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黒谷の会津屋敷へ向かうと告げた時の彼女の表情が忘れられない。
「………」
「御陵衛士の、剪滅…?」
「そう。」
「じゃ、じゃあ、平助君は?」
「………」
「その中に、」
「平助君はいるんですか?」
無意識のうちにだろうか、震える両の手を胸の前で祈るように合わせた彼女に「さあ?」と曖昧な返事を返す。
懇願の眼差しが突き刺さる。
それを受けなお、彼女が聞きたくないであろう事実を、彼女を絶望の淵へ突き落とすようになるべく意地悪く告げる。
「ああ、そういえば彼、伊東先生について行ったんだっけ。」
「…………」
「尻尾振ってお供して殺されるなんて。馬鹿な命の使い方したもんだよねぇ。」
「―――――ッ!!」
瞬間、パンッという乾いた音と共に右頬に痛みが走った。真一文字に引き結んだ口をわなわなと怒りで震わせ、憤りからかはたまた悲嘆のためか、濡れた瞳でこちらを見下ろす彼女をただ黙って見つめ返した。
何気なく頬に触れる。
叩かれた場所が熱を持ってずくずくと疼きだしていた。
(へえ…ああそう。)
(そういう顔、するわけ。)
「最っ低…………!」
口にした途端ついに我慢できなくなったのか、彼女の目から涙が溢れだした。あとからあとからぱたぱたと零れ落ちて畳にいくつも染みをつくった。それを見てなんとも感じないところをみると、俺は今すごく落ち着いているのかもしれない。
「あんたなんかに……絶対平助君を殺させやしない…!」
ともしたら隊への裏切りともとれるような台詞を、彼女はおくびもなく口にする。誰か聞いてたらどうするんだ、と頭の中で冷静な俺がこぼしたが、だからと言ってどうこうするつもりはない。
藤堂平助がどこでどうのたれ死のうと俺には全く関係のないことだ。これっぽっちも興味がない。だというのに、なぜか俺はここにいて、今こうして彼女を焚き付けて藤堂を救わせようとしている。全くの矛盾。自分でもこの心境はどうにも説明のしようがない。
傍らの刀を抱き寄せ、大小を腰に差し、俺には目もくれず部屋から飛び出して行った彼女を見送り、頬を撫でつけつつ天井を仰いだ。
奴が死ねば、きっと彼女はその後を追うだろう。また、俺がこうして教えていなければ、今夜藤堂が殺されることを彼女は毛ほども知らずに過ごすことになったはずだ。当然、悲嘆に暮れ、己の非力さを悔やみ自刃することなんて目に見えていた。馬鹿みたいに正義感が強い奴だから。結局、こうするしかなかったわけだ。
俺はただ、あいつに、俺の隣で笑っていて欲しかった。
油小路での一件が収まって、藤堂の死体はついぞ指一本も出てこなかった。同じくして、彼女の姿が屯所から煙のように消えたのも丁度この頃である。
途中下車
2010.3.5
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平助×ヒロイン←大石
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