Prelude

泡沫の青春とギャル



天ヶ崎愛菜まな
宮比市立吉志舞高校2年生。
いつからかは分からないが漠然とした感覚で、自分が今いる世界が何かおかしいことには気づいていた。
いや漠然というか。くっきりはっきりというか。
気づいた頃には一部の生徒の顔と教師全員の顔が、ノイズがかって見えるようになった。
何らかの実の異常かと思い、病院に行ったが異常なし。
それなら流行のファッションかと思って検索してみたが、当然見つかるわけもなく。

じゃあ何なんだよ、あのセルフモザイク。
愛菜は憤怒した。わからないとモヤモヤするからである。
モザイクも愛菜の心もモヤモヤガビガビしている。

いっそのこと「その顔のモザイク何?どうやってつけるん?」と本人に聞いてもよかったんだが。
それだと愛菜自身が狂人と疑われると思い至って結局辞めた。


「ねぇ愛菜~~~、μの新曲聞いた~?今回はソーンが提供してるからマジパないよ」
「お~、聞いてやろうではないか~、イヤホンを持ってまいれ~」
「何様なん?」
「愛菜様です」

それでも苦笑交じりにイヤホンを片方貸してくれる、モザイクのない友人である。
愛菜は基本的に陽キャなので、友人はクラスや学年の垣根を越えている。とても沢山いる。

「あ~いいわ~、こういう激しい曲好き~、BPMって速ければ速いほどいいよね。歌詞も相変わらず容赦なく人の心抉ってくるね~。ソーンも好きだけどシャドウナイフも捨てがたいんよなぁ、ゴシックロックうまうま」
「愛菜ももはや曲作ってコンポーザーになったら???」
「それはやめとく」

きっぱり。きりっと。
聞き専なので。

ただ、曲を作ってみたらどうか、とは以前からよく言われていたことだ。だがどうにも言われるたび、水面に波紋が広がるように心がざわつく。
これが良い意味なのか悪い意味なのかは分からない。

しかし思い当たる節は何もないので、毎回気にしないことにしているのだが。
考えることをやめると、別の友人が走ってきた。
こっちの友人はモザイクあり。

「愛菜様~~~!宿題を!教えてくだされ~!」
「チョコバナナホイップもりもりチョコソース増量クレープ」
「はは~~~っ」

これも恒例行事。
愛菜は特に努力せずとも何故だか勉強ができる。なので学年上位に常に食い込んでいるし、クラスメイトから頼られることも多い。
対価は甘味。正当な取引である。

「愛菜って彼氏っていないの?愛菜くらい可愛いと引く手数多っぽいけど」
「峯沢氏の方がやばいって」
「あれはレベチじゃん」

知る人ぞ知る美少年様に比べれば愛菜のささやかなモテは霞である。腕を組んで「そうだろうそうだろう」と頷く。

「あー、でも愛菜に彼氏できんの嫌だなぁ。私達の愛菜だぞ!」
「どういう立ち位置名の私」
「うちのクラスの共有財産」
「何それ爆笑」

どうやら共有財産だったらしい。
初耳である。

そこへ黒髪の学生が愛菜の元へやってきた。
式島律、同級生だ。

「天ヶ崎。これ、先生が日直日誌を渡しそびれたって」
「あ、ありがと〜〜助かる〜〜」

サムズアップをしながら感謝を告げる。
傍らの友人は「軽っ」と苦笑していた。

「そういや式島くん入学式で在校生代表として壇上上がるんでしょ?」
「俺と天ヶ崎の決選投票だったのに天ヶ崎が突然リタイアしたからだけどな」
「やりたくなかったんですよ私はぁ!!」

背中押しまくられたから立候補せざるを得なかっただけである。やりたくなかった。
決選投票で唐突に片方に棄権された側である律からしたら白い目を向けたくてもなっても仕方ない。
でも自然と怒りはなかった。

「今度クレープ奢るから許して」
「じゃあ、あん肝クレープで手を打つか」
「あん……なんて???」

とんでもないゲテモノではないか。
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