Premier:夢から醒めた夢

推理より勘の方が当たることもある



「ただ、今度はどこに隠れたんだろう……」
「手当たり次第見ていくしかないだろうな……」

愛菜の呟きに、律は心底憂鬱そうに答えた。
探すといったが、どこに隠れているかなんて検討もつかない。
前回はたまたま、琴乃の「曲者」という言葉に反応して出てきた。2度も3度も同じように見つけ出せるとは限らない。
部長副部長コンビがうんうん頭を捻らせている。

(むー、魔法さえ使えたらすぐ分かるのにぃ)

一方で、優里菜も「むむむ」と難しい顔をしていた。
彼女の魔法は万能だ、思いついてしまえば何だってできる。制限も際限も限界すらなく、思いつくままに思うがままに。
しかし今、このメビウスという世界において、魔法を封じられている。すなわち彼女は今、万能には程遠い。
だから今の現状を摩訶不思議に解決せしめる力がなかった。
あっという間に解決すればきっとみんなに褒められたんだろうなぁ。
そんな実現可能性が消失し、霧散した仮定について名残惜しそうに考える。

「まぁここは一旦……勘で行くしかないよね」
「適当じゃない!?」

愛菜は悩みに悩んだ末、身も蓋もないことを言い始める。
優里菜が被せるようにツッコミを入れる。

「でも、地の利は完全に向こうにありますしね…」
「小さな違和感を見つけるか、あとは勘になると思いますよ私も」

だがあながち的の外れた案でないのも確か。
萃と紫依は愛菜の発言を根っからは否定はしなかった。
むしろそれ以外に有効的な方法を帰宅部は持ち合わせていない。

「とにかく手当たり次第探すしかねぇだろうな」
「効率性には欠けるが、地道にやっていくしかないだろうね」

こうして地道な捜索が始まるかと思われたのだが…。

「ひひひひひひひ!見てるぞ見てるぞ~!ワ~~~オ!!眼鏡っ子のスカートの中まる見え!!ワ~~~~~~オ!!」
「馬鹿だ!!なんで自分からヒントになりうることを言った!馬鹿め!」

どこにいるかはわからないStorkへ、愛菜は声を上げた。
敵に塩を送って来たのだ、言いたくなるのも仕方がない。

「うええ~~気持ち悪い!!愛菜ちゃん助けて~!」
「おーよしよし鳴子ちゃん、可哀想に…見つけ出したらStorkを無茶苦茶な目に遭わせなければ」
「む、無茶苦茶な目??」

何故か鍵介がドキリ。
変態疑惑というか実質認定に片足突っ込みかけているせいで、少し冷や汗をかいている。

「んー?一旦ぼこぼこにした上でYAKIDOGEZA」
「焼き土下座!?」

鍵介、蒼白。
彩声は少し目を輝かせていた。
温度差がひどかった。
先程まで鍵介は美笛やアリアなどに、変態変態と呼ばれていた。それを不名誉だとばかりに否定していたものの、まるっきり否定できるかと問われればそれは無理だった。
一応、下心はある思春期の青年なのだから仕方がない。
だから愛菜の躊躇なく零れた「焼き土下座」には肝が冷えた。

「愛菜~、流石にもうちょっと温情をあげちゃってよ、OK?」
「ほな縛って顔に熱いおでんくっつけるか…」
「待ってくれどちらにせよすぎないか」

アリアのおかげで緩和はされた。
それでも、叩きのめした後に追加の罰を与えるのは確定事項らしかった。

「先程の彼の発言を考えるに、Storkは地面と近い位置にある物に擬態してる可能性が高いですね」

紫依が真面目に推察をしている。
鳴子のスカートの中身について言及をしているため、Storkは下のアングルから覗きを行っているに違いない。

「床板のどれかとか言われたら詰みですね…」

美笛のそんな一言に全員の視線が下に向けられる。

「手当たり次第強く踏んでったら何とかならねぇか?」
「際限がないですよ……」
「あと、それ絶対後で足痛くなりますよね」

鼓太郎が苦肉の策を口にしてみたが、鈴奈と鍵介の反論によりやんわりと却下された。

「でも床板の線は限りなくないんじゃないかしら…うっかり踏まれたら本人もたまったもんじゃないだろうし」

と、琴乃が反論した。
普通に考えれば、踏まれれば痛い。
そもそもStorkとて、わざわざ踏まれて喜ぶ変態ではなさそうだったし。

「……愛菜さんの勘が告げている……Storkは椅子に擬態していると!!」

などと急に言い出した愛菜に帰宅部一同沈黙。
だが次に口火を切ったのは萃だった

「確かに、椅子に擬態していれば座られた際に下からのアングルで覗けますね……」

論理的に考えればあり得ない話ではない。
何よりほかに宛てもないので、一度椅子を重点的に調べてみることにした。

そして、隅々までフロアを見て回った結果。
自販機があるスペースで見つけた二つの赤い長椅子に行きついた。

「このどっちかだろうな」
「殴ったらわかるんじゃねぇか?」
「器物損壊!!器物損壊罪!!!」

拳を握って言い出した鼓太郎を優里菜は指を突き付けて咎める。
現実の法律が通用しない(であろう)メビウスでは効果の薄い制止だが、鼓太郎には効いたようだ。彼は渋々拳を収めた。
そんな中、悩んでいるような素振りを見せていた愛菜が急に眼を見開く。

「四の五の考えたけどわからん!!Storkみっけ!!!」
「要するに勘なんだろ」

律の指摘が炸裂したが彼女は聞かなかったことにした。
一方、指をさした先の長椅子は____。

「ぎゃっ!?」

まぐれとしても言い当てられたことに驚いたのだろう、短い悲鳴と共に擬態が解けた。正解だったらしい。

「ほんとに合ってたー!!!」
「愛菜さんの勘なんか神がかってません!?」
「おっしゃー!」
「くっ、まぐれでもよく見破ったな!まだまだ!!」
「あ、逃げた!!」

見破られてしまったことに驚愕半分悔しさ半分のStorkは走り去っていった。まだ諦める気はないらしい。

「それにしてもすごいな愛菜君の勘は、素直に感服するよ」
「なんか琵琶坂パイセンに褒められると貶されてる感じする」
「…………」

無言で拳で頭を圧迫された愛菜。
律は助けてくれなかった。裏切者だった。

逃げたStorkを追って帰宅部は宿泊室にやってきたが、ここでもまたStorkの声がどこからともなく聞こえてきた。

「ワ~~オ!!三つ編みアップの子のうなじ、クンカクンカした~い!」
「……どうしよう、そろそろナチュラルに気持ち悪くなってきました」

紫依の表情がやや引き攣っている。
あまりにも露骨な変態発言で、聞き流せる範疇を軽く超えて来ているからだろう。一方、萃は重曹泉の出来事の時点で耐えられなかった。
一方、発言の標的とされているであろう鈴奈は青ざめている。

「おのれ、我らの鈴奈ちゃんに何を言うか……変態許すまじ、やはり焼き土下座…」
「先輩の何がそこまで焼き土下座を後押しするんですか?」

焼き土下座に対する執着が酷かった。
ちなみに深い意味はない、語呂がいいから気に入ってるだけ。
意味はよく知らない。

だが、流石に擬態能力を持った変態異常覗き魔。
学習したのか今回はなかなか見つからない。
しかもフロアの構造が複雑すぎて、何度も同じ場所をめぐっている気がした。

「だー!こんなに部屋がいっぱいあるとどこ行ったらいいか訳わかんねぇ!」
「もー鼓太郎先輩、騒いだってなにも変わりませんよ」

似たような間取り、似たような部屋が続けば混乱してくるというもの。そろそろしびれを切らし始めた鼓太郎と、呆れた鳴子による口喧嘩が始まった。
2人の言い合いを横目に、愛菜はStorkのセリフから位置について考えてみる。項が見える位置、割と高い位置にある物体。
それくらいしかわからなかった。

「……ん?」

ふと、愛菜はどこかで見た覚えがある女性を見つけ、足を止めた。
短いタイトスカートに黒いブラウス、ハイヒールのパンプスに白衣。
タイツを履いて、黒い手袋をしたマスクの女性。扇情的でセクシーという言葉は彼女のためにあるのではないかというくらいの美女がそこにいた。
そう、大人の女性、大人の美女、セクシーな大人。

「あーーー!!!保健室の!!!」

まさかの場所での目撃に愛菜は声を上げた。
帰宅部の視線が愛菜と、彼女が指し示す人物に向く。
だが、彼らの口から飛び出した言葉は予想だにしないものだった。

「…いやただの学生じゃねぇか」
「愛菜先輩、もしかして具合が悪いんじゃ……」
「え!?いやだって!!」

どれだけ必死にしたとて、律達は首を傾げる。それどころか愛菜が幻覚を見るほど具合が悪いのでは、と心配を募らせるばかり。
そう、愛菜以外には指をさされている人物はただの学生にしか見えていないのだ。
しかし、萃と紫依は愛菜の反応から「もしかして」とある可能性を頭に過らせた。彼女達は知っている、今探している人物がどういう人物かということを。

「…愛菜さん、ありがとうございます、探し人をやっと見つけました」
「漂花さん!こんなところで何してるんですか!認識改変能力まで使って!」

萃の𠮟責に、漂花と呼ばれた人物は困ったように肩をすくめる。
そしておもむろに右手を上げたかと思うと、指をパチンと鳴らした。途端、その姿は煙が風にかき消されるように歪み、霧散した。

「やれやれ、見つかってしまった、か」
「……本当に大人だ!?!?」

現れた大人の女性を前に、一同は大騒ぎ。
なお帰宅部唯一の大人(自称)である琵琶坂は興味深そうに見ている。一方愛菜は「ほらね!?ほらね!?!?」と主張が激しかった。
そんな彼女に、漂花は音もなく近寄るとまじまじ彼女を観察する。

「え、え??なんすか??」
「ちょ、ちょーーっと!YOU!?勝手に近寄らないで!?OK!?」
「私の認識改変が効かないなんて……面白いお嬢ちゃんだね」

ニコリ。妖艶なスマイル。
愛菜は一瞬たじろいだ。
同性だがこれはちょっとときめきそうだったらしい。

「ひょーうーかーさーんー?」
「……はいはい」

紫依の湿度の高い視線を受けながら咎めるように名を呼ばれたことで、ようやく彼女は身を引いた。

「それで、こんなところで何を?」
「いや、なんでここだけ自販機が三つもあるのかなって」

一同の視線が自販機へ向く。
確かに不自然な位置に自販機がある。漂花は萃唐琴のあらましを聞いて一度頷いた。頷いたすぐ後、彼女は長い脚で自販機を思いっきり蹴ろうとしたではないか。
そして直撃の寸前、変身が解けStorkが姿を現した。
蹴られそうになって流石に慌てたらしい。

「あぁ、やっぱり」
「や、やっぱり!?わかってて蹴ろうとしたのかい!?!?」
「なんか文句ある?自販機を蹴ろうが蹴るまいが私の勝手じゃないか」
「それはそれで問題ですけど漂花さん」

普通なら許されませんよ、と紫依は重ねて付け加える。
彩声は漂花の堂々とした態度と毅然とした姿に、尊敬の眼差しを向けていたが。
一方で、Storkはあっけらかんに言いきった漂花への畏怖、見破られたことへの動揺で再び走り去っていった。
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