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「ねえねえこじゅ、見て見て、じゃーん。」
「……」
「あ、じゃあこっちにしよう。ほら見てこじゅ、じゃじゃーん。」
「……」
無視だ。ことごとく無視を決め込んでいる。手に掲げていた、彼と政宗様の似顔絵を静かにおろす。
まだ。まだだ。
いくら話し掛けても少しもこちらを見てくれない彼の背中に念を送ってみることにした。
(ばかばか、こじゅのばーか。)
やっぱり、無視。さらさらと筆を動かす手は休むことを知らない。彼は、政宗様の放棄したお仕事をただただこなすのみなのだ。
ああ、なんてつまらないんだろう。
こういう扱いに慣れているとはいえ、少し落ち込む。そっと畳へ視線を落とした。
「……いいもん、こじゅなんか。」
手にしていた二つの紙を畳み、胸元へとしまい込む。これが最後、と言わんばかりに今一度正座する彼の背を見やった。ああ、悲しいかな。振り向きもしない。なんだか途方もなく悔しくなって、下唇を強く噛み締めた。そんな拗ねた顔も見られたくなくて、やっぱり俯く。
「こじゅの意地悪、もう知らない。」
「そうか。」
「こじゅなんかより、政宗様の方がよーっぽど優しい。」
「あたりめえだ。」
「政宗様はこじゅと違って、なまえ、なまえ、って頭撫でてくれるもん。」
「………」
「なまえ、政宗様と遊んでくる。」
「…………おい。」
「こじゅは一人淋しくお仕事してればいいんだ。」
「おいなまえ、」
「じゃあね、こじゅ。」
こちらへ振り向いた彼を無視する。最後まで返事を聞かずに、廊下へ飛び出した。
知っている。知っていてやっているのだ。なんとずるくて、あざとい。けれど、仕方がないのだ。私はまだまだ小さな子供だから。彼の優しさに縋る以外、彼を振り向かせるすべを私は知らない。(それがまた、悔しくもあるのだけど。)
「なまえ!」
足を止めて振り返る。先程飛び出してきた部屋から、筆を持ったままの彼が、襖から身を乗り出している。
(墨、滴れそうだよ。)
いつもより声が焦りを帯びていることも、いつもより表情に余裕がないことも、知っている。知っているのだ。
「なあに、こじゅ。」
「なあにじゃねえ、ちょっとこっち来い。」
「何で?」
「なんでもだ。」
「……こじゅ、意地悪だから、やだよ。」
そっぽを向いてあからさまに顔をそらす。少し気まずそうに彼は押し黙り、目をそらし、それからぽつりと呟いた。
「……茶菓子が、あるんだがな。」
「えっ?」
「食いたくねえか。」
「食べたい!」
「じゃあ来い。」
「……でも、」
「でも…?」
「……」
「でも、なんだ。」
「…………」
「…………」
暫くしても動かない私に彼はとうとう痺れを切らしたのか、チッと舌打ち一つするとこちらへ近づき、少し乱暴に腕を取った。
「いいから来いって言ってんだなまえ。」
「…うん。」
「……」
「さっきはごめんね、こじゅ。」
「……やけに素直で気持ち悪ぃな。」
「ごめんね。」
「………」
「ごめん。」
「……ああ、俺も悪かったな。」
「…うん!」
「無視して。」
「うん、うん、大好き、こじゅ。」
「うるせえ。」
「大好き、こじゅ大好き!」
「あーうるせえうるせえ。」
んな大声出さなくても聞こえてる、なんて喉で笑う。その腕の中に迷わず飛び込めたのは、子供の特権ってやつだ。
ぎこちなく背中に回された腕に愛しさが込み上げて、思わず泣きそうになった。
子供の皮を被る
(こじゅ大好き!)
(…なまえ)
(お菓子の次に。)
(……やっぱりテメェ外出てろ。)
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