Prelude

逆に自分だけという特別感



ちゃんと情報を持っているという鳴子の言葉を一旦信じて、3年4組へと向かうことになった。
だがカギPが見つからなかったときの保険のため、鼓太郎のグループには再び別行動をとってもらうことに。

「3年4組って言ったら……あっ!500円!!」

廊下にキラリと輝く500円玉。
咄嗟に拾った愛菜。500円が落ちていると少しだけテンションが上がる。
しかし仮想世界にも遺失物横領罪は適用されるのだろうか?
くだらないことを考えていると、どこかからシャッター音らしき音。

「はっ、まさか誰か500円拾ったとこ撮った!?」
「撮らねぇだろ」

即答。
笙悟も愛菜の扱いには慣れてきたらしい。

「だ、誰がとったんだろうねぇ~」
「く~、遺失物横領って言われないために500円は置いていこう…」
「仮想世界に現実の法律って適用されるのかしら…」
「やっぱ持ってこ、バレないバレない」

適用されないかもしれないから別にいいかな、と思ったらしい。
手のひら返しの速さは一流だった。
それから3階にたどり着いたものの、一番近い渡り廊下が使えず、渋々回り道せざるを得なくなった。
何やら妨害めいたものを感じる…と愛菜の中で陰謀論が展開されていく。

「何か仕組まれている……?」
「変なこと言ってないで行くぞ」


道中、デジヘッドによる妨害もあったが、律だけでなく笙悟や琴乃までもが『カタルシスエフェクト』なる力を開花させた。
つまり、まだ完全には現実に気づききっていない鳴子を除くと、今のメンバーの中でカタルシスエフェクトを使えないのは愛菜だけ、ということになる。

「……んー、私もできないかな」
「いやいやいや、普通やろうと思ってできることじゃないから!」

即座にアリアから修正が入った。
あっさりできてしまった琴乃がおかしい、とも。
それでも愛菜は漠然ともやもやしていた。

「みんなだけかっこいい力使えるの狡い」
「そのうち天ヶ崎も使えるようになれると思うぞ…多分」
「多分ってなんだよーぅ!」

さては馬鹿にしてるな!?と、律の肩をべしべしとしておく。
これは正当な抗議だ。愛菜は切実らしかった。
自分だけ使えないというのもそれはそれで特別かも?とも思いつつ攻撃はやめない。
そこへ一度デジヘッドとの戦闘のために、教室から追い出されていた鳴子が戻って来る。戻ってきて目にした律と愛菜のやり取りにしばらく考え込んだ後、声高に言った。

「そこ2人って、意外と仲いいよね…もしかして付き合ってるとか!?」
「ほえ、付き合ってるように見えるらしいですよ式島君」
「吞気だな天ヶ崎は…付き合ってないぞ、ただクラスメイトってだけだ」
「愛菜さんはクラスメイトだと男女問わずこの距離感であーる」

自分で言って自分で胸を張っている。
笙悟がぼそっと「それはそれでどうなんだか」とぼやいていた。
思った答えや反応が得られなかったようで、鳴子はそれ以上の追及はしなかったので良しとしよう。

しかし、愛菜は心の中で何かとっかかりのようなものを覚えた。
付き合う、ということは恋人関係ということ。
恋人。その単語がどうしても引っかかってしまう。
何か、何かあるような気がした。でも正体がどうにもつかめない。

「おい、何してんだ。早く行くぞ」
「あ、待って待って!」

笙悟の呼びかけで思考の深みから意識を戻した愛菜は既に少し先に進んでいた4人の後を追いかけた。


「愛菜ちゃん凄いね!?あたしちょっと迷いかけたのにあっさり4組に着いちゃった!」
「ちょくちょく学校内徘徊してるからね~」
「何のためにだよ?」

正論である。
そして愛菜的にも理由は特になかった。

「ここにカギPいるの?」
「そのはず!ちょっと見てくるねー!」
「……3年4組かー、あの人のクラスだなー」

別に苦手な人がいるというわけではない。
だが好んで絡みに行くほどの相手でもない。
そんな人物がこのクラスにはいるようだった。

少ししてから納得がいかなそうな面持ちで鳴子が戻ってきた。
どうやらカギPはいなかったらしい。
ガセ情報を掴まれたのか、彼女が何か勘違いをしていたのか。
どちらにせよアテが外れて振出しに戻ったと言える。

「うーん、守田ちゃん他になんか情報なーい?」
「んー、じゃあとっておきの情報いっちゃおう!カギPの本名は響鍵介って言うらしいんだな!」

ちなみにgossiper情報らしい。
情報源はまさかのSNSだった。

「……響鍵介?」

どこかで聞いたことがある名前に、またも愛菜は考え込む。
直近で聞いたことがある名前だったはずなのだが、色々騒動があり過ぎて完全に記憶から抜けてしまっている。
この件が落ち着いたら脳トレでもしようか、と考えていた。
そんなところに柔らかい男子生徒の声。
愛菜にとっては聞き覚えのある声が。

「わー……琵琶坂パイセンだ~」
「随分と嫌そうな反応してくれるじゃないか愛菜君、傷つくなぁ」
「え、そんな繊細なメンタルでしたっけパイセン」
「本当にああ言えばこう言うね君は」

琵琶坂永至。進んで関わりたくないという相手こそが、この爽やかなイケメンの彼。
一度だけ、偶然琵琶坂と会話が弾んで離していたことがあった。その最中で何かに対して愛菜はにこやかに「サイコパスとちゃいます???」と言った。
流石に爽やかイケメンの永至でもイラっとは来たらしい、頭を拳で挟まれて圧迫された。

そこまで思い出し、今思い返せば自分が悪いな?と思い直す愛菜であった。

「このクラスに響鍵介っています?」

くだらないやり取りを一通り済ませてから見かねて律が永至に尋ねる。
が、彼の答えは「いない」だった。

「確かこの前、卒業生代表をしていた奴だろう?だったら今は1年生になってるんじゃないか?」
「………あーー!!!」

愛菜もその言葉でようやく思い出した。
入学式では突然逃げてしまった律に気を取られ忘れていたが、響鍵介は新入生代表もやっていた。
どうして忘れていたのか。律のインパクトのせいである。

「それより、君ら『帰宅部』って連中のこと知らないか?」
「あー知らないっすねーーーー」

脊椎反射だった。
永至、愛菜を見る。にこり。

「本当かなぁ愛菜君」
「知らないですって~~、ねー、佐竹せんぱーーい」
「お、おう、聞いたこともねぇなぁ」

必死にはぐらかしているのだが、鳴子が話そうとするので愛菜はその肩を後ろから押した。

「さ、さぁ~、1年1組に行こ~~!ぜんいそー!!」
「え、ちょ、ちょっと~!」
「邪魔したな、琵琶坂!」

3年4組を後にすると、鳴子はむすくれて「スクープを披露するチャンスだったのに」と愚痴っていた。
噂を広められても困るのである。

「今度こそいるといいですね~、カギP」
「行ってみるしかないだろうな」
「鼓太郎君たちにも、WIREで伝えておくわね」

こうして、今度は1年1組を目指すこととなった。
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