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胸に響くその音を

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7.手当て

その日の放課後。

弓道場へ「失礼します」と入るや否や女子部員達に囲まれる。


「昨日、小野木くんと一緒に帰ってたよね?!どういう事?!」

と、ゆうな。

「彼が女性と共に帰宅するなんて…嵐でもやって来そうですわね」

と、白菊。

「確かに。あの小野木が女子と一緒に帰るなんて珍しすぎる。あんた、一体何をやらかしたんだ?」

と、妹尾。


「え、えぇ〜と…皆落ち着いて…?」


声は小さいが気迫が凄い。
特にゆうな。

どう説明しようかと考えているところに声がした。


「皆、ハルさんが困ってるじゃないか。」

その辺にしておくべきだ、と続けるこの声は竹早のものだった。


「いやいや!だってあの小野木だよ!部長は気にならないの?!」

竹早にも詰め寄るゆうなに苦笑しつつ、着替えに向かおうと一歩足を動かす。

「じゃあ私着替えて来るね」

背後から「また後で話聞かせてねー!」とゆうなの声が聞こえてきたが手を振り返すだけにして急ぎ足で更衣室に向かい着替える。

更衣室を出たところで深呼吸を一つ。
そこへ声をかけられた。

「怪我をしてるけどやっぱり昨日は何かあったの?」


声の主は竹早のもので少しだけいつもと雰囲気が違う気がした。心配してくれているのだろう。しかし、如月くんの取り巻きに囲まれた、なんて話せなくて視線を泳がせながら何事も無かった様に話す。

もし話をして部の雰囲気が悪くなるのは避けたかった。自分が我慢して乗り越えられるならそれに越したことはない、と。


「いや…その…ただコケただけだよ」


「"ただ"コケただけなら小野木が一緒に付き添って帰る訳ないんじゃないかな?」


そう話す竹早の表情に影が少しおり、表情も真剣だ。思わず一歩後退りをする。

「竹早くん、何だか怒ってる…?」

「怒ってなんかないさ。部長として知っておくべきかと思ったまでだよ」


彼の言葉を聞いて話しておくべきなのか迷う。しかし知っておいて貰った方がやはり今後学校生活も含めて少しでも円満な日々を送れる糸口が見つかるかもしれない気持ちも生まれた。

暫く間を開けた後に重い口を開く。


「実はね…」











いつ誰が来るか分からない為、彼に大まかにではあるが何が起きたのか説明をした。

「そんな事があったんだね。話してくれてありがとう。辛かったと思う…それでも入りたいと強く思ってくれて僕は嬉しいよ。それで怪我は?」

話し終えた後に聞こえた彼の声は低く感じたが、その後はいつも通りの竹早だった。

「怪我は大丈夫だよ、ほんとにかすり傷だから」


安心させる為に声をかけたが数秒後に右肘の辺りを掴まれた。

「いっ…っ…」


思わず痛みに表情が歪み、涙目になる。

「怪我を隠すのはよくないよ、もう仲間じゃないか。せめて部長である僕には話しておいて欲しい」


彼の気持ちに嬉しくなりコクリと一つ頷いた。

そこへ道場へと繋がる扉がガラリと開く。


「そんなとこに突っ立てると邪魔なんだよ」


続けて聞こえたのは今日も不機嫌そうな小野木くんの声。

「あ?てめ…何してやがる!」

まだ掴んでいた竹早の手を小野木が勢いよく離す。

「コイツ怪我してんだぞ。それでも部長かよ」

「知ってるよ。彼女は痛みを隠そうとしてるんじゃないかと思ってそれを確認しただけだ」

「あ?そうなのか」

ギロリと自分を見る鋭い目つきに体が強ばり視線が泳ぐ。


「…チッ…ちょっとお前来い」
「え、あの!」


急に腕を引っ張られ男子更衣室の中へ連れ込まれる。

「ちょ、小野木くん!私がここに入っちゃダメだよ!」

「あ?グダグダうっせーんだよ。だったら隣の部屋に入れってか?」

「そ、それは…」

「だったら黙ってそこに座れ」

「え?」

「いいから座れっ!!」

「は、はいい!ごめんなさい!!」

小野木の気迫に押されその場に勢いよく正座をする。
小野木も正面に座り込んでカバンをガサガサと漁り始め、小さな巾着袋を取り出して開いた。

そこから取り出したのは小さな容器で蓋を回転させて開けるとツンと薬品のような匂いがする。

「腕出せ」

そう言われるのでジャージの上着を脱ぎ怪我をした右腕を出す。

小野木は右手で腕を支える様に持ち、左の指先で傷口に薬らしきものを塗り込んでくれる。

「小野木くんこれは?」
「これは人にすすめられた塗り薬だ。傷の治りが早ぇんだ」

「そんな大事なもの…私に使ってよかったの?」

「うるせぇな。良くないと思ったら使ってねぇだろ」

ご最もな意見を言われ何も言えなくなる。
だが口は悪いが傷口を塗ってくれる小野木の指先はとても優しい。
本当に労わってくれてるのがわかる。

「結構傷やっちまってるな…かすり傷だが範囲が広い。明日も塗ってやるから着替えたら待っとけ」

あの強面な小野木からそんな言葉を聞いて目を見開き彼を見つめた。

「なんだよ」

「いや…まさかそんな事言われるとは思ってなくて…」

「あ?嫌なら別に塗らねえ」

「いえ!ぜひお願いします!」

いつも通りの彼で思わず土下座して頼み込む。そこへ更衣室の扉が勢いよく開いた。

「かっちゃん先に行くなんて…って、ぉわ?!」

土下座した直後に如月が入ってくる。

「ちげー!コイツの手当てしてただけだ!」

何も聞かれてないのに答える小野木の焦りっぷりに少しだけおかしくなってしまう。

「手当て?ハルちゃん怪我したの?」

何も知らない彼は心配そうに眉根を下げて聞いてきた。


「昨日ちょっとね。でも小野木くんが薬を塗ってくれたから大丈夫だよ」

自分がそう話す傍らでガーゼをあてテープを留める小野木。

「昨日…そう言えばかっちゃんと一緒に帰ってたけど…へぇー君達もうそういう仲なの?」

途端に顔がニヤケ始める如月。

「そんなんじゃねーよ。おら、終わったからとっとと出やがれ」

また彼の気迫に押されきちんとお礼も言えないまま更衣室から締め出される。

また後でお礼を伝えるとして準備体操などやる事は沢山ある。痛みが引いた右肘を軽く擦り、彼の優しい指先を思い出すと胸が温かくなった。

小野木の一面を知る事が出来て嬉しく感じつつ、弓道場への扉を開いた。















その後。

小野木と如月だけになった更衣室の中では布の擦れる音が響いていた。


「かっちゃんが弓道以外に興味を持つなんて珍しいんじゃない?」


「何言ってやがる。俺が興味持ってんのは一番に弓道だ。知ってんだろ、七緒。」


「当たり前じゃーん。でもさ、女の子に傷の手当てだよ?まさかかっちゃんが…、って思うじゃん?」

「っんだよ…俺が手当てしてたら悪ぃか?」

「ぜーんぜん!ただ驚いただけだって」

「…そうかよ。んな事より早く準備しろよ」

「はいはーい」


先に更衣室を出る小野木の背中を黙って見つめる如月。

「興味なんか持ってなかったら一緒に帰ったり、傷の手当てなんてしないと思うけどなぁ〜。どんな子が気になっちゃうじゃん」


一人になった更衣室で呟く如月。どんなプランで仲良くなるか、楽しみが一つ増えた様な気がして微かに胸が弾み出す。











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