A domani,Il cielo segreto.
研究は、夜に至ることもある。そんな時間部屋をノックする音に、雲雀は視線を向けて短くどうぞ、と答えた。入ってきた人間が誰か分かっていたのか、彼はペンを止めて来客を――隣の研究室の主、六道骸を見る。
「珍しいね、こんな時間に」
「お尋ねしたいことがありまして。できれば、内密に」
そう答えた骸は、片手に持っていた資料を雲雀のデスクに広げた。カルテと、経歴書、それと幾つかのデータ。それはどれも沢田ツナの物だ。
「ツナさんを、あなたはどう思いますか?」
率直な問い。その奥の真意を汲み取って――雲雀は漆黒で骸を見上げると答えた。
「妙な子だね。どうも、掴めない」
「……貴方もですか?」
骸も雲雀の含みを理解して問いを返す。頷いた雲雀は書類棚から一冊のからファイルを取り出すとそれを骸に渡し、自分は広げられた資料を手に取った。
「同じことを思って、調べたよ」
骸がファイルをぱらぱらとめくる音を聞きながら雲雀は言葉を続ける。普段より潜められた声は、それでも静かすぎる部屋に反響する。
同じか。雲雀は資料を斜め読みしただけで事情を理解した。
「奇妙だ。彼女の経歴、今回のマザーの為に作られたものと僕が調べたもので、わずかに異なっている」
「……僕の調べたものもそうです。分かりやすいのはここですね、ボンゴレ側から提出された経歴と異なり、彼女は生粋のイタリア育ちではない」
「日本育ち、だね」
雲雀と骸、二人の研究者は似た違和感からそれぞれの調査へ、そして同じ答えと疑問へとたどり着く。
それはマザーとしてボンゴレから提出されたツナの資料と、現実との誤差。そして――
「それにあの子は、変に顔が広いね」
ツナ自身の、人間関係。
「笹川了平があの子を知っていたんだ。諜報部と奴の関係は無い。一体どこで知り合ったんだか」
笹川了平はその性格から、資料情報より自身の見聞を好み信用する。そのため彼が諜報部と関わりがあるとは雲雀には考えられなかった。骸は納得した様子で頷き、自身の違和感を話した。
「……ザンザスとも知り合いのようで。しかもなかなかに親しい」
「…………何それ」
研究室に来たんですよ、骸は肩をすくめ苦笑して雲雀に答える。
「まあ、スクアーロと知人でしたし。それに一度クロームを九代目の執務室まで案内したことがあります。……果たして一介の諜報部が、ヴァリアーやドン・ボンゴレといったボンゴレの中心部に関わるものでしょうか」
「通常、あり得ない」
「ですね。では……何か隠されているとしたら?彼女の経歴を改竄しなくてはいけない、理由があれば?」
「あの子がヴァリアーの一員だったとか、かい?」
「まさか。一般人にしか見えませんよ」
首を横に振って骸は答える。雲雀も、そこに同意した。
ああいう裏側に生きているものは、表側の人間と何かが違う。立ち居振る舞い、ちょっとした動作。しかし雲雀も骸も、ツナからそういった様子を感じることはなかった。
「僕もそう思うけどね。その辺りしか理由が見いだせない」
悩む雲雀に、骸がはふと思い出す。あの日、珍しくも研究室にやってきたヴァリアー首領が骸に刺した、言葉の釘。
「ザンザスが言っていました。巻き込まれたくなかったら、ツナさんには深入りするなと」
「何かあるって教えてどうするんだろうね、あの御曹司は」
「罠か、警告か。どちらにしろ同じですね」
――僕達は研究者ですから。
二人は笑う。謎があるのならば、解き明かしたい。それが研究者の性だ。
「進展したら教えるよ」
「こちらも、そうしましょう。それではまた」
骸が去った部屋で、雲雀は資料をファイルに仕舞いながら一つの予感を覚えていた。
この疑問は――その先にある闇は、そうとう深いのだろう。
*****
研究者、暗躍する。
この二人が裏でこそこそやっていると考えるとなかなか恐ろしい気がします。
「珍しいね、こんな時間に」
「お尋ねしたいことがありまして。できれば、内密に」
そう答えた骸は、片手に持っていた資料を雲雀のデスクに広げた。カルテと、経歴書、それと幾つかのデータ。それはどれも沢田ツナの物だ。
「ツナさんを、あなたはどう思いますか?」
率直な問い。その奥の真意を汲み取って――雲雀は漆黒で骸を見上げると答えた。
「妙な子だね。どうも、掴めない」
「……貴方もですか?」
骸も雲雀の含みを理解して問いを返す。頷いた雲雀は書類棚から一冊のからファイルを取り出すとそれを骸に渡し、自分は広げられた資料を手に取った。
「同じことを思って、調べたよ」
骸がファイルをぱらぱらとめくる音を聞きながら雲雀は言葉を続ける。普段より潜められた声は、それでも静かすぎる部屋に反響する。
同じか。雲雀は資料を斜め読みしただけで事情を理解した。
「奇妙だ。彼女の経歴、今回のマザーの為に作られたものと僕が調べたもので、わずかに異なっている」
「……僕の調べたものもそうです。分かりやすいのはここですね、ボンゴレ側から提出された経歴と異なり、彼女は生粋のイタリア育ちではない」
「日本育ち、だね」
雲雀と骸、二人の研究者は似た違和感からそれぞれの調査へ、そして同じ答えと疑問へとたどり着く。
それはマザーとしてボンゴレから提出されたツナの資料と、現実との誤差。そして――
「それにあの子は、変に顔が広いね」
ツナ自身の、人間関係。
「笹川了平があの子を知っていたんだ。諜報部と奴の関係は無い。一体どこで知り合ったんだか」
笹川了平はその性格から、資料情報より自身の見聞を好み信用する。そのため彼が諜報部と関わりがあるとは雲雀には考えられなかった。骸は納得した様子で頷き、自身の違和感を話した。
「……ザンザスとも知り合いのようで。しかもなかなかに親しい」
「…………何それ」
研究室に来たんですよ、骸は肩をすくめ苦笑して雲雀に答える。
「まあ、スクアーロと知人でしたし。それに一度クロームを九代目の執務室まで案内したことがあります。……果たして一介の諜報部が、ヴァリアーやドン・ボンゴレといったボンゴレの中心部に関わるものでしょうか」
「通常、あり得ない」
「ですね。では……何か隠されているとしたら?彼女の経歴を改竄しなくてはいけない、理由があれば?」
「あの子がヴァリアーの一員だったとか、かい?」
「まさか。一般人にしか見えませんよ」
首を横に振って骸は答える。雲雀も、そこに同意した。
ああいう裏側に生きているものは、表側の人間と何かが違う。立ち居振る舞い、ちょっとした動作。しかし雲雀も骸も、ツナからそういった様子を感じることはなかった。
「僕もそう思うけどね。その辺りしか理由が見いだせない」
悩む雲雀に、骸がはふと思い出す。あの日、珍しくも研究室にやってきたヴァリアー首領が骸に刺した、言葉の釘。
「ザンザスが言っていました。巻き込まれたくなかったら、ツナさんには深入りするなと」
「何かあるって教えてどうするんだろうね、あの御曹司は」
「罠か、警告か。どちらにしろ同じですね」
――僕達は研究者ですから。
二人は笑う。謎があるのならば、解き明かしたい。それが研究者の性だ。
「進展したら教えるよ」
「こちらも、そうしましょう。それではまた」
骸が去った部屋で、雲雀は資料をファイルに仕舞いながら一つの予感を覚えていた。
この疑問は――その先にある闇は、そうとう深いのだろう。
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研究者、暗躍する。
この二人が裏でこそこそやっていると考えるとなかなか恐ろしい気がします。
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