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A domani,Il cielo segreto.

朝一番にツナの元へやってきたリボーンは、あわてて用意された朝食のトーストを頬張っている。向かいのテーブルで目玉焼きをつつきながら、ツナは聞いた。

「どうしたんだ、急に」
「オレも今日は研究室に行くぞ。だから、折角だしお前のとこに来たんだ」

リボーンがわざわざ研究室まで出向く用件は少ない。予定はなかったよな、とカレンダーのメモを思い出しながらツナはまた問う。

「……検査とか?」

勿論、リボーンは首を横に振って、否定する。

「違うぞ。風が――赤のアルコバレーノが来るらしい」
「……ふぉん?」

ツナの知らない名前だった。骸達がその名を口にした覚えもない。ということは、急な来客になるだろう。

「骸先生達、昨日は何もいってなかったけど……」
「あいつは気紛れだからな。検査もまだだろうし何でわざわざ……」

ぶくぶつとボヤいてみせるリボーンはけれど、どこか楽しそうだった。




噂を聞きつけて研究室にやってきたのは、リボーンだけではなかった。研究室にいた銀の長髪に、ツナは目を丸くする。

「どうしたの、スクアーロ」

ヴァリアーは決して暇ではないだろうに。どうしてか、彼女がそこにいた。おお、てめえか。客用のソファに陣取ったスクアーロがツナを見上げて言う。

「風が来るんだろぉ?物は試しに見に来た」
「……パンダじゃないんだから」
「あいつ一人ならすぐ帰るぜ」
「どういうことだスクアーロ」

スクアーロの言葉に反応したのはリボーンだった。ツナの腕から抜け出し目の前にたって赤子が問いかければ、彼女は銀糸を揺らして答えを返す。

「知らねえのかあ?マーモンの奴、風と後一人来るって言ってたが」
「次のマザーか?それにしても早すぎるぞ」
「一人、心当たりがある。が、確証がねえ」

スクアーロにしては、妙なことを気にする。職業柄、彼女が推測だけでものを言うことは少ない。けれど、今日は確信のないことを言っている。

「誰だ?」
「それはどなたですか?」

後ろで書類を書いていた骸と、目の前で話を聞いていたリボーンの同じ問い。それの返事は、また問いかけだった。

「…………てめえは、知らねえのかぁ?」

それはリボーンに向けられていた。赤子が検討つかねえと返せば、スクアーロは考え込み、やがてぽつりと呟く。

「……まあ、あの頃と今じゃ、随分と様変わりしてるからなぁ…」

どこかもの寂しげな声が、研究室に落ちた。直後、リボーンは研究室のドアへ目を向け、ぼそり言った。

「来たぞ」

声と同時のノック音。骸がどうぞと答えれば、がちゃりと音を立ててドアが開き――現れた客人に視線が集中した。

「…………あなたは?」
 
骸が、ぽつりと疑問をこぼす。
そこにいたのは、一人の少年だった。スクアーロより僅か灰に近い銀の髪と、鮮やかな緑の瞳。その腕に抱えている赤い服の赤子が、件のアルコバレーノか。

「お久しぶりです、リボーン」

口を開いたのは赤子だった。風、とその名を呼んでリボーンは口元を笑みにつり上げる。

「久しぶりじゃねえか。つーかお前が自主的にここに来るなんて思ってなかったぞ」
「おもしろい噂を聞きまして」

答えた風が、大きな黒の瞳をツナに向けて微笑む。きょとんとしたツナがその視線に首を傾げ、反対にリボーンは彼の真意を悟って溜息を吐いた。

「ツナは見せ物じゃねえ」
「初めてでしょう、あなたが死なせなかったなんて」
「うっせえぞ」

棘のある言葉にも風は余裕で笑っている。会話の終局を見越し、それで、と口を開いたのは骸だった。

「彼は?」

色違いの視線は風の上、彼を抱いた少年に向けられている。首を小さく傾げて、彼は問いを続けた。

「部外者が入ることはできないでしょう?いくらあなたがアルコバレーノでも」
「――ハヤト、か」

遮り言ったのは今まで無言で風と少年を見つめていたスクアーロ。その名は正しかったらしい、少年は緑の瞳を見開いて、彼女を見た。その反応にスクアーロはひとり納得したように頷く。

「それだったら説明が付くぜぇ、六道。まあ別人でも風がタグ貸せばいい話だがなぁ」
「どういうことでしょう?」
「そいつはマザーの……ラヴィーナの息子だ。カルテにあるだろう」
「母さんを知ってるのか?」

問いを少年は投げ、スクアーロは一度頷いた。

「……ああ」

ふいとスクアーロの鋭い瞳が緩む。おや、と不思議そうな声を漏らしたのは風だった。赤子は可愛らしく首を傾げて彼女に問いかける。

「あの人と、そんなに面識がありましたか」
「前のマーモンは調子が悪くなってからが長かった。だから俺もマザーに選ばれる前からここにはちょくちょく顔出してたんだあ。あいつ昔から研究室嫌いだしな」
「ラヴィーナ……ですか。それはどれくらい前のマザーなのですか?」

話を遮らないようタイミングを計って聞いた骸に、スクアーロはそういえばそうだったと、小さく呟いて答えた。

「お前より前だあ。ああ、そうか……風、見ての通りあの頃と様変わりしてな。研究者も総入れ替えだ」
「そのようですね」

風はこくんと頷く。その様子に不思議そうに首をかしげたのはツナで、彼女は小さく疑問を口にした。

「どういうことですか?」

すると骸が、わずかに溜息を吐いて答えた。

「十年近く前に、ここの研究スタッフ――隣もですね。それが全員入れ替わっているのですよ。ですので、僕等が直接見聞きしたデータはスクアーロ以降になります」

もちろんカルテ等は残されていますが。補足までした骸は少年を見て、その腕の子供をじっと見る。

「なんだよ」

居心地が悪いのか少年は緑の目を鋭くさせて骸を見上げる。骸は目を伏せると無言で首を横に振った。言ったのは、スクアーロだった。

「懐かしい顔だあ。本当にそっくりだな」

隼人をまっすぐに見たままぽつり、彼女は洩らす。

「事故にさえ遭わなけりゃ、もうちょいは生きれただろうに」
「……事故?」

少年の表情が変わる。緑の瞳を見開いて、彼はスクアーロに問うた。

「ああ」
「母さんは、殺されたんじゃねえのか」
「……隼人」

風の制止も、届かない。

「あの人は、親父に殺されたんじゃ――」
「違う」

はっきり答えて、スクアーロは銀の瞳で骸を見た。理由を察して彼は頷き、白衣を翻して言う。

「彼女の――ラヴィーナのカルテを持ってきましょう。そうすれば、はっきりするはずです」




――数分後骸は一つのファイルを手に、研究室へ戻ってきた。彼はそれをそのまま、少年に手渡す。

「ここに、貴方の求めた真実があります」

少年は一度深呼吸をして、それを開いた。誰も何も言わない部屋で、ページをめくる乾いた音だけがやけに目立つ。

「いいのか骸」

やがてぽつり落ちたリボーンの問いに、骸は確かに頷く。

「知る権利が無いとは言えないでしょう。スクアーロがそこまで話して、気にするなと言う方が酷です」
「俺のせいかぁ?」
「さあ。必然かもしれませんよ?」

小言をかわされ、スクアーロは小さく舌打ちして少年を見やった。ちょうどその時、少年もファイルから顔を上げてスクアーロを見る。
そして彼は、微か震える声で、言った。

「親父は、母さんを……あいしてた?」

潤む緑色に気づかない振りをして、スクアーロは頷き、苦笑混じりにこう返す。

「あんな甘ったりいノロケ話、ラヴィーナ以外の奴から聞いたことはねえぞお」
「…………そっか……なんだ…」

ファイルを閉じ、少年は深い息を吐く。その理由を察して、風は少年を見上げ笑った。

「よかったですね隼人。あなたはお父上もラヴィーナも、大好きですからね」
「う、うっせえ」

ぶっきらぼうに答え、少年はそっぽを向く。その頬がほんのりと赤くなっていて、誰もがひそりと笑顔になった。それを知ってか知らずか、少年は荒い動作で骸にファイルを返却する。そして彼は室内を見回し、ふとその視線がツナで動かなくなった。

「ん……?」
「隼人、どうしましたか?」

腕の中から問いかける風にも答えない。しばらくそうしていた少年は、ぽつりと呟くようツナに問いかけた。

「……あの、前に会ったことありませんか…?」
「え?」

あんまりに意外な言葉だった。誰もがそうだったのだろう。先ほどとは違った微妙な沈黙が辺りに流れる。しかし少年は気づかずに続けた。

「この城で、ずっと昔に――」
「…………」

ツナは思い返す。ボンゴレの城、遠い、けれどかの国よりは随分近しい記憶。その中に銀色の髪と緑の瞳の子供が――いた。
もう笑ってしまうほど昔のことだ。庭で迷子になっていた子供を見つけて、ツナは目をまあるくした。そうして、いくつか話して子供を九代目の執務室まで連れていった。
顔も声もはっきりとは覚えていない。しかし彼女は、銀と緑を覚えていた。

「……もしかして、庭で迷子になって、た?」
「やっぱり…!あの時はお世話になりました」

律儀に頭を下げてくる少年にもう昔話だから、と謙遜してツナは苦笑した。なんだぁ、とスクアーロは言いかけ、けれど口を噤む。

「おやおや。意外にこちらと縁深いのですね、貴方は」

眉を下げ骸は笑ったが、その瞳が違う感情を宿していることに気づいたのはリボーンだけだった。




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赤のアルコバレーノ、邂逅編。
今更なんですが、ラヴィーナさんとスクアーロってどんな会話するんでしょうね。いろいろな意味で未知数。
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