このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

きせつのもの

彫像の裏に向かい、何かをふるふると揺らす人影。
ボンゴレ屋敷でそんな奇妙な行動をしているのは意外な事に見慣れた人物で、雲雀はそれを不思議に思って声を掛けた。
「何してるの?」
「ひゃあ!」
悲鳴を上げて人影は雲雀を見上げる。その人物――ツナはぱちりと大きな瞳を瞬かせて、雲雀の名を呼んだ。
「あ、雲雀さん……」
「やあ」
しゃがみ込んだ彼女の腕を取り立ち上がらせ、雲雀はツナの手に握られた物に首を傾げた。
「ねこじゃらし?」
「あ、さっきそこに何か居た気がして」
そうツナは言うが、雲雀は何の気配も感じない。試しに彫像の裏側を覗き込んだが、やはり何もいなかった。薄く積もった埃にも何の跡も残っていない。
訝しげな視線を向ける雲雀に、ツナはこう弁解した。
「そこから鳴き声が聞こえたんです」
「でも何もいないね」
「そう、なんですよ……いつも逃げられちゃって」
溜息混じりにツナは言う。彼女は猫じゃらしをポケットにしまい、確認するように彫像の裏を見てまた溜息を吐いた。
「逃げられるって、何にだい?」
「多分、猫です」
曖昧な答えを、雲雀は口を挟まずに聞く。雲雀の知る限り、彼女はそういう嘘を吐く人間ではなかった。
大体嘘を吐くのなら、もっと信じやすい事を言うだろう。
「前から猫っぽい物を見かけたり、鳴き声を聞いたりして、気になってたんです。呼べば出てくるかな、って思ってにぼしとか、猫じゃらしとか試してるんですけど……振られてばっかなんですよ」
そう言ってツナは苦笑する。
見かけたら教えてあげるよ。そう呟いて雲雀は猫の特徴を聞いた。
「どんな猫だい?」
ツナは目を閉じて探し猫を思い、ぽつりぽつりと答える。
「オレンジっぽい体をした、小さな猫……だと思うんですけど……」
「……オレンジ?」
それは、奇特な外見だ。アルコバレーノの相棒たる動物達を相手に仕事をしている雲雀も、そんな猫には覚えが無い。
「はい。不思議な猫なんです」
大真面目に言うツナに、雲雀は何も言えずただ首を傾げた。




11/21ページ
スキ