目を開けると、すぐ傍に緑の――最近見慣れた生き物。
心配そうにこちらを見るそれに、ツナは淡く微笑みかけた。
「おはよう、レオン」
最近、ツナは酷い吐き気に悩まされていた。シャマルに相談すれば、あっさりとつわりだと言われた。特に対処法も無く、脱水症状を防ぐために水分を取るようにとだけアドバイスを貰った。そう気にかけずとも、そのうち収まるらしい。
それでもいつ吐き気に襲われるか分からないので、ツナは今日も大人しくすることに決めた。気晴らしに、軽い散歩に行くのもいいかもしれない。
「朝ご飯、どうしようかな……」
それにカメレオンって何食べるんだろう。冷蔵庫を開けたら何か反応するかもしれない。起き上がると同時に肩に登ったレオンと自分の朝食をぼんやり想像しながら、ツナはのろのろとカーテンを開けた。そして青空に僅かに救われたように思う。
今日も天気だけはいい。




「あの子、今日も休みなのかい？」
「最近体調が良くないみたいで。まあ彼女はうちの正規職員じゃないんでここに来なくても怒ったりはしませんが」
「……そう」
「珍しいですね。彼女が気になるんですか？人嫌いの貴方が」
からかう様に言う骸にひやりとした視線を向け雲雀は嫌そうに答えた。
「煩い、またレオンが脱走しただけ」
「心配なんでしょう、彼女が」
ああいう生き物は存外に賢いですから。
そう会話をした矢先。雲雀は偶然にもツナの姿を見つけた。自分を呼ぶ声に振り向いたツナの顔色は悪い。六道の言うことは事実だと確認し、雲雀は言った。
「おとなしくしてなよ。調子悪いんだろう？」
「今日は気分がいいんです。……あの、レオンのことですか？」
雲雀とツナを結ぶ接点は今のところレオンだけ。そのせいだろう、ツナはそう疑問を口にして首を傾げた。真似をするように彼女の肩のカメレオンも小首を傾ける。
「いや、たまたま見かけたから。それはどうせ君にべったりだ」
「何言っても離れてくれないんです」
申し訳なさそうなツナに対し、雲雀は現在のレオンに関してはどうでもいいと考えていた。言っても聞かないのは実感している。無駄は省きたかった。
「心配なんだろ、骸もそう言ってた」
「……心配性だよ」
くすくすと笑うツナは、それでも嬉しそうにレオンの身体を撫でる。
「しばらく甘えていたらいいさ。君が体調不良の妊婦であることに違いない」
そう雲雀が言うと、ツナは笑顔のまま何度も頷いた。
「そうします」





２
夜の帳が下りる。人々は眠りにつき、闇に息するものが密かに争いを続ける時間。
今夜の夢は漆黒から始まった。白のワンピースが闇に浮かび上がり、首に手をやると、やはり金属のタグがある。
また来ちゃったのかと考えるツナを、呼ぶものが居た。
「どうした、ツナ」
相変わらず姿も見せずツナに呼びかける声。しかし向こうからは彼女が見えるのか、心配そうな声色を闇に浮かべている。
「ちょっと気持ち悪くて」
「……大丈夫か？」
温かいものが背に触れ、ツナは振り返った。広がるのは漆黒ばかりだが、背中には相変わらず何かが触れ、彼女を撫でている。
手、だろうか。
それならば、あまりにも小さい。けれど、強い安堵感がツナを包んだ。
「こう調子悪いと、怖いな」
優しい手に促されるように、呟く。
「悪い夢を見そうだ」
「なら、俺を呼べばいい」
当然のように言う声に、ツナはあっけに取られた。思わず鸚鵡返しのように聞いてしまう。
「呼ぶ？」
「お前の夢なら、干渉できる。呼ばれたらどこまでも行くぞ」
ツナは心底感心し、同時にあることを思い出した。自分は、この声のことを何も知らないと。
「すごい……あれ、でもオレ、お前の名前知らないんだけど」
ああ、と納得した様子の声も、その事実に今更気付いたようだった。
「そういえば教えてなかったな。俺はリボーンだ」
「リボーン…………わかった」
確かめるように「復活」の意味を持つ名を幾度か繰り返し、ツナは頷く。数度の接触で彼女の性格を掴んだのか、リボーンはしっかりと言い聞かせた。
「すぐ呼べ。我慢しても仕方ねーぞ」
「…………うん」
「あと、起きてる間はレオンに守ってもらえ。役に立つぞ」
すでにレオンがツナに始終べったりしていることをリボーンが知っているのか知らないのか、ツナには分からなかったが、とりあえず頷く。
現実世界でも夢でもたくさん、こんなに心配されて、悪い気はしなかった。
ちょっとだけ、申し訳ないとも思った。



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多分これでいいと思う。