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よみきり

一歩近寄ると、一歩退かれる。
数度同じ行動を繰り返し、了平はまどろっこしい、と吠えた。

「逃げるな紅葉!!」
「寄るなお馬鹿がうつる!」
「馬鹿と言う方が馬鹿なのだ!」

まるで子供のような――子供でもやらないような、言い争い。
それでも歩み寄り、距離をつめていけば、退いた紅葉の背が壁に当たった。慣れない校舎、壁との距離を失念していたらしい。

「それで、結局僕に何の用だ」
「…………」

諦めたらしい紅葉が、聞けば。どうしてか、返答はなかった。
考え込む仕草を見せる了平に紅葉も、首を傾げる。

「了平?」
「それが……忘れてしまった」
「このドアホウが!」

ノーモーションで振り上げた紅葉の拳はぱしん、と音を立てて了平の手のひらに収まった。何が可笑しいのか、了平はにかりと笑う。

「いいパンチだ!」

満足げにそう言った了平は、わしわしと紅葉の頭を撫でた。彼らしい、若干乱暴な動作に紅葉の髪が乱される。

「何をする!」

振り払うと了平は素直にすまん、と詫びて手を下ろした。

「なんとなくそうしたくなったのだ。気にするな」

思い出せない事をすっぱりと諦めたらしい了平を押せば、今度はあっけなく離れていく。その太陽のような笑みをそのままに、彼は手を振って紅葉から離れた。

「思い出したら言うからな!」




消えていくあわただしい姿を見送り、紅葉はとん、と壁に背をもたれる。力なく、手を頭に持ち上げる。

「……おかしい」

俯き、くしゃくしゃにされた髪を手櫛で整えながら紅葉は一人呟いた。

「あいつはボンゴレだぞ……なのに、」

触れた手に、撫でられた頭に残る感触。それがこんなに胸をかきみだすなんて。
太陽に焦がれると、焼けて燃えてしまうのに。それこそあの神話のように、落ちてしまうだろうに。突き詰める前に感情はひとつの結論を出して、紅葉を苛む。

「結局、」

僅かに朱が昇る頬を自覚して、紅葉はちいさく、ため息をこぼした。

「僕はどうかしている」




*****
無自覚で落とす了平さんと、落とされたのを自覚する紅葉さん。
なんでこうなったかって、あんまり紅葉さんが可愛かったからです。
あのふたり……やばいいい。
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