このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

01/新しい世界

あれから他愛もない話をしているうちに、寮へと着きました。
でも僕は、目の前の光景に茫然として固まりました。

な、なんですかこの豪華な建物はっ!

「驚いたか、凛」
「は、はい」

だ、だって! どう見たって寮じゃなくて、高級なホテルとかみたいなんですよっ!
いえ、むしろお城じゃ……

「まぁ、そのうち慣れるさ」
「は、い」

だといいのですが;

「あぁ、忘れるところだった。はい、凛」

そういって目の前にさっと差し出されたのは銀色のカード。

「これ……」

色は違うけれど、さっき理事長さんに差し出されたカードと同じです。

まさか、春人さん……

不安になって、僕は春人さんをおずおずと見上げる。

「あ、勘違いするなよ? これはさっきのカードとは違うからな」
「そう、ですか」

よかった、春人さんは僕に甘いところがあるので心配してしまいました;

でも、そうですよね。
いくら僕に甘いといっても、さすがに倫理感に引っかかりそうなことはしないですよね。

「これは学生証とクレジットカードと寮の鍵を兼ねたカードだ。無くさないようにな?」
「あ、はい、わかりました。ありがとうございます」

春人さんからカードを受け取って、お財布の中へ大事にしまう。

いろいろ兼ね備えた便利なカードですが、それだけなくすと大変なものです。
なくさないように大切に保管します!

「じゃあ、もう行くな」
「はい、送ってくれてありがとうございました」
「どういたしまして。凛──」
「ぅわっ!」

いきなり春人さんに頭を撫でられました。
まるで、小さい子にするみたいに。

もう、春人さんったら;

そう少し気恥ずかしい気持ちで見上げれば、慈愛に満ちた、優しい顔をした春人さんと目が合いました。
優しすぎるその表情に、思わず頬が赤く染まる。

「頑張りなさい。でも、無理はしすぎないように」
「──はい」

そう言う声も、僕を撫でてくる手も、とても優しくて温かいです。
久々に感じる温かさに、自然と顔がゆるむ。

ふふっ、心がなんだかぽかぽかします。

「じゃあ、またな」
「はい、また……」

春人さんは最後に僕の頭をぽんぽんっと撫でたあと、背中を向けて去っていきます。
僕は少し寂しくなりながらも、春人さんが見えなくなるまでその背中を見送りました。

春人さんを見送ったあと、僕は覚悟を決めて寮の入り口へと向かう。

中はどうなっているんでしょう。

ドキドキしながら扉に手をかけて、ゆっくりと開いていく。

「──っ!」

でも、中を見て思わず扉を閉めちゃいました。

な、中は二割増しです;
いえ、もっとでしょうか?

おそるおそるもう一度開けて、やっぱり閉める。

や、やっぱりこんな豪華なところは無理です!

「なにやってんだ? お前」
「わ……っ!」

あまりの豪華さにおどおどしていると、いきなり中から扉が開きました。

驚いて見上げると──
そこには、エプロンを着けた熊のような大きな方がいました。

す、すごい迫力です;

「おい……ってお前、編入生か」
「あ、は、はい。編入生の、沖守 凛と申します。よろしくお願いいたします」

挨拶は大切です。
頭を下げて丁寧に挨拶しました。

あれ? ジッと見られてます。
な、なにか変なところでもあったのでしょうか?

「あ、の……;」
「あ、悪い; 俺は寮監の大隈おおくま あきらだ。よろしくな」
「はい」

なにかしてしまったのかと心配しましたけれど、大丈夫だったみたいです。
優しい笑顔を見せてくれました。

よかったです。

「寮のこと、軽く説明するから中入れ」
「あ、はい」

そう寮監さんに招かれて中に入る。

うぅ、やっぱり豪華すぎて落ち着きません;

「部屋に向かいながら説明するから着いてきてくれ」
「はい」

そう言って歩いてく寮監さんに着いて行く。
さりげなく僕の歩調に合わせてくれてます。

優しい方です。
この方が寮監さんでよかった。

「1階はエントランスとエレベーターホールだけだ。5台あるが、一番右とその隣のエレベーターは専用だから使うな」
「わかりました」

一番右とその隣ですね。
間違えて乗らないように気をつけますっ!

「乗れ、沖守」
「はい」

話している内にエレベーターホールに着きました。
寮監さんに促されて、僕はエレベーターに乗りこむ。

──エレベーターの中も凄く豪華です。
天井も床もキラキラしてます。

僕には眩しいです;

「2階は談話室やシアタールームとかの共有スペース。3階は食堂で──ん? どうした沖守」
「あ、す、すみません。大丈夫です、続けてください;」
「そうか? じゃあ……4階はスーパーで、お前の部屋は37階の498号室だ。わかったか?」
「はい、わかりました」

自分の頭の中で反芻して頷く。

大丈夫、しっかり覚えました。

「同室者がいるから、部屋のことはソイツに聞いてくれ。寮の規則とかは部屋にあるから一度見とけ。難しいことは無いから」
「わかりました」

寮監さんの言葉に頷いたところで、エレベーターが止まりました。

「──着いたな」
「あ、案内はここまでで大丈夫です」

これだけ大きな寮です。
寮監さんなら、きっと忙しいですよね。
だから、甘えてばかりはいけません。

「え?」
「案内はもう大丈夫です。部屋番号はしっかり覚えましたから」
「だが……」

寮監さんはためらうように目線を彷徨わせています。
けれど僕の意志が強いことに気づいたたのか、小さく苦笑しながらも頷いてくれました。

「わかった。……ありがとな」
「いえ、こちらこそありがとうございました」

僕はそうお礼を言って、エレベーターから降りる。

床がふわふわの絨毯で、慣れないからドキドキします;

そのまま足を進めて、自分の部屋を探していく。
部屋が広いのかひとつひとつの扉が離れてて、なかなかスムーズにいきません。

こんなに広くては探すのが大変ですね;

「あ、497号室」

曲がり角の部屋が497号室でした。
ということは、498号室は角を曲がったところですかね?

僕はほっと息をつきながら角を曲がる。

よかった、やっと着い──

「──あっ」
「君は……」

やっと着いたと思ったら、僕の部屋の前に人が居ました。

その方は、僕がさっき怒らせてしまったあの方で──





.
4/10ページ
スキ