……あん?」
「私、そろそろ…」
かつかつかつかつかつかつ
シャーペンが机を叩く音が一段と大きくなった。
「あの、」
かつかつかつ
「そろそろお昼休みを…」
かつかつかつかつ
「戴きたきたいと」
「っだぁあああもうめんどくせぇ!」
ばんっと、シャーペンを机に叩きつけた土方さんがゆらりと立ち上がり髪の間から瞳孔全開でこちらを見下ろしてきた。
なんだこれ。
思わず口を閉じることも忘れただただ必死になって畳の上を後退りする。
「もうまどろっこしいのはやめだ。」
「え、え、は?」
「いいからもうお前ここにいろよ、何もしなくていいから。」
「え、え、」
「副長命令だからてめぇに拒否権はねぇぞ。」
「ええぇー…」
それって職権乱用っていうんじゃ…
言い掛けた言葉をごくりと飲み込んだ。
「私、これから稽古ありますし…」
「戦闘要員じゃねぇのにか。」
「沖田さんと見回りもありますし…」
「いつもパシられてるだけじゃねえか。」
「洗濯物、畳まなきゃ…」
「洗濯物畳む振りしていっつも猫と昼寝してるけどな。」
「か、買い出し…」
「お前が買い物してぇだけだろ。」
ついに背中が壁に付いてしまった。これ以上後ろへは下がれない。為す術なく体を強ばらせて固まる私を眺めながら、追い詰めた張本人である土方さんがしゃがみこんで楽しそうに笑った。すごく、生き生きしているように見えるのは気のせいかな。
「な、んで、そんなに私のこと知ってるんですか。」
「さあな。なんでだろうな。」
くつくつと笑う土方さんの声がすぐ耳の近くで聞こえる。くすぐったいし、恥ずかしい、頭が爆発しそう。なんだこれ。
土方さんの指が私の唇を掠め、ぐっと顔が近づく。
「わ……!」
「逃げんなよ。」
いじめたくなんだろ。
余りに嬉しそうに微笑むから、やっぱり何も言えなくなってしまった。
おかしいなぁ、苦手な人だったはずなのに。
耳元を掠めた楽しげな息遣いになぜかどうしようもない位どきどきした。
相手して下さい、かまって下さい
2009.9.20
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弐萬打フリリクで土方
はな吉へ
DOGOD69様よりお題をお借りしました。
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