A domani,Il cielo segreto.
「……というわけで、ツナさんにこれからもお手伝いには言ってもらうことになりました」
「よろしくお願いします」
通い慣れた六道骸の研究室、ツナは並ぶ研究員たちの前でぺこりと一礼した。ぱちぱちと人数分のまばらな拍手。それだけで、あっさりとツナはまた研究室にとけ込む。
しかし、何故か骸の研究室に居座っていた雲雀が、挨拶を終えたばかりのツナの手を引いて、骸に言った。
「早速だけど、その子借りてくから」
「雲雀さん?」
「君に客だよ」
骸も止めず、ツナは有無も言わせてもらえないまま隣の研究室に連れていかれる。そこには、一人の赤子が彼女を待っていた。
その黒髪を見るなり、ツナはぱっと目を輝かせて名を呼ぶ。
「ラルちゃん!」
ラル・ミルチはふ、と笑ってツナを見上げた。ツナが生き延びた話はアルコバレーノ中に伝わっているとリボーンから聞いてはいたが、会うのはまた違う感情が沸く。ラルも同じようだった。
「話には聞いていたが、生きてたな」
「うん。すっごく元気だよ!」
笑顔に呆れを滲ませて、けれどラルは静かに答えた。
「賭けは俺の負けだ。お前の好きにしろ」
つまりは、ラルが京子に会う覚悟を決めたという事で。ツナは嬉しそうに何度もに頷くと、けど、と眉を下げて首を傾げた。
「といっても……どうしたらいいかな。せっかくだしプレゼントとか渡したら、喜んでくれそうだけど」
「……何をだ?」
「そこだよね……。京子ちゃんの好きなものとか、オレ分かんないよ」
「適任が居るよ、二人」
しばらく前、同じように二人の賭けの始まりを聞いていた雲雀が、口を挟む。ラルが首肯して一人の名を答えた。
「ハルか」
「それと、兄がいる」
「お兄さん?」
ツナは知らなかった。京子が話したことあるかもしれないが、他愛も無い会話の中で流されてしまったのかもしれない。そもそも記憶力が無い、と自分の貧相な頭を残念に思う。
ふと、思い出したのは京子の自己紹介を聞いたときに、聞き覚えのある名だと思った記憶だけ。
けれどツナ以外の二人は、兄をしっかりと記憶していた。
「笹川了平だな」
「あの人が!?」
その名を聞いた瞬間、ツナはぱっとラルを見て驚愕の表情を見せた。見開かれた琥珀色の瞳を無表情に見下ろして、雲雀が問う。
「まさか、あれの知り合い?」
「はい。昔、ちょっと……最近は全然会ってませんけど」
答え、ツナは目を閉じてこめかみに手を当てる。そして笹川兄妹の顔を脳裏にそれぞれ浮かべ、思わず呟いた。
「……似てない…」
「あの二人は実の兄妹だよ」
雲雀の答えにツナは苦笑する。いつか、似たような会話を繰り広げたのもここだった。雲雀は白衣のポケットから携帯電話を取り出すと、どうするの?と二人に聞いた。
「笹川了平ならすぐ呼べるけど」
ラルとツナは目をあわせ、頷く。
「じゃあ、お願いします」
どたどたと廊下を走る音が聞こえる。やがて雲雀の研究室前で止まった足音の主は、けれど律儀にドアを叩いて入ってきた。
「どうした雲雀!またどこか使いか?」
よく呼ばれているのか、笹川了平は片手を上げ、雲雀に気安い挨拶を投げた。
「やあ、笹川。今日は君に客がいてね」
「ん?おお、ラル・ミルチか。久しいな」
「ああ」
顔見知りらしい、ラルはいつもの彼女らしく淡々とした挨拶を返して、雲雀は次にツナを指さした。
「それと、もうひとり。こっちの彼女は君の妹と同じ元マザーだよ」
「……お久しぶりです、了平さん」
ぺこりと頭を下げたツナへ律儀に礼を返そうとした了平の動きが止まる。じいっと彼女を見つめて、彼はようやく聞いた。
「…………まさか、沢田……か…?」
「はい」
「…………マザー?」
「……はい」
二度の問い、そのどちらも肯定したツナに、了平は沈黙する。しばらくフリーズしていた彼は、はっと我に返るとがば、と頭を下げた。
「極限にすまん!!」
「いや、オレも言ってなかったんで」
ツナは両手を振って苦笑を返す。そのやりとりを見ていただけの雲雀とラルは意味が全く分からず、訝しげに二人を見比べている。
「……何かあったのか?」
ラルが聞けば、ツナは相変わらず苦笑を浮かべたまま答えた。
「ちょっと、勘違いが」
ちょっとなのか。了平の反応は少し、というには大げさすぎる。いくら彼が元からオーバーリアクション気味だったとしても、だ。
ラルも、黙っている雲雀も完全に納得は行かなかったが、そこはまだ今回の目的以前の出来事だった。
相変わらず謝り続ける了平を何とかなだめ、ツナとラルは本題を提示する。すると了平はむう、と腕を組み首を傾げた。
「京子にプレゼント、それであいつの好物か」
「そうなんです。何か、ご存じですか?」
「小さい頃から甘いものを好んでいるが……俺は菓子に詳しくないのだ」
「そうか。そちらにするならハルに聞いたほうがいいだろうな」
京子とハルはよく隣の研究室に手作りの菓子を差し入れている。それに、二人のおしゃべりを聞いているとよく二人でスイーツ巡りをしているらしい。
そういう事の相談は了平よりハルの方が向いているだろう。
「すまんな、役に立てずに」
「いえ、ありがとうございます」
ふるふると首を振ってツナは笑ってみせた。
「何かまた手伝うことがあれば言ってくれ。手が空いていればすぐに行くぞ」
「お願いします」
「ああ、頼んだ」
ツナとラルの言葉に了平は力強く頷く。彼は一度雲雀を見てついでは何かあるか、と聞き、すると雲雀は少し待って、と言葉を返しデスクの上の書類をいくつか纏めだした。
それを待つ間、了平はツナをまじまじと見て、ぼそりと言った。
「まさか、お前がこちらにいるとは……。という事は、向こうは?」
「異動になりました」
「……まあ、だろうな」
うんうんと首を縦に動かして了平は答える。知らなかったんですか、とツナが聞けば了平は聞かなかったとあっけらかんとした表情で答えた。それは良いことか悪いことか。どちらでも構わないか、とツナは適当に結論付けた。今更だし。
「まあ、京子のことは極限に頼んだぞ!」
「はい。がんばります」
にこりと答えたツナを、書類を大きな封筒に入れた雲雀がじっと見ている。気づいてラルが聞いた。
「どうした、雲雀」
「別に。――少し、気になることが出来ただけだよ」
答え、雲雀は了平に封筒を手渡すとすぐに白衣の裾を翻して書類棚を見据える。その双眼は、鋭い黒色の光を灯していた。
*****
仲直り・算段編。了平さんは呼べば来るイメージです。そしてあのお兄ちゃんはきっと、ケーキの種類なんて分からないと思う……。
年長組は仲良しだったらいい。
「よろしくお願いします」
通い慣れた六道骸の研究室、ツナは並ぶ研究員たちの前でぺこりと一礼した。ぱちぱちと人数分のまばらな拍手。それだけで、あっさりとツナはまた研究室にとけ込む。
しかし、何故か骸の研究室に居座っていた雲雀が、挨拶を終えたばかりのツナの手を引いて、骸に言った。
「早速だけど、その子借りてくから」
「雲雀さん?」
「君に客だよ」
骸も止めず、ツナは有無も言わせてもらえないまま隣の研究室に連れていかれる。そこには、一人の赤子が彼女を待っていた。
その黒髪を見るなり、ツナはぱっと目を輝かせて名を呼ぶ。
「ラルちゃん!」
ラル・ミルチはふ、と笑ってツナを見上げた。ツナが生き延びた話はアルコバレーノ中に伝わっているとリボーンから聞いてはいたが、会うのはまた違う感情が沸く。ラルも同じようだった。
「話には聞いていたが、生きてたな」
「うん。すっごく元気だよ!」
笑顔に呆れを滲ませて、けれどラルは静かに答えた。
「賭けは俺の負けだ。お前の好きにしろ」
つまりは、ラルが京子に会う覚悟を決めたという事で。ツナは嬉しそうに何度もに頷くと、けど、と眉を下げて首を傾げた。
「といっても……どうしたらいいかな。せっかくだしプレゼントとか渡したら、喜んでくれそうだけど」
「……何をだ?」
「そこだよね……。京子ちゃんの好きなものとか、オレ分かんないよ」
「適任が居るよ、二人」
しばらく前、同じように二人の賭けの始まりを聞いていた雲雀が、口を挟む。ラルが首肯して一人の名を答えた。
「ハルか」
「それと、兄がいる」
「お兄さん?」
ツナは知らなかった。京子が話したことあるかもしれないが、他愛も無い会話の中で流されてしまったのかもしれない。そもそも記憶力が無い、と自分の貧相な頭を残念に思う。
ふと、思い出したのは京子の自己紹介を聞いたときに、聞き覚えのある名だと思った記憶だけ。
けれどツナ以外の二人は、兄をしっかりと記憶していた。
「笹川了平だな」
「あの人が!?」
その名を聞いた瞬間、ツナはぱっとラルを見て驚愕の表情を見せた。見開かれた琥珀色の瞳を無表情に見下ろして、雲雀が問う。
「まさか、あれの知り合い?」
「はい。昔、ちょっと……最近は全然会ってませんけど」
答え、ツナは目を閉じてこめかみに手を当てる。そして笹川兄妹の顔を脳裏にそれぞれ浮かべ、思わず呟いた。
「……似てない…」
「あの二人は実の兄妹だよ」
雲雀の答えにツナは苦笑する。いつか、似たような会話を繰り広げたのもここだった。雲雀は白衣のポケットから携帯電話を取り出すと、どうするの?と二人に聞いた。
「笹川了平ならすぐ呼べるけど」
ラルとツナは目をあわせ、頷く。
「じゃあ、お願いします」
どたどたと廊下を走る音が聞こえる。やがて雲雀の研究室前で止まった足音の主は、けれど律儀にドアを叩いて入ってきた。
「どうした雲雀!またどこか使いか?」
よく呼ばれているのか、笹川了平は片手を上げ、雲雀に気安い挨拶を投げた。
「やあ、笹川。今日は君に客がいてね」
「ん?おお、ラル・ミルチか。久しいな」
「ああ」
顔見知りらしい、ラルはいつもの彼女らしく淡々とした挨拶を返して、雲雀は次にツナを指さした。
「それと、もうひとり。こっちの彼女は君の妹と同じ元マザーだよ」
「……お久しぶりです、了平さん」
ぺこりと頭を下げたツナへ律儀に礼を返そうとした了平の動きが止まる。じいっと彼女を見つめて、彼はようやく聞いた。
「…………まさか、沢田……か…?」
「はい」
「…………マザー?」
「……はい」
二度の問い、そのどちらも肯定したツナに、了平は沈黙する。しばらくフリーズしていた彼は、はっと我に返るとがば、と頭を下げた。
「極限にすまん!!」
「いや、オレも言ってなかったんで」
ツナは両手を振って苦笑を返す。そのやりとりを見ていただけの雲雀とラルは意味が全く分からず、訝しげに二人を見比べている。
「……何かあったのか?」
ラルが聞けば、ツナは相変わらず苦笑を浮かべたまま答えた。
「ちょっと、勘違いが」
ちょっとなのか。了平の反応は少し、というには大げさすぎる。いくら彼が元からオーバーリアクション気味だったとしても、だ。
ラルも、黙っている雲雀も完全に納得は行かなかったが、そこはまだ今回の目的以前の出来事だった。
相変わらず謝り続ける了平を何とかなだめ、ツナとラルは本題を提示する。すると了平はむう、と腕を組み首を傾げた。
「京子にプレゼント、それであいつの好物か」
「そうなんです。何か、ご存じですか?」
「小さい頃から甘いものを好んでいるが……俺は菓子に詳しくないのだ」
「そうか。そちらにするならハルに聞いたほうがいいだろうな」
京子とハルはよく隣の研究室に手作りの菓子を差し入れている。それに、二人のおしゃべりを聞いているとよく二人でスイーツ巡りをしているらしい。
そういう事の相談は了平よりハルの方が向いているだろう。
「すまんな、役に立てずに」
「いえ、ありがとうございます」
ふるふると首を振ってツナは笑ってみせた。
「何かまた手伝うことがあれば言ってくれ。手が空いていればすぐに行くぞ」
「お願いします」
「ああ、頼んだ」
ツナとラルの言葉に了平は力強く頷く。彼は一度雲雀を見てついでは何かあるか、と聞き、すると雲雀は少し待って、と言葉を返しデスクの上の書類をいくつか纏めだした。
それを待つ間、了平はツナをまじまじと見て、ぼそりと言った。
「まさか、お前がこちらにいるとは……。という事は、向こうは?」
「異動になりました」
「……まあ、だろうな」
うんうんと首を縦に動かして了平は答える。知らなかったんですか、とツナが聞けば了平は聞かなかったとあっけらかんとした表情で答えた。それは良いことか悪いことか。どちらでも構わないか、とツナは適当に結論付けた。今更だし。
「まあ、京子のことは極限に頼んだぞ!」
「はい。がんばります」
にこりと答えたツナを、書類を大きな封筒に入れた雲雀がじっと見ている。気づいてラルが聞いた。
「どうした、雲雀」
「別に。――少し、気になることが出来ただけだよ」
答え、雲雀は了平に封筒を手渡すとすぐに白衣の裾を翻して書類棚を見据える。その双眼は、鋭い黒色の光を灯していた。
*****
仲直り・算段編。了平さんは呼べば来るイメージです。そしてあのお兄ちゃんはきっと、ケーキの種類なんて分からないと思う……。
年長組は仲良しだったらいい。