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ぐんじんかぞく。


今日のお迎えは、お隣さんだった。ランドセルを背負った骸に手を引かれ、綱吉はてくてくと、ゆっくりとしたスピードで歩く。
「綱吉君、今日は綱吉君のお母さんとお父さんの帰りが遅いそうです」
「そうなの?」
見上げて問えば、骸は優しく頷いた。いつもと違う、けれど綱吉も知っている角を曲がって、彼は言う。
「なので、今から病院に行きましょう。ああ、お母さんから了解は得ていますよ。……そうだ。おやつに林檎を買っていきましょう。あの子が食べたがっていると、ランチアが言っていました」
「うん、びょういんいく! オレも、りんごたべたい‼」
ぴょんと跳んだ綱吉に笑みを返して、骸はまた頷く。繋いでいない片手でふわふわの茶髪を撫でて、彼は目を細めた。
「じゃあまずスーパーに行って、バスに乗りましょうね」
「はあい‼」
うきうきと足取りが弾む綱吉は骸に、元気に返事をした。


千花保育園のある辺りから、黒曜町にある総合病院まではバスで十数分掛かる。黒曜小学校から、まだ先。骸も行くにはいつもバスを使うし、綱吉がいるのなら尚更だった。
小さめのエコバックを抱えた綱吉が骸の隣をてこてこ歩く。持つと言って聞かなかったのは、最近お手伝いに目覚めたからだろうか。考えながら、骸は綱吉に声をかける。
「重くはないですか、綱吉君」
「だいじょーぶー!」
林檎と、軽いお菓子しか入っていないのだ。そう重さはないのだろう。それに綱吉はどこか誇らしげで、逆に可愛らしくもある。
「じゃあ、行きましょうね」
エレベーターのドアが開く。それが閉まらないようにボタンを押しながら、骸は綱吉の背を押した。


病室に入ると、ベッドの上に身体を起こしている少女がぱっと二人を見て、淡く微笑んだ。そう調子が悪い様子でもなく、骸もすこし安堵して、声を掛ける。
「おやつを持って来ましたよ、凪」
「なぎちゃん! こんにちわ!」
「むくろさま……つなよしくんも」
白い眼帯に覆われていない片目をにこりと細くして、少女――六道凪は二人を呼んだ。ベッドに駆け寄った綱吉は、ぴょんぴょんと跳ねながらエコバッグを持ち上げる。
「きょうのおやつはりんごなの!」
「そうなの?」
「ランチアから聞きましたよ。せっかくですから、うさぎに剥きましょうね」
ベッドサイドの引き出しから果物ナイフと小さなまな板を取り出して、骸は凪に笑い掛ける。そんな彼女の傍らに麦チョコの袋があるのを見て、骸は聞いた。
「おや、それはどうしましたか?」
「けんとちくさがきたの。おみまいだって」
彼等らしい土産だと、骸は思った。凪の好みを知って、わざわざ買ってきてくれたのだろう。綱吉はその袋を持ち上げて、いいなあと言った。
「けんちゃんとちくさもきたの?いいなー」
「よかったですね」
「うん」
本当は、寂しいのだろう。だから凪はこういう些細なことを喜んで、愛らしい表情で笑う。
「じゃあ、僕は林檎を剥いてきましょう。少し待っていてくださいね」
そうして骸は部屋を出て、戻ってきたときには皿の上に林檎のうさぎが並んでいた。
赤い耳をぴんとのばして、整列している。
「すごーい‼」
「……‼」
歓声を上げる綱吉と、無言で目を輝かせる凪と。それぞれの反応に骸は満足そうに笑って、二人にそれを差し出した。
「さあ、おやつにしましょう」

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