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きせつのもの

コロネロもラルも仕事が入っている、そんな日。綱吉はおとなりさんの家に預かってもらう事が多い。
今日も、そうだった。
夕方、任務を終えたラルがおとなりさんの家に綱吉を迎えに行くと、綱吉は小さな紙袋を抱え、玄関先で彼女を待っていた。
「おかーさん、おかえり」
その様子に、ラルは少しだけ違和感を抱く。どことなく、いつもより元気がないような。
綱吉の隣に、一緒に座っていたおとなりさん――六道骸はラルと綱吉を見て、子供らしからぬ笑みを浮かべた。そこは、いつも通り。おかしいのは、綱吉ひとり。
喧嘩したわけではないようだ。ラルは二人の子供を観察してそんな事を考える。

「綱吉君、お迎えですよ」
「うん。ありがと、むくろ」
「いいえ。僕は綱吉君のお手伝いをしただけですから」

そう、優しく言って骸は綱吉の頭を撫でる。それでも綱吉はどこかしょげた様子で、紙袋をそっと抱えなおした。

「大丈夫ですって」
「…………うん」

頷いて、ようやく綱吉は立ち上がるとラルの側に寄り、手を握ってくる。留守番の間に何かあったのだろうか。けれどその理由を聞かないまま、ラルは骸に向き直った。

「いつも世話になるな」
「いえ、おとなりさんですし。それに、綱吉君が来るとうちが明るくなって皆喜ぶんです」

だからまた来てくださいね、綱吉の目線に合わせてしゃがみ、骸が言うと、綱吉はこくこくと頷いた。




家に帰り着いても、綱吉はどこか、おとなしかった。

「どうかしたのか?」

ラルが聞いてみたが、綱吉はただ首を横に振るだけで、その後はおとなりさんの家から持ち帰ってきた紙袋をすぐ傍に置いて、大好きな電気鼠のぬいぐるみを抱きしめている。それはどこかぬいぐるみと内緒話をしているようで微笑ましい光景だったが、いつもの綱吉とはまるで様子が違っていた。
ちらちらと気に掛けながらもラルが家事を片づけていると、不意に綱吉が彼女に近寄って、まだ畳まれていない洗濯籠の隣にぺたんと座りこんだ。

「どうした、綱吉」

選択もを畳む手を止めて聞けば、子供のおおきな瞳が、不安そうな色を抱えてラルを見上げる。
しばらく躊躇って、ようやく綱吉は口を開いた。

「おかーさん」

今まで離さなかった紙袋、綱吉はそこに入っていたものを取り出し、ラルに差し出した。
それは赤い色紙で作った、花だった。
緑の画用紙でできた茎の上で、不格好に咲いている赤い花。ぎざぎざとした花びらの縁とその色に、ラルはそれが何か悟る。

「おかーさんにあげる。ははのひの、プレゼントなの」

カーネーションの造花を手にした綱吉は眉を下げて、それでもラルをまっすぐに見たまま、ぽつりぽつりと言葉を選んで言う。

「むくろがね、つくりかたおしえてくれたんだ。でもね、じょうずにね、できなかったの……」

琥珀色をした目の端に、次第に涙が溜まっていく。ごめんなさいの言葉と涙がこぼれる前に、ラルは綱吉の頭をわさわさと撫でた。

「ありがとう」
「…………おかーさん?」

ぱち、と綱吉は目を瞬かせる。その弾みで落ちた雫を取り込んだばかりのふかふかしたタオルで拭って、ラルは笑った。

「すごく、嬉しいぞ」
「じょうずにできなかったのに?」
「これは綱吉がお母さんのために作ってくれたんだろう?」
「……うん」
「思いがこもったプレゼントは、どんな物より嬉しいんだ。だから、ありがとう」

ラルが微笑みかければ、ようやく綱吉も笑顔を取り戻す。ぴょんといきおいよく抱きついてきた愛息子を、造花のカーネーションが壊れてしまわないように気をつけながら抱き止めて、ラルはまた綱吉の頭を撫でた。

「おかーさんだいすき!!」

何よりその言葉が、その笑顔が、ラルを幸せにさせる。
赤い花は、柔らかな室内光の下で宝物のように輝いて見えた。

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