やきもち
「--さくら!」
名前を呼ばれて、振り返った。
大野くんだ。
隣には杉山くんもいて、笑顔でこちらに手を振ってくる。
……きた。意識し出すと、急に心臓がドキドキ鳴り出す。
「さくら、見てたのか。なんで?部活は?」
「え、えっと……ちょっとね……」
なんて言っていいのか分からずに言葉を濁す。
隣ではたまちゃんが既にマフィンを渡し終えていて、「先に帰るね」なんて言って去ってしまった。
「俺らも帰ろうぜ」
「あ、えっと……うん」
マフィンを渡すだけなのに。
なんで出来ないんだろう。
悔しくて、涙がこぼれそうになる。
ずっと俯いているあたしを不思議に思ったのか、大野くんが顔を覗きこんできた。
あっ……今見られるのはまずい……っ
「……え、さくら泣いてんの?」
「な、泣いてないよ!」
「嘘だ。今泣いてたぞ」
大野くんに見つめられて、目を逸らしてしまう。
……泣いてなんかない。泣きそうにはなったけど。
「何かあったのか?」
「……うん、えっと……これ、あげる」
マフィンの入った袋を、差し出してみた。
……やっぱり、迷惑だったかな。
「あ、あの、ちゃんと甘さ控えめだから!」
「さくら」
優しく名前を呼ばれて、どうしていいか分からなくなる。
差し出したマフィンは受け取ってもらえないまま、抱きしめられる。
「さくら。俺、今すっげぇ喜んでる」
「っ……よかった」
「でも、なんで?こういうの初めてじゃね?」
そりゃ、そうなるよね。
体を離されて、あたしは伏せ目がちに答える。
「その……大野くんモテるから、あたしに飽きちゃうんじゃないかって思って……つまり、その……他の女の子にとられたくなかった、の……」
情けない。
呆れられちゃうかな。