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※現代パロディ
「笑っちゃうよねぇ私の独りよがりだったんだってさあ……」
「…………」
「……やってらんないよ。」
ずびっと鼻をすするくぐもった音が聞こえる。
うなだれたまま顔すらあげないこの女にはほとほと嫌気がさしてきた。が、ここでこいつを放って先に帰宅なんてしたらそれこそ後々厄介なことになるだろう。幼なじみというのはこういう時面倒だ。
(なんだっていうんだい…)
いつものように、『鍬次郎ぉ聞いて聞いてまた振られちゃったー』とかなんとか馬鹿みたいにへらへら笑いながら話し掛けられたものだから、こっちもいつものように『ふーん』なんて至極簡単に、心底どうでも良さそうに仕方なく返答したのだけど。
歩きだそうとして、ふと何かに制服の裾を引っ張られているような気がして振り返り見下ろせば、まあ案の定こいつが俺のブレザーを引っ張っていたわけで。
こうして仕方なく話を聞くことにして、ブランコに腰掛け足を投げ出す一応高校生女子(断じて女子高生ではない)を適当にあしらうこと既に小一時間。さすがに俺もうんざりしてきた。
ぽつりぽつりと未だに小さく溢す幼なじみを見下ろしながら自然と口が動いた。
「………ねえ。」
「……ん?」
「いいじゃん、もう。振られたもんは仕方ないだろ。」
言ってから、漸く自分の声が少し擦れていたことに気が付く。そう言えば、さっきからひどく喉が渇いて仕方がない。
(イラつくなぁ……)
彼女の反応が気になって何気なくその表情をうかがうとばっちりと目が合った。驚いているような、困惑しているような、そんな感じ。
「ど、したの?鍬次郎……」
「は?何が?」
「何か今日…変じゃない……?」
瞬間、気が付いたら目の前の女の顔を片手で掴んでいた。彼女から小さく息を飲む声が聞こえた。
「変なのはお前だろう?」
「え……?」
「何だよ、おまえだっていつもならもうとっくに次の男のこと考えてるじゃないか。それをなにいつまで別れた男のことぐちぐち言ってるんだよ。お前らしくもない。頭おかしいんじゃないの。」
言うだけ言って待ってみても、口を引き結んで何か言いたそうにじっとこちらを見つめたまま、しかし何も言おうとしない。何、俺にも言えないことなの?普段はどうでもいいことだってべらべら喋るくせに。
暫く黙りこくっていたこいつの肩が僅かに震え、しかし意外としっかりした声で答える。
「だって、さあ…」
「……」
「すっごく、好きだったんだもん………」
多少の驚きで目を見開く。まさか、こいつに限ってそんなこと言うなんて思ってもみなかった。嘘を吐いているのかとも思ったが、どうやら違うみたいだ。
こいつの、ここまで照れたような表情。始めてみたかもしれない。耳まで真っ赤だった。とことん不器用で嘘を吐くのが苦手なこいつが冗談でこんなこと言えるはずがない。それに、今にもその両目から涙が零れ落ちそうだ。
「ほんとにほんとに、好きだったんだもん……。」
赤い顔を隠すように覆った手の隙間からだんだんと小さくなっていくくぐもった声が聞こえた。
なんで、あんな図体でかいだけのゴリラ、一体どこがいいんだよ。性格がめちゃくちゃじゃないか。女遊びだって激しいし噂によるとやばい職業に片足突っ込んでるっていうし。隣歩いてる女は毎回違うんだってねぇ、とっかえひっかえなんだってさ。お前のことだってやっぱり遊びだったんじゃないの。ころっと騙されちゃってさあ、泣くほど別れるのが嫌だったんなら縋りついてでも懇願すれば良かったんだよ。
言いたいことは色々あったけれど、なんとか絞り出せたのは一言。
「…………ばっかじゃないの」
声が震えた。
好きなんだよ、知ってる?
2009.6.24
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