やきもち
--放課後。
たまちゃんのスパルタ指導によって、なんとかスノーマフィンを完成させることが出来た。
大野くんの分は、甘さ控えめで。
あとはサッカー部の練習が終わるのを待つのみ……!
「わー!杉山くんかっこいい!」
隣で盛り上がっているたまちゃんには申し訳ないけど、今秒速で帰りたいと思ってしまったよ。
なぜかって、そりゃ、ここにはあたしの敵がいっぱいいるから……!
大野くんのこと狙っている女の子たちが、わんさか集まってる。
もー!大野くんは彼女持ちなんだから少しくらいあきらめなよー!
……なんて。誰かを好きになるのは自由だということも、あたしはよく知ってるんだよ。
片手にマフィンを持って、もう片方の手でスカートをキュッと握る。
「……まるちゃん……」
「あっ、ごめん……せっかく協力してもらったのに暗い顔して」
「ううん。その気持ち、よく分かるもん。面白くないよね、自分の彼氏がモテてると」
いつだってたまちゃんはあたしのよき理解者だった。
今だって。あたしはたまちゃんの言葉にうんうん、と頷きながらピッチに目をやる。
「……わぁ……」
思わず声が漏れて、たまちゃんにクスリと笑われる。
大野くんが出ている試合では、そのピッチは大野くんの独壇場と化す。
まさに、その通りだった。
「……かっこい……」
全く、どうしてあたしの彼氏はあんなにかっこいいんだ。
だからモテちゃうんだよ。
……面白くない。面白くない、けど。
ボールを蹴って走る大野くんは、誰よりも輝いていたから。
「っわぁー!すごい!」
隣でたまちゃんが声を上げて、ハッと気づく。
大野くんが、点を入れたみたいだ。
たまちゃんの声に気づいた杉山くんがこちらを見て笑う。
そして、大野くんにあたしたちの存在を知らせてくれた。
大野くんは照れくさそうに顔を伏せて、ベンチに戻っていってしまう。
なんだい、照れなくてもいいのにねぇ。
「すごかったね、まるちゃん!」
「う、うん」
マフィン、喜んでもらえるだろうか。
今のあたしにはその考えしか無かった。