Premier:夢から醒めた夢

楽園の中のイレギュラー



「そういえばなんだけど」

閑話休題それはさておき
話に一区切りがついてから、愛菜は琵琶坂に視線を向けた。

「何で琵琶坂パイセンがここに?」
「あぁ、そうだった、お前はいなかったもんな」

唐突な彼女の問いかけだったが、笙悟は即座に納得した。
居なかったのだから仕方がない。
簡潔に事の経緯を説明してやると、彼女の表情は見る見るうちに驚愕の色に変わっていく。それほどまでに入部が衝撃的出来事だったのだろうか。
彼女がいない間に決まってしまったことだったが、もしかすると愛菜は嫌だったのだろうか。そんな心配が笙悟や琴乃、そして律の脳裏を過った。

「パイセン社長だったの!?!?!?」
「そこ!?!?」

即座にアリアが驚愕に驚愕を重ねた。
唐突な大声に美笛と鈴奈の2人と会話していた優里菜は大きく肩を震わせる。大きな音が苦手らしい、愛菜は肩を少しすぼめた。

「…そんなに意外だったかな??」
「いやぁ、社長じゃなくて別の仕事かなぁって」
「ほーう、例えば?」
「弁護士」

一同、何となくわからないでもなかった。
感嘆の「あ~」の大合唱。琵琶坂も面白いと言わんばかりの表情。

「何でか聞いてもいいかい?」
「法廷で『異議あり!』って言ってそう」
「愛菜君、普通法廷ではアニメのように高らかには言わないんだが?」

本日2度目の衝撃が愛菜を襲う。
本気で知らなったのか、わなわなと打ち震えて言葉を発せないようだ。
案外この副部長は阿保なのかもしれない。

「言わねーのか!?」

鼓太郎もだった。
笙悟は改めて思う。こいつに部長を任せないでよかった、と。

「そっか~、弁護士だと思ったんだけどな~、違うのか~」
「悪かったね弁護士じゃなくて」

何故謝ってるのかは琵琶坂にも分からない。
そういう空気だったから、としか言いようがない。
そんな会話をしているところに「ねぇねぇ」と優里菜が声をかけてきた。

「愛菜ちゃん、ここって確か仮想世界なのにさっきは何しに行ってたの?」
「それは確かに、仮想世界と言ったら体調不良とは無縁のように思えるんだが」

唐突だが至極真っ当な問いに愛菜は腕を組んだ。

「全然体調不良になるんですよ私、仮想世界なのに。アリアちゃん曰く、もしかするとメビウスが合わない体質なんじゃないか、って」
「アタシも原因はわからないんだ、ただ人間にも車酔いをする人とそうじゃない人がいるようにメビウスで普通に過ごせる人とそうじゃない人がいる可能性も否めないんよね…」
「なるほど、思ったよりもデリケートな問題だな」

無暗に聞いてすまない、と今度はちゃんと真面目に謝罪をする琵琶坂。大人なので、大人らしい対応の見せどころである。
一方優里菜もなんとなく納得できたのか「なるほどね~」とだけ言った。

「まぁ、戦える者として体は張るけどね!」
「……」
「…ぶっちょの視線の圧強い」

常々釘を刺されているため、律の視線の意味は痛いほどわかる。
「絶対に無茶をするな」の一言。視線だけでそれが伝わってくる。
愛菜は肩をすぼめて「わかってるってぇ」と唇を尖らせた。

「…あっ、そういえば」

必死に話題を変えるために適当にネタはないかなぁと彼女は思索に耽っていたが、急に顔を上げた。

「メビウスって老若男女問わず高校生になるわけで、大人はみんなNPCでしょ?」
「うん、それがどうかしたの?」
「保健室にNPCじゃない養護教諭いたんだけど……」

部室に沈黙が流れ、同時に衝撃が走る。
アリアが数秒間ほどフリーズした。思考停止と体の動きが連動したのかもしれない。だがそれも仕方がない、このメビウスはアリアがまだ力があった頃にμと共に設計したもの。
だからそこに大人という存在は天地がひっくり返ってもあり得ない。
何故なら設計していないのだから。

「ちょっと待って!?大人!?NPCじゃない!?」
「うん、顔にモザイクかかってなかったから絶対に生身」
「…そ、それ楽士ってことはありえない…?」

鳴子が引き攣った表情を浮かべて可能性を口にした。
衝撃が戦慄に変わった気がする。
愛菜に至っては自分の体を抱きしめていた。

「どうしよ、私なんかされてたりしてない?」
「盗聴器仕込まれてるとか?」
「怖いこと言わないでよ春咲ちゃん!」

戦慄がそろそろ絶叫に変わりそうだった。

「本当にそうなのかどうか見に行けばいいじゃねぇか」
「だな…俺と鼓太郎、あと愛菜で見に行ってくるからちょっと待ってろ」

鼓太郎の一声をきっかけに3人は部室から出て行った。
それから20分後。
そろそろ部員達も待ち疲れが見え始めたころ、ようやく帰ってきた。

「保健室誰もいなかった」
「…もしかして幽霊」
「やめてよ!?」

どうやら保健室は鍵がかかっており、扉には『不在』という札がかけられていたらしい。
つまり事実を確認するには至らなかった、ということだ。
居ないものは仕方がない。
いずれ分かるときが来るだろう、とこの話は一旦終わりになった。
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