Prelude

帰宅部って、何?



愛菜は罪悪感に駆られていた。

きっかけは入学式でのこと。
在校生代表である式島律の勇姿を見届けて内心満足気だった愛菜。しかし、次に続いた新入生代表として『響鍵介』が壇上に登ってから愛菜の頭は疑問符で埋め尽くされた。

(あれ?あの人って、ついこの前卒業してった人じゃなかった?)

そして、その異変は愛菜だけでなく律も気づいたらしい。
暫く鍵介の顔を見てから、壇上の上で全校生徒を見渡し、肩を掴んだ教師の顔を見てとうとう叫んでいた。
その上壇上から飛び降りてから、走って体育館から逃げ出してしまったではないか。

その背中を見送ることしか出来なかった愛菜の心の内は、次の瞬間には罪悪感で埋め尽くされていた。

(私が押し付けたばかりに式島くんが壊れちゃった!!!!)

違う。断じて。
そのあとも何事もなく式は続き、律が戻ってこないまま終わってしまった。
2年生と3年生は式で使用された椅子を片している間、ずっと愛菜の頭の中は罪悪感で埋め尽くされていた。

「式島どしたんだろねー」
「……」
「愛菜?」

友人が話しかけるが愛菜は呆然。
なので肩を掴んで愛菜の正気を取り戻そうとしたが、帰ってきたのはおよそ正気とは思えない発言だった。

「在校生代表を押し付けた責任取って式島くん探してくる!!!!」
「愛菜!?」

そうして、愛菜は体育館から走り去った。
止めることも間に合わず友人の手が空を切った。クラスメイトは全員呆然とするしかない。


さて、1時間ほど走って探し回ったが律は見つからなかった。
愛菜はもう疲れた。
なので捜索を諦めてとぼとぼと本校舎の廊下を歩く。

おぉ、式島くんよ。
私のせいで壊れてしまうとは何事か。
戻ってこないと心配で机の上にあん肝クレープを積んでしまうぞ。

そんなくだらないことを考えていると、何やら騒がしい声が聞こえてきた。
乱闘騒ぎだろうか、入学式も終わったばかりなのに景気の悪い話である。
しかし野次馬根性を少しだけ持ち合わせている愛菜は、声と音のする方に自然と向かっていた。

ちょっと見るだけだから、そう思って物陰からその乱闘を見物しようとしたが__

なんと乱闘の渦中にいるのは先程探していた式島律ではないか。
傍には喧嘩っ早いことで定評のある3年の先輩ともう1人、穏やかそうな女子生徒。

唖然するしかない。
しかも律は二挺拳銃で、胸から棘が突き出し鎧のようなものを纏い異形っぽくなってる生徒を撃ちまくってる。
もはや不良云々、乱闘云々の話ではない。
銃刀法違反に殺人未遂である。
生徒が異形になってるのも何?

最後の異形化生徒が倒れて元の姿に戻ると式島律の銃と、彼の胸からも棘が消えた。
さて、全てを見届けた愛菜と、乱闘を終えた律の視線が交わった。

「あ、天ヶ崎?」
「なんだ、お前の同級生か?」
「クラスメイトだ_______」

「…………………………た」

「?」

「式島くんが本気で壊れたーーーーっ!!」

とうとう膝から崩れ落ちた。
これには律も慌てるしかない、3年の先輩のうち男子の方は凄い変なものを見る目で見てきた。

「私が在校生代表を式島君にやらせたばかりに!!それが負担になってることにも気づかず頭ぶっ壊しちゃった!!」
「天ヶ崎、落ち着いてくれ、俺は正常だから」
「拳銃ばきゅばきゅして乱闘してる学生が正常なわけないっしょ!!!!」

ぐぅのねも出ない律。

「しかも喧嘩上等で定評のある三年の先輩と一緒なんて、非行にまで走らせちゃった……っ」
「待てお前俺のこと言ってんのかそれ!?」
「それ以外誰がいるんですか!!!」

女子の3年生の方は面白かったのかクスクスわらっている。だが愛菜からしたら笑い事では無い。
善良なクラスメイトを不良通り越して犯罪者に仕立ててしまった罪悪感ときたら、筆舌に尽くし難い。

「ちょっとちょっとー!落ち着きなって!」

突如、明るい溌剌とした声。
顔をあげると小さい妖精みたいな女の子。
声が大きい、体の大きさの割に。
そんな女の子が現れた瞬間、3年の男子先輩は慌てふためいた。

「ばっ、今出てくるなよ!話が余計ややこしくなるだろ!?」
「わー、妖精さんみたーい、かわいー」

愛菜は動じなかった。
律と男子先輩はすっ転んだ。



「天ヶ崎、落ち着いて聞いてくれよ」
「落ち着かせられたから落ち着くけどさ」
「そうか、それは良かった」

自販機でパックのジュースを買い与え、ようやく落ち着かせることに成功し、律はようやく落ち着いて話すことができた。
デジヘッドを認識しているあたり、愛菜もまた自分達と同じと考えたからだ。

この世界はメビウスという仮想世界で、バーチャドールであるμと、律の傍で浮遊している同じくバーチャドールのアリアが作り出したという。
しかし次第にμはアリアでも手をつけられないほどの行動を取るようになり、人間達の魂をこのメビウスに閉じ込め始めたらしい。
そして、この学園に通う生徒はその閉じ込められた人間とNPCの二つにわかれている。
仮に卒業をしたとしてももう一度記憶を消して一年生として入学し、終わらない学園生活を続けることになっているのだと言う。

「……あー、だから卒業してった子が入学式に一年生として入ってきたんだ……え、じゃあモザイクかかってる生徒って?」
「それはNPC……って、見えてたの!?」

アリアは頷きつつ教えたが、やがて声が裏返り驚愕した。

「うん、割と前から。でもそういうもんなのかなと思って気にしないことにしてた」

ピースピースと両手でブイサインを作り指をチョキチョキと動かす。
男子先輩こと佐竹笙悟は呆れ返った顔で「なんでそこは冷静なんだよ……」とボヤいた。

「それでですよ式島くん」
「なんだ?」
「どういう繋がりで3年の先輩と?」

笙悟ともうひとりの3年の先輩、柏葉琴乃を交互に見てから律を見る。
この世界のことはよくわかったがイマイチこの2人との関係性が読めない。

「この2人もこの世界の正体に気づいていて、俺も危ないとこを助けて貰ったんだ」
「まぁその後助け返されたけどな……で、俺達はこの世界のことに気づいて、現実に帰る道を探すために集まった『帰宅部』だ」
「……あ〜〜〜〜〜、上手い!」
「……そりゃどうも」
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