進撃の小言—生誕祭—
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Eren.2019
「ちょっと待ってよぉー!エレーン!」
「やですよ!ハンジさんっ!」
着いて来ないで下さいっ!、エレンの声が本部に響き渡る。
「ははっ、またやってら」
「エレンも大変だね…」
「でもそれも人類のためならしょうがねぇじゃん」
「そうですよ!そうですよ!エレンには頑張って貰わないと!」
サシャの顔には肉の文字が見え思わず笑う。
「サシャ、顔に肉って書いてある」
「そ、そんなことないですよぉー!」
「エレン…後で必ず助け出す…!」
「み、ミカサ、抑えて」
ミカサの隣でアルミンが声をかけている。
「ま、やるならうちの奇行種上司が追いかけ回してる今の内なんじゃねぇのか?」
「ジャン、口悪いよ」
「あ?本当のことだろうがよ」
「いや。口悪いって」
「ぅるっせーな、この野郎!」
「野郎とは何よ!」
「まぁまぁ…ジャンもハル落ち着いて」
ふんっとジャンから顔を逸らしてミカサたちの方を向く。そしてこれからの事を打ち合わせしていった。
「じゃあ、後はよろしく」
「うん。任せて」
「ヘマすんじゃねぇーよ」
「言われなくても」
「ハルなら大丈夫だろ!なっ!」
「さすがコニー!分かってるね!」
「あぁぁ、出来れば早くお願いしたいですぅ」
「サシャ…美味しいもの食べたいだけでしょ」
バレちゃいましたかー、とお気楽な声が聞こえてクスリと笑ってしまう。なんだかんだ言って本当にこの同期のメンバーが大好きだ。そして今日は重大なミッションが控えている。それを完遂するためには自分の動向が重要視されるため緊張してしまう。
ーーでもやらなきゃ
ミッションをこなすべくある人物を探して歩き回った。
「あ、兵長!」
廊下を歩いている兵長の後ろ姿が見えて呼び止めた。「なんだ」とかなり機嫌が悪そうだ。駆け寄ると敬礼したまま探している人物を見ていないか恐る恐る聞いてみた。
「見てねぇな。声はやたらと聞こえているが」
「あはは…叫びまくってますもんね」
「そうか。今日がその日か?」
「はい、良かったら兵長もいかがですか?」
「いや。お前らで楽しめばいいだろ」
「そんな!美味しい紅茶も用意してるんです!」
紅茶のワードを言った途端、兵長の眉がピクリと動いた。
「ほぅ…うまい茶を飲むのも悪くない」
「はい!」
後ほど第一会議まで来て下さい!失礼します!、とまた本部の中を探し回っては兵士たちに声をかけまくった。
「ミケさん!」
「知らんな。あっちに行ったのは見たぞ」
「ゲルガーさん!」
「知らねぇよ。声は微かに聞こえたが…それより酒は飲めるんだろうな?」
「ナナバさん!」
「さぁ…鍛錬に集中していたからね。悪いな」
「オルオさん!」
「あぁ?!俺があのクソガキを見たかって?あんな生意気な新兵のガキなんざ見て…ぁぐっぅ」
「グンタさん!エルドさん!」
「いや、俺達も見てないな。声なら向こうから聞こえてきたぞ」
「あぁ。厩舎の方じゃないか?」
「ペトラさん!」
「あら、ハル!えぇ?私はここで馬の世話をしてたけど見てないなー。って、大丈夫?」
もう本部の中をくまなく探しているのに全然見つからず息が上がってしまった。
「だ、大丈夫です…後で第一会議室まで来てくださいね…」
「分かったわ」
ヨロヨロとしながらまた探しに駆け出した。
ーー一体どこまで行ったのよー!
鍛錬場に戻って来たがそこで先程声をかけていない兵士たちにも聞いていく。
「ネスさん!」
「どうしたんだ、そんなに息を切らせて。えぇ?見てないなー。シスお前は見たか?」
「いえ、見てませんが…あっ。でも声が本部の方で聞こえたぞ」
「ニファさんっ」
「部屋から出て追いかけて行くのは見たけど…その後は知らないなー。ごめんね?」
「アーベルさんっっ」
「ん?そう言えば出てった後から見てないな。もうじき戻って来るだろ」
「ケイジさんっっっ」
「そう言えば見かけてないな。追いかけて行ったから本部を一周して戻ってくるさ。って、おい。大丈夫か?」
大丈夫です、と声をかけて本部の中を歩く。その時頼りになる人物の背中を見かけてダッシュして肩を掴んだ。
「ぅわぁぁあ!って君か!」
あの人かと思ったよ!と上司の名前を口にしている。
「も、モブリット、さんっ…」
「大丈夫かい?すまないが、部屋から出た後は知らないんだ」
きっとまたどこかで油を売ってるに違いない、と苦渋の表情をしている。もしかしたらこの人が調査兵団の中で一番苦労してるのかもしれない、と思った改めて思った瞬間だった。
「ありがとうございます…後で第一会議室に来て下さいね」
「そうだったね。後で行くよ」
ニコリと笑ったその人の笑顔に癒されつつまた本部の中を探し回る。それでもやっぱりいない。
そこへ一番頼りになる人物の姿を見つけてもう彼しかいないと勇気を出して声をかけた。
「え、エルヴィン団長!」
「なんだ。私に用か?」
ニコリともしないその表情に緊張が走るももう後には引けない。
「エレンを探しているんですが…見かけませんでしたか?!」
団長は「ふむ」と考えたのち、「こっちへ来なさい」とついて来るように言われた。
「確か今日は前に言っていた日だったな?」
「はい!そうです!覚えて下さってたんですか?!」
「そうだな。なかなかないからな」
「ふふっ。きっと楽しいですよ。許可して下さってありがとうございました!」
「礼ならまだ早い。全てが終わってから聞くとしよう」
はい!、そう短く返事をすると団長は振り向きざまに小さく笑ってくれた。団長の笑顔だぁー!と感動していると団長執務室へと着いた。
「私だ」
中へ入ると団長がデスクに向かって声をかけるとにゅっと頭が見え鼻から上半分を覗かせるその人物が誰かすぐにわかった。
「エレン!ここにいたの!」
「ばっ!外に聞こえるだろっ!」
「大丈夫だ、エレン。誰も近くを通っていなかったよ」
「なんでこんなところにいるのよ」
「ハンジさんに体を触らせてくれって言うから逃げたんだけど案外しつこくてよー…廊下で会った団長が匿ってくれたんだ」
本部一周して疲れちまった、と座り込んでいるエレンを見て苦笑する。
「随分探したんだよ?」
「悪りぃ…もう少しだけ隠れさせてくれ」
「それはいいけど…」
チラリと団長を見やると小さく頷く。
「ハル。君に手伝ってもらいたいものがある。エレンも一緒にどうかな?」
「はい!」
「喜んで!」
自分とエレンの声が重なり団長に敬礼する。頼まれたのは書類の整理と団長室の掃除だった。掃除は主にエレンに任せて自分は書類整理を団長に質問しながら手伝っていく。エレンと団長とこんな組み合わせなんてもう二度とないだろうな、と思いながら充実した時を過ごすことが出来た。
部屋が綺麗になる頃、ノックとともに扉が開いてリヴァイ兵長が入って来た。
「なんだ。ここにいるじゃねぇか…」
エレンの姿を見た後部屋を見渡し目を見開いている。
「…悪くない。よくやった」
「ほとんどエレンがやったんですよ」
「兵長のおかげです!」
「あぁ。この調子で頼む」
「それよりリヴァイ。どうした」
「主役のお呼びだ」
「主役?」
「そうなんですね!兵長ありがとうございます!団長も!ありがとうございました!」
「俺は美味い茶が飲めればそれでいい」
「こんな機会はないからな」
「そうですね」
エレンを除く三人でにこやかに会話を進めるとエレンを急かして第1会議室へと向かった。
扉の前に来るとエレンの目に手で目隠しをする。団長が扉を開けてくれお礼を言うとエレンをゆっくり中に入れた。「なにすんだよ、離せ」ともがくが兵長の「じっとしてろ」と一括され大人しくなった。中央まで歩くと「せーの」と声をかけて手を離した。
「エレン、」
「「「お誕生日おめでとぉーー!」」」
パチパチと拍手が降る中、エレンは呆然と立ち竦んでいる。それもそのはず、普段真剣な顔をして話を聞く会議室には装飾が施してあり、食べ物や飲み物が置かれ調査兵団のほとんどのメンバーが集まっていた。
「これ、なんだよ…」
「ふふっ。驚いた?」
「みんなで祝おうって話になって準備してた」
エレンが入って来るとすかさずミカサが駆け寄り説明する。
「どこも怪我はない?変なことさりたり触られたりしてない?」
「あ?そんなことされてねぇよ」
「そう…あの眼鏡は危険だ。エレンを好奇の目で見ている」
「まさかミカサ…」
「その眼鏡ってハンジさんのことじゃ、ないだろうな」
ハンジさんの名前が出て、はたっと思い出した。何かを忘れてるような気がしたがそれが今わかった。
「あ!ハンジさんがいない!」
エレン「まぢか…まだ探してんのかよ」
ミカサ「来なくてもいい」
アルミン「こらミカサ!エレンおめでとう!」
ジャン「放っといても来るだろ。にしてもめでてぇ野郎だな」
コニー「あれぇ?ジャンお前もしかして…ぷくく、」
サシャ「そうですよ、今彼は、ぶふっ、」
ジャン「なんだおめぇら!気持ち悪りぃな!」
コニー「ジャン坊がヤキモチ焼いてるぞー!」
サシャ「やきもちジャン坊ー!ぷくく、」
ジャン「おめぇら!あ、それおれんのだ、芋女!返せっ!」
ジャン、コニー、サシャが会議室の中で暴れ始めたのを見て呆れながら見つめた。
ミケ
「エレン。おめでとう。これからも君の活躍に期待している」
ナナバ
「そうだね、おめでとうと言っておくよ。後は頑張りな」
ゲルガー
「新兵のくせに誕生日を祝ってもらうなんざ…やるじゃねぇかよ。おめっとさん」
シス
「おめでとう。これからも人類のために奮闘してくれ」
ネス
「エレン、おめでとう。一つ大人の階段を登ったな。これから苦労ばかりだろうが仲間を信じて頑張ってくれ」
ニファ
「エレン、誕生日おめでとう!うちの分隊長がいつも暴走してごめんね?これからもよろしく!」
アーベル
「おめでとう。こんな機会はなかなかないからな。今日は楽しませてもらうよ。これからもよろしく頼むな」
ケイジ
「エレン!おめでとぅ!幸せ者だな、お前は!これからも仲間を大事に人類の希望になってくれ!」
オルオ
「よぉー新兵のガキんちょ。いつも言ってるが調子にのんじゃねぇぞ?そのうち肝を冷やしてションベン…ぁづっぅ」
ペトラ
「もおー!オルオはまともにおめでとうも言えないの?!エレン、こんな奴相手にしなくていいから。誕生日おめでとう!これからもよろしくね!」
グンタ
「エレン、おめでとう。これからも仲間として頼ってくれ」
エルド
「おめでとうエレン。こんな奴らばっかだがこれからもよろしく頼む」
モブリット
「エレン。おめでとう。いつもうちの分隊長が無理を言ってすまない。でもこれも人類のためでもある。辛いと思うけど耐えてくれると嬉しい。これからもよろしく頼むよ。あぁ、分隊長のことなら心配いらない。もうそろそろ嗅ぎつけてやってくるからね」
リヴァイ
「…せいぜい楽しむんだな」
エルヴィン
「ははっ。『おめでとう、今この時を大切にしてこれからもよろしく頼む』とリヴァイは言ってるんだ。私からも、君は人類になくてはならない希望になった。君なくして人類の勝利はないだろう。これからもこの調査兵団に貢献してくれ。最後にエレン、おめでとう」
エレン
「みなさん…ありがとうございます!」
「あ、エレン泣いちゃった」
「な、泣いてねぇよ!」
「チッ。汚ねぇな…これで拭け」
「へ、兵長…!」
「寄るな。クソガキ」
なんやかんやでみんなでワイワイと料理や飲み物をつまんで楽しんでいると会議室の扉がバァァーン!とけたたましい音が響き辺りが静まり返った。
「やぁエレン…随分と探したんだよぉ?」
「は、ハンジさん…一体どこまで…」
「そんな訓練で使う森にまでなんて行ってないよ〜。エレンが巨人化して逃げたかもってその後身を隠すために岩の隙間や水の中や木の上…なんてそんなとこまで探してなんてないない!」
ーー探したんだ
ーー探したね
ーーそんな所まで
ーー恐ろしい執念だな
ーー分隊長…何やって…
ーー汚ねぇ
ーーハンジ
それぞれ、胸の内に様々な思いを抱きながら遠い目をしてハンジさんを見ていた。一人だけはギッと睨みつけて。
「大丈夫大丈夫!今日はほら、エレンの誕生日パーティーでしょ?だからプレゼント用意したんだー♪」
ーー嫌な予感しかしない
ーーエレン逃げて
ーーまた変なものを…
ーークソ眼鏡が
ーーハンジ…
ハンジさんが何やら扉でガサゴソとしているのをみんなで静かに見守る。
「じゃジャーン!どう?これ!エレンに着せてみたかったんだよー♪」
「はっ?」
「えっ?」
「うわっ」
「えー」
短い声があちこちから聞こえたがそれもそのはず。ハンジさんが手にしているのは女物の服とカツラだ。
「いやーこれからまたエレンが狙われたりとか身を隠したりとかあるかもしれないだろ?そのために用意してたんだけど女装なんてどうかな?って。むふふ、きっと可愛いんじゃないかな〜」
ジリジリとエレンに近寄るハンジさん。エレンの前にミカサが立つもその前にリヴァイ兵長が立ちはだかる。
「その案は検討する。それでいいな、エルヴィン」
「それは後日検討してみよう。エレンすまないが試しに一度やらせてくれ」
「えぇー!今じゃないのぉー?!」
「嫌ですよ!なんで俺が女もんなんか!」
「今にしてくれー!ぅぶっ」
「それよりてめぇはその汚ねぇなりをどうにかしろ。食いもんに入るだろうが」
さっさとシャワー浴びてきやがれ、兵長につまみ出されたハンジさんは戻ってくることはなくシャワーを浴びに行ったようだった。
そして会議室にはハンジさんが残していった女装用の服とカツラが残る。
「おい、エレン。いーじゃねぇかよ。今ここで晒してみろよ」
「あ?なんか言ったか?」
「それを今試してもいいんじゃねぇかって言ってんだ」
「てめぇ聞いてなかったのかよ!今兵長と団長が後日検討だって!」
「エレンがいいなら今でもいいが?」
「だ、団長…」
エレンを含めて周りを見渡すとみんな興味津々でこちらを見ている。
「エレン。ハンジさんが居ない今のうちじゃない?ハンジさんが居たらまた面倒なことになるよ?」
ボソリとエレンに呟くとギュッと目を瞑りなにかと格闘している彼。
「だぁ!分かりました!一瞬だけだぞ!」
そう言って前を向くとジャケットとシャツを脱いでワンピースを着る。そしてズボンとブーツも取り払い最後に栗色で肩までのカツラを被った。そしてゆっくりこっちを振り向くエレン。
「団長…どうでしょうか」
「ふむ。悪くない」
「目つきの悪りぃ女って感じか」
「エレン、なかなか似合ってる」
「エレン、可愛い」
「似合ってんじゃねぇかよ。ぶふっ」
「最高だな!がははは!」
「ひー!お腹が痛いですぅー!」
「ちょ、みんな笑いすぎだよ!」
ジャン、コニー、サシャは大笑いしてそれが伝染してみんなで笑い合う。
当のエレンはまた前を向くと兵服に着替え始めた。
ーーあれ?それより…
「ヅラだけ女物でも良かったんじゃ」
それを言うとエレンが目をまん丸く見開いた。
「そうだ。何も格好まで変えなくても…くそっ!」
「おまたせ〜!って、あれ?みんなどうしたの?」
エレンの怒りが部屋の中に充満する頃、運悪く、本当に運悪くハンジさんがやってきた。エレンの様子に少しタジタジなハンジさん。
「ハンジさん…覚悟して下さいよ…」
「ちょ、何?!どういうこと?!誰か説明してよー!エルヴィーン!モブリットー!リヴァーイ!!」
バタバタと二人が出て行ってしまい静かになる会議室。
「主役がいなくなっちゃった」
「まぁでも私たちは私達で楽しもう!」
その後はみんなでお茶を楽しみ会話に花を咲かせたのだった。
ーーー
「ちょっと何がどうなってんの?!」
「ぐぉぉぉおー!」
「エレーン!巨人化解けー!この反抗期ー!」
逃げ回るハンジさんを追いかけてるうちに体に傷を作ったエレンが巨人化。それに気付いたみんなが立体機動装置をつけて鎮静化するのに大変だった。
そして二度とエレンの誕生日パーティーはしない、という団長のお達しが出てしまい、ハンジさんとエレンは罰として調査兵団を隅々まで掃除するという命令が下された。
「散々な誕生日になっちまった」
「そうだね。でもみんなの記憶には残ったんじゃないかな?」
ふふっと笑ってエレンを見れば空を見上げて「そうだな」と漏らした。
「そういやお前からプレゼントもらってねぇな」
なんかあるのか?、と嬉しそうに目をキラキラと輝かせている彼を見て「あるよ」と答えた。
「目を閉じて。手を出して」
「なんだなんだ。ハルは何をくれ……んなっ?!」
差し出された手を握りその頬にキスを一つ落とす。当然彼は驚くわけでその様子を自分も頬を染めながら見つめた。
「へへっ。これが私からのプレゼント。おめでとう」
エレンにとってこの誕生日プレゼントはどう捉えられるか。それは本人しか知らない。
Happy Birthday!Eren!
Eren.2019
fin.
2019.3.30
「ちょっと待ってよぉー!エレーン!」
「やですよ!ハンジさんっ!」
着いて来ないで下さいっ!、エレンの声が本部に響き渡る。
「ははっ、またやってら」
「エレンも大変だね…」
「でもそれも人類のためならしょうがねぇじゃん」
「そうですよ!そうですよ!エレンには頑張って貰わないと!」
サシャの顔には肉の文字が見え思わず笑う。
「サシャ、顔に肉って書いてある」
「そ、そんなことないですよぉー!」
「エレン…後で必ず助け出す…!」
「み、ミカサ、抑えて」
ミカサの隣でアルミンが声をかけている。
「ま、やるならうちの奇行種上司が追いかけ回してる今の内なんじゃねぇのか?」
「ジャン、口悪いよ」
「あ?本当のことだろうがよ」
「いや。口悪いって」
「ぅるっせーな、この野郎!」
「野郎とは何よ!」
「まぁまぁ…ジャンもハル落ち着いて」
ふんっとジャンから顔を逸らしてミカサたちの方を向く。そしてこれからの事を打ち合わせしていった。
「じゃあ、後はよろしく」
「うん。任せて」
「ヘマすんじゃねぇーよ」
「言われなくても」
「ハルなら大丈夫だろ!なっ!」
「さすがコニー!分かってるね!」
「あぁぁ、出来れば早くお願いしたいですぅ」
「サシャ…美味しいもの食べたいだけでしょ」
バレちゃいましたかー、とお気楽な声が聞こえてクスリと笑ってしまう。なんだかんだ言って本当にこの同期のメンバーが大好きだ。そして今日は重大なミッションが控えている。それを完遂するためには自分の動向が重要視されるため緊張してしまう。
ーーでもやらなきゃ
ミッションをこなすべくある人物を探して歩き回った。
「あ、兵長!」
廊下を歩いている兵長の後ろ姿が見えて呼び止めた。「なんだ」とかなり機嫌が悪そうだ。駆け寄ると敬礼したまま探している人物を見ていないか恐る恐る聞いてみた。
「見てねぇな。声はやたらと聞こえているが」
「あはは…叫びまくってますもんね」
「そうか。今日がその日か?」
「はい、良かったら兵長もいかがですか?」
「いや。お前らで楽しめばいいだろ」
「そんな!美味しい紅茶も用意してるんです!」
紅茶のワードを言った途端、兵長の眉がピクリと動いた。
「ほぅ…うまい茶を飲むのも悪くない」
「はい!」
後ほど第一会議まで来て下さい!失礼します!、とまた本部の中を探し回っては兵士たちに声をかけまくった。
「ミケさん!」
「知らんな。あっちに行ったのは見たぞ」
「ゲルガーさん!」
「知らねぇよ。声は微かに聞こえたが…それより酒は飲めるんだろうな?」
「ナナバさん!」
「さぁ…鍛錬に集中していたからね。悪いな」
「オルオさん!」
「あぁ?!俺があのクソガキを見たかって?あんな生意気な新兵のガキなんざ見て…ぁぐっぅ」
「グンタさん!エルドさん!」
「いや、俺達も見てないな。声なら向こうから聞こえてきたぞ」
「あぁ。厩舎の方じゃないか?」
「ペトラさん!」
「あら、ハル!えぇ?私はここで馬の世話をしてたけど見てないなー。って、大丈夫?」
もう本部の中をくまなく探しているのに全然見つからず息が上がってしまった。
「だ、大丈夫です…後で第一会議室まで来てくださいね…」
「分かったわ」
ヨロヨロとしながらまた探しに駆け出した。
ーー一体どこまで行ったのよー!
鍛錬場に戻って来たがそこで先程声をかけていない兵士たちにも聞いていく。
「ネスさん!」
「どうしたんだ、そんなに息を切らせて。えぇ?見てないなー。シスお前は見たか?」
「いえ、見てませんが…あっ。でも声が本部の方で聞こえたぞ」
「ニファさんっ」
「部屋から出て追いかけて行くのは見たけど…その後は知らないなー。ごめんね?」
「アーベルさんっっ」
「ん?そう言えば出てった後から見てないな。もうじき戻って来るだろ」
「ケイジさんっっっ」
「そう言えば見かけてないな。追いかけて行ったから本部を一周して戻ってくるさ。って、おい。大丈夫か?」
大丈夫です、と声をかけて本部の中を歩く。その時頼りになる人物の背中を見かけてダッシュして肩を掴んだ。
「ぅわぁぁあ!って君か!」
あの人かと思ったよ!と上司の名前を口にしている。
「も、モブリット、さんっ…」
「大丈夫かい?すまないが、部屋から出た後は知らないんだ」
きっとまたどこかで油を売ってるに違いない、と苦渋の表情をしている。もしかしたらこの人が調査兵団の中で一番苦労してるのかもしれない、と思った改めて思った瞬間だった。
「ありがとうございます…後で第一会議室に来て下さいね」
「そうだったね。後で行くよ」
ニコリと笑ったその人の笑顔に癒されつつまた本部の中を探し回る。それでもやっぱりいない。
そこへ一番頼りになる人物の姿を見つけてもう彼しかいないと勇気を出して声をかけた。
「え、エルヴィン団長!」
「なんだ。私に用か?」
ニコリともしないその表情に緊張が走るももう後には引けない。
「エレンを探しているんですが…見かけませんでしたか?!」
団長は「ふむ」と考えたのち、「こっちへ来なさい」とついて来るように言われた。
「確か今日は前に言っていた日だったな?」
「はい!そうです!覚えて下さってたんですか?!」
「そうだな。なかなかないからな」
「ふふっ。きっと楽しいですよ。許可して下さってありがとうございました!」
「礼ならまだ早い。全てが終わってから聞くとしよう」
はい!、そう短く返事をすると団長は振り向きざまに小さく笑ってくれた。団長の笑顔だぁー!と感動していると団長執務室へと着いた。
「私だ」
中へ入ると団長がデスクに向かって声をかけるとにゅっと頭が見え鼻から上半分を覗かせるその人物が誰かすぐにわかった。
「エレン!ここにいたの!」
「ばっ!外に聞こえるだろっ!」
「大丈夫だ、エレン。誰も近くを通っていなかったよ」
「なんでこんなところにいるのよ」
「ハンジさんに体を触らせてくれって言うから逃げたんだけど案外しつこくてよー…廊下で会った団長が匿ってくれたんだ」
本部一周して疲れちまった、と座り込んでいるエレンを見て苦笑する。
「随分探したんだよ?」
「悪りぃ…もう少しだけ隠れさせてくれ」
「それはいいけど…」
チラリと団長を見やると小さく頷く。
「ハル。君に手伝ってもらいたいものがある。エレンも一緒にどうかな?」
「はい!」
「喜んで!」
自分とエレンの声が重なり団長に敬礼する。頼まれたのは書類の整理と団長室の掃除だった。掃除は主にエレンに任せて自分は書類整理を団長に質問しながら手伝っていく。エレンと団長とこんな組み合わせなんてもう二度とないだろうな、と思いながら充実した時を過ごすことが出来た。
部屋が綺麗になる頃、ノックとともに扉が開いてリヴァイ兵長が入って来た。
「なんだ。ここにいるじゃねぇか…」
エレンの姿を見た後部屋を見渡し目を見開いている。
「…悪くない。よくやった」
「ほとんどエレンがやったんですよ」
「兵長のおかげです!」
「あぁ。この調子で頼む」
「それよりリヴァイ。どうした」
「主役のお呼びだ」
「主役?」
「そうなんですね!兵長ありがとうございます!団長も!ありがとうございました!」
「俺は美味い茶が飲めればそれでいい」
「こんな機会はないからな」
「そうですね」
エレンを除く三人でにこやかに会話を進めるとエレンを急かして第1会議室へと向かった。
扉の前に来るとエレンの目に手で目隠しをする。団長が扉を開けてくれお礼を言うとエレンをゆっくり中に入れた。「なにすんだよ、離せ」ともがくが兵長の「じっとしてろ」と一括され大人しくなった。中央まで歩くと「せーの」と声をかけて手を離した。
「エレン、」
「「「お誕生日おめでとぉーー!」」」
パチパチと拍手が降る中、エレンは呆然と立ち竦んでいる。それもそのはず、普段真剣な顔をして話を聞く会議室には装飾が施してあり、食べ物や飲み物が置かれ調査兵団のほとんどのメンバーが集まっていた。
「これ、なんだよ…」
「ふふっ。驚いた?」
「みんなで祝おうって話になって準備してた」
エレンが入って来るとすかさずミカサが駆け寄り説明する。
「どこも怪我はない?変なことさりたり触られたりしてない?」
「あ?そんなことされてねぇよ」
「そう…あの眼鏡は危険だ。エレンを好奇の目で見ている」
「まさかミカサ…」
「その眼鏡ってハンジさんのことじゃ、ないだろうな」
ハンジさんの名前が出て、はたっと思い出した。何かを忘れてるような気がしたがそれが今わかった。
「あ!ハンジさんがいない!」
エレン「まぢか…まだ探してんのかよ」
ミカサ「来なくてもいい」
アルミン「こらミカサ!エレンおめでとう!」
ジャン「放っといても来るだろ。にしてもめでてぇ野郎だな」
コニー「あれぇ?ジャンお前もしかして…ぷくく、」
サシャ「そうですよ、今彼は、ぶふっ、」
ジャン「なんだおめぇら!気持ち悪りぃな!」
コニー「ジャン坊がヤキモチ焼いてるぞー!」
サシャ「やきもちジャン坊ー!ぷくく、」
ジャン「おめぇら!あ、それおれんのだ、芋女!返せっ!」
ジャン、コニー、サシャが会議室の中で暴れ始めたのを見て呆れながら見つめた。
ミケ
「エレン。おめでとう。これからも君の活躍に期待している」
ナナバ
「そうだね、おめでとうと言っておくよ。後は頑張りな」
ゲルガー
「新兵のくせに誕生日を祝ってもらうなんざ…やるじゃねぇかよ。おめっとさん」
シス
「おめでとう。これからも人類のために奮闘してくれ」
ネス
「エレン、おめでとう。一つ大人の階段を登ったな。これから苦労ばかりだろうが仲間を信じて頑張ってくれ」
ニファ
「エレン、誕生日おめでとう!うちの分隊長がいつも暴走してごめんね?これからもよろしく!」
アーベル
「おめでとう。こんな機会はなかなかないからな。今日は楽しませてもらうよ。これからもよろしく頼むな」
ケイジ
「エレン!おめでとぅ!幸せ者だな、お前は!これからも仲間を大事に人類の希望になってくれ!」
オルオ
「よぉー新兵のガキんちょ。いつも言ってるが調子にのんじゃねぇぞ?そのうち肝を冷やしてションベン…ぁづっぅ」
ペトラ
「もおー!オルオはまともにおめでとうも言えないの?!エレン、こんな奴相手にしなくていいから。誕生日おめでとう!これからもよろしくね!」
グンタ
「エレン、おめでとう。これからも仲間として頼ってくれ」
エルド
「おめでとうエレン。こんな奴らばっかだがこれからもよろしく頼む」
モブリット
「エレン。おめでとう。いつもうちの分隊長が無理を言ってすまない。でもこれも人類のためでもある。辛いと思うけど耐えてくれると嬉しい。これからもよろしく頼むよ。あぁ、分隊長のことなら心配いらない。もうそろそろ嗅ぎつけてやってくるからね」
リヴァイ
「…せいぜい楽しむんだな」
エルヴィン
「ははっ。『おめでとう、今この時を大切にしてこれからもよろしく頼む』とリヴァイは言ってるんだ。私からも、君は人類になくてはならない希望になった。君なくして人類の勝利はないだろう。これからもこの調査兵団に貢献してくれ。最後にエレン、おめでとう」
エレン
「みなさん…ありがとうございます!」
「あ、エレン泣いちゃった」
「な、泣いてねぇよ!」
「チッ。汚ねぇな…これで拭け」
「へ、兵長…!」
「寄るな。クソガキ」
なんやかんやでみんなでワイワイと料理や飲み物をつまんで楽しんでいると会議室の扉がバァァーン!とけたたましい音が響き辺りが静まり返った。
「やぁエレン…随分と探したんだよぉ?」
「は、ハンジさん…一体どこまで…」
「そんな訓練で使う森にまでなんて行ってないよ〜。エレンが巨人化して逃げたかもってその後身を隠すために岩の隙間や水の中や木の上…なんてそんなとこまで探してなんてないない!」
ーー探したんだ
ーー探したね
ーーそんな所まで
ーー恐ろしい執念だな
ーー分隊長…何やって…
ーー汚ねぇ
ーーハンジ
それぞれ、胸の内に様々な思いを抱きながら遠い目をしてハンジさんを見ていた。一人だけはギッと睨みつけて。
「大丈夫大丈夫!今日はほら、エレンの誕生日パーティーでしょ?だからプレゼント用意したんだー♪」
ーー嫌な予感しかしない
ーーエレン逃げて
ーーまた変なものを…
ーークソ眼鏡が
ーーハンジ…
ハンジさんが何やら扉でガサゴソとしているのをみんなで静かに見守る。
「じゃジャーン!どう?これ!エレンに着せてみたかったんだよー♪」
「はっ?」
「えっ?」
「うわっ」
「えー」
短い声があちこちから聞こえたがそれもそのはず。ハンジさんが手にしているのは女物の服とカツラだ。
「いやーこれからまたエレンが狙われたりとか身を隠したりとかあるかもしれないだろ?そのために用意してたんだけど女装なんてどうかな?って。むふふ、きっと可愛いんじゃないかな〜」
ジリジリとエレンに近寄るハンジさん。エレンの前にミカサが立つもその前にリヴァイ兵長が立ちはだかる。
「その案は検討する。それでいいな、エルヴィン」
「それは後日検討してみよう。エレンすまないが試しに一度やらせてくれ」
「えぇー!今じゃないのぉー?!」
「嫌ですよ!なんで俺が女もんなんか!」
「今にしてくれー!ぅぶっ」
「それよりてめぇはその汚ねぇなりをどうにかしろ。食いもんに入るだろうが」
さっさとシャワー浴びてきやがれ、兵長につまみ出されたハンジさんは戻ってくることはなくシャワーを浴びに行ったようだった。
そして会議室にはハンジさんが残していった女装用の服とカツラが残る。
「おい、エレン。いーじゃねぇかよ。今ここで晒してみろよ」
「あ?なんか言ったか?」
「それを今試してもいいんじゃねぇかって言ってんだ」
「てめぇ聞いてなかったのかよ!今兵長と団長が後日検討だって!」
「エレンがいいなら今でもいいが?」
「だ、団長…」
エレンを含めて周りを見渡すとみんな興味津々でこちらを見ている。
「エレン。ハンジさんが居ない今のうちじゃない?ハンジさんが居たらまた面倒なことになるよ?」
ボソリとエレンに呟くとギュッと目を瞑りなにかと格闘している彼。
「だぁ!分かりました!一瞬だけだぞ!」
そう言って前を向くとジャケットとシャツを脱いでワンピースを着る。そしてズボンとブーツも取り払い最後に栗色で肩までのカツラを被った。そしてゆっくりこっちを振り向くエレン。
「団長…どうでしょうか」
「ふむ。悪くない」
「目つきの悪りぃ女って感じか」
「エレン、なかなか似合ってる」
「エレン、可愛い」
「似合ってんじゃねぇかよ。ぶふっ」
「最高だな!がははは!」
「ひー!お腹が痛いですぅー!」
「ちょ、みんな笑いすぎだよ!」
ジャン、コニー、サシャは大笑いしてそれが伝染してみんなで笑い合う。
当のエレンはまた前を向くと兵服に着替え始めた。
ーーあれ?それより…
「ヅラだけ女物でも良かったんじゃ」
それを言うとエレンが目をまん丸く見開いた。
「そうだ。何も格好まで変えなくても…くそっ!」
「おまたせ〜!って、あれ?みんなどうしたの?」
エレンの怒りが部屋の中に充満する頃、運悪く、本当に運悪くハンジさんがやってきた。エレンの様子に少しタジタジなハンジさん。
「ハンジさん…覚悟して下さいよ…」
「ちょ、何?!どういうこと?!誰か説明してよー!エルヴィーン!モブリットー!リヴァーイ!!」
バタバタと二人が出て行ってしまい静かになる会議室。
「主役がいなくなっちゃった」
「まぁでも私たちは私達で楽しもう!」
その後はみんなでお茶を楽しみ会話に花を咲かせたのだった。
ーーー
「ちょっと何がどうなってんの?!」
「ぐぉぉぉおー!」
「エレーン!巨人化解けー!この反抗期ー!」
逃げ回るハンジさんを追いかけてるうちに体に傷を作ったエレンが巨人化。それに気付いたみんなが立体機動装置をつけて鎮静化するのに大変だった。
そして二度とエレンの誕生日パーティーはしない、という団長のお達しが出てしまい、ハンジさんとエレンは罰として調査兵団を隅々まで掃除するという命令が下された。
「散々な誕生日になっちまった」
「そうだね。でもみんなの記憶には残ったんじゃないかな?」
ふふっと笑ってエレンを見れば空を見上げて「そうだな」と漏らした。
「そういやお前からプレゼントもらってねぇな」
なんかあるのか?、と嬉しそうに目をキラキラと輝かせている彼を見て「あるよ」と答えた。
「目を閉じて。手を出して」
「なんだなんだ。ハルは何をくれ……んなっ?!」
差し出された手を握りその頬にキスを一つ落とす。当然彼は驚くわけでその様子を自分も頬を染めながら見つめた。
「へへっ。これが私からのプレゼント。おめでとう」
エレンにとってこの誕生日プレゼントはどう捉えられるか。それは本人しか知らない。
Happy Birthday!Eren!
Eren.2019
fin.
2019.3.30
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