犬と僕の暮らし
ぴんぽん。
いつも鳴らないインターホンが、珍しく鳴って。山本は首を傾げて玄関に向かった。
「……誰なのな?」
どこかの運送屋が荷物を運んできたのだろうか。それとも押し売りの業者か、何かか。少なくとも知った顔ではないだろう。
そう、予想して。けれどそれは綺麗に裏切られた。
「…………こんにちは」
気まずげな表情と、おどおどした声で来客の少年は山本に挨拶をし――反対に、山本は絶句した。どうしてここに。まさか幻か、と瞬きをしても少年はそこにいる。
眉を下げて、少年は――デーチモは山本を見上げ、こう言った。
「ごめん」
「へ?」
唐突な謝罪に、相変わらず山本の口からは言葉が出てこない。今日はいつもの子ライオンは居ないんだな、と全く見当違いの感想を抱きながら、彼は続く言葉を聞いた。
「ほかに、いい方法思いつかなくて。手紙送るって手もあったけど雲雀さんに見られたら困るし、第一ここの住所知らないし……」
デーチモは困り顔のままパーカーのポケットに手を入れ、一枚のカードを取り出して山本に突き出す。勢いに流されて、山本はそれを受け取ってしまった。
以前、雲雀が次郎を連れて帰ってきた時に持っていたカードと同じものだった。隅に橙の蝋で押された紋章も、同じ。
『満月の晩に、神社で』
読み上げて、山本はデーチモをまた見た。端的な言葉の意味を理解できるまでには、山本の頭は混乱から回復していない。それに気付いたらしいデーチモが、口を開く。
「満月……三日後。――あの神社で」
「何が、目的なのな?」
「……山本剛」
デーチモが呟いた名に、山本は自分の中でぞわりと血が沸く音を聞く。
「殺したのは、オレでしょう?」
そうだ。
確かに目の前の少年がその男を、山本の父親を殺したと、アラウディは言っていた。けれど、おかしいことがある。
「何で、あんたがそれを……」
デーチモがそれを確信して知っていることだった。以前山本が問いかけた時、彼は父の名すら知らなかった。けれど今は違う。それを問えばデーチモはうーん、と考え。やがて答えを寄越した。
「調べてもらったんだ。知り合いに、腕のいい便利屋さんがいるから。……あの人なら、きっとわかると思って」
「…………便利屋?」
「って言うと嫌がるけどね、あの人」
そのキーワードは、どこかで聞いたことがあった。思いだそうと努力する間もない。そんな会話をする相手は一人きりだ。
アラウディが、言っていた。
「…………アラウディさんにか」
「あれ、アラウディさんのお仕事知ってたんだ。知らないと思ってた」
「聞いた。……同じ依頼をした」
そう、山本が言えば。さすがにデーチモも驚いたようだった。絶句して山本を見上げ、琥珀色の眼を丸くしている。けれど、聞きたいのは、驚きたいのは山本の方だって同じだ。
「何でなのな」
「え?」
「何で、あんたが調べてもらってんだ」
言えば、デーチモは一度瞬きをして、変かな?とぼやいた。山本がそれに答えられずにいると、彼はまた口を開く。
「……オレは、覚えてないから。けど多分そうなんだろうなって思ったから」
誰を殺したのか、何人殺したのか、覚えてないんだ。呟くように言うデーチモの表情は読めない。何も思っていないような無表情、けれどそれは幼い子供のようだった。
迷子みたいだと、山本は思って。すぐにそう思った自分に疑問を抱く。
デーチモはそれ以上何も言いたくないのか、カードを指して言った。
「とにかく、三日後……待ってるから」
「そこで何すんのな?」
「化け物退治」
さらりとした答えは、けれど意味を正しくとれば爆弾だ。化け物は、目の前の少年。
「お前……何で…」
「お互いに、それが望みでしょう?」
互いに。その単語に、山本は思い出す。アラウディは、言っていた。自身を化け物と呼ぶデーチモこそが、誰よりも化け物を忌み嫌っていると。
――死にたいのか。
そう、問うことはできず。山本はようやく、何でもない言葉を吐く。
「なあ、あのちっちゃいイキモノは?」
「ナッツ?今日は置いてきたんだ。バレると困るから」
ようやく表情を崩し苦笑を見せたデーチモはもう、ただの少年にしか見えなかった。
****
山本がいつものカフェに足を向けたのは、何となく獄寺に話を聞いてほしいからだった。激情家の彼はあまり相談相手に適さないとは分かっているが、それでもこのもやもやする心を、打ち明けたかった。
しかし山本を迎えたマスターは、彼を見るなりこう言う。
「隼人ならいないぞ」
「あいつどうしたのな?」
首を傾げる山本。マスターはあー、と思い出す素振りをして、数秒後答えた。
「六道に呼び出されたみてえだから、仕事と思うぜ」
「…………そっか」
じゃあ、仕方ない。帰ろうかと思った山本に声が掛かる。
「そこの青年」
知らない声だった。見れば、カウンターに一人の男が座っていた。金髪にピンストライプのラインが入った黒のスーツ。視線を向ければ目立つのに、声が掛かる今まで山本は気づかなかった。
何者か。思案する山本へ、その男は手招きする。
「何か、悩みことがある顔をしているね。聞かせてもらえないかい」
「……っ、え、何でなのな⁉」
見抜かれたことに、山本は驚いて金髪の男を見る。すると、男のオレンジの瞳が細まって、見ればわかると答え、ふわりと彼は笑った。どこかで見たことがあるような、誰かによく似ているような。
不思議な人だと、思いながら。山本は男のすすめるまま隣に座ってしまう。
「G、彼にコーヒーを」
「……てめえの奢りだな。つか、知らねえ奴を誘うな、驚いてるだろ」
マスターとは親しいらしい。獄寺しか呼ぶのを聞いたことがない名を口にしてた男はそういえば、と山本を向いて、また口を開いた。
「そういえば、まだだったな。俺はジョットだ」
「あ、俺は山本武。……つか、何で分かったのな?」
「難しい顔をしていたよ」
くすくすと笑って、ジョットはフォークとナイフを取る。彼の前にはクリームとジャムのたっぷり乗ったパンケーキがあって。それをさくさくと切り分けながらジョットは言う。
「話す方がいいだろう、口に出せば意外と答えが見つかるものだ」
諭され。山本は、言葉を選んだ。初対面の人間に言えるようなことではない。けれど、聞いてほしい。
「…………あんたはさ、嫌いな奴っているか?」
まず問えば、ジョットはひとつ、頷いた。その勢いかかちん、と皿とナイフがぶつかる音を立てて、ジョットは小さく溜息を吐くと言葉を返す。
「いるとも、言えるだろうね。嫌わず生きていけるほど、俺はできた人間ではない」
「俺にもさ、そんな奴がいるんだ。あいつだ、って気がついたときからすっげー憎くて。けど…………けどさ」
「その者と何かあったのかい?」
「……なんかさ、俺そいつのこと、悪い奴だと思ってたわけ。けどさ、そうじゃないっぽいって最近気づいて…………分かんなくなったんだ。あいつのことは敵なのに、憎いのに、嫌いになりきれねえ」
目の前に出されたコーヒーを飲むわけでもなく、静まった濃茶の水面を見下ろしながら、山本は言った。ジョットは相槌を打ちながら、パンケーキを消費していく。
「人は、多面性があるからな。一面だけを知っても、裏返せば違うものが見えるだろう」
「……仇なんだ。ずっと、仇をとりたかった」
「そうか」
「俺、どうしたらいいのな……」
満月は目前に迫る。だから、山本は悩んでいた。
殺せばいい。敵討ちには絶好の機会と理解して、けれど山本はその行為を断言することがどうしても、できなかった。
手を赤に染めてしまえば、もうあの家に――雲雀のもとに、帰れない気がした。それも、一つの理由だろう。けれどそれだけではなかった。琥珀色の瞳を思い返して、彼を殺していいのかと、心の中で問いかけが響く。
眉間に皺を寄せる山本を見上げ、ジョットは微笑みかけた。オレンジ色があまく、優しく光る。
「答えは、もうお前の中にあるのだろう。――まだ、それが見えていないだけで」
「俺の中に……?」
「そうだ。だから、お前の望むままにありなさい」
「…………ああ」
まだ、答えは見えないけれど。背を押されたような気がして山本は頷いた。やはり、ジョットは笑顔だった。
話している間にコーヒーは冷めてしまったようだ。もう湯気の立たないそれを手にとって、山本はふと、言った。
「なあ、ジョットさん。聞いてもいいか?」
ふと、それを聞いてみたくなったのは。ジョットがあまりに、やさしいからだった。それに、彼は山本の知る限り初対面の人間で、自分と関わりがないからだった。
「何でも」
「あんた、化け物っていると思うか?」
刹那、ジョットは動きを止めて。それを山本が疑問に思う前に、彼はナイフとフォークを降ろして山本を見返した。
どうしてか、眉を下げて悲しげに、彼は答える。
「化け物など、どこにもいないよ」
陰ったオレンジ色は、何か、どこかで見た色によく似ていて。けれどその正体を山本が掴む前に、瞬きとともに消えた。一度目を閉じて開けば、ジョットの瞳は元の輝きを取り戻して、山本に柔らかく笑いかける。
「この世は御伽噺では、ない」
「…………変なこと聞いちまったな。気にしないでほしいのな」
「そうするさ」
再びフォークが動く。皿の上のパンケーキはもう粗方片づいてしまっていて。自分の心もそれくらい綺麗に片づいたらいいのに、と山本は溜息を冷めかけたコーヒーで飲み込んだ。
いつも鳴らないインターホンが、珍しく鳴って。山本は首を傾げて玄関に向かった。
「……誰なのな?」
どこかの運送屋が荷物を運んできたのだろうか。それとも押し売りの業者か、何かか。少なくとも知った顔ではないだろう。
そう、予想して。けれどそれは綺麗に裏切られた。
「…………こんにちは」
気まずげな表情と、おどおどした声で来客の少年は山本に挨拶をし――反対に、山本は絶句した。どうしてここに。まさか幻か、と瞬きをしても少年はそこにいる。
眉を下げて、少年は――デーチモは山本を見上げ、こう言った。
「ごめん」
「へ?」
唐突な謝罪に、相変わらず山本の口からは言葉が出てこない。今日はいつもの子ライオンは居ないんだな、と全く見当違いの感想を抱きながら、彼は続く言葉を聞いた。
「ほかに、いい方法思いつかなくて。手紙送るって手もあったけど雲雀さんに見られたら困るし、第一ここの住所知らないし……」
デーチモは困り顔のままパーカーのポケットに手を入れ、一枚のカードを取り出して山本に突き出す。勢いに流されて、山本はそれを受け取ってしまった。
以前、雲雀が次郎を連れて帰ってきた時に持っていたカードと同じものだった。隅に橙の蝋で押された紋章も、同じ。
『満月の晩に、神社で』
読み上げて、山本はデーチモをまた見た。端的な言葉の意味を理解できるまでには、山本の頭は混乱から回復していない。それに気付いたらしいデーチモが、口を開く。
「満月……三日後。――あの神社で」
「何が、目的なのな?」
「……山本剛」
デーチモが呟いた名に、山本は自分の中でぞわりと血が沸く音を聞く。
「殺したのは、オレでしょう?」
そうだ。
確かに目の前の少年がその男を、山本の父親を殺したと、アラウディは言っていた。けれど、おかしいことがある。
「何で、あんたがそれを……」
デーチモがそれを確信して知っていることだった。以前山本が問いかけた時、彼は父の名すら知らなかった。けれど今は違う。それを問えばデーチモはうーん、と考え。やがて答えを寄越した。
「調べてもらったんだ。知り合いに、腕のいい便利屋さんがいるから。……あの人なら、きっとわかると思って」
「…………便利屋?」
「って言うと嫌がるけどね、あの人」
そのキーワードは、どこかで聞いたことがあった。思いだそうと努力する間もない。そんな会話をする相手は一人きりだ。
アラウディが、言っていた。
「…………アラウディさんにか」
「あれ、アラウディさんのお仕事知ってたんだ。知らないと思ってた」
「聞いた。……同じ依頼をした」
そう、山本が言えば。さすがにデーチモも驚いたようだった。絶句して山本を見上げ、琥珀色の眼を丸くしている。けれど、聞きたいのは、驚きたいのは山本の方だって同じだ。
「何でなのな」
「え?」
「何で、あんたが調べてもらってんだ」
言えば、デーチモは一度瞬きをして、変かな?とぼやいた。山本がそれに答えられずにいると、彼はまた口を開く。
「……オレは、覚えてないから。けど多分そうなんだろうなって思ったから」
誰を殺したのか、何人殺したのか、覚えてないんだ。呟くように言うデーチモの表情は読めない。何も思っていないような無表情、けれどそれは幼い子供のようだった。
迷子みたいだと、山本は思って。すぐにそう思った自分に疑問を抱く。
デーチモはそれ以上何も言いたくないのか、カードを指して言った。
「とにかく、三日後……待ってるから」
「そこで何すんのな?」
「化け物退治」
さらりとした答えは、けれど意味を正しくとれば爆弾だ。化け物は、目の前の少年。
「お前……何で…」
「お互いに、それが望みでしょう?」
互いに。その単語に、山本は思い出す。アラウディは、言っていた。自身を化け物と呼ぶデーチモこそが、誰よりも化け物を忌み嫌っていると。
――死にたいのか。
そう、問うことはできず。山本はようやく、何でもない言葉を吐く。
「なあ、あのちっちゃいイキモノは?」
「ナッツ?今日は置いてきたんだ。バレると困るから」
ようやく表情を崩し苦笑を見せたデーチモはもう、ただの少年にしか見えなかった。
****
山本がいつものカフェに足を向けたのは、何となく獄寺に話を聞いてほしいからだった。激情家の彼はあまり相談相手に適さないとは分かっているが、それでもこのもやもやする心を、打ち明けたかった。
しかし山本を迎えたマスターは、彼を見るなりこう言う。
「隼人ならいないぞ」
「あいつどうしたのな?」
首を傾げる山本。マスターはあー、と思い出す素振りをして、数秒後答えた。
「六道に呼び出されたみてえだから、仕事と思うぜ」
「…………そっか」
じゃあ、仕方ない。帰ろうかと思った山本に声が掛かる。
「そこの青年」
知らない声だった。見れば、カウンターに一人の男が座っていた。金髪にピンストライプのラインが入った黒のスーツ。視線を向ければ目立つのに、声が掛かる今まで山本は気づかなかった。
何者か。思案する山本へ、その男は手招きする。
「何か、悩みことがある顔をしているね。聞かせてもらえないかい」
「……っ、え、何でなのな⁉」
見抜かれたことに、山本は驚いて金髪の男を見る。すると、男のオレンジの瞳が細まって、見ればわかると答え、ふわりと彼は笑った。どこかで見たことがあるような、誰かによく似ているような。
不思議な人だと、思いながら。山本は男のすすめるまま隣に座ってしまう。
「G、彼にコーヒーを」
「……てめえの奢りだな。つか、知らねえ奴を誘うな、驚いてるだろ」
マスターとは親しいらしい。獄寺しか呼ぶのを聞いたことがない名を口にしてた男はそういえば、と山本を向いて、また口を開いた。
「そういえば、まだだったな。俺はジョットだ」
「あ、俺は山本武。……つか、何で分かったのな?」
「難しい顔をしていたよ」
くすくすと笑って、ジョットはフォークとナイフを取る。彼の前にはクリームとジャムのたっぷり乗ったパンケーキがあって。それをさくさくと切り分けながらジョットは言う。
「話す方がいいだろう、口に出せば意外と答えが見つかるものだ」
諭され。山本は、言葉を選んだ。初対面の人間に言えるようなことではない。けれど、聞いてほしい。
「…………あんたはさ、嫌いな奴っているか?」
まず問えば、ジョットはひとつ、頷いた。その勢いかかちん、と皿とナイフがぶつかる音を立てて、ジョットは小さく溜息を吐くと言葉を返す。
「いるとも、言えるだろうね。嫌わず生きていけるほど、俺はできた人間ではない」
「俺にもさ、そんな奴がいるんだ。あいつだ、って気がついたときからすっげー憎くて。けど…………けどさ」
「その者と何かあったのかい?」
「……なんかさ、俺そいつのこと、悪い奴だと思ってたわけ。けどさ、そうじゃないっぽいって最近気づいて…………分かんなくなったんだ。あいつのことは敵なのに、憎いのに、嫌いになりきれねえ」
目の前に出されたコーヒーを飲むわけでもなく、静まった濃茶の水面を見下ろしながら、山本は言った。ジョットは相槌を打ちながら、パンケーキを消費していく。
「人は、多面性があるからな。一面だけを知っても、裏返せば違うものが見えるだろう」
「……仇なんだ。ずっと、仇をとりたかった」
「そうか」
「俺、どうしたらいいのな……」
満月は目前に迫る。だから、山本は悩んでいた。
殺せばいい。敵討ちには絶好の機会と理解して、けれど山本はその行為を断言することがどうしても、できなかった。
手を赤に染めてしまえば、もうあの家に――雲雀のもとに、帰れない気がした。それも、一つの理由だろう。けれどそれだけではなかった。琥珀色の瞳を思い返して、彼を殺していいのかと、心の中で問いかけが響く。
眉間に皺を寄せる山本を見上げ、ジョットは微笑みかけた。オレンジ色があまく、優しく光る。
「答えは、もうお前の中にあるのだろう。――まだ、それが見えていないだけで」
「俺の中に……?」
「そうだ。だから、お前の望むままにありなさい」
「…………ああ」
まだ、答えは見えないけれど。背を押されたような気がして山本は頷いた。やはり、ジョットは笑顔だった。
話している間にコーヒーは冷めてしまったようだ。もう湯気の立たないそれを手にとって、山本はふと、言った。
「なあ、ジョットさん。聞いてもいいか?」
ふと、それを聞いてみたくなったのは。ジョットがあまりに、やさしいからだった。それに、彼は山本の知る限り初対面の人間で、自分と関わりがないからだった。
「何でも」
「あんた、化け物っていると思うか?」
刹那、ジョットは動きを止めて。それを山本が疑問に思う前に、彼はナイフとフォークを降ろして山本を見返した。
どうしてか、眉を下げて悲しげに、彼は答える。
「化け物など、どこにもいないよ」
陰ったオレンジ色は、何か、どこかで見た色によく似ていて。けれどその正体を山本が掴む前に、瞬きとともに消えた。一度目を閉じて開けば、ジョットの瞳は元の輝きを取り戻して、山本に柔らかく笑いかける。
「この世は御伽噺では、ない」
「…………変なこと聞いちまったな。気にしないでほしいのな」
「そうするさ」
再びフォークが動く。皿の上のパンケーキはもう粗方片づいてしまっていて。自分の心もそれくらい綺麗に片づいたらいいのに、と山本は溜息を冷めかけたコーヒーで飲み込んだ。