犬と僕の暮らし
昼過ぎ。人の少ない静かなカフェで、綱吉はある男と向き合っていた。膝の上に載せたナッツの首を撫でてやりながら、綱吉は男に疑問の視線を送る。
それに気づいて男は僅かに首を傾げた。薄い金の髪が、さらりと揺らぐ。
「何？」
「……何の指名ですか。わざわざ、オレ指名で」
この男に、仕事で呼び出される日がくるとは、綱吉にとって思ってもみないことだった。ボンゴレの力に頼らずとも男は十分に強いし、何より彼は借りを作るのを嫌う。
薄い青色の目が、綱吉を見返す。ほんのりと口元に笑みを浮かべて、男はぽつりと答えた。
「小鳥を一羽、捕まえてきてほしい」
「…………小鳥？」
「雲雀の小鳥。この間、会ったんだろう？」
謎かけか。
綱吉は弱い頭を悩ませた。男が何を言いたいか、全く見当がつかない。ふと思い出したのは、この間出会った子供が連れていた、小鳥だった。
「黄色くてこんもり丸い小鳥なら、覚えがあります」
「ああ、なら話が早いね」
「でもあの小鳥は、雲雀じゃないと思うんですけど……」
雲雀は茶色の鳥。それくらいは、綱吉だって知っている。あの黄色の小鳥が雲雀の雛、ということもないだろう。
うんうん唸って考える綱吉に、男は簡単に答えを放った。
「それを連れていた、方」
「………………へ？」
「雲雀恭弥っていう」
「にんげん？」
こくりと、男の首が縦に動く。どうやら男が言いたかった雲雀とは、この間、犬を預けたあの子供らしい。
それならそう言ってくださいよ、内心の言葉をミルク入りのコーヒーで流して押し込んで、綱吉は新たな疑問を抱く。
それなら、目標が誰かはっきりしているのなら。
「自分で会いに行けばいいじゃないですか」
男の言う『雲雀の子供』にいつか言われたことを、綱吉がそのまま男に提案してやると。男は綱吉を見返して、答えた。
「それじゃあ、つまらないだろう？」
どことなく冷気を帯びた、けれど楽しげな笑み。
「どうも面白い話も聞いたから、ちょっとつついてみようと思って。……君なら、まず間違いなく捕まえてこられるだろう？」
「そりゃあ、オレはデーチモですから」
簡単な仕事です。そう、自信を持って綱吉は答える。子供を一人連れてくるだけ、化け物たるデーチモには簡単すぎる任務だ。その返答に男は満足したらしかった。
「うん。何か変わったことがあったら報告して、指示するから」
「わかりました。……でも、本当にいいんですか？」
「何が？」
「代金、掛かりますよ」
正式な依頼ならば、それなりに費用が掛かる。綱吉だって多少は生活がかかっているのだ。
「僕がそんなケチに見えるかい？」
「……じゃあ、追加しても怒りません？」
ちら、と横目でメニューをみて、綱吉はねだる。互いのコーヒーカップはとうに空になっているが、どうも綱吉の狙いは飲み物ではないようだ。そう察して、男は聞いた。
「いいけど、何が食べたいの」
「チョコパフェ……」
もじもじ、と告げられたメニューに、男は僅かな苦笑を浮かべる。恥ずかしさからか、綱吉は頬を赤く染めて俯いた。
「君はあれに似て、甘党だね」
その影響が強いのだろう。男は綱吉と『あれ』と指した人間の関係を思い出して、そう結論を出した。片手で店員を呼び、恥ずかしげもなく男はチョコパフェを注文する。
店員が去った後、思い出して男は綱吉に問いかけた。
「パンケーキもあるけど？ 君、好物なんだろう」
そう、男は『あれ』に聞いたことがある。そう言えば、綱吉はまだ赤らんだ頬のまま、ぼそぼそ答えた。
「……いつものお店のが一番美味しいもん」
「それは店主に言ってやりな、地味に喜ぶから」
君のどこが化け物だろうね。ほわりとゆるんだ表情で膝の子ライオンを撫でる綱吉に、男は内心そんなことを思う。
けれどその中に宿る橙の熾烈さを、男はよく知っていた。
それに気づいて男は僅かに首を傾げた。薄い金の髪が、さらりと揺らぐ。
「何？」
「……何の指名ですか。わざわざ、オレ指名で」
この男に、仕事で呼び出される日がくるとは、綱吉にとって思ってもみないことだった。ボンゴレの力に頼らずとも男は十分に強いし、何より彼は借りを作るのを嫌う。
薄い青色の目が、綱吉を見返す。ほんのりと口元に笑みを浮かべて、男はぽつりと答えた。
「小鳥を一羽、捕まえてきてほしい」
「…………小鳥？」
「雲雀の小鳥。この間、会ったんだろう？」
謎かけか。
綱吉は弱い頭を悩ませた。男が何を言いたいか、全く見当がつかない。ふと思い出したのは、この間出会った子供が連れていた、小鳥だった。
「黄色くてこんもり丸い小鳥なら、覚えがあります」
「ああ、なら話が早いね」
「でもあの小鳥は、雲雀じゃないと思うんですけど……」
雲雀は茶色の鳥。それくらいは、綱吉だって知っている。あの黄色の小鳥が雲雀の雛、ということもないだろう。
うんうん唸って考える綱吉に、男は簡単に答えを放った。
「それを連れていた、方」
「………………へ？」
「雲雀恭弥っていう」
「にんげん？」
こくりと、男の首が縦に動く。どうやら男が言いたかった雲雀とは、この間、犬を預けたあの子供らしい。
それならそう言ってくださいよ、内心の言葉をミルク入りのコーヒーで流して押し込んで、綱吉は新たな疑問を抱く。
それなら、目標が誰かはっきりしているのなら。
「自分で会いに行けばいいじゃないですか」
男の言う『雲雀の子供』にいつか言われたことを、綱吉がそのまま男に提案してやると。男は綱吉を見返して、答えた。
「それじゃあ、つまらないだろう？」
どことなく冷気を帯びた、けれど楽しげな笑み。
「どうも面白い話も聞いたから、ちょっとつついてみようと思って。……君なら、まず間違いなく捕まえてこられるだろう？」
「そりゃあ、オレはデーチモですから」
簡単な仕事です。そう、自信を持って綱吉は答える。子供を一人連れてくるだけ、化け物たるデーチモには簡単すぎる任務だ。その返答に男は満足したらしかった。
「うん。何か変わったことがあったら報告して、指示するから」
「わかりました。……でも、本当にいいんですか？」
「何が？」
「代金、掛かりますよ」
正式な依頼ならば、それなりに費用が掛かる。綱吉だって多少は生活がかかっているのだ。
「僕がそんなケチに見えるかい？」
「……じゃあ、追加しても怒りません？」
ちら、と横目でメニューをみて、綱吉はねだる。互いのコーヒーカップはとうに空になっているが、どうも綱吉の狙いは飲み物ではないようだ。そう察して、男は聞いた。
「いいけど、何が食べたいの」
「チョコパフェ……」
もじもじ、と告げられたメニューに、男は僅かな苦笑を浮かべる。恥ずかしさからか、綱吉は頬を赤く染めて俯いた。
「君はあれに似て、甘党だね」
その影響が強いのだろう。男は綱吉と『あれ』と指した人間の関係を思い出して、そう結論を出した。片手で店員を呼び、恥ずかしげもなく男はチョコパフェを注文する。
店員が去った後、思い出して男は綱吉に問いかけた。
「パンケーキもあるけど？ 君、好物なんだろう」
そう、男は『あれ』に聞いたことがある。そう言えば、綱吉はまだ赤らんだ頬のまま、ぼそぼそ答えた。
「……いつものお店のが一番美味しいもん」
「それは店主に言ってやりな、地味に喜ぶから」
君のどこが化け物だろうね。ほわりとゆるんだ表情で膝の子ライオンを撫でる綱吉に、男は内心そんなことを思う。
けれどその中に宿る橙の熾烈さを、男はよく知っていた。
