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犬と僕の暮らし

 自分とナッツのおやつを買いに行った帰り、近道をしようと裏通りに入った綱吉は、ふと嫌な気配に眉を寄せ、足元を走るナッツを抱き上げた。
 少なくとも表側でない気配が三つ。この辺りでこういうことが起きるのはめったにない。しかしどう考えても味方の気配ではなく、――実のところ、思い当る節のある気配だった。何せ綱吉に気付かせるように態と気配を濃くしている。
「何だよもお……」
 そちらの方へ嫌そうに顔を向け声を投げれば、拳銃が突き付けられていた。その先には黒いスーツに同じ色の帽子のにやり笑う少年と、金髪にバンダナの勝気そうなのと、緑髪に白衣の眼鏡。
「何してんだアルコバレーノ」
 綱吉がうんざりとした態度で銃口を睨みつける。買い物して直ぐ帰るつもりだったから護身の武器など持っていないし――というよりも仕事以外彼はそういうたぐいのものを持つことはない――逃げ出そうにもさらりと退路を断たれている。
「リボーン、遊び相手ならほかにしてよ」
 残念ながら顔見知りの少年たちは、それぞれ名をリボーン、コロネロ、ヴェルデといいアルコバレーノという虹色を司る組織の一員だった。ちなみに裏側の存在だ、デーチモと同じで。
「今日はヴェルデがお前に用事だぞ」
 銃口を下ろさずにリボーンは答える。後ろのヴェルデが眼鏡を直しながら頷いて、やりたまえとぽつり発言する。
「うっせえ、俺のタイミングでやるぞ」
「俺のことも忘れんなよコラ!」
「目立つことは勘弁してよ」
「なに、目立たなきゃいいだけだぞ」
 制止も届かないらしい。残るヴェルデは参加するつもりも止めるつもりもないらしく、突如始まった戦闘をカルテ片手に傍観している。コロネロはコンバットナイフを振りかざし、リボーンは躊躇いもなく拳銃の引き金を引く。綱吉は防戦の構えを見せた。
「なんだデーチモ、今日はお休みか」
「お前等の都合で仕事しないっての! 大体子供には手を出すなって言われてるし」
「そんな甘ちゃんで俺等から逃げられねえぞコラ!」
「丸腰にそんなん向けんな!」
 ぎゃんぎゃんと吠えながら綱吉はナッツを抱っこしたままひょいひょいとナイフを躱す。しかし二対一ではどうしても追いつめられ、最後は壁際に追い詰められリボーンの銃口を向けられた。
 しかし綱吉はまだ、焦らない。
「それ、中身何」
 特殊弾、というものがこの世にはある。リボーンはそれの使い手で、面倒な効果だったり嫌がらせのような効果だったり――つまりは対象に何かしらの被害を出す。綱吉も何度か撃たれたことはあったが、死ぬことはなかった。
 そもそも現状を顧みるにアルコバレーノ連中は遊び気分でいる。本気なら、コロネロの武器はロングライフルだしリボーンも出会った瞬間に綱吉を撃ちぬこうとしていているだろう。
 リボーンは問いににやりと笑って、答えを寄こした。
「ヴェルデの新作でな。中身はよく分らん」
「人体実験反対!」
「科学に実験はつきものだろ?」
 そういうのは後方のヴェルデだ。やりたまえ。二度目の発言に、リボーンも引き金を引き――綱吉は逃げきることが出来なかった。


 刹那。燃え上がったのは暗い橙色の炎だった。片手にナッツを抱えたまま、綱吉は橙色の瞳で三人のアルコバレーノを睥睨する。眉間には深い皺が寄り、彼の表情は苦しげだった。
「だめ、だ……逃げろ! じゃないと、じゃないと殺しちゃう‼」
 綱吉は叫ぶように言う。しかし声と正反対に彼のスニーカーは軽くアスファルトを踏み、銃口を構えたままのリボーンを蹴り飛ばそうとする。間に入ったコロネロが防ぐが追撃にコンバットナイフは弾かれ、カランと転がった。素早くそれを拾ったのは、綱吉だ。彼は相変わらず苦しそうに喋りながら、しかし身体はナイフを振るう。
「何を仕込んだヴェルデ!」
「分からんが、暴走だな」
「ツナ……ってかもうデーチモだなこりゃあ、この暴走ってなると……やべえぞコラ!」
「ああ、そうだな」
 リボーンとコロネロはこれまでよりも厳しい視線で綱吉を見た。コロネロから奪ったナイフで距離を取りながら、綱吉が言う。深く暗い橙の燃える最中、正気の琥珀色が訴える。
「オレはいいから、引いて! それか……アラウディさんに連絡して!」
「てめえはどこ行くんだコラ⁉」
「じ、神社――町はずれの!」
 悲痛な声。そこまで漸く言えたらしい綱吉はリボーンたちの返事も聞かず身をひるがえし、壁と屋根をけると青空へと飛び出した。武器のグローブも無しにあの挙動をされると戦闘技能持ちのアルコバレーノとて追うことすら対処できない。
「あれは失敗だったか」
 ぽつり呟いたヴェルデの両側から拳骨を叩き込みながら、コロネロとリボーンは策を考える。アラウディという男に連絡することは苦ではない。すべてを説明してやる時間はないが、一刻も早くどうにかしなければならないだろう。
「リボーン」
「ああ、もう連絡している」
 リボーンもコロネロも深く嘆息した。ヴェルデの開発につきあって遊ぶと、たまにこういうことになってしまう。せめてスカルでも連れてきたらよかったのか。
 取り敢えず、彼らの姫に相当叱られることは間違いがない。

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