Prelude
ギャルの人脈を侮ることなかれ
「カギPがどこにいるか知ってる人あんまりだったわー……逆に教えてくれーってせがまれちゃった」
「何人くらいに聞いたんだ……?」
「2年の1組から4組に聞けるだけ」
本当に人脈広いな。笙悟は軽く引いた。
だが、律は慣れっこなのか「5組から7組はどうか」と聞いている。
ただ愛菜はこれには首を横に振った。
「あんまり時間かけすぎてもあれだから……あんまり使いたくないけど最終奥義を使うしかないかな〜……」
今、学校内に流れているのがカギPの曲であること。そしてその音楽に狂わされて生徒達がデジヘッド化してしまっていること。
デジヘッド達は律達のように気づいてしまった者達を見つけると襲ってくる。
だからWIREで聞きながらとはいえ、時間をかけすぎることでさらに襲われる頻度を増やすのも悪手だった。
アリアも「確かに……」と浮かない表情。
「じゃあ他のみんなが何か聞いてるかもしれないし、そろそろ一旦集まっちゃおっか」
「あ!!ちょっと待って!!」
「なんだよ!?急に大声出して」
「他の部員ってことっしょ?自己紹介考えるから待ってて!」
「……時間かけすぎると良くないってお前がさっき言ったんだよな??」
秒で言ったことを覆すとは。
愛菜はあたふたとしていたようだが笙悟は無視して別行動をしている部員を集めた。
あたふたしていた新入りは「無慈悲!!」と言ったような気がしたが素知らぬ顔をした笙悟である。
数分後、別行動をしていた3人と合流した。
1年の篠原美笛と神楽鈴奈。
3年の巴鼓太郎というらしい。
「2年の天ヶ崎愛菜でーす、よろしく〜」
「まさか1日に2人も仲間が増えるなんてラッキーですね!しかも天ヶ崎先輩と言ったら学校内の超有名人じゃないですか!」
人脈の広さ故か、その他の理由なのか。
張本人の愛菜は美笛と鈴奈と手を繋いでブンブンしている、打ち解けるのがはやい。
それで、最終奥義とは結局何なのか。
律と笙悟は愛菜が口火を切るのをしばらく待っていたが、放置してたら言いそうにないことを理解した。なので1度彼女の肩に手を添えて軽く揺らす律。
「天ヶ崎、最終奥義のことそろそろ教えてくれ」
「あ、そうだったそうだった、忘れてた」
忘れてくれるな。
「あれ!愛菜ちゃんだ!!」
ふと、背後から賑やかな声が。
振り向くと、大きなリュックを背負うメガネっ娘。2年1組の守田鳴子。
そして愛菜が頼ろうとしていた最終奥義の正体である。
「あ、守田ちゃん、丁度いいところに!」
「え、なになに〜、愛菜ちゃんもあたしに何か用あった感じ?」
「おやおや?『も』ということは守田ちゃんも?」
顔を見合せて「ふふふふふふ」と、不気味に笑い合う女子高生2人。
何なのだこれは。
「実は守田ちゃんに聞きたいことあってさぁ、ドールPのカギPって居るじゃん?その人の熱血ファンが友達にいてさぁ、会わせてあげたくて今どこにいるか探してたんよ〜」
「それであたしを探してたってわけか〜」
再び「ふふふふふふ」と笑い合う。
その儀式はなんなんだ。
堪らず笙悟は律を見やってこそっと尋ねた。
「あいつ大体いつもあんな感じなのか……」
「概ねは。ただ天ヶ崎は相手の調子に合わせて会話するからいつもとは言いきれないかもな……」
「天ヶ崎先輩のコミュ強さは他学年でも有名ですよ、それでいてめっちゃ親切ですし」
美笛も同調する。
他学年でも有名、という言葉はどうやら正しいようだ。
「教えてもいいんだけど~、あたしも知りたいことあってさ~~?奇怪な活動をしてるって噂の帰宅部について調べてるんだけど、何か知らない?」
一同に緊張が走る。
明らかに自分達のことである。
確かに、現実に気づいている人達を集めてはいるが、おおっぴらに公言したいわけではない。当然自分達です、と名乗りを上げたいわけでもない。
「帰宅部って、学校終わったら家に直行するRTAの民じゃなく?」
「それも帰宅部だけどそっちじゃなくて!…まぁ愛菜ちゃんって怪しい活動とは無縁そうだから知らなくても無理ないかぁ~」
「えへへ、ごめーん」
しかし愛菜は知っていた。
鳴子に本当のことを話したらどうなるかということを。
彼女はSNSで強い発信力を持っている学生だ、仮にバラしたり適当なことを言えば何を流されるかわかったもんじゃない。
なのでここはまるっきり知らない様子を装うのが大正解である。
これがギャルの処世術だった、要らない豆知識その1。
ふと琴乃が何故そこまでして帰宅部のことを知りたがっているのか尋ねた。鳴子曰く「秘密の倶楽部は謎めいていてかっこいいから」とのこと。
「もしかして先輩、情報持ってます?」
「え?わ、私は何も知らないわよ?」
「……あ~、それより守田ちゃん!カギPのことなんか知ってたりしない?」
何気なく話を逸らしたが、鳴子は完全に何か隠していると嗅ぎ取ってしまったらしい。帰宅部について教えてくれるなら、と琴乃に迫っている。
この情報に対する嗅覚の鋭さこそが、鳴子を最終奥義として最後の最後まで頼らなかった理由である。
一度食いつかれたら本当のことを話すか、相手が諦めるか。二つに一つしか解放させる術がない。
すっぽんか?と、内心愛菜は思ってしまった。
「なぁ、帰宅部ってそんなにかっこいいか?」
唐突に、突然に鼓太郎がそんなことを言い始めた。
一同、視線を鼓太郎へ。
鳴子も当然、右に同じく、右へ倣え。
結局彼は鳴子の巧みな(?)誘導であっさりと自分達こそ帰宅部であるとバラしてしまった。おのれ、真の敵は味方だったか。
「あぁ、終わった……いい感じに話逸らせそうだったのに…」
「鼓太郎!この馬鹿野郎、何考えてんだよ!」
案の定、写真を撮ろうとしたり質問攻めにしようとする鳴子である。
笙悟が防いだからよかったものの…いや、これで彼女が引き下がるとも思えない。愛菜は窓の外を眺めて黄昏ていた。
「空が綺麗だな~」
「天ヶ崎、諦めないでくれ」
