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林檎ステーション

「君は優しいね。」
彼女はえ?と呟いた。
「だって、こんな奴のために泣くなんて。別にもう会えなくなるわけではないのに。涙が勿体ない。ほら、これで拭いてください。」
私は彼女にハンカチを差し出した。ありがとうございます、と彼女は小さな声で言って受け取った。しかし、彼女はそれを受け取り突っ立ったままでいる。また彼女は沈黙してしまった。まるで絵画と話しているみたいだ。きっと作は竹久夢二。
「あ、あたし、帰るんです。日本に、帰るんです。」
静かに無の均衡を破ったのは彼女だった。突然それは飛び出した。とても小さい声で。私は心底驚いた。そして私は意外と冷静だった。押し寄せてくる感情が大きすぎて、脳味噌がまだ理解をしていないのか。私は感情の整理に少しの時間を要した。
「いつ戻るの?」
「冬です。梅の花は、日本で見ます。」
あぁ、無言の正体はこれだったのだ。
「そうなのか……。日本のどこに?」
「親戚が徳島にいるから、そこに……。」
ではこれは今生の別れなのか?いやいや、それはまだ分からない。きっと、違う。違うと信じたい。
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