肉食系女子
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「腹が減ったな」
ふ、と何気なく伊達君が呟いた言葉を片倉さんは聞き逃さなかった。
「それでは、そろそろ夕飯にいたしましょうか。」
そう言って片倉さんは正座していた足を崩しその場ですっくと立ち上がる。襖の前へ向かい伊達君へ向き直り一言『失礼、』と頭を下げると、呆気にとられる私をよそにさっさと部屋を出ていってしまった。(どこに行くんだろう…。)
それにしても、あの人には欠点というものがないのだろうか。立ち上がる動作一つとっても美しいって一体全体どういうこと…。そのまま流れるような動きで刀でも抜いて、ズバッ…チン『またつまらぬものを斬ってしまった…』とかやっちゃいそうだ。
(刀を腰に差した和服姿の片倉さんかぁ……………うん、イイ!俄然アリ!最高!全く違和感がない!!)
そんなわけが分からないことをぽけーっと考えていたからだろうか。麗しの片倉さんを脳内でもんもんと思い描いていたら急に脇腹辺りにどすっと強い衝撃を感じた。痛い!?と勢い良く隣を振り向くと伊達君が半眼で私を睨み付けていた……ってえええ?なんで?
「なにぼーっとしてんだ早く行ってこい」
「行ってこいって、どこへ?」
「小十郎んとこだよ。言わなくてもわかんだろ。」
ホラ、と伊達君が私の背中を押す。
わけが分からないまま取り敢えずその場で立ち上がったはいいが、未だ座ったままの伊達君を不思議に思い、訝しむような視線でもって彼を見下ろした。頭にいくつもクエスチョンマークを浮かべる私に、伊達君は、小十郎なら厨房(台所ではない、厨房だ。)にいるからそこへ向かえと言う。…片倉さんが厨房に?なぜ…あ、夕飯のリクエストしに行ったのか。
「馬鹿ちげぇよ。」
「え、違うの?」
「下準備しに行ったんだろ。」
(下準備……?)
え、ちょっ、それって…もしかしてもしかしなくても、片倉さんが直々に夕飯を作って振る舞ってくださるってこ…と…?ええっ!?片倉さんって料理もできるの!?弱点なしか!
と、ここまで考えて私はピーンときた。…ハイハイハイ、分かりましたよそういうことか!なるほどなるほど!そうすると、さっき伊達君が言っていたのは、二人で片倉さんのお手伝いしに行こうよっていう、そういう話だったんだよね?そっかそっか…ってああもうわたしの役立たず!伊達君に言われなくてもこういうことは自分から進んで申し出るくらいじゃなきゃ女としてダメだよね!なにかお手伝いできることありますか?わたし手伝いますぅエヘッ、みたいな。ほんと、片倉さんの和服妄想なんかしてる場合じゃなかった!ガビーンとショックを受けているわたしの様子に気が付いたんだろう、伊達くんが、オイオイ気が利かねぇなぁそんなんで小十郎の嫁になりたいとか言ってんのか?と、いやに姑じみた台詞をニヤニヤ笑いながらわたしにぶつけてきた。ぐ、ぐぅっ……耳が痛い…!!冗談のつもりなんだろうけど、確かに伊達君の言う通りだからこれは…なんていうかかなりへこむ……。
そんなわたしにああもうめんどくせぇな!とのたまうと、勢いよく立ち上がるなり伊達君はわたしのお尻を思いっきりひっぱたいた。
「ぎゃあ!!痛いよちょっと!」
「二人きりにしてやろうっつう俺の気遣いが分かんねぇのか」
え……?
「いい機会だ。あんたも小十郎に料理の極意ってヤツを学ぶといい。」
「だ伊達君、君って人は…!」
ああ、伊達君の背後から後光が差し込んで見えるよ。姑みたいだなんて言ってごめんね、ありがとう伊達君愛してる、君は神だ。片倉さんが「政宗様!」って慕うのも今なら頷けるよ。一生ついていきます筆頭…!
伊達君の思わぬ優しさに感極まって、こうギュッと、彼の手を握ろうとしたら片手で顔面を鷲掴みにされそのまま廊下に放り出されました、ってちょ、なんだこの屋敷ツンデレ(ツン:デレ=9:1)しかいないのか?!
「さっさと行ってこい俺がOK出すまで戻ってくんじゃねぇぞ。」
スパンッ
目の前でいい音をたてて襖が閉められた。
…うん。よし、行こう。
***
「失礼しま~す…」
廊下ですれ違ったお兄さんたちに厨房ってどこですか?と聞いて回ること10分、入り組んだ廊下をあっちこっち歩き回りやっとこさ目的の場所に辿り着くことができた。(なんでこんなに無駄に広いんだろうこのお家…)途中、間違ってお手洗いに特攻してしまったのは正直かなり恥ずかしかった。
カチャカチャと金属同士の触れ合う音と水音が聞こえ、ここかな?とこれまた無駄に広い厨房へ頭だけ出してそっと覗き込む。家の作りがかなり和風でいかにもな日本家屋なので、もしかしたら厨房も土間と釜戸とか、或いはお寿司屋さんみたいな構造をしているのだろうかと思っていたが実際そんなことはなく、ステンレスの調理台に打ち付けの石の床、深く落ち着いた色合いの木製の調理棚にずらりと並べられた様々な調理器具、想像していたものとは違い、そこはモダンな作りのかなりお洒落なキッチンだった。その一角には目を疑うほど巨大な業務用冷蔵庫がある。大人二人が余裕で入ることが出来そうな大きさだ。専用の棚(?)に立て掛けられた包丁はサイズも形も色々あって、素人の私にはどれを何に使うんだか全く想像がつかなかった。…あ、中華鍋もある!
「ここになにか御用?」
「!」
普段なかなか目にすることのないものに目を奪われキョロキョロしていると、不意に背後から声を掛けられ突然のことに驚き思わず肩が飛び跳ねた。慌て後ろを振り返ると、結構なご年配のお婆さんが、雑巾片手に不思議そうにわたしを見つめていた。
「お腹減ったのかね」
「こんにちは。あ、違います。わたし、人を探しておりまして。ここにいらっしゃると聞いたんですが…」
今一度ちらりと厨房を覗く。……うん、いないよね。なぜかは分からないがそこに片倉さんの姿はない。
「あらまあ、どなたを探しているんです?」
「片倉小十郎さん、なんですけど…」
「あら、片倉様?それならさっき、わたしが庭を掃いていた時分に見かけましたよ」
「え、本当ですか?」
「ええ、本当ですとも。なにやらご自分の畑でお仕事をなされているようでしたよ。」
ご、ご自分の畑?!
「片倉さん畑をもっているんですか?!」
「あら、ご存じありませんでしたか?あの方はね、……いえ、口で説明するよりご自分の目で御覧になったほうがはやいでしょう。まださほど時間も経っていないことですし、今もきっと畑にいらっしゃるはずです、宜しければわたくしがこれから片倉様の元までご案内致しますよ。」
お婆さんがくしゃりと微笑んだ。
「え、よろしいんですか?」
「なにが悪いことがありますかね。さ、どうぞこちらへ。」
「あ、ありがとうございます!助かります!」
そんなわけで、多少タイムロスはしてしまったものの、偶然出くわした親切なお婆さんのお陰で漸くわたしは再び片倉さんに会えることになったのでした。
お婆さんに案内され辿り着いた屋敷の裏には、少し開けた日当たりの良い土地に確かに立派な畑が広がっていた。いやはやそれにしても、どれだけ広いんだろうか伊達君ちの敷地は。庭に畑があるって、一体…。
きょろきょろと辺りを見渡していると、きゅうりの列とトマトの列の間にしゃがみ込む一人の男性の影を発見した。あ、あれだ!あれ片倉さんだよね、きっと!
ここまで連れてきてくれたお婆さんにもう一度お礼を告げ、その背中が縁側から屋敷の中へと消えていくのを最後まで見送ってから、わたしは片倉さんの方に向かって歩きだした。
「片倉さ~ん!」
「!」
わたしの声に驚いたんだろう、片倉さんがすごい勢いでこちらを振り返った。(寧ろわたしがびっくりだわ!)
野菜たちを傷つけないよう注意を払いながら、畝と畝の間をぬって片倉さんへと近づいていく。
「お前、なんでここに、」
「えっへっへ~ お手伝いしに来ました!」
「……」
政宗様…余計なことを……だとかなんだとか聞こえたような気がしたけど、ええい!無視だ無視!
いそいそと片倉さんの傍に近寄り無駄に距離を詰めて腰掛けた。ら、押し返されました。(ちぇっ!)
片倉さんは夕飯のためにお野菜を取りに来ているようで、近くに置かれた籠の中からは色とりどりの野菜が顔を覗かせている。
「なにかお手伝いできるようなことはありませんか?」
「ねぇ」
「!(即答!?)」
「…と、言いたいところだが。…そうだな 」
「?」
すっくと立ち上がり片倉さんがぐるりと辺りを見渡す。
「今夜の汁物に大根が使いてぇ。」
「は、」
「そこから一本抜いてきてくれねぇか。」
「…!イエッサー!」
う、うわぁい早速片倉さんからお仕事頂いちゃいましたよー!初仕事、やったね!
張り切って畝を跨ぎ跨ぎ大根さんたちの元へと進んでいく。ずらりと横一列に並ぶ青々とした葉っぱを端から端までくまなく品定めし、中でも一番葉が茂っている一つに的を絞り恐る恐る手を掛けた。ううむ、緊張…!
「せーのっ、」
「!待て!」
さぁ抜くぞ、と葉を握り締める手にぐっと力を込めた途端、何故か片倉さんからストップがかかった。え、わたしなにかやらかし、た…?
「お前…てんでなってねぇな。」
「え?え??」
「大根はそうやって抜くんじゃねぇ。…貸せ」
片倉さんが呆れたようなため息を吐き、先程わたしがそうしたように畝を跨ぎ跨ぎこちらへ近づいてきた。
折角お仕事頂いたのに、結局片倉さんに手伝ってもらうことになってしまったのだった。ほんと役に立たないなぁわたし。どんだけ大根抜くの下手なの。トホホ。
「ううう…すみません片倉さん。」
「別に構うこたぁねぇ。…オラ、んなことより手ぇ放すんじゃねぇぞ。しっかり持ってろ。」
「はい…?」
なにをですか?
なんて問う前に、わたしの両手は何故か片倉さんの大きな手にぎゅうっと包み込まれていて、いつの間にかわたしの背後にまわった片倉さんが一緒になってその場にしゃがみ込んでいて後ろから耳元でわたしに指示を…って、う、うわぁぁあああああああっ?!!
「ちょ、な、ななな、え、な、なにして…!!!え、ええええええええ!??」
「うるせぇな…耳元でぎゃあぎゃあ騒ぐんじゃねぇ」
心底煩そうに片倉さんがわたしを半眼で睨み付けてきた。
「さ、騒ぎますよっ!これが騒がずにおれますかっ!!」
なんですかこれはなんですかこのシチュエーションはあれですか大人版大きなかぶですかどっこいしょーああん抜けちゃったーみたいな!?なにそれなんていう珍プレイ!?わたしにどうしろと?ていうかダメだ後ろに片倉さんがいるって思っただけで興奮してくるんですけどォオオうわぁああん誰か助けて心臓破裂するぅうう好きです片倉さん結婚してぇえええ
「全部口に出てんだよ」
「おぶっ…!!!」
一人大混乱していたら顔面から思い切り畝の土の中に埋められました。ガペペッ口に砂が入った…!
***