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よみきり

部屋に戻ると、「先に帰ってメシ作ってるな!」と言った奴が縮んでいた。
「あ、雲雀……」
座卓に並んだ料理は、僕の時代の山本が作ったものだろう。けれど座るのは、制服姿の子供。
「やあ。またあの子供が暴発させたのかい?」
聞けば子供の山本はこくん、と頷いて眉を下げる。
「もう五分立ったと思うけど、戻れねえのな」
「故障かな」
たまにそうなるのだと、いつだか沢田が愚痴っていた。子供はらしくなく、きょどきょどと落ち着かない様子で僕を見ている。
「どうしたの?」
聞いてみれば、山本は僅かに頬を赤くして、俯いた。らしくない。
「言わないと分からないよ?」
わざと隣に座ってみる。ああ、こんなに小さかったか。今更子供と大人の体格差に気づいた。出会ったときからいつも見上げるばかりだったからどことなく新鮮で、なんだか可愛らしい。
小動物、と呼ぶには大きいけれど。僕の知っているあいつと比べたら、十分それに値する。
「久しぶりに雲雀に会えると思ったら、大人の雲雀になったから……なんか照れるのな」
「久しぶり?」
「合宿行ってたから……」
「そう。お疲れさま」
つむじの見える頭を撫でると、山本は恥ずかしそうに僕を見上げてきた。
「……子供扱いなのな」
「子供だからね」
気が向いて。懐に抱き寄せてみる。今のあいつより体温が高い気がするのは気のせいなのか、それともいわゆる子供体温とか言う奴か。単に恥ずかしさで体温が上がっているだけかもしれない。
その辺は、どうでもいい。
僕だって、いとおしいものを可愛がりたい感情はある。
腕の中で子供はさらに頬を赤くした。
「ひ、雲雀っ!」
「なに?」
「…………なんか、ずりぃのな」
諦めたように、山本は僕に身を寄せてぼやく。なんだか経験したことのないリアクションに頬がゆるむのを自覚する。従順で大人しい子は、嫌いじゃないよ。
「大人だからね」
「……ガッカリしなかったか?」
ふと僕を見上げる、僅かに色の薄い瞳。なにが、と問い返せばその視線は座卓の上の料理に移る。
「大人の俺がメシ作って待ってたのに、俺と入れ替わってたから」
「馬鹿な子」
「な…………!」
「君こそ、がっかりしなかったのかい?久しぶりにあえる僕が、こんな大人になって」
ぶんぶんと頭を横に振る子供。こういう仕草は大人になっても変わらなくて、そういうのを見る度に僕は成長してないね、と笑う。ーー今日は、年相応だけど。
「そんな訳ないのな!」
「僕も同じだよ」
がっかりする訳、ないじゃないか。だって君は紛れなく君だから。
納得したのか、子供にようやく笑みが灯る。うん。君は、笑っていた方がいい。その方が、君らしい。
「雲雀、お仕事お疲れさまなのな!」
きっとあいつも同じ事を言うのだろう。だってこの子は、あいつと同じなのだから。
「君もね」
妬かれるから、この事は秘密。心の中で誓いながら、僕は懐く子供を甘やかした。
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