進撃の小言—生誕祭—
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壁が壊され人が巨人になるという事実が明かになり壁内の情勢に乱れが生じ混沌としていた。
「何ボサッとしてやがる!遅れをとるんじゃねぇ!」
「はいっ!」
ここは内地よりも北にあるウォール・ローゼ内の森の中。立体起動装置とは少し違う装具を身に纏い訓練をしているところだ。パシュッとアンカーが噴出される音が周りに響き仲間が通り過ぎて行く。
ーーまだこれには慣れないな…
両手に銃を持ってそこから散弾とアンカーが発射できる。右手の銃から伸びるアンカーにぶら下がり空を駆け左手の銃を目標に定めアンカーを発射させるがカンッと外れ体がそのまま落下する。
「くっ!」
急いでアンカーを発射させ体を支えた。
ーーふぅ……間一髪……
「おいおいおい。おめぇ…そんなんでやっていけんのか?」
「隊長!すみません…!」
ハットを被った自分よりも20いや30以上か?それくらい歳上の彼、この隊の隊長ことケニー・アッカーマン。彼はその歳で身のこなしが凄い。自分とは雲泥の差だ。
この部隊をつくって一体何を考えているのか。大いなる夢とか言っていたがその腹の内は誰にも分からなかった。
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「ハル。ちょっといいか」
ある日上司に面倒くさそうに呼ばれ後をついて行く。
上司の部屋に入ると一応敬礼する。
「そういうのはいらん。君への用件はある部隊への徴集だ」
「ある部隊、ですか?」
「そうだ。俺らも詳しいことは聞いてない。これは極秘だ。後日ここへ向かってくれ」
上司から手紙を受け取ると「終わりだ」とこれまたやる気なさげな視線をこちらに向ける。敬礼して部屋を後にするが何故自分がそんな極秘の部隊に集められるのか不思議だった。
数日後。
手紙に記されていた場所へと向かうと既に人が集まり整列していた。自分も並び待っているとハットを深く被り長いコートを羽織った長身の男が出てきた。
その男はケニー・アッカーマンと名乗り、この新設された部隊の隊長だと言う。
「調査兵団の対抗組織なんて大義名分。俺が考えた建前に過ぎねぇ」
「何の体裁かって?そりゃあすべては、大いなる夢のためだ」
彼はそう言って笑っていた。
ーー対人制圧部隊
それが私の新しい居場所、ってことか……
ーーーーーーーーーーーーー
そしてその対人制圧部隊の鍵となる新しい兵器、
対人立体起動装置の訓練が行われた。北の地で集められたメンバーみんなで寝泊まりし日々訓練に励む。しかし慣れないものは慣れない。自分はみんなよりも遅れをとっておりいつも隊長である彼に注意される日々が続いた。
「時間があまりねぇんだ。俺が教えてやる」
ある時痺れを切らした彼がつきっきりでアンカーを発射させるタイミングなど教えてくれた。兵士なので一日もあれば十分だった。もともと狙撃の腕には自信があったので対人立体起動装置さえ使いこなせれば仲間に追いつくには容易かった。
「やりゃあ出来るじゃねぇか」
空を駆けながら狙撃の練習をしており全てに命中させ着地すると彼に話しかけられた。
「銃の扱いには慣れてましたから。それに隊長のおかげです」
「そうかよ」
たった一言だけ言うと彼は背を向けて去って行った。
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ーー確か隊長の誕生日がもうすぐだったはず…
ある日食堂で他の兵士が話している会話が耳に入り隊長がまた歳を取ると嘆いるとのこと。彼のおかげで対人立体起動装置の扱いにも慣れたのでお礼も兼ねて何か贈ろうと考えた。
数日後の夜。
それを手に持って彼を探す。部屋は知らないため宿舎の中を探していると食堂で音がした。中を覗くと隅の方で彼が酒を飲んでいる。周りを見渡すと誰も居なかったので意を決して彼に近付く。
「あの、隊長…」
「あ?なんだおめぇか。なんか用か?」
ジロリと視線だけ見上げ鋭い視線が突き刺さり思わず体が強張る。が、ここで引いてしまってはせっかく声をかけた意味がない。小さく深呼吸をしスッと彼の前に手を持っていたものを差し出した。
「隊長にこれを…」
「なんだ?こりゃぁ」
「贈り物です」
「はっ。いらねぇよそんなもん」
彼は鼻で笑って要らないと容赦なく言葉で突き返された。なんとなく想像はしていたが実際目の前で言われるとやはり堪える。
「そう、ですよね…出過ぎた真似をしてすみません…」
下を俯きながら差し出した手を引っ込める。
「ではこれは食堂に置いておきます。みなさんで飲んで下さい」
「あ?中身は酒か?」
「はい…お酒のことは詳しく知らないのでお店の人に聞いていいものを選んだんです」
苦笑しながら話すと彼は手を伸ばして持っていた酒を取りあげた。袋を開けて包み紙も取るとニヤッと笑っているではないか。
「こりゃあ上等な代物じゃねぇか。高かったんじゃねぇのか?」
「そうですね…思ったよりも値段はしましたが日頃のお礼も兼ねて隊長へ誕生日の贈り物です」
苦笑しながら話せば一瞬間をおいて笑い出す彼。
「ははっ!そりゃあいい。この歳になって女から贈り物とはな」
ニヤリと口角を上げて笑うと立ち上がり奥へ行ったと思ったら手にグラスを持っていた。
「ほら。おめぇも付き合え」
「しかしっ!」
「あぁん?俺の気分が変わらねぇ内に飲め」
ほら、とグラスを突き出してくるので恐る恐る受け取り彼の前に座ろうとしたが、「こっちに座って酌でもしやがれ」と言うので隣に移動して座る。酒を開けて彼のグラスに注ぐと一口飲みニヤッとする。
「確かにいい酒だ」
おめぇも飲んでみろ、とグラスに注いでくれるので「では」と声をかけ一口飲む。アルコールが強いがほんのり甘みがあって美味しい。思わず呟くと「だろ?」と隣から声がする。
「隊長、誕生日おめでとうございます」
隣に座る彼を見上げ微笑んで声をかけた。
けっ、と鼻で笑われたがこれだけ言えたら十分でグラスに注がれているお酒を少しずつあけていった。酒の力も借りて彼への緊張もほぐれ簡単な身の上話をしていく。
「隊長……そろそろ私戻ります…」
グラス一杯空けただけなのに酔いが回ってフラフラしだした。これ以上飲むと彼に迷惑をかけると思って声をかけ立ち上がろうとしたがよろけてしまう。
「おっと」
腰に腕を回されまた椅子に座る。
「おいおい。酒弱ぇのか?」
「いえ…普段はこんなすぐに酔いは回らないです…」
すみません、と彼を見て謝るとため息をついている。
「しょうがねぇ」
彼はそう言うと「もう少し付き合え」と体が宙に浮いた。
「へっ?」
「いいからじっとしてろ」
見上げれば彼の顔が至近距離にあり自分がお姫様抱っこをされてることに気付くと顔に熱が集まるのが分かった。どこへ向かっているのかだいぶ歩くとある扉の前で止まった。みんなが寝泊りをしている部屋からは奥まった場所だ。こっちの方には来たことがなかったため不思議に思っていると扉を開けて中に入る。彼に抱き上げられたままキョロキョロと部屋を見渡すと暗くて分かりにくいが広くない部屋にベッドと小さめのテーブルと椅子がある。ベッドの足元にはトランクらしきものがあってそこに彼の荷物が入っているのだと推測できた。
ベッドにドサッと降ろされるとランプに明かりを灯す彼。着用していたベルトなどを外していく彼の姿を見つめた。まだふわふわした頭で体を起こして見ていると近付いてベッドに腰掛けてきた。
「俺の誕生日なんだろ?だったらいいよな?」
「きゃっ」
彼はニヤリと笑うとトンと肩を押されてまたベッドに倒れた。思わず目を閉じ小さく声を上げる。すぐ目を開けると彼が自分の上にいて組み敷かれていた。
「た、隊長…何を…?」
これから何をされるのか想像できて一瞬で酔いが覚めた。彼は片手でシャツのボタンを外しながらこちらを見ている。ボタンが外れたその隙間から彼の肉体が見え思わず息を飲む。
「何ってそりゃおめぇ…男と女がすることっていや一つしかねぇだろ」
「いや、でも私じゃ隊長を満足させることは出来ないです!」
焦って彼を止めようとするがどうやらやめる気はないようだ。彼は何も言わずジロリと見下ろすと手首を掴み頭上で押さえ込まれる。その手から逃れようと動かすがビクともしない。
「あの、待って下さい!」
「あ?いい加減諦めろ。結婚もしてなけりゃ男もいねぇとさっき言ってたのはおめぇだろ?だったら俺がよくしてやる」
若え女が抱けるのが一番の贈りもんかもしれねぇな、と呟く彼にどうすることも出来ず。彼への贈り物は酒だけのつもりだったが自分まで贈り物になるなんて誰が予想できたか。でももしかしたら頭の片隅ではこんな展開を考えていたのかもしれない。抵抗はしてみるもののそこまで嫌ではないからだ。歳はかなり離れているが彼と同年齢ぐらいの人達とは違い若く見え彼がどんな風に女性を抱くのかも興味があるのも事実。ならば覚悟を決めるしかないと彼を見上げた。
「なんだ?怖くねぇのか?」
「怖くない、と言ったら嘘になりますけど…隊長の誕生日ですから…」
「そうかよ。なら、遠慮なく頂くとするか」
彼はまたニヤリと笑うと顔を近付け口付けをする。それは先程まで飲んでいたお酒の味がして年を重ねた彼の大人のキスだった。
歳の離れた彼への贈り物をしたつもりなのに何故か自分が満たされることになろうとは。
酒の力は恐るべしと彼に抱かれながら思わずにはいられなかった。
Happy Birthday!
ケニー・アッカーマン
2019.2.4
fin.
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