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01/新しい世界

3時間もかけて着いた目的の場所。

栞菜かんな学園。
要人などの子息や将来有望な人物しか入学できないといわれる、由緒正しい全寮制の私立男子校。

山の上に作られたそこは自然が豊かで、まるでおとぎ話から抜け出したような豪華で美しいところでした。

「うわぁ……」

門前から見えるのは豊かな自然と、手入れされた美しい庭園。
その中央にある噴水の向こうに見えるのは、海外のお城みたいな大きな建物。
その他にも、いくつも大きな建物が建っています。

ここが──
この広く美しい場所が、今日から僕の通う学園。

思わず見入ってしまいます。
きっと前髪の長いカツラとだて眼鏡がなければ、もっと綺麗に見えるんでしょうね……

でも外せません。
これは、僕が学園生活を平和に過ごすために必要なものだから。

実は訳あって、僕の正体は秘密なのです。
見た目も名前も変えてあります。

今の名前は沖守おきもり りん
違和感はありますが、気に入ってます。

あ、いけません。のんびりしている時間はありませんでした。
早くしないと、理事長さんとの約束の時間に遅れてしまいます;

学園を囲む大きくて豪勢な柵を見上げる。
柱の部分に、インターフォンとカメラが見えました。

押、せばいいのでしょうか……?

僕はおそるおそる、そろりとインターフォンに手を伸ばす。

「編入生の沖守 凛君ですね?」
「……っ」

けれど、インターフォンのボタンを押す前にすぐ側から声をかけられました。
驚いて、体がビクっと跳ねる。

へ、返事をしなくては!

でも、驚きすぎて上手く声が出せません。

せ、せめて、顔を見せてうなづくだけでもっ!

そう思って、声のしたほうに顔を向けると──
やわらかな微笑みを浮かべた、とても綺麗な方と目が合いました。

すごい、綺麗な人……

さらさらした、絹糸のような黒い髪。
小さい顔に、アーチを描いた切れ長の瞳と高い鼻に薄くて色っぽい唇。
180センチはあるんじゃないかと思うくらい高い背。
すらりとしているけれど、男の方らしい体躯。

その美しさに、つい固まってしまいました。

「沖守 凛君ですよね?」
「あ……は、い」

そうしたら再び名前を聞かれて、また体がビクリと跳ねる。

今度は驚いたんじゃありません。
怖くて、です。

微笑みを浮かべているけど、怖い。
声も優しいけど、怖い。

普通の方だったら気づかないかもしれません。

それぐらい、ほんの少し。
ほんの少しですが──
瞳と声が、冷たさを宿してる。

この方、怒ってます。

怖くて、つい目線を反らして俯く。

で、でも、僕がすぐに返事をしなかったから悪いのです。
悪いことをしたなら、あやまらないと。

「あの……申し訳、ありませんでした」

あやまるときは相手の顔を見て言わないといけません。

僕はおずおずとですがまっすぐ見上げて、つまりながらもなんとかあやまる。
けれど、もっと冷たくなりました。

こ、怖いですっ!
表面上は微笑んでいるから、余計に怖さを感じます。

「何にあやまっているのですか?」
「え……?」

あまりの怖さに内心であわあわしていると、そう聞かれてしました。

それは、すぐに返事ができなかったことで──
あぁ、でも喉がつまってうまく言葉が出せません。

「あ、の……そ……の」
「君はなにか悪いことをしたんですか? というか、たとえ悪いことをしていても、何に対してなのかわかってないのにあやまられても不愉快ですよ?」
「……っ」

何に対してかはわかっていますが、言わなければ相手にはわかりません。
しっかりと伝えられなかった僕は、この綺麗な方を怒らせたうえに不愉快にさせてしまったでしょう。

すぐにでもあやまりたいけれど、今の状態ではしっかりあやまれそうにありません。
自己嫌悪に陥りそうです……

「さて、理事長室まで案内しますからついてきてくださいね」
「は、い……」

これ以上迷惑をかけないように、今は大人しくついていきましょう。





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