このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ぐんじんかぞく。


綱吉の『おにーちゃん』の認識は間違っていると、ラルは思う。自身も周りの仲のよい友達も一人っ子で、身近にいないのだから仕方ないとは思う反面、やはりどこかおかしいような気もする。
そもそも『おにーちゃん』の存在を綱吉が初めて認識したのは、たまたま一家のもとにやってきたコロネロの部下・笹川了平とその妹の京子が、綱吉の遊び相手をしていたときだった。
「ねえねえ、おにーちゃんってなあに?」
京子がそう呼ぶのを不思議がったのだろう。綱吉は子供らしいまっすぐな疑問を投げた。
「えっと、私とお兄ちゃんは同じお母さんから産まれたんだよ。お兄ちゃんの方がひとつ年が上なの」
「オレには?」
「お前に兄弟はいないだろう」
ラルに突っ込まれた綱吉はうーん、と唸って、不満そうに口を尖らせる。主張はこうだ。
「オレもおにいちゃんほしい!」
「じゃあ今日からお前も極限俺の弟だ! お兄ちゃんと呼べ‼」
即答を返した了平に、綱吉は満面の笑みを浮かべて抱きつく。
「りょうへいおにーちゃん‼」
そうした一件を経て、綱吉には妙な認識が生まれたらしい。
曰く、『了平おにーちゃんくらいの年齢の、仲良しの人は大体おにーちゃん』だと。
しばらく経ってその事実に気づいた両親は、うちの子の脳味噌の軽さに頭を抱えた。
「どこがどうしてそうなったんだコラ……」
「わからん……」
振ったらカラカラ音がするんじゃないか。呆れ果てる両親をよそに、綱吉は周囲の幾人かの人間をおにーちゃんと呼び――しかも、それを相手も了承してしまったから収拾がつかなくなる。
ヴァリアーの血塗れ王子、門外顧問の温厚な少年。そして発端のコロネロの部下。その誰もが綱吉を彼らなりにかわいがり、綱吉だって懐いている。
しかし何事にも例外は付き物で。
一人、その年齢幅に該当しないおにーちゃんがいた。

 
イタリアの地、ボンゴレ屋敷の中庭で綱吉はそのおにーちゃんを見つけ、大喜びで駆け寄った。
「ディーノおにーちゃ‼」
「おおツナ‼こっち来てたのか?ちょっとでかくなったな!」
綱吉を軽々と抱き上げた金髪の青年は、キャバッローネの若きボス。ボンゴレとも親しいファミリー、そして家光と縁のある彼は本当に赤子の頃から綱吉を知って、猫かわいがりをしている。
もちろん綱吉も懐いている。会う度にぎゅうぎゅうとひっついて遊んでもらったり、お菓子で餌付けをされている。
ディーノは了平やバジル、ベルよりも年齢は上。しかも彼と同い年のスクアーロの事は呼び捨てなのに、と首を傾げる両親に回答をもたらしたのは、昔ディーノのカテキョーを勤めたこともあるリボーンだった。
「あいつ、ツナのこと自分の弟分だと思ってるからな」
ボンゴレの血族に属する子供を、自分と似た境遇だと思ったのか、リボーンに絡まれ絡んで遊んでいる姿に何か思っていたのか、理由はリボーンにもはっきりとは分からない。
しかし彼が綱吉を弟のように可愛がっているのは、目に明らかだった。
そしてその感情を、もしディーノが綱吉の前で言ったのなら。綱吉がディーノを兄と呼び慕うのも、当然かもしれない。
「おにーちゃん、かたぐるまー‼」
「いいぜ!」
「わーい‼」
そうして、ディーノと綱吉の関わりを観察して、ラルにはそれでも疑問が残った。
「だが、あいつたまにディーノ相手に照れるぞ?」
どうしてか。綱吉はディーノの前で、頬を赤くしているときがある。ふにゃりと笑って、顔を朱に染めて、照れ隠しなのかディーノの足に抱きついて。
「……憧れなんじゃねーのかコラ?」
ラルの隣で同じく二人を見守るコロネロが、言葉を返す。
きらきらとして、部下のいる前ではしゃっきりとボス業を勤めるディーノのことを、どこかであこがれているのかもしれないと。
「…………そうか」
仲良く遊ぶ綱吉とディーノを見ながら、ラルは呟いた。
「あいつ、マフィアには向いていないと思うがな……」
そういう問題じゃねえぞコラ。心配性の母親に、思わずコロネロは苦笑した。
25/25ページ
スキ