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今日もまた彼の背中を見つめ、その後ろに立つ。静かに、足音をたてず部屋に入ったので気が付かれてはいないと思うのだけれど…。
(やっぱり気付いているのかな。)
広く逞しい背中をじっと見つめること数分、こちらを振り向くことなく執務をこなす姿を見つめながらそんなことを考えてみた。
そろり、一歩踏み出す。
もう、一歩。
「…何がしてえんだてめぇは。」
後頭部に目でも付いているのだろうか。私を視界に入れていないはずなのにどうやら背後にいたことはばれてしまっていたみたいだ。本当は内心とても驚いたのだけれど、何となく気に食わなくて、「別に。」なんて強がってみた。それにしても、ああ、驚いた!
「用がないなら邪魔すんなよ。」
「しないよ。なまえだって暇じゃないもん。」
「そうか。」
「ただ、…こじゅが暇だったら可愛そうだなあと思って寄ってみただけ!」
「……成る程な。」
言いながら彼は心底楽しそうに喉を鳴らした。そうして漸くこちらを振り返る。その口元はゆるりと弧を描いていて、この様子だと私はまた子供だと思われたに違いない。
「信じてないでしょ!」
「いや…信じてるぜ。」
「嘘、嘘!じゃあ何で笑うの。」
多少むきになって彼に突っ掛かると、悪かったと頭を撫で回して宥められ、おとなしく引き下がるしかなくなってしまった。こういう時、いつにも増して子供扱いをされているなぁと感じるのだ。
「ほら、暇潰ししてくれるんだろ。」
余裕すら感じさせる挑発的な台詞に、むすっとした表情でその瞳を見つめ返す。少し考えてから彼の元まで歩み寄り、胡坐をかくその足の間にするりと入り込んだ。彼に背中を預け、もたれ掛かる。
大きく顔を反らせて上を見上げれば丁度こちらを見下ろす彼と視線が絡んだ。
「…なに笑ってんだ。」
「うふふふふ」
込み上げる愛しさに自然と頬が緩む。こじゅから構ってくれるなんて珍しいこともあるものだ。滅多にないであろうこの機会に存分に甘えてやろうと思い、一層背中で彼に擦り寄った。
私の髪を梳きつつ、「猫みてぇだな」と微笑する。
「こーじゅこーじゅこじゅ野菜の子ー」
「変な歌を作るんじゃねぇ。」
「ひっ、あ、あはははははく、くすぐったい!」
こじゅは私が脇腹が弱いことを知っている。勿論、こじゅは大人だから手加減してくれてるんだろうけど、くすぐったいだけじゃない、どこかむず痒いような温かい気持ちに笑いが止まらなかった。
「私、将来こじゅと結婚するね。」
「…は?」
「ねぇ、こじゅ、駄目?」
「いや、年齢に無理があるだろう。」
「ちぇー。じゃあいいや、政宗様かしげちゃんと結婚しよう。」
「………………」
「……怒った?」
「さあな。」
君に沈む
室内の様子をうかがう二つの影。
「梵、なんか小十郎の奴、別人みたいだよなあ。」
「あー….」
「あれかな、いかつい奴ほど犬とか猫の前だと人が変わるとかいう、あれかな。」
「…そいつぁどうだろうなァ」
襖から目を離した梵の口角が、楽しそうににいっと上がった。
「犬猫を愛でるにしちゃぁ、ちぃとばかし度が過ぎてるんじゃねぇか?」
「は?どういう意味?」
梵は笑うだけで答えてくれなかった。
2009.8.7
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