Ciao,il mio iride
暗い、くらい世界に、ひとりきり。
けれど誰かがいるような、そんな夢を見る。
何度も、なんども。
気配だけが、傍に。
「また、かあ」
ぴりぴりと鳴く目覚まし時計を眺めながら、ツナは呟いた。
起き上がるとちゃり、と音を立てるタグの存在にも慣れ、十ヶ月もの休みを貰ったことには未だ何か違和感を覚えながらも、彼女の生活は以前とそう変わらず回っている。
ただ、違うのは。
「……おんなじ、夢だったなあ」
ここしばらく、似たような夢を見続けていること。
悪夢とは感じないが、今まで見たものとは違うとはっきり感じていた。
「夢、かね?」
今日は本当に暇だったらしい、珍しいことに九代目は報告書に時間を奪われること無くツナの相手をした。ホットミルクの入ったカップで手を温めながら、ツナはこくりと頷く。
「オレの考えすぎだと思うんですけど……どうしても、気になっちゃって」
本当はこんな風に押しかけて仕事の邪魔をするのは嫌だったが、だからといって他に相談相手も思いつかなかった。多忙な人だ、追い返されるのも仕方ない、と覚悟して九代目のもとに足を向けたのだが、予想とは間逆に彼は大いに喜んでツナを迎え入れた。
それどころか、
「可愛い娘の相談だ、何でも聞いてあげるよ」
そう、甘やかす気満々で聞いてくる。そんな九代目にツナは溜息を吐いた。
「いつまでオレを子ども扱いするんですか九代目。っていうかオレはあなたの娘じゃないですよ」
「似たようなものだろう?」
「……それは、そうですけど」
言いよどむツナに九代目は笑う。ボスと言う立場、後継者の事を考えるとツナを養子に迎えることはできない。故に、彼女から父と呼ばれることは一生無いだろう。
だが、関係をそれなりに認めてくれることが、彼には素直に嬉しかった。
「それで、どんな夢を見たんだい?」
機嫌を損ねる前に本題に入るよう九代目が問うと、ツナはと答えた。
「真っ暗な中にオレ一人いるただ、それだけの夢です。……でも、誰かが、傍にいる気がして」
「……誰かは分からないのかね」
「全く。……手術を受けてから、見はじめたんで……悪いことじゃないといいんだけど」
眉を下げたツナに九代目は少し意外そうに、けれど優しい口調で聞いた。
「おや、君は悪いことだと思っているのかい?」
するとツナははっきりと、首を横に振って否定した。それならいいじゃないかと九代目は笑う。
「そう思うのなら、信じてあげなさい。その相手も、君の感じたこともすべて」
君はそういう感覚に優れているからね。
幼い頃から面倒を見てもらっているせいか、九代目の言葉をツナは素直に受け入れられた。そのせいか、不安は徐々に溶けて消えていった。
また、やみがひろがる。
夢の中でツナはいつも白いワンピース姿で、今まで気付かなかったが首にはしっかりとタグが掛けられている。確かにシャマルは肌身離さず、と言っていたがまさか夢の中まで実行しているなんて。思わずツナは笑ってしまった。
くすくすと笑い声が闇に吸い込まれる。
「……誰だ?」
唐突に、声が響いた。こどもの、けれどやけにしっかりとした声。ツナはその声を知らなかった。聞いたことも無かった。
はっと驚きながら、彼女は問い返す。
「誰って、オレのこと……?」
「お前以外に誰が居る?」
言われ、ツナは闇を見回す。広がるのは黒ばかりで、ツナ以外は何の気配も無い。声だけが、唯一彼女の他に存在している。
「オレは、ツナだよ」
不思議に思いながらも、彼女は正直に名を言う。なんとなく、隠していても仕方ない気がしていた。
「ツナ?」
「うん。沢田ツナ」
にこり、とツナは笑う。声はそうかと呟いた。その方向にツナは眼を向けたが、やはり何も見えなかった。
まっくらな世界が果てなく続くばかり。
「ツナはどーしてここに居るんだ?」
「ここ?」
彼女は辺りを見回す。そして、首を傾げた。
「どうしてって、言われても……オレにもわかんない」
「無意識に俺と繋がったのか?」
つながる。
ツナにはその自覚も、それが何を指しているのかも分からなかった。何のこと、と問いかけても声は返事をしない。
「うーん、気になるなあ…」
頬を掻いたツナの首元で金属製のタグが、ちゃりちゃりと音を立てた。それが、声の主の関心を引いたようだった。
「……タグ?」
「ああ、うん、シャマル先生に着けてるように言われたんだ」
「……Giallo」
ぽつりと呟かれた言葉に、ツナはきょとん、と動きを止めた。確かに、タグにはそれが刻まれている。相手は、それを見たのだろうか。
この闇の中で、気配もないのに。
「何でわかったんだ?」
「それなら、全部の説明がつく」
――どんな説明だ、と問おうとした瞬間、ツナは急に闇から引き上げられた。
見慣れた天井。ぴりぴりと鳴る目覚まし時計。
「…………夢、か」
多分、最近よく見ていたのと同じ、夢。
けれど今までとは違い、向こうと話すことができた。
あの声は、誰なのか。
「……あ、名前…聞きそびれてた」
今度会ったら聞かなきゃな、と伸びをしながらツナは思った。
*****
想像以上に長くなりながら……遂に。
あいつが出せました……?出た、に入るのかは内緒ですが、皆様予想通りのあいつです。
あ、ツナと九代目が仲良しさんなのはかなり趣味です。じいちゃんすき。
けれど誰かがいるような、そんな夢を見る。
何度も、なんども。
気配だけが、傍に。
「また、かあ」
ぴりぴりと鳴く目覚まし時計を眺めながら、ツナは呟いた。
起き上がるとちゃり、と音を立てるタグの存在にも慣れ、十ヶ月もの休みを貰ったことには未だ何か違和感を覚えながらも、彼女の生活は以前とそう変わらず回っている。
ただ、違うのは。
「……おんなじ、夢だったなあ」
ここしばらく、似たような夢を見続けていること。
悪夢とは感じないが、今まで見たものとは違うとはっきり感じていた。
「夢、かね?」
今日は本当に暇だったらしい、珍しいことに九代目は報告書に時間を奪われること無くツナの相手をした。ホットミルクの入ったカップで手を温めながら、ツナはこくりと頷く。
「オレの考えすぎだと思うんですけど……どうしても、気になっちゃって」
本当はこんな風に押しかけて仕事の邪魔をするのは嫌だったが、だからといって他に相談相手も思いつかなかった。多忙な人だ、追い返されるのも仕方ない、と覚悟して九代目のもとに足を向けたのだが、予想とは間逆に彼は大いに喜んでツナを迎え入れた。
それどころか、
「可愛い娘の相談だ、何でも聞いてあげるよ」
そう、甘やかす気満々で聞いてくる。そんな九代目にツナは溜息を吐いた。
「いつまでオレを子ども扱いするんですか九代目。っていうかオレはあなたの娘じゃないですよ」
「似たようなものだろう?」
「……それは、そうですけど」
言いよどむツナに九代目は笑う。ボスと言う立場、後継者の事を考えるとツナを養子に迎えることはできない。故に、彼女から父と呼ばれることは一生無いだろう。
だが、関係をそれなりに認めてくれることが、彼には素直に嬉しかった。
「それで、どんな夢を見たんだい?」
機嫌を損ねる前に本題に入るよう九代目が問うと、ツナはと答えた。
「真っ暗な中にオレ一人いるただ、それだけの夢です。……でも、誰かが、傍にいる気がして」
「……誰かは分からないのかね」
「全く。……手術を受けてから、見はじめたんで……悪いことじゃないといいんだけど」
眉を下げたツナに九代目は少し意外そうに、けれど優しい口調で聞いた。
「おや、君は悪いことだと思っているのかい?」
するとツナははっきりと、首を横に振って否定した。それならいいじゃないかと九代目は笑う。
「そう思うのなら、信じてあげなさい。その相手も、君の感じたこともすべて」
君はそういう感覚に優れているからね。
幼い頃から面倒を見てもらっているせいか、九代目の言葉をツナは素直に受け入れられた。そのせいか、不安は徐々に溶けて消えていった。
また、やみがひろがる。
夢の中でツナはいつも白いワンピース姿で、今まで気付かなかったが首にはしっかりとタグが掛けられている。確かにシャマルは肌身離さず、と言っていたがまさか夢の中まで実行しているなんて。思わずツナは笑ってしまった。
くすくすと笑い声が闇に吸い込まれる。
「……誰だ?」
唐突に、声が響いた。こどもの、けれどやけにしっかりとした声。ツナはその声を知らなかった。聞いたことも無かった。
はっと驚きながら、彼女は問い返す。
「誰って、オレのこと……?」
「お前以外に誰が居る?」
言われ、ツナは闇を見回す。広がるのは黒ばかりで、ツナ以外は何の気配も無い。声だけが、唯一彼女の他に存在している。
「オレは、ツナだよ」
不思議に思いながらも、彼女は正直に名を言う。なんとなく、隠していても仕方ない気がしていた。
「ツナ?」
「うん。沢田ツナ」
にこり、とツナは笑う。声はそうかと呟いた。その方向にツナは眼を向けたが、やはり何も見えなかった。
まっくらな世界が果てなく続くばかり。
「ツナはどーしてここに居るんだ?」
「ここ?」
彼女は辺りを見回す。そして、首を傾げた。
「どうしてって、言われても……オレにもわかんない」
「無意識に俺と繋がったのか?」
つながる。
ツナにはその自覚も、それが何を指しているのかも分からなかった。何のこと、と問いかけても声は返事をしない。
「うーん、気になるなあ…」
頬を掻いたツナの首元で金属製のタグが、ちゃりちゃりと音を立てた。それが、声の主の関心を引いたようだった。
「……タグ?」
「ああ、うん、シャマル先生に着けてるように言われたんだ」
「……Giallo」
ぽつりと呟かれた言葉に、ツナはきょとん、と動きを止めた。確かに、タグにはそれが刻まれている。相手は、それを見たのだろうか。
この闇の中で、気配もないのに。
「何でわかったんだ?」
「それなら、全部の説明がつく」
――どんな説明だ、と問おうとした瞬間、ツナは急に闇から引き上げられた。
見慣れた天井。ぴりぴりと鳴る目覚まし時計。
「…………夢、か」
多分、最近よく見ていたのと同じ、夢。
けれど今までとは違い、向こうと話すことができた。
あの声は、誰なのか。
「……あ、名前…聞きそびれてた」
今度会ったら聞かなきゃな、と伸びをしながらツナは思った。
*****
想像以上に長くなりながら……遂に。
あいつが出せました……?出た、に入るのかは内緒ですが、皆様予想通りのあいつです。
あ、ツナと九代目が仲良しさんなのはかなり趣味です。じいちゃんすき。