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Ciao,il mio iride

おはようございます、と研究室に入ってきたツナに返事を返した骸は、彼女の肩に目を留めて小さく笑った。
「ツナさん……またですか」
「また、です」
そこにちょこん、と乗るのはカメレオンのレオン。今朝、目覚めたときにはもう枕元にいたんです、とツナは主張する。ツナと出くわしてからというもののレオンは脱走を覚え、いくら雲雀がケージの鍵を厳重に掛けても、あっさりと逃げてしまっていた。
その理由は――。
「でも、形状記憶カメレオンって面白いですね」
「それだから困るんですよ」
自由に身体を変化させることの出来るレオンに鍵などは無意味だ。「咬み殺す」を常套句とする雲雀の脅しも効き目は無く、また実際に彼が動物に制裁を加えることも無い。いい加減雲雀も諦めてきたのか、放置気味だと骸は聞いていた。
けれどツナは気になるらしい。
「一応、返しに行こうと思います」
「無意味だと思うんですが……」
見つかる度に雲雀の研究室に連れ戻される。だがレオンは懲りることなく、三日と空けずにツナの前に姿を見せていた。
「しかし随分懐かれていますね、珍しい。こういう生き物は飼い主以外懐かないんですけど」
感心する骸にツナは弁解する。
「オレがマザーだからじゃないですか」
「どうでしょう。マザーということは理解しているでしょうが、それだけとは思えませんね。……まあ、僕は動物が専門じゃないので雲雀君のほうが詳しいですよ」
「それなら返すついでに聞いてみようかな」
「ああ、ツナさん」
早速研究室を出ようとしたツナを骸は呼び止め、
「それならクロームも連れて行ってください」
雲雀君の研究室、知らないでしょう。そう、言った。




なぜか乗り気でないクロームが、ツナを雲雀の研究室まで先導する。しっかりと抱えられたファイルを気にしながら彼女は言う。
「雲雀恭弥の研究室はお隣、だから。……ドアとドアは遠いけど」
緊張した様子の声に、まさか、とツナは聞いた。
「クロームは、雲雀さん苦手?」
「……ちょっと、怖いかも。骸様と、よく喧嘩してるから」
クローム自身が被害にあったことは無いが、幾度と無く骸と言い合っている姿を見ているせいで苦手意識を育んでしまったらしい。
「オレはいい人だと思うけど」
「ツナが言うなら、きっとそうかもしれないわ」
片目を細めて、クロームは笑ってみせた。
ようやく、ドアが見える。隣とクロームは言っていたが、それにしては二つの部屋は遠く離れていた。骸の研究室は幾つか部屋があるようだが、それでもここまで遠くなるほど広くはない。ならば、雲雀の研究室が、それを占めているのか。
通ってきた廊下を見返して考えるツナをよそに、クロームが二度、扉をノックする。反応はない。彼女は躊躇いながらドアを開け、室内に呼びかけた。
「雲雀恭弥……いない、の?」
「留守?」
「みたい。でもこれは緊急みたいだから、置いておかなきゃ」
ファイルに目を落としながらクロームは主のいない研究室に足を踏み入れた。彼女の後を追って、ツナも室内に入る。
「うっわ、広い……」
辺りを見回し、ツナは思わず呟いた。だだっ広い部屋の真ん中に大きなデスクが鎮座し、壁に沿って幾つものケージや籠が置かれている。そして何故か、水を張ったガラスケース――水槽が、壁の一面を占領していた。
「ケージはまだしも水槽って……やけに大きいし」
今はどのケージも空だが、何が入れられるのだろう。特に、水槽。運動が苦手なツナがあの水槽に落とされたら、確実に溺れてしまう。
というか。ツナは今更な疑問にたどり着いた。デスクにファイルを積み重ねるクロームに、彼女は問いかけた。
「ねえクローム、雲雀さんって、一体何の研究をしてるの?」
「動物の研究、よ。レオンみたいな、特殊な生物を調べてる」
と、タイミングを計ったかのようにぱさぱさと緩く空気を切る羽音が聞こえて、二人は振り返った。黄色の小鳥がちいさな翼を羽ばたかせて二人のほうへ飛んでくる。
「あの鳥も?」
ツナが聞くと、クロームは首を横に振った。
「ヒバードは違うわ。あれは雲雀恭弥が連れてる、只の喋る鳥」
「ヒバリ、ルス!ルス!」
二人の頭上を飛び回りながら甲高い声で叫んだ小鳥、ヒバードを見上げ、クロームはため息混じりに答えた。
「見れば分かるわ」
「レオン、ダッソウシタ!」
「だからツナが返しにきたの」
「でも雲雀さんいないのに置いてくの、心配だな……今日はオレのとこにいる?」
ツナが手の上に乗せたレオンに問う。緑の頭をこくこくと動かして、レオンはどことなく、嬉しそうに頷いた。


*****
ツナとクロームは仲良し。女の子同士だから。
雲雀さんの部屋は何故か無機質なイメージです。……でも自室は和だろうなあ。
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