Premier:夢から醒めた夢

ビバ!温泉テーマパーク!



「ここが宮比温泉物語……テーマパークだぁ、テンション上がるなぁ」

宮比温泉物語。
江戸時代がテーマとなっているらしく、入ってすぐ目に飛び込んできたのは屋台が立ち並ぶ縁日のような景色。
昼間だというのに、夜のように暗い。
しかし提灯の明かりのおかげで風情がある。
縁日だけではなく、温泉施設があるであろう建物も江戸時代の建築様式を再現されていた。

「でも、温泉って言ったらテルマエじゃないの?」
「……確かに」

そこではないのだが、理屈は通っているのでやや納得してしまう律もいた。テルマエ、テルマエと言えば風呂、風呂と言えば温泉。ロジックとしては間違ってはない。

「しかしこの場違いな曲は何だ?」

笙悟が呆れ返ったような声で、施設内に流れている音楽のことを指摘する。
甘く滑らかな雰囲気の曲が流れている、ラブソングと言えばそうかもしれない。曲が流れている分には一向に構わないが、江戸時代がモチーフのこの場には全く合わない曲である。

「うに~、なんか頭にべったり付き纏う感じがする~」
「これは、Storkって楽士の曲です」

音楽性があまり合わなかったのか何なのか、優里菜はしょぼくれた表情を浮かべながらヘッドホンを装着した。
鍵介曰く、Storkの作る曲は彼が作っていた楽曲と比較すると女性人気が高かったのだとか。
若干私怨が混じっている気がした愛菜だったが、何も言わないでおいた。

「Storkの曲が流れてるってことは、彼もここにいる公算が高いです」

どうやら楽士達にも所謂『管轄』というものが存在しているらしい。
その『縄張りテリトリー内では自分達が作ったμの曲を流すよう、楽士のリーダー『ソーン』に指示されているという。
直接的洗脳マインドホン程の即効性はないが、ずっと聞かされ続けることで頭から離れなくなる。
そしてμの信者になってしまう、というカラクリらしい。

「どこかにそんな薬局あったわよね……」
「刷り込み効果ってやつだな。同じ情報に反復的に触れさせることで、癖にさせるんだ」
「うーん、人間の頭の仕組みを活用した巧妙な戦略だ…」

時間はかかるが効果は確実なのだから、そんな策を講じてくる楽士は恐ろしいものである。
いずれにせよ施設内にはスイートPとStork、2名の楽士がいると分かっている。どちらか1人でも捕まえて話を聞くため、先に進むことに。

途中、μの楽曲にすっかり入れ込んでいる女子学生達と鼓太郎が揉め掛けるなど、小さな問題はあったがそれ以外は比較的順調であった。
そんな中、ふと優里菜が呟いた。

「でも、なんでみんなそんなにμの曲に熱狂的なの?全然わかんないや、私は圧倒的にお姉ちゃんの曲が好きだなー」
「え、なになに、優里菜ちゃんのお姉さんも曲作ってるの?」
「うん!バンドでボーカルもやってるんだ!!」

腰に手を添え胸を張る優里菜。
その表情は得意げでとても誇らしそうだった。

「大人気だし、曲も全部いいし、お姉ちゃんのバンドを超えるバンドは絶対ないよ!」
「好きなのはわかったけど、いったんこの場ではその話は控えとこっか」

やんわりと愛菜が窘める。
というのも、周囲を行き交う学生の視線が時折こちらを刺してくる。
洗脳が未だ解けきってない学生は、μに否定的な者に敵対的になることが分かっていた。そして恐らく、μ以上の存在の仄めかしなどもぎりぎり危ういラインの可能性があった。
だから、鼓太郎も揉めかけていたことを考え、早いうちに窘めておこうと考えたのだ。

「…は~い」

幸いにも、優里菜はすんなりと聞き入れてくれた。
もう一度周囲を見ると、先程までの差すような視線は既に無くなっていた。やはり、μや楽士以外のアーティストを絶賛するのは避けておいた方がよさそうだ。改めて認識できた。
6/9ページ
スキ