ぐんじんかぞく。
「むくろ、おさんぽいこ!」
保育園からおとなりさんのところまで帰ってきたばかりだというのに、綱吉は元気にそんな事を言った。ランドセルを下ろしたばかりの骸は苦笑して、綱吉の鞄をソファーの上に置いて、答える。
「おやつを食べたら、ですよ。ランチアがカップケーキを焼いてくれたようです」
キッチンテーブルの上に置かれた焼き菓子と簡単な置き手紙は、もういつもの事。この家の保護者役は、すっかり主夫じみてしまった。家の大人はランチア一人、仕方ないと言えば仕方ないが、骸はたまにくすぐったい違和感に苛まれてしまう。自分達は、こんな関係ではなかったのに。こんな場所で、生きてはいなかったのに。
「おやつたべる‼」
何も知らない綱吉は、甘いものの誘惑に目を輝かせて飛び跳ねた。ふる、頭を振って骸は考えを切り替える。そんな事、今は考えなくていい。
「じゃあミルクも温めましょうね」
綱吉は、骸へこくんとうなずいて、わくわくした様子でカップケーキを見上げている。今日は本当に元気だ。
おやつの後。よく遊びに行く公園まで、手を繋いで歩く。道すがら、綱吉は骸に今日保育園であった事を色々と話した。はやととたけしとボール投げして遊んだ。スパナが何か作ってた。しょーちゃん先生とおとなりのガンマ先生が内緒話してた。何でもない一日でも、綱吉にとってはイベントが盛りだくさんだったようだ。
「楽しかったですか?」
「うん!」
「それは、よかったですね」
微笑んで言えば、綱吉は満面の笑顔を返して骸に何度も頷きかける。そんな小さな頭が、ふと空を見上げた。
「むくろ、とりさんがいる!」
ぱたた、と羽音。綱吉は青の中を飛ぶ一羽の鳥に歓声を上げた。黄色いまんまるの小鳥が、のんびりと飛んでいる。
「そうですね……ってあの鳥…」
骸はそれに見覚えがあった。しかも、悪い記憶として。
けれど綱吉は好奇心が騒いだのか、骸の手を引いて小鳥を追おうとする。
「とりさんいっちゃう!」
「……はぐれないように、ちゃんと手を繋いでいるのですよ」
仕方ない。自分の感情よりも可愛いちいさなおとなりさんの興味を優先した骸は、綱吉の手をぎゅうと握って言う。そうして二人は、気まぐれに飛ぶ小鳥を追いかけた。
たどり着いたのはいつもとは違う公園だった。ゆっくりと高度を下げた小鳥は、一人の少年の指先に留まる。骸は内心やっぱり、と舌打ちして彼を見ていた。
傍らの綱吉はかくりと首を傾げて、少年を見た。黒髪
に、骸も持っている黒いランドセル。綱吉の知らないこのひとが、小鳥の飼い主なのか。
「オイカケッコ!」
一声鳴いて喋った小鳥に頷いて、少年は二人を見やる。その瞳も、黒だった。
「やあ六道。追いかけっことは君も変な趣味だね」
「僕ではありませんよ」
どうでもいいと生返事を返して少年は視線を骸から綱吉に移し――ふと、零した。
「……君のところ、増えたの?」
分かりづらい問いかけ。知られているのか。邪推をしながらも、骸は少年の問いにきちんと否定してみせた。
「おとなりさんです。ね、綱吉君?」
「うん! さわだつなよしです!」
入江先生仕込みの挨拶をして、綱吉はにこにことしている。少年の視線は鋭いが、怯えもないらしい。
(アレに囲まれてたらそうなるのも仕方ありませんか)
骸はおとなりさんによく出入りする怪しい大人連中を思い、そして彼が泣かなくてよかったと一安心した。
綱吉の視線に答えて、少年も名乗る。
「僕は雲雀恭弥」
「ひばり?……そのとりさんが?」
「僕の、だよ。ああ、鳥の雲雀と思ったのかい?」
「うん。じーさまにもらったずかんでみたの」
字はまだ読めないが、コロネロに読み聞かせてもらっていた。そして、祖父役の九代目ボンゴレから大きな図鑑は、綱吉のお気に入りの一冊だったりする。
「じゃあ、おにーちゃんが、ひばりさん?」
そう、と少年――雲雀は、綱吉に答える。と不意に空を見上げた。小さく綱吉の名を繰り返していたが、すぐにまた目を戻して綱吉に聞いた。
「君、ちはな保育園の子か」
「うん!しょーちゃんせんせーのクラスなの」
「……何で分かったんですか」
「僕の並盛の事なら分かるよ」
骸は微妙な表情で雲雀を見る。半分は納得、もう半分はちょっとげんなりと末恐ろしいという感情だ。
「相変わらずですね、君って」
「君こそ。わざわざあんな所まで通って」
「凪の事もありますから。その方が、便利なんです」
「ひばりさん、なんでもしってるね」
きらきらとした綱吉の賞賛の視線に、雲雀は当然だよと答えた。――並盛の事ならね。それが、雲雀恭弥という少年なのだった。
保育園からおとなりさんのところまで帰ってきたばかりだというのに、綱吉は元気にそんな事を言った。ランドセルを下ろしたばかりの骸は苦笑して、綱吉の鞄をソファーの上に置いて、答える。
「おやつを食べたら、ですよ。ランチアがカップケーキを焼いてくれたようです」
キッチンテーブルの上に置かれた焼き菓子と簡単な置き手紙は、もういつもの事。この家の保護者役は、すっかり主夫じみてしまった。家の大人はランチア一人、仕方ないと言えば仕方ないが、骸はたまにくすぐったい違和感に苛まれてしまう。自分達は、こんな関係ではなかったのに。こんな場所で、生きてはいなかったのに。
「おやつたべる‼」
何も知らない綱吉は、甘いものの誘惑に目を輝かせて飛び跳ねた。ふる、頭を振って骸は考えを切り替える。そんな事、今は考えなくていい。
「じゃあミルクも温めましょうね」
綱吉は、骸へこくんとうなずいて、わくわくした様子でカップケーキを見上げている。今日は本当に元気だ。
おやつの後。よく遊びに行く公園まで、手を繋いで歩く。道すがら、綱吉は骸に今日保育園であった事を色々と話した。はやととたけしとボール投げして遊んだ。スパナが何か作ってた。しょーちゃん先生とおとなりのガンマ先生が内緒話してた。何でもない一日でも、綱吉にとってはイベントが盛りだくさんだったようだ。
「楽しかったですか?」
「うん!」
「それは、よかったですね」
微笑んで言えば、綱吉は満面の笑顔を返して骸に何度も頷きかける。そんな小さな頭が、ふと空を見上げた。
「むくろ、とりさんがいる!」
ぱたた、と羽音。綱吉は青の中を飛ぶ一羽の鳥に歓声を上げた。黄色いまんまるの小鳥が、のんびりと飛んでいる。
「そうですね……ってあの鳥…」
骸はそれに見覚えがあった。しかも、悪い記憶として。
けれど綱吉は好奇心が騒いだのか、骸の手を引いて小鳥を追おうとする。
「とりさんいっちゃう!」
「……はぐれないように、ちゃんと手を繋いでいるのですよ」
仕方ない。自分の感情よりも可愛いちいさなおとなりさんの興味を優先した骸は、綱吉の手をぎゅうと握って言う。そうして二人は、気まぐれに飛ぶ小鳥を追いかけた。
たどり着いたのはいつもとは違う公園だった。ゆっくりと高度を下げた小鳥は、一人の少年の指先に留まる。骸は内心やっぱり、と舌打ちして彼を見ていた。
傍らの綱吉はかくりと首を傾げて、少年を見た。黒髪
に、骸も持っている黒いランドセル。綱吉の知らないこのひとが、小鳥の飼い主なのか。
「オイカケッコ!」
一声鳴いて喋った小鳥に頷いて、少年は二人を見やる。その瞳も、黒だった。
「やあ六道。追いかけっことは君も変な趣味だね」
「僕ではありませんよ」
どうでもいいと生返事を返して少年は視線を骸から綱吉に移し――ふと、零した。
「……君のところ、増えたの?」
分かりづらい問いかけ。知られているのか。邪推をしながらも、骸は少年の問いにきちんと否定してみせた。
「おとなりさんです。ね、綱吉君?」
「うん! さわだつなよしです!」
入江先生仕込みの挨拶をして、綱吉はにこにことしている。少年の視線は鋭いが、怯えもないらしい。
(アレに囲まれてたらそうなるのも仕方ありませんか)
骸はおとなりさんによく出入りする怪しい大人連中を思い、そして彼が泣かなくてよかったと一安心した。
綱吉の視線に答えて、少年も名乗る。
「僕は雲雀恭弥」
「ひばり?……そのとりさんが?」
「僕の、だよ。ああ、鳥の雲雀と思ったのかい?」
「うん。じーさまにもらったずかんでみたの」
字はまだ読めないが、コロネロに読み聞かせてもらっていた。そして、祖父役の九代目ボンゴレから大きな図鑑は、綱吉のお気に入りの一冊だったりする。
「じゃあ、おにーちゃんが、ひばりさん?」
そう、と少年――雲雀は、綱吉に答える。と不意に空を見上げた。小さく綱吉の名を繰り返していたが、すぐにまた目を戻して綱吉に聞いた。
「君、ちはな保育園の子か」
「うん!しょーちゃんせんせーのクラスなの」
「……何で分かったんですか」
「僕の並盛の事なら分かるよ」
骸は微妙な表情で雲雀を見る。半分は納得、もう半分はちょっとげんなりと末恐ろしいという感情だ。
「相変わらずですね、君って」
「君こそ。わざわざあんな所まで通って」
「凪の事もありますから。その方が、便利なんです」
「ひばりさん、なんでもしってるね」
きらきらとした綱吉の賞賛の視線に、雲雀は当然だよと答えた。――並盛の事ならね。それが、雲雀恭弥という少年なのだった。