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きせつのもの

今日はクリスマスです。数千年前に産まれた赤子を祝う日ですか、僕にはいまいち理解できないことです。それでもクリスマスは祝うものらしく、皆忙しく動き回っています。夜に、盛大なクリスマスパーティーがあるからです。僕とクロームは手伝っても足手まといなのか単に子供に労働させるのを嫌ってからか、特に仕事は与えられていません。
僕たちの仕事は成長することだとボンゴレは笑っていました。よく食べて遊んで寝て、ゆっくり大きくおなり、と彼は笑います。僕としては早く成長したいのですが、なかなか上手く行かないものです。

――ボンゴレといえば。
彼もまた、準備に携わっていません。勿論、彼の主催になるわけですから出席はします。単純な話、パーティーが始まるまで普段と同じく書類とにらめっこだとか。こんな日まで仕事とは、ボンゴレも災難ですね。
クロームが絵本(この間彼女がクリスマスをよく理解していないことを知ったボンゴレが与えました)を読むのを眺めながらぼんやりとしていたら、不意に扉を叩く音が。
僕たちは同時に扉を見ました。守護者連中でしょうか、いや、奴等は一番忙しく働いている筈です。こんな日に、暇を持て余しているのは誰でしょう。
「ちゃおっす、邪魔するぜ」
「……ああ、あなたですか」
許可は与えてないのですが。
入ってきたのはボンゴレの家庭教師だったアルコバレーノでした。いつもと同じ黒ずくめのスーツ、帽子にもカメレオンが乗っています。彼は二つの袋を下げ、怪しい笑みを浮かべていました。
「お前ら、着替えろ」
アルコバレーノは袋をひとつずつ僕たちに押し付けました。クロームが袋を覗き込み、ほんのりと頬を赤らめます。――何ですか、その反応は。
「……かわいい…」
ぽつり、零れ落ちた言葉に僕はいやな予感がしました。おそるおそる袋の中身を見れば、

裾と袖に白いもこもこのついた、赤い衣装が入っていました。
別名、サンタクロースですね。

「……やはり」
アルコバレーノの趣味を失念していました。彼は仮装、というかコスプレが趣味でしたね。しかし、どうしてそれのターゲットが僕たちになってしまったのでしょうか。そして何故クロームは目をきらきらさせているのでしょう。可愛いからですか。どうやら彼女のサンタクロース服はワンピースのようです。僕のは――まあ半ズボンであることを除けばそれなりにサンタクロースらしいです。
時計を見、アルコバレーノは僕たちを急かすようにいいました。
「さっさと着替えろ、この格好でパーティーに出たくはねーだろ?」
「パーティーようじゃないの?」
クロームが赤い服を広げながら聞きます。僕も同じ疑問を覚えました。するとアルコバレーノは当たり前だと笑いました。
「まがりなりに守護者がそんな格好で出てみろ、ボスの人格が疑われるぞ」
「……じゃあ、これは」
「ツナへのサプライズだ。たまに喜ばせるとあいつはやる気を出す」
「僕たちはプレゼントですか」
「まあ、そうでもあるな」
そうでも、というのはなかなか含みがありますね。もしや僕たちは生贄でしょうか。暴走したボンゴレはなかなか恐ろしいものなのですが。
「あいつはまだ執務室だ、オレが大量の書類を渡したからな」
下準備は万全、断る余地も無く。
ちなみにクロームは乗り気です。目を輝かせています。放っておいても自ら着てくれるでしょう。いい子ですね。
哀れなボンゴレのために、僕も譲歩してあげましょう。気付かれないくらい小さな溜息を吐いて僕は言いました。
「クローム、あなたから着替えなさい」
「うん、すぐにきがえてくる!」
袋を抱きかかえてクロームは隣室に駆け込みました。
「アルコバレーノ」
クロームの消えた扉から黒ずくめのアルコバレーノに向き直ります。彼は何処からか箱を取り出し、それをもてあそびながら聞きました。
「どうした?」
「僕たちがボンゴレのプレゼントになるのは承知しましたが」
クリスマスプレゼントを貰うのは、子供の役割ですよね。
にこやかに要求するとアルコバレーノはかすかに唇を歪めました。
「……自分から要求するとは、可愛くねー」
「可愛いのはクロームだけで十分ですよ」
男に可愛いって言ってもうれしくありませんし。――と、丁度クロームが出てきましたね。さすがアルコバレーノ、服の見立てはすばらしいものです。彼女に良く似合うワンピースに、サンタ帽子とブーツも揃いの赤です。
「むくろさま……」
「よく似合っていますよ、クローム」
「次はお前だぞ」
楽しそうなのは何故でしょうね、アルコバレーノ。クロームも期待するような視線を僕に送っています。
「……はい」
恥ずかしいですがこれもボンゴレのためです。




「…………」
「よく似合ってるぞ」
「うん。むくろさまかわいいよ」
「ありがとうございます……」
非常に心外です。これ以上考えないことにしておきます。
まあ、これでサンタクロースがふたり、出来ました。パーティーが始まる前にボンゴレの所に行かなくてはいけないのですが、
「……じゃあ、行きましょうか」
クロームと手をつなぎ部屋を出ようとすると、
「ちょい待て」
そう引き止めたアルコバレーノが箱を投げて寄越しました。何でしょうこれは。
「やさしー俺からお前らにプレゼントだ。本当はいい子じゃねーとあげねえんだがな」
「……なんですか、これ」
「開けんの後にしろ。さっさとツナにその格好見せて来い。……じゃねーと」
「じゃないと?」
クロームが首を傾げました。可愛いですがあんまり傾けると帽子が落ちますよ。そっと戻してやるとありがとう、と言ってくれました。
ぶち壊したのはアルコバレーノの一言です。
「守護者全員にその格好晒すぞ」
「いってきます」
僕たちは一目散にボンゴレの部屋に駆け出しました。




「……ボンゴレ、いますか」
「ぼすー」
がんがんと執務室の扉をノックし、許可無く部屋に押し入ります。この格好、目立ちますからね。いつ、ここに人が来るか分かったもんじゃありません。
「骸、クローム、どうかした?」
かりかりと書類に書き込みながらボンゴレはいいました。余程急いでいるのか、顔も上げてくれません。それもそれで淋しいですね。
「ぼすー」
「ぼんごれー」
「なんだい……ちょっとまって、もうちょっとで終わるから…」
ぱた、とペンを置いて僕たちを見たボンゴレは――

それはもう、面白いくらいに硬直しました。

「メリークリスマス、ボンゴレ」
「ぼすのためにさんたさんになったよ」
「だ、サンタって、何で……!!」
無様な音を立ててボンゴレは僕たちに近付きました。いいんですか、書類ほっといても。(言っても今の状況じゃ聞かないでしょうが)
「アルコバレーノに貰いました」
「リボーンかあ……あいついい趣味してんなー…」
なんかセクハラめいた言葉ですねボンゴレ。抱きついたりしませんよね、ね!
しゃがむのはどうしてですか!!
「ぼす?」
ほら、クロームもなにか不穏な空気を感じています!
「二人ともすっごく似合ってるよ!!」
叫んで、ボンゴレは僕たちを抱きしめました。
「苦しいです!」
「ぼすー!!」
この人の愛情表現は強烈です……。
何とか抜け出して、それでも膝の上に乗せられてしまいました。二人のサンタクロースを侍らせてボンゴレはご機嫌です。
ふと、持たされた袋に押し込んだ箱の存在を思い出しました。
「……そういえば、アルコバレーノのプレゼントがありましたね」
「そうだね、あけようよむくろさま」
「あいつがプレゼント?」
怪しい、と断言するボンゴレの声を耳に、それでも好奇心に突き動かされてクロームが箱を開けます。真四角の箱に入っていたのは、ひとつの封筒でした。
「……大きさと中身がかみ合ってませんね」
「…………そうね」
クロームが残念そうに頷きました。アルコバレーノは何がしたかったのでしょう。
「…………まさか、なー」
「ぼす?」
「クローム、ちょっと封筒かして」
ボンゴレは封筒をひったくると、それの中身をテーブルに広げました。
日本の温泉宿のチケットが三枚、そして、『よい正月を』と手書きされたクリスマスカードが一枚。
「これって正月休み?」
「みたいですねえ」
僕はチケットの一枚を手にとって答えました。一日はこっちでイベントがあるので長旅は出来ませんが、すこし外せば旅行も不可能ではありませんね。
「……リボーンにお礼言わなきゃな」
「ですねー」
「うん!」
今年はものすごいクリスマスプレゼントを貰ったよ、とまた僕たちを抱きしめたボンゴレ。――部屋の隅にリボンの掛けられた箱が二つ、置いてあるのが見えたのは僕だけの内緒にしておきましょう。




*****
メリークリスマス+1!!(おくれてすみません)

お正月への布石を配しつつ、ふたつの霧クリスマスです。リボーン先生がおいしいところひったくって行きましたがそういえば、彼、このシリーズ、初登場じゃ……。
まあ気にせずいきます!!
調子に乗ったらきっちりお正月もしたいと思います……。おもい、ます。

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