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短編

 冷え切った空間が、肌を刺す。
 まぁ『空間が』というのが間違った表現なのはわかっている。より正しく表現するのであればおそらく『空気が』となるのだろう。
 ただ、
 その正しさがなんの意味を持つ?
 と問われたらなんとも言いようがないのだ。
 それにどうせこの空間には自分しかいない—強いて言えばあのクソ壁男がいるくらい—のだから多少間違っていようが大したことではない。かつての文豪たちも皆が皆正しい言葉を使っていたわけではないし。
 何にせよ、この閉じた空間では意味がないということ。

「はぁ…。寒いし、退屈ね」

 薄暗い部屋の中でか細く揺れる蝋燭の炎を、ぼんやりと眺める。ゆらゆらと、ゆらり、ゆらいで。突然、消えた。
 
「あぁもう。いつもそうね。私が退屈だっていうといつも消えてしまう。わかったわよ。本を読むわ」

 イラつきに任せて声を上げると、また突如と炎が灯った。いつもこう。いっつもいっつも。私を馬鹿にするみたいに。はぁ。やっていられないわ。
 手近にあった本をめくる。
 本を読むのが嫌なわけではない。むしろこの行為は私にとっての呼吸。なければいけないもの。でも、もう無限に繰り返したこの行為に飽きてしまった。そう…言い換えるなら、生きることに、飽いた。かしら。
 この空間には生も死もない。
 あるのは善と悪。
 死があるから生きたいと思う。
 死がない私はそうも思わない。
 …私は一体何を言っているのかしら。とうとう狂ってしまったの?まさかそんなことはないでしょう?
 本を読まなければ。
 文字に濡れて溺れてしまえば、このがんじがらめになった思考もいくらか解けるかしら。
 ぱらぱらとめくる。
 何度となくめくられたページは、所々綻んでいて、あぁ、そろそろかしら。そう思う。
 直さないと。
 
「…煩わしいわ…声が、」

 忌々しい声が脳髄に響く。
『狂人』
『失敗した』
『悪』
『不正義』

 声と相反するように文字にふける。
 声を消したいのなら、読まなければ。
 駆られる。
 強迫観念に。
 
「あぁ、ぁあ、嗚呼、、」

 本を投げつける。
 バンっ、という痛々しい音が満ちて。
 煩わしい声が引いた。
 もうこんなのはいや。
 いや。
 何もかもがいや。
 声も、私も、本も、独りも、寒さも、。
 誰か助けて。
 助けを求めるように手を伸ばす。
 手先に触れたのは、ざらついた紙。本。
 
「結局、私には…貴方しかいないのね」

 虚構の中の貴方を思う。
 登場人物の貴方を思う。
 
『私は』

「貴方は、」

 虚構に微笑む。
 ここは名もなき場所なのだと云う。
 虚構は微笑んだ。

 狂いだす。

 私の空虚な、物語。
 滑稽なだけの物語。
 この話でさえ、私の◾️◾️————、
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