Ciao,il mio iride
長いながい、けれどあっという間の一日だった。
ベッドサイドのランプがひとつだけ灯る暗い部屋で天井を見上げ、オレはふうと息を吐く。
体が重い。だるい。いたい。
生命をひとつ産み出す行為だ。そりゃあ痛いし死亡率も高いよな。
今更だけど、改めてオレはそう思った。
リボーンはちゃんと産まれた、らしい。出産直後のことはあんまり覚えてないけど、シャマル先生はそういっていた。
オレは――死ななかった。
というか、割と元気だ。容態が急変することもあるから、と研究棟の一室を病室代わりに使わせてもらってるけど、正直もう何日かしたら家に帰れる気さえする。
そういうわけで、オレは賭けに勝って、ある意味負けていた。
いや、リボーンとの賭けは勝ち負けとか無い気もするけど、でもどっちかっていうと負けてる。けど、ラルちゃんとの賭けには勝ったと思ってもいいんじゃないかな。
二度の指切りを思い出して、オレはほんの少し、疑問を持て余していた。
オレはどうして、賭けを持ち出したリボーンに頷いてしまったんだろう。
今でも、自分にその理由が説明できないでいる。
「知ってほしかったのかもな、オレ」
ずっと黙っていたことだから。オレの特別になるかもしれない――もう、そうなっている――リボーンになら、離したいと思ってしまったのかもしれない。
無意識に、ずっと外さなかったタグを握り締める。すっかり体温の移ってしまったそれは、ほのかに温かかった。
「この癖も治さないとな」
オレは、多分。元の生活に戻らないといけない。
静かだった部屋に、小さく扉が開く音が響く。オレは寝転がったまま、部屋の入口に目をやった。見えたのはちいさな、人影。距離と逆行で顔は見えない。
「ツナ」
オレを呼んだ声は、とても聞き覚えのあるものだった。
「……リボーン」
名を呼び返すと、リボーンは少しだけ驚いた様子だった。影が動き、彼はオレに言葉を返す。
「起きてたのか?」
「さっきまで寝てた」
「疲れてるんだろう、休んでろ」
そんな事を言いながらも、リボーンは部屋に入ってオレのベッドに歩み寄る。薄明かりに、リボーンの姿が浮かび上がった。
オレンジのラインが入る黒の帽子と、黒のスーツ。くるんとしたもみあげ。帽子の縁にはレオンが乗っている。
初めてみる姿。けど、なんだかはじめての気がしなかった。
ベッドサイドの椅子に飛び乗って、リボーンは黒いまん丸の瞳でオレをじっと見る。そして、口元で笑顔を見せると、
「Ciao,Il mio iride.」
そう、言った。
オレはぱちぱち瞬きをして、リボーンを見つめる。
il mio iride、私の……なんだろう。アイリス、虹彩。意味を幾つか並べて、ひとつの単語に辿りつく。
――私の、虹。
でも、オレは虹じゃない。それを産んだマザーだ。
「虹は……アルコバレーノはお前だろ?」
「意味が違げえ」
リボーンは子供らしくなく、ニヒルに笑った。
「ギリシャ神話だ、知らねえのか?」
「あんまり本は読まないんだ」
あからさまな溜息がひとつ。けれどリボーンは笑みを崩さず、ちいさな手でオレの手を取って、言った。
「チャオ、俺の……虹の女神」
なんてことを。
オレを、女神呼ばわりだと。
あっけに取られて口をぽかんと開けたオレに、恥ずかしい台詞を吐いた癖に照れひとつ見せないリボーンが説明する。
「お決まりの挨拶だぞ。初めて自分のマザーに会った時、こう言うのが慣わしなんだ」
マザーっつーのは俺達にとって、虹を生み出す女神だぞ。
そんな事を、リボーンは恥ずかしげもなく言ってのける。こっちが恥ずかしいじゃないか。
照れるオレに、リボーンはぽつりと言った。
「言ったの、初めてだぞ」
「え?」
初めて?お決まりの挨拶なのに。
つまりはどういうことだ。オレは真剣に考えた。
マザーの死亡率は高い。だから、この挨拶を言わない――言えない時も、あるんだろう。
オレに言ったのが初めてって事は、今までのマザーには言えなかったことで、
つまり、
「…………生き延びたの、オレが初めて?」
たっぷりの間をおいて聞いてみる。するとリボーンはこくんと頷いた。つまりは、今までの死亡率100パーセント。
「……だからかあ」
納得がいった。だから皆、オレが生き延びるかどうかについてああいう反応をしてたんだ。スクアーロが賭けの理由を持ち出しかけたマーモンを止めたのも、オレにその事実を教えたくなかったからだろう。
「よっぽど相性がよかったんだろーな」
そんな事を言うリボーンは、どこか嬉しそうだった。
/////
「さて、早速だが」
椅子の上で居住まいを正して、リボーンは言った。何となく、言いたい事は分かる。
「賭けだぞ」
言葉は、予想通りだった。
「…………うん」
ここまできたらもう覚悟は出来てる。ゆっくり起き上がると、リボーンは心配そうにオレに言った。
「起きて平気なのか?」
「多分。それに、寝たまんまだと危ないし」
部屋の扉もカーテンも閉ざされている。暗い部屋にはランプがひとつ、灯るだけ。
オレは目を閉じて、一度息を吸った。賭けの言葉を聞いた途端どきどきしだした心臓を必死で静める。
(大丈夫だ。リボーンになら、見せられる)
十ヶ月も一緒に居たんだ。今更、だ。
オレは自分の前に右手を差し出す。手のひらを上に、集中する。
一瞬の後、部屋にランプ以外の火が灯った。
「…………っ!?」
リボーンが息を飲む音が聞こえる。知っているのかな、もしかして。
そんな事を思いながらオレはゆっくり目を開け、
手のひらの上で踊る橙色の炎を、見下ろした。
「これが、オレの秘密」
「……ボンゴレの血縁者なのか?」
どうしてか、リボーンはこの炎について詳しいようだった。問いかけにオレは頷く。
「オレ、孤児だから詳しくは知らないんだけど。……初代ボンゴレの末裔らしいよ」
オレは、オレの中に流れてる血がどんなものだろうとあんまり興味はない。
けれど、この血は大変な事を起こしかねないとは知っている。
そう、教えられてる。
九代目はこれを『大空の炎』と呼んでた。特別な、特殊なものだから、秘密にするように。そう、言い聞かせられてた。
今はそれを破っちゃったわけだけど、あんまり後悔はしなかった。
「これがあるから、九代目はオレを養子にしなかった。……まあ、結構子ども扱いしてくるけどさ」
オレの血に炎が宿るから、九代目はオレを見つけて、けれど養女にはしてくれなかった。それは少しだけ悲しい事だったけど、これが無かったら、九代目はオレの前に現れなかった。
今この場に、オレはいなかった。
「だから、この炎は好きじゃないけどちょっとだけ、あってよかったなって思う」
複雑な気持ちをぽつりぽつりと、言えば。リボーンはそうか、と頷いて、答えた。
「養子にすればまず間違いなく、後継者争いに巻き込まれるからな。九代目はそれを避けたかったんだろう」
リボーンの言うとおりだった。本当は、九代目はオレをマフィアに関与させたくなかったらしい。特に、その血が求められる後継者争いに。女でほぼ一般人のオレは、傀儡か血の為の道具になりかねないから。
でもオレはボンゴレを選んだ。少しでも、あの人の役に立ちたくて。
それが、こんな事になるなんてな。
この十ヶ月を思い返して、オレはほんの少し笑った。その笑い声に、ちりちりと、橙の炎が揺らめく。
見下ろすそれは以前よりもやさしい色をしている気がして、オレは不思議と穏やかな気持ちで、それと向き合った。
「綺麗な色だな」
黒目がちの瞳で炎をじっと見つめて、リボーンはふとそんな事を言う。
「そうかな」
オレとしては見慣れてるものだから、綺麗とも何とも思わないけれど。
手をぎゅうと握って炎を消すと、部屋にまた濃い闇が戻る。黒い姿のリボーンはランプが無ければ闇に溶けてしまいそうで、オレは引き止めるように声を掛けた。
「そういえば、今何時?」
さっきから時間が気になってたけど、困ったことにこの部屋には時計が無い。するとリボーンは時計も見ずに即答した。
「もうとっくに十二時回ってるぞ。とっとと寝るんだな」
十二時過ぎ。って事は、今日はもう十月十四日。
オレにとってはある意味特別な日。だから少しだけ、我儘を言ってみたくなった。
「ねえ、リボーン」
「ん?」
「今日、オレの誕生日なんだ」
偶然な事に、予定日――リボーンの産まれた日――その翌日は、かつてオレが産まれた日だった。
「……んな大事なことは早く言え」
知ってたらプレゼント用意してやったのに、と妙な事をリボーンは言う。用意ったって、昨日までお前オレのお腹の中にいたんだぞ。
ツッコミをしたくなるのを堪える。何となく、リボーンなら本当にプレゼントを持ってきかねない気がしたからだ。でもオレは、物質が欲しいわけじゃない。だから首を振って答えた。
「いらないよ。でも一個だけ、お願いしていい?」
「言ってみろ」
緊張する。さっき炎を見せた時とは違う意味でどきどきと鳴る胸を押さえて、オレは言った。
「リボーンを……オレの、家族にして」
ふ、とリボーンは笑った。そして椅子の上で軽くジャンプする。軽い音を立てて身軽にオレの足に飛び乗ると、リボーンはこう返した。
「何言ってんだ、ツナ?んな事聞かなくても、お前は俺のママンで、誰より大事な家族だぞ」
あんまりにも嬉しい言葉だった。思わずリボーンをぎゅうと抱きしめて、小さな身体に顔を寄せる。視界がにじむのを誤魔化すように、何度も瞬きをした。けど、にじみは一向に取れなかった。
「……ありがと」
ぽんぽんと、リボーンのちっちゃな手がオレを撫でた。
「礼を言うのは俺の方だぞ。産んでくれてありがとな、ママン」
ひたすらに幸せな誕生日プレゼントだった。
*****
これで、ひとつのおしまい。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
何か色々語りたいこともあるのですが、上手く言葉にならない気がするので黙っています。若しくはどっかで語ります。
因みにiride(いーりで)が女神の名前とリボーンが言っていますが、これはイタリア語読みの呼び方で、ギリシャ語読みだと「イリス」になります。エレクトラの娘でヘラの腹心だとか。
ベッドサイドのランプがひとつだけ灯る暗い部屋で天井を見上げ、オレはふうと息を吐く。
体が重い。だるい。いたい。
生命をひとつ産み出す行為だ。そりゃあ痛いし死亡率も高いよな。
今更だけど、改めてオレはそう思った。
リボーンはちゃんと産まれた、らしい。出産直後のことはあんまり覚えてないけど、シャマル先生はそういっていた。
オレは――死ななかった。
というか、割と元気だ。容態が急変することもあるから、と研究棟の一室を病室代わりに使わせてもらってるけど、正直もう何日かしたら家に帰れる気さえする。
そういうわけで、オレは賭けに勝って、ある意味負けていた。
いや、リボーンとの賭けは勝ち負けとか無い気もするけど、でもどっちかっていうと負けてる。けど、ラルちゃんとの賭けには勝ったと思ってもいいんじゃないかな。
二度の指切りを思い出して、オレはほんの少し、疑問を持て余していた。
オレはどうして、賭けを持ち出したリボーンに頷いてしまったんだろう。
今でも、自分にその理由が説明できないでいる。
「知ってほしかったのかもな、オレ」
ずっと黙っていたことだから。オレの特別になるかもしれない――もう、そうなっている――リボーンになら、離したいと思ってしまったのかもしれない。
無意識に、ずっと外さなかったタグを握り締める。すっかり体温の移ってしまったそれは、ほのかに温かかった。
「この癖も治さないとな」
オレは、多分。元の生活に戻らないといけない。
静かだった部屋に、小さく扉が開く音が響く。オレは寝転がったまま、部屋の入口に目をやった。見えたのはちいさな、人影。距離と逆行で顔は見えない。
「ツナ」
オレを呼んだ声は、とても聞き覚えのあるものだった。
「……リボーン」
名を呼び返すと、リボーンは少しだけ驚いた様子だった。影が動き、彼はオレに言葉を返す。
「起きてたのか?」
「さっきまで寝てた」
「疲れてるんだろう、休んでろ」
そんな事を言いながらも、リボーンは部屋に入ってオレのベッドに歩み寄る。薄明かりに、リボーンの姿が浮かび上がった。
オレンジのラインが入る黒の帽子と、黒のスーツ。くるんとしたもみあげ。帽子の縁にはレオンが乗っている。
初めてみる姿。けど、なんだかはじめての気がしなかった。
ベッドサイドの椅子に飛び乗って、リボーンは黒いまん丸の瞳でオレをじっと見る。そして、口元で笑顔を見せると、
「Ciao,Il mio iride.」
そう、言った。
オレはぱちぱち瞬きをして、リボーンを見つめる。
il mio iride、私の……なんだろう。アイリス、虹彩。意味を幾つか並べて、ひとつの単語に辿りつく。
――私の、虹。
でも、オレは虹じゃない。それを産んだマザーだ。
「虹は……アルコバレーノはお前だろ?」
「意味が違げえ」
リボーンは子供らしくなく、ニヒルに笑った。
「ギリシャ神話だ、知らねえのか?」
「あんまり本は読まないんだ」
あからさまな溜息がひとつ。けれどリボーンは笑みを崩さず、ちいさな手でオレの手を取って、言った。
「チャオ、俺の……虹の女神」
なんてことを。
オレを、女神呼ばわりだと。
あっけに取られて口をぽかんと開けたオレに、恥ずかしい台詞を吐いた癖に照れひとつ見せないリボーンが説明する。
「お決まりの挨拶だぞ。初めて自分のマザーに会った時、こう言うのが慣わしなんだ」
マザーっつーのは俺達にとって、虹を生み出す女神だぞ。
そんな事を、リボーンは恥ずかしげもなく言ってのける。こっちが恥ずかしいじゃないか。
照れるオレに、リボーンはぽつりと言った。
「言ったの、初めてだぞ」
「え?」
初めて?お決まりの挨拶なのに。
つまりはどういうことだ。オレは真剣に考えた。
マザーの死亡率は高い。だから、この挨拶を言わない――言えない時も、あるんだろう。
オレに言ったのが初めてって事は、今までのマザーには言えなかったことで、
つまり、
「…………生き延びたの、オレが初めて?」
たっぷりの間をおいて聞いてみる。するとリボーンはこくんと頷いた。つまりは、今までの死亡率100パーセント。
「……だからかあ」
納得がいった。だから皆、オレが生き延びるかどうかについてああいう反応をしてたんだ。スクアーロが賭けの理由を持ち出しかけたマーモンを止めたのも、オレにその事実を教えたくなかったからだろう。
「よっぽど相性がよかったんだろーな」
そんな事を言うリボーンは、どこか嬉しそうだった。
/////
「さて、早速だが」
椅子の上で居住まいを正して、リボーンは言った。何となく、言いたい事は分かる。
「賭けだぞ」
言葉は、予想通りだった。
「…………うん」
ここまできたらもう覚悟は出来てる。ゆっくり起き上がると、リボーンは心配そうにオレに言った。
「起きて平気なのか?」
「多分。それに、寝たまんまだと危ないし」
部屋の扉もカーテンも閉ざされている。暗い部屋にはランプがひとつ、灯るだけ。
オレは目を閉じて、一度息を吸った。賭けの言葉を聞いた途端どきどきしだした心臓を必死で静める。
(大丈夫だ。リボーンになら、見せられる)
十ヶ月も一緒に居たんだ。今更、だ。
オレは自分の前に右手を差し出す。手のひらを上に、集中する。
一瞬の後、部屋にランプ以外の火が灯った。
「…………っ!?」
リボーンが息を飲む音が聞こえる。知っているのかな、もしかして。
そんな事を思いながらオレはゆっくり目を開け、
手のひらの上で踊る橙色の炎を、見下ろした。
「これが、オレの秘密」
「……ボンゴレの血縁者なのか?」
どうしてか、リボーンはこの炎について詳しいようだった。問いかけにオレは頷く。
「オレ、孤児だから詳しくは知らないんだけど。……初代ボンゴレの末裔らしいよ」
オレは、オレの中に流れてる血がどんなものだろうとあんまり興味はない。
けれど、この血は大変な事を起こしかねないとは知っている。
そう、教えられてる。
九代目はこれを『大空の炎』と呼んでた。特別な、特殊なものだから、秘密にするように。そう、言い聞かせられてた。
今はそれを破っちゃったわけだけど、あんまり後悔はしなかった。
「これがあるから、九代目はオレを養子にしなかった。……まあ、結構子ども扱いしてくるけどさ」
オレの血に炎が宿るから、九代目はオレを見つけて、けれど養女にはしてくれなかった。それは少しだけ悲しい事だったけど、これが無かったら、九代目はオレの前に現れなかった。
今この場に、オレはいなかった。
「だから、この炎は好きじゃないけどちょっとだけ、あってよかったなって思う」
複雑な気持ちをぽつりぽつりと、言えば。リボーンはそうか、と頷いて、答えた。
「養子にすればまず間違いなく、後継者争いに巻き込まれるからな。九代目はそれを避けたかったんだろう」
リボーンの言うとおりだった。本当は、九代目はオレをマフィアに関与させたくなかったらしい。特に、その血が求められる後継者争いに。女でほぼ一般人のオレは、傀儡か血の為の道具になりかねないから。
でもオレはボンゴレを選んだ。少しでも、あの人の役に立ちたくて。
それが、こんな事になるなんてな。
この十ヶ月を思い返して、オレはほんの少し笑った。その笑い声に、ちりちりと、橙の炎が揺らめく。
見下ろすそれは以前よりもやさしい色をしている気がして、オレは不思議と穏やかな気持ちで、それと向き合った。
「綺麗な色だな」
黒目がちの瞳で炎をじっと見つめて、リボーンはふとそんな事を言う。
「そうかな」
オレとしては見慣れてるものだから、綺麗とも何とも思わないけれど。
手をぎゅうと握って炎を消すと、部屋にまた濃い闇が戻る。黒い姿のリボーンはランプが無ければ闇に溶けてしまいそうで、オレは引き止めるように声を掛けた。
「そういえば、今何時?」
さっきから時間が気になってたけど、困ったことにこの部屋には時計が無い。するとリボーンは時計も見ずに即答した。
「もうとっくに十二時回ってるぞ。とっとと寝るんだな」
十二時過ぎ。って事は、今日はもう十月十四日。
オレにとってはある意味特別な日。だから少しだけ、我儘を言ってみたくなった。
「ねえ、リボーン」
「ん?」
「今日、オレの誕生日なんだ」
偶然な事に、予定日――リボーンの産まれた日――その翌日は、かつてオレが産まれた日だった。
「……んな大事なことは早く言え」
知ってたらプレゼント用意してやったのに、と妙な事をリボーンは言う。用意ったって、昨日までお前オレのお腹の中にいたんだぞ。
ツッコミをしたくなるのを堪える。何となく、リボーンなら本当にプレゼントを持ってきかねない気がしたからだ。でもオレは、物質が欲しいわけじゃない。だから首を振って答えた。
「いらないよ。でも一個だけ、お願いしていい?」
「言ってみろ」
緊張する。さっき炎を見せた時とは違う意味でどきどきと鳴る胸を押さえて、オレは言った。
「リボーンを……オレの、家族にして」
ふ、とリボーンは笑った。そして椅子の上で軽くジャンプする。軽い音を立てて身軽にオレの足に飛び乗ると、リボーンはこう返した。
「何言ってんだ、ツナ?んな事聞かなくても、お前は俺のママンで、誰より大事な家族だぞ」
あんまりにも嬉しい言葉だった。思わずリボーンをぎゅうと抱きしめて、小さな身体に顔を寄せる。視界がにじむのを誤魔化すように、何度も瞬きをした。けど、にじみは一向に取れなかった。
「……ありがと」
ぽんぽんと、リボーンのちっちゃな手がオレを撫でた。
「礼を言うのは俺の方だぞ。産んでくれてありがとな、ママン」
ひたすらに幸せな誕生日プレゼントだった。
*****
これで、ひとつのおしまい。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございます。
何か色々語りたいこともあるのですが、上手く言葉にならない気がするので黙っています。若しくはどっかで語ります。
因みにiride(いーりで)が女神の名前とリボーンが言っていますが、これはイタリア語読みの呼び方で、ギリシャ語読みだと「イリス」になります。エレクトラの娘でヘラの腹心だとか。