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A domani,Il cielo segreto.

笹川了平から話を聞いた数日の後。予定通り、ハルが雲雀の研究室に呼び出された。ツナとラルはすでに研究室にいて、時間がくるのを待つ。
指定の時間より少し早く、ドアがノックされた。雲雀の返事にドアを開けたハルは、彼を見上げきょとんとした表情で聞いた。

「雲雀さんが、ハルに何のご用事ですか?――まさかタコちゃんに何かあったとか!?」

雲雀の研究内容――つまりはアルコバレーノの相棒たる動物達を思い出したのか、そう言った瞬間、自分の言葉にハルは慌てる。雲雀は静かに首を横に振り、ツナとラルを指さした。

「違う。用事があるのは向こうの二人だよ。僕は出かけるから、好きにしな」

言い残して、雲雀は研究室を出ていく。彼を見送ったハルは二人を見て、更に動揺した。

「はひ!ツナさんと……ラルちゃん!?」

ツナより以前にマザーとなり京子ととても親しい彼女が、ラルと京子の関係を知らないわけがない。

「久しぶりだな」

正反対に静かなラルの声に、ハルは戸惑いの色を隠しきれない。彼女は二人の正面にぽすんと座り、不安そうにツナを見た。

「ツナさん、どういう事なんですか?」
「ラルちゃんと京子ちゃんを会わせようと思うんだ」

率直に言えば。ハルはラルに視線を移し、じっと見つめた。視線を返して、ラルは言う。
 
「…………ツナの言ったとおりだ。協力してくれないか」

ぽつ、とハルがまた口を開いたのは、数秒の後だった。まんまるの瞳でラルを見つめたまま、彼女は問いかける。

「ラルちゃんは京子ちゃんと仲直りしたいんですか?」
「ああ。……そもそも喧嘩すらしていないが」
「どうしてです?」
「こいつに感化された」
「二人とも気にしてたからさ、お節介だけど」
「……ハルは、とってもいいことだと思います」

二つの問いとその返答を聞いたハルは、ふと口元に笑みを浮かべ、そう言うと二人に頷き掛けた。

「京子ちゃん、ずうっとラルちゃんのこと心配して、けど勇気が出ないみたいで。だから、ハルも協力します!させてください!!」

ほっと息を吐いたのは、ラルだった。彼女は律儀に小さな頭を下げて言う。

「感謝する」
「いいえ。ハルは京子ちゃんにハッピーになってほしいだけです」
「それで、案なんだけど。京子ちゃんにプレゼントをしようと思うんだ。お菓子とか……けど、何が好きかオレ達知らなくて」
「笹川了平にも聞いたがよく分からなかった」

ハルは口元に人差し指をあて、何かをうんうん考えながら、問いに答えた。

「えーと、京子ちゃんの好きなもの……お菓子ですねえ。……ご実家の近くにあるケーキ屋さんのカスタードシュークリームが大好きだって言ってました。あと、ベイクドチーズケーキも目がないです」

二つの菓子をあげられ、ツナはんーと首を傾け、すぐに戻した。彼女はラルをちら、と見てこんな事を提案する。

「買うのもいいけど、折角だから手作りしちゃう?」
「作れるのか?」

問いを問いで返すラルに、ツナはお菓子作るのは好きなんだ、とウインクした。意外な特技があったものだと、ラルは感心して彼女を見上げる。

「お店にあるのみたいに上手に作れないけどね。ラルちゃんが作ったっていうなら喜んでくれそう」
「ツナさん、シュークリームも作られるんですか?」

きょとんとツナを見たのはハルで。そんな彼女に、ツナは頷いて、答えを返す。

「うん。プチシューの方が頻度が多いし得意だけど」
「すごいです!ハル、どうしてもうまく膨らませられなくって」
「コツがあるんだ、今度教えるよ」

そうツナは笑って、じゃあどうしようかと案を細かいものにする。考えてみれば、決まっていないことだらけだった。急な思いつきだったからなあ、とツナは思い出しながら、京子の事を考えて案を出す。

「場所は……六道先生の研究室がいいかな。いつもあっちに来るし。オレから説明しておくよ」
「コロネロへ説明と口止めもいるな。それは俺がしよう、あいつも協力するだろう」
「じゃあ、ハルが京子ちゃんを呼びますので、お菓子のほうよろしくお願いします!」

それぞれ役目を決め、三人は顔を見合わせて頷きあった。そうして、ハルはうっとりとした様子で目を閉じ、楽しそうに言う。

「……ツナさんとラルちゃんのお菓子、ハル楽しみです!!」
「………………大丈夫なのか?」

二重の意味で。問いかけたラルの真意に気づいているのかいないのか、ハルはぎゅうと拳を握って満面の笑顔を見せた。

「大丈夫です!ハルはちゃんと任務を遂行して、京子ちゃんの笑顔とおいしいお菓子を手に入れます!!」

********

早めの夕食を終えたツナがまだキッチンにいるのを見て、リボーンはとことこと彼女の後ろまで歩いた。見上げると、ツナは鼻歌を歌いながら、かしゃかしゃと泡立て器でボウルの中、何かをかき混ぜている。

「何してんだ、飯は済んだだろ」
「ちょっと試作。ホント、いつもはプチシューしか作らないからさ」

返事に、リボーンはああ、と納得した。夕食の席で、今日ツナが雲雀の研究室で立てた算段を、彼も聞いて納得している。恐らく実行日までに、ある程度の範囲――よく、あの辺りに来る連中には話は伝わるのだろうとも、思った。当日まで知らないのは、当の笹川京子だけだろう。
ツナがしているのは、そこで出すシュークリームの試作。
けれど、こんな時間からしなくとも。

「夜に食ったら太るぞ」
「明日食べるし。それに、オレ一人じゃ食べきれないよ。……おじさま達に持っていくかなあ」

そこで出てくる名前に、リボーンはわずかに眉をしかめた。

「俺にはくれないのか?」
「リボーン、甘いの苦手じゃん。ああ、けどコーヒークリームとかよさそうだな」

ひょい、とキッチンテーブルに飛び乗ってボウルの中を覗くリボーンに、ツナはふわりとした笑みを掛ける。それならいいぞ。答えて、リボーンは彼女を見上げた。

「なあ、ツナ」

疑問を問おうと、リボーンが決めたのは。彼女があんまり嬉しそうで、そして少しだけ寂しそうだったからだった。

「なあに?」
「あの日、お前は俺を家族にして、と言ったよな」
「……うん」

かしゃかしゃと、混ぜる速度がわずかに落ちる。ツナはわずかに眉を下げて、こくりと頷いた。それをしっかりと確認して、リボーンは言う。

「九代目がお前を養子にしなかったのも知ってる。が、俺が知りたいのはその前だ」

ツナの動きが止まった。ボウルから目を離して、彼女はじっとリボーンを見下ろしている。泣きそうな目だ。琥珀色を見つめてリボーンはそんな事を思った。

「…………孤児って、言ったことあるっけ」

ぽつりと吐かれた言葉に、リボーンは静かに頷く。言いづらいのか、くるくるとゆっくり泡立て器を動かして、ツナは普段より小さな声で言った。

「ちっちゃい時に親が死んじゃって、それから親戚のとこを転々としたんだ。……オレ、ダメツナだからさ、可愛がってもらえなくて」
「九代目は?」
「オレを押しつけられちゃったおばさんが死んじゃってね。そのお葬式の時に、迎えに来てくれたんだ。オレをどうするかって親戚の人が話してる時だったからすぐに九代目に引き取られる事になったよ。その時は九代目の事、知らなかったけど」

あの時は怖くて不安で仕方なかったけど、今はよかったと思う。お前もいるし。
そう、ツナは淡く笑んでくれる。だから、リボーンは知りたいと思ったのだった。自分の大切な母親のことを。

「九代目は家族じゃないのか」
「言えないよ、そんな事。オレがそれを望んだら、九代目は喜ばないし、困るでしょ」

彼女はボンゴレにとって異分子だ。しかし、有用すぎる駒でもある。だから九代目は引き取ったとしても、彼女を娘とはしなかった。――互いのために。

「皆優しくしてくれたけど、オレはその時はボンゴレファミリーでもなかったし。……だから、かな。家族って何なのかよく分からないんだ」

ようやく、リボーンは納得した。どうして彼女があそこまで、京子とラルの関係を気にして、仲直りをさせたがったのか。
どうしてあの日、ツナを家族だと呼んだリボーンに、あんなに嬉しがってみせたのか。
彼女は、知りたかったのだろう。

「俺がいるだろ」

リボーンが言えば、ツナは嬉しそうに頷いた。

「うん。今は少しだけ分かった気がする。リボーンのおかげだね」
「これからもっと分かるように、俺が一緒にいてやるぞ」
「ふふ、ありがとうリボーン。シュークリーム、一緒に食べような」

また、かしゃかしゃと泡立て器を動かすツナの隣で、リボーンも口元に優しげな笑みを浮かべた。
しかし彼は、ふと、首を傾げる。

「なあ、ツナ」
「んー?」
「お前、ボンゴレファミリーじゃなかったって言ってたが……いつ、どうやってファミリーに入ったんだ?」
「…………ちょっと……色々ありまして。無理矢理入れられたというか入れてもらったというか…」

口ごもるツナは、先ほどとは打って変わって曖昧に笑って誤魔化そうとする。リボーンも、皮肉めいた笑顔を返しながら彼女に詰め寄った。

「かわいい息子にも言えねえのか、ママン?」
「ひ、卑怯だ……」

一言にぽきりと折れたツナは、溜息を吐いて。キッチンには二人しかいないのに、彼女はリボーンのちいさな耳に口を寄せてぼそぼそと、もう一つの秘密を囁く。
聞いたリボーンはどんぐりまなこを驚きに染めて、すぐにまたにやりと笑った。

「そりゃあ……また、うちのママンは末恐ろしいぞ」
「内緒だからね!」

勿論だぞ。しっかりと頷いて、リボーンは内心思う。
うちのママンは、もしかしなくてもとんでもないイキモノなのかもしれない。




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仲直り・算段その2。
ハルはこういうイベントごとにはノリノリになってくれそうで、可愛い。
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