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きせつのもの

サンタクロースが今年も来てくれるのだと、綱吉は楽しみに指折り数えて、けれどある日不思議そうな顔をしてラルにこう、聞いてきた。

「おかーさん、サンタさんってみんなにプレゼントくれるよね」
「ああ。いい子にしていたらな」
「サンタさんには?」

くりくりと大きな目に疑問を浮かべて、綱吉は首を傾げる。そういえば、とラルは問いが浮かんだ理由を悟った。
そういえば。イタリア連中とのクリスマスはプレゼントのやりとりだ。ボンゴレ挙げてパーティを仕掛けるものだから、毎度手を焼いている。今年はいろいろな都合で渡伊は年末までお預けになっていた。――だからといって、諦める奴らではないが。恐らくはプレゼントの山がやってくるだろう。
けれど幼子にとって、サンタクロースのプレゼントは特別な物だった。そんな相手に、贈り物をしたいとは。

「綱吉はサンタクロースにプレゼントしたいのか?」
「トナカイさんにも!」
「…………そうだな」

いいか。ラルは深く考えるのをやめて、綱吉の要望につきあうことにした。サンタクロース役が菓子を回収すればいいだけだ。そうしたら、子供の夢が壊れることもない。
それに――。

「じゃあ、綱吉は何をプレゼントしたいんだ?」
「えーとー……おかし?」
「それなら、夕飯の買い出しと一緒にクリスマスの菓子を買いに行くぞ」
「わあい!ありがとう、おかーさん!!」

そうして綱吉はクリスマスツリーの形をした大きなクッキー二枚をつり下げたくつしたの側に置いて、クリスマスの夜を迎えた。




眠っていた綱吉がぱちりと目を開けたのは、寒さで目が覚めたからだった。大きなベッドにはまだ両親の姿はなく、綱吉を寝かしつけるときにラルが灯したランプが、ほの明るい光を放っている。
起き上がり、目を擦って周りを見れば、どうしてか窓が開いていて。そこに、赤い服を着た、白髭の男が立っていた。

「……うー…?」
「メリークリスマス、ツナ」

男がにかりと笑う。ぱち、と瞬きして、綱吉は琥珀色の目を見開いた。男の全身――白いファーで縁取りされた赤の服と、同じ色のとんがり帽子――を見まわして、彼は叫んだ。

「サンタさん!!」
「おう。起こしちまったな、内緒で来るつもりだったんだがなー」
「さむくてね、おきちゃったの」

理由を言えば、サンタクロースはそりゃあ悪かったなとまた笑って綱吉の頭を撫でる。そして、背負った大きな袋から、一つの箱を取り出した。きらきらと光るリボンで飾られたそれを綱吉に差し出して、彼はまたメリークリスマス、と言う。

「いい子にしてたツナに、プレゼントだ」
「ありがとう!!」

礼を言って箱を受け取った綱吉はすぐに、しゅるりとリボンを引いてプレゼントの箱を開けた。サンタクロースはにこやかに、その様子を見守る。
中には、オレンジ色の毛並みをしたライオンのぬいぐるみが入っていた。ふかふかとしたたてがみを撫でて、綱吉はそれをぎゅうと抱きしめる。

「ありがと、サンタさん」
「どういたしまして」
「あ、サンタさん!オレからもね、プレゼントあるの!!」

言うと、サンタクロースは不思議そうな目で綱吉を見た。けれど綱吉が二枚のクリスマスクッキーを差し出せば、納得したのか白い手袋をした手でそれを受けとった。

「いっこはね、トナカイさんに」
「そうか。あいつも喜ぶな。ありがとう、ツナ」

大きな手に頭を撫でられて、綱吉はにへらと笑む。その笑顔が眠たげにあくびをして、サンタクロースは苦笑すると綱吉をベッドに寝せて、上から暖かな布団をかぶせた。

「もう寝るんだ。そうしたら、クリスマスの朝だぞ」
「うん……おやすみ、サンタさん…」
「おやすみ、綱吉。……いい夢をな」

もう夢の中らしい。もらったばかりのぬいぐるみを抱きしめたまま眠りに落ちた綱吉の頭をまた、こんどはそっと撫でて、サンタクロースは窓からベランダへ、そして窓をしっかりと閉めると真下の庭へと跳んだ。




庭先で立った音に、リビングでカフェオレを片手にくつろいでいたコロネロとラル夫妻、それとトナカイのカチューシャを頭に着けたバジルは、同時にそちらを向いて、すぐに顔を戻した。

「終わったかコラ。無事に済んだんだろうな」
「大丈夫ですよ」
「あいつならな」

そう言っている間に、庭からサンタクロースが上がり込んでくる。バジルがにこやかに声をかけた。

「お疲れさまです、親方様」
「おう。待たせて悪かったなバジル。それと、土産だ」

べり、と白い髭をはがして、親方様――家光は苦笑して、バジルにクリスマスクッキーを一枚、渡した。きょとんとそれを受け取るバジルに、家光はとんがり帽子や赤い服を脱ぎながら答える。

「ツナから。サンタとトナカイに、プレゼントだと」
「それは……有り難く受け取らねばなりませんね」

思っても居なかったプレゼントを手に、バジルは嬉しそうに笑う。頷いて、すっかり普段着に戻りサンタ服を袋に詰め込んだ家光は今度はコロネロとラルに顔を向け、ぱんと手を合わせた。

「それとすまん、起きた」
「マジかコラ」
「まあもう寝たから朝には夢だったと思ってくれるだろ」
「……いい、そこは俺達でどうにかする」

溜息を吐いてラルが答え、カフェオレを差し出す。家光はそれを飲んで、ふうと息を吐き出した。

「……奈々似だな、ありゃ」
「拙者もそう思います」
「そうだな。お前に似なくてよかった」

ラルの返した皮肉に、けれど家光は盛大に頷いて同意を見せる。ぐい、とカフェオレを飲み干して彼はまた笑った。

「だなー。絶対美人になるぜ」
「いや、ツナ男だぜコラ…」

思わず言ってしまったコロネロのツッコミは、けれど欠片も届かない。そして上司がどんな人間か把握しきっているラルとバジルは、ツッコミを放棄していた。

「じゃ、やることやったし見つかる前に帰るか」
「そうですね、親方様」

サンタクロースとトナカイは、それぞれ小さなプレゼントを手に家から去った。
来年も来れたらいいな。サンタクロースの呟きに、夫婦はそうだな、と答えることしかできなかった。




*****
今年は早めにメリークリスマス!!
母の日のいるちぇろ同様去年のタイムオーバーを蔵から出してきたのですが、こいつにこんなおいしい目に合わせていいのか本気で三日くらい考えました(本誌的に)
しかし他に適任居なかったので、した。ちくしょう家光、帰ってオレガノとターメリックとモレッティにクッキー奪われてしまえ。
バジル君は役得。
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