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犬と僕の暮らし

 手紙を書くのは、好きではなかった。
 字を書くのも得意ではないし、大体綱吉にはまともな友と呼べる存在はいない。――アルコバレーノには遊び相手と思われているが、綱吉視点からは厄介極まりない存在だ――それに親しい存在はボンゴレの身内ばかりで、顔を突き合わせるほうが容易い。付箋にメモを残すのはマメな人達だけ。
 それにこのカードについてはボンゴレのデーチモ名義で書くもので、基本的に良い話題ではない。
けれど。けれど今日の今から書くこの一言については、どちらかと言えば綱吉には僥倖になるかもしれないものだった。
「ええと……刀なら明るい方がやりやすいから、満月……満月って何日後だっけ?」
 傍らの携帯電話で月の満ち欠けを調べて、綱吉はペンを取り出す。震えもせず滑り出したペン先はさらさらと軽く短い文章を書き上げた。
 ちょろりと灯した炎で橙の蝋を落とし蝋印を押し当てる。
「これでよし、と」
 気分は落ち着いている。アラウディの寄こした回答は、綱吉の予想通りで――予想通り過ぎて悲しく思ったこともあったが、今はもう、その悲しみにも慣れた。
 結局のところ自分は昔から『化け物』だったのだ。あの日、ジョットに助けられた日からも、ずっと。今も。
「……そんなこと、ジョットに言ったら怒られちゃうけどな」
 ジョットはそんなネガティブな綱吉の感情を、常に否定し続けた。出会ったあの日から、ずっと。
 綱吉は今も鮮明に覚えている。暗い冷たいばかりだった世界に鮮やかな金とオレンジ色の光が舞い降りた日を。
 黒い外套、ピンストライプのスーツ。埃の積もる室内で服が汚れることも気にせず、汚れ切った綱吉――その頃はそういう名は無かった――を抱き上げて『もう大丈夫だ』と言ってくれたひと。
 思い出しているうちにインクと印章が乾いたのを確認して、綱吉はそのカードをパーカーのポケットにしまった。そうして、ベッドに寝転がっているナッツに声を掛ける。
「ナッツ、お留守番してて。ちょっと買い出しに行ってくるから」
「がう?」
 連れてってもらえないの、という視線に苦笑いでごめん、と謝罪して綱吉は部屋を出た。
 目指す場所に行くのは、結局三度目だった。

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