「あの子もそういうお年頃なんですかねえ」
テーブルに載せたチョコレートを見て、僕は呟いた。ふ、と人の気配を感じて目をやれば、開いたままのドアから沢田綱吉が入ってくる。
「骸、いる？」
「どうしました」
近付いてきた沢田綱吉はテーブルを見て、表情を曇らせる。そして、手に持っていた紙袋から何かを取り出した。
「骸の、馬鹿！」
そう言って投げつけられた固い小さなもの。幾つ持っているのか沢田綱吉は何度も僕に向けてそれを当ててくる。
小さな痛みを与えるそれをひとつ受け止めて、手の中で開いた。
チョコレートが、ひとつ。
ちいさな四角、白と黒の包みにミルクと書かれた包み。
「……ちろるちょこ？」
僕がそれを認識したのを知って、沢田綱吉は顔を赤くし、更に怒鳴った。
「…………、っ、ばか！」
一掴みのちろるちょこを投げつけ、彼はくるりと僕に背を向けて逃走する。
慌てて、僕はその後を追った。
基本的に、彼は鈍い。迂闊にハイパーモードにさせない限り彼を捕まえる事は難しくない。
案の定、数十秒も経たない内に、沢田綱吉は僕の腕の中に収まった。
彼の持つ袋にはまだ何かが入っている。それがちろるちょこなら、一体彼は幾つ買ったのか。
ぼんやり思いながら、僕は声を掛けた。
「僕に何の恨みがありますか沢田綱吉。ちろるだって当たれば痛いですよ」
「だ、だって、昼探したのに、どこも骸が居ないし、」
後ろから捕まえたせいで、顔が見えない。更に、沢田綱吉は俯いて僕に顔を見せようとしない。
「すみませんね。買い物に出ていました」
「チョコ持ってるし」
すねたような、口調。どうやらテーブルに置いたチョコレートの事を指しているらしい。
――あれは、
「クロームからですよ。君も貰ったのでしょう？」
お小遣いから工面して買ってきたらしい、可愛らしい包装のチョコレート。ほんのり頬を染めたクロームはボスにもあげるの、と言っていた。
「貰ったけど……って、え、アレ……クロームから？」
はっとして振り返る沢田綱吉。
相変わらず赤いままの顔は、驚いた様子でいる。
「そうですよ。何か、勘違いしましたか？」
含みありげに問うと彼は視線をそらして袋を僕に突きつけた。
「母さんが、チョコケーキ焼いたから……おすそ分け」
「投げつけたちろるちょこは？」
「あれはオレから……っ！」
とっさに答えた癖に、我に返って沢田綱吉は慌てる。けれど、僕はその言葉を流してやるつもりはさらさら無い。
「君から、僕にですか？」
俯いて答えない沢田綱吉の頬を両手で包む。熱を帯びた頬に、僕の手は冷たすぎるかもしれない。けれど顔が見えないのは嫌だった。
顔を僕に向けさせて、鼻先に口づけた。
「……むく、ろ」
「有難うございます、嬉しいです。なら、散らばったちろるちょこを拾って、お茶にしましょう」
いい茶葉が手に入ったんです。
そう言って微笑むと、彼も表情を柔らかくして笑い返してくれた。




＊＊＊＊＊
むくつな！こんどはしっかりむくつな！！
チョコを投げつける綱吉、というのが降って来たので、した。
これとコロラルでバレンタインページ作ってもよかったんですけど少々面倒（殴）だったのと、書きあがりのタイミングと、あと何の兼ね合いというか整合性というか、うちのサイトにおいてただのカプ話ってどこに置いたらいいのかわからないのでこっちに投下しておきます。