胸に響くその音を
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5.嫉妬
数日後の放課後。
そろそろ入部届けの締め切りが迫ってくる。そのことで友人の麻衣と話していたが人に呼ばれてると声をかけられた。入学して間もないのに誰だろうかと教室の入り口まで向かった。そこにいたのは見知らぬ女子生徒。
「〇〇さん?ちょっと話があるんだけどいいかな?ここじゃなんだから場所変えよう?」
「…?うん。分かった」
笑顔で話しかけてきた彼女になんの疑いもなく了承する。麻衣に声をかけて彼女の後について行けば人気のない場所に連れてこられた。そこには複数人の女子生徒が居て中には見かけたことのある顔ぶれもある。そうだ、彼女たちは如月くんの取り巻き達で弓道場で何度か顔を合わせている。
「あなた、弓道部に入るつもりなの?」
「そうだけど…」
1人の女子生徒が険しい顔つきで聞いてきた。
「どうせ七緒くんの後を追ってでしょ?」
「なっ!違うよっ!」
「どうかしらね」
鼻で笑われ悔しい気持ちになった。
自分は本気で弓道をやりたいのになんでこんな気持ちにならなきゃいけないのかと。そもそも彼を追って入ろうとしているのは彼女達の方だ。
「それに他にも男子と仲良くしているようじゃない?」
「そうよ。私見たんだから。あなたが弓道部の男子と二人で帰っているところ」
別の女子生徒も話に加わりそんなことを言われた。
——あ、竹早くんと…
この二日間は一人で帰ったため恐らくそれは竹早君のことだろう。彼も巻き込んでしまうことになりそうで焦りが出た。
「たまたま帰り道が一緒になっただけだよ」
「そう…男に媚び売って入部しようとしてるだけなんじゃないのー?」
嫌みたらしく言う彼女達の言葉に段々腹が立ってくる。
「まぁとにかく、入部はやめてよね」
「えっ…?」
「女子がこれ以上増えると七緒くんの邪魔になるじゃない」
私達がいるから間に合ってるわ、などと訳の分からないことを言っている。
「入ったりしたら容赦しないから」
行こう、言うだけ言って彼女達は行ってしまった。一人残されたその場所で何も言い返せなかったことが悔しくて目頭が熱くなる。涙を我慢して気合いを入れるため両頬を叩く。
——泣いちゃダメだ
麻衣が教室で待っているのを思い出し急いで戻る。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
「なんだったの?」
「部活の事だった。大丈夫。麻衣、部活は?」
麻衣に笑顔を向けているが果たしてちゃんと笑えているのか不安だ。幸い何も言われずホッと胸を撫で下ろした。
「これから行く」
「じゃあ、私も」
教室で麻衣と分かれ自分は弓道場へ向かった。挨拶をして中へ入ると既に何にかの部員は集まっている。女子更衣室で着替えようと中へ入ると取り巻き女子達がいた。
「あれ?まだ来るの?もう来なくていいって言ったのに」
「わ、私は本当に弓が引きたくてっ!」
「ふんっ。どうせ男目当てでしょ。でも誰もあんたなんかに振り向かないわよ」
「確かに」「言えてる〜」などと周りからも声が聞こえてきて居心地が悪い。何も聞こえないフリをして黙々と着替えを済ませていく。着替えて準備体操をしたのち、基本動作の練習を教えてもらう。
時折竹早君が声をかけてくれるが取り巻き女子の視線が気になり避けるように離れるのを繰り返していた。
——何やってるんだろう…
今日は全然集中できなくて上の空だった。初心者の自分達は早めに上がらせてもらって今は更衣室で着替え中だ。着替えて入り口に向かってる途中でゆうな達に声をかけられた。
「ハル?元気ないけどどうしたの?」
ゆうなが心配そうな顔で聞いてきた。
心配かけさせてしまったことに焦り慌てて笑顔を取り繕う。
「ううん!何でもないよ!ちょっと疲れちゃっただけだから」
「確かに今日はいつもより顔色が良くないですわ」
「そう…?今日はこれで終わりだし早めに帰って休むよ」
「そうした方がいい。初めから飛ばしすぎると体がもたない」
「白菊…妹尾…ありがとう」
彼女達の気遣いが嬉しくて我慢していた涙が溢れそうになった。グッと堪え笑顔で挨拶をして弓道場を出る。少し離れたところまでくると立ち止まり我慢していた涙が堪えきれずに溢れてしまう。
そこへ女子に声をかけられる。
嫌な予感しかしない。
「痛いっ!離してっ!」
自分は今体育館裏まで手を引っ張られ無理矢理連れてこられそこにはまた取り巻き女子が複数人居て嫌な予感は的中した。手を離されると体を押され地面に倒れこむ。
「痛っ…」
「ちょっと。何弓道部の人達と仲良くしてんのよ」
「そうよ!」
今度は弓道部のメンバーと仲良くしていた事にご立腹のようだ。何故自分だけ入学してまだ間もないと言うのにこんな目に合わなければならないのかと悲しくなる。
「入部してもしてなくても話しても大丈夫なんじゃ」
「そんなことっ!」
分かってるわよ!、と声を荒げる一人の女子生徒。
「あんた…」
そう言って近づいてくる。そして立ち上がろうとした自分の体を勢いよく押してまた地面に倒れ込んでしまった。
「な、何するの!」
「生意気なのよ……!」
胸ぐらを掴まれて声が出ない。
むしろかなり苦しくて息が絶え絶えになる。
「ちょっ、ちょっと!そこまでしなくても…」
周りの取り巻き女子達が止めているが目の前にいる女子生徒は睨んだまま自分を見ていた。
「は、な、してっ…」
「言うことを聞いてくれるなら離す」
「い、やだ…」
「入るなんて許さない!」
「私は…入部、する…弓を、引きたい…」
呼吸が苦しくなるが声を絞り出して気持ちを伝えた。
だけど本当に早く離してもらわないと息が苦しい。女子なのにどこからこんな力がきているのか不思議なくらいだ。周りの女子達も自分の顔色が悪くなるのに焦り出して手を離すように引っ張っているがそれでも離してはくれない。もうダメか、そんな時に彼女達の向こう側から声がした。
「おいおめぇらこんなところで…って!何してやがるっっ!」
その声の主と目が合った瞬間状況を理解したのか怒鳴り声と走る足音が分かった。周りの女子達は既に走って逃げており胸ぐらを掴んでいた女子もすぐに手を離して逃げて行ってしまった。
手が離れた瞬間地面に崩れ落ちて必死に酸素を取り込んで咳き込んだ。生理的な涙を流しながら体を横にして息を整える。
「おい…大丈夫かよ…」
「げほっ…はぁ、…お、のぎくん…」
意外な人物がそこに居て目を見開き驚く。何故彼がここに?そもそも何しに来たのかと疑問がたくさん浮かんだ。
「立てるか?とりあえず保健室だな」
怒鳴ったり睨まれたりされるかと思ったがそんなことはなく体を支えてくれる。立とうとするが腰が抜けたのか力が入らない。
「ご、ごめん。小野木くん…立てないみたい…」
呼吸も落ち着いてきて話せるようになると声をかけた。彼は眉間に皺を寄せると舌打ちが聞こえいつもの機嫌の悪い彼になる。
「はぁ…仕方ねぇ」
そうため息をつくと体がふわりと浮いた。
「えっ?!」
「大人しくしてろ」
「いいよ!立てるまでここにいるから!」
「あ"?ごちゃごちゃうるせぇんだよ。急いで手当てしねぇと化膿するだろうが」
「で、でも…!」
それでもやっぱり恥ずかしい。
人に見られるのではないかと慌ててしまう。
「体操着持ってるか」
「えっ?」
「あるのかないのかどっちだっ!」
「ひっ!あります!持ってます!」
思い切り睨まれながら答えると鞄から体操着を取り出す。
「それを顔にかけてろ。それなら誰か分からないだろ」
彼が何故体操着のことを聞いてきたのか今理解できた。頷いて体操着を顔にかけると彼が歩き出す。
保健室に着くと先生が慌てて駆け寄ってきたのが分かった。何があったのかと聞かれるが正直あまり話したくはない。彼女があんなことをしたのは嫉妬からだろうからそんなことであまり大ごとにはしたくなかった。
「泥だらけじゃない…!何があったの?誰がこんな事を…!」
先生が慌てている様子を黙って見ていた。
「じゃあ俺は行くんで」
「ダメよ。まだここにいなさい」
「…チッ。っんだよ…」
弓が好きであろう彼にとっては拷問に違いない。そうだ。彼は弓が好きなのになんで私のところに来てくれたのだろうか。考えれば考えるほど不思議でならなかった。
「先生…私は大丈夫なので彼は部活に戻ってもらっても大丈夫です」
「ダメよ…こんな酷い事されて…」
「それをしたのは男じゃねぇっすよ」
そこに彼の声が響く。
「えっ?男じゃない?」
どういうこと?と先生が混乱し始めた。
「先生?大丈夫ですよ?…私は突き飛ばされて泥だらけになっただけですから…」
「あら!そうなの?てっきり私…」
顔を隠していたからつい悪い方に考えちゃったわ、と苦笑している。先生の考えていることが分かり顔が少しだけ強ばる。
「ち、違いますよ!」
「それなら良かったわ。でも凄い汚れようね…突き飛ばされたって言ってたけど…」
先生に探るような目つきで見られ言葉に詰まってしまう。
——ど、どうしよう…
「まぁ、いいわ。先に手当ね。その後着替えましょう」
先生が傷の手当てをしてくれると体操着に着替えた。
「今日はもう帰るところ?」
「はい、」
「そう…なら君、この子を送って行ってあげて?」
「えっ!」
「はぁ?!何で俺が!」
「ずっと心配そうに見てたじゃない」
「べ、別に俺は、!」
「つべこべ言わない。もう部活も終わる時間でしょう?」
じゃあよろしくね、と先生から保健室を追い出され二人で立ち竦んでいたが小野木君が歩き出した。
「何突っ立ってんだよ。行くぞ」
「あ、うん!」
そして彼の後を追って歩けばもう一度弓道場に着いた。
「中で待ってろ」
「いや、いいよっ」
「あ"ぁ?」
「ひっ、待ちます!中で待たせて下さい!」
彼と一緒に中に入ると弓道部のみんなが一斉にこっちを見てゆうな達が心配そうに駆け寄ってきた。大丈夫だと言ったが心配そうに顔を見合わせている。
「おら…行くぞ」
「かっちゃん!今日は一緒に帰らないの?!」
「七緒。いつも帰ってるだろ。今日はこいつと用があっから先に帰ってろ」
「えー、寂しいよー!」
結局、彼に家まで送ってもらって自分の部屋に入ったが落ち着かない。入部すると決めているのにこんな事がもし続くなら…そう考えたら憂鬱になった。
「…考えてもしょうがない、」
今日出された課題を終わらせようと机に向かったもののペンを握る手はなかなか進まず止めてはため息を吐くのを繰り返した。
数日後の放課後。
そろそろ入部届けの締め切りが迫ってくる。そのことで友人の麻衣と話していたが人に呼ばれてると声をかけられた。入学して間もないのに誰だろうかと教室の入り口まで向かった。そこにいたのは見知らぬ女子生徒。
「〇〇さん?ちょっと話があるんだけどいいかな?ここじゃなんだから場所変えよう?」
「…?うん。分かった」
笑顔で話しかけてきた彼女になんの疑いもなく了承する。麻衣に声をかけて彼女の後について行けば人気のない場所に連れてこられた。そこには複数人の女子生徒が居て中には見かけたことのある顔ぶれもある。そうだ、彼女たちは如月くんの取り巻き達で弓道場で何度か顔を合わせている。
「あなた、弓道部に入るつもりなの?」
「そうだけど…」
1人の女子生徒が険しい顔つきで聞いてきた。
「どうせ七緒くんの後を追ってでしょ?」
「なっ!違うよっ!」
「どうかしらね」
鼻で笑われ悔しい気持ちになった。
自分は本気で弓道をやりたいのになんでこんな気持ちにならなきゃいけないのかと。そもそも彼を追って入ろうとしているのは彼女達の方だ。
「それに他にも男子と仲良くしているようじゃない?」
「そうよ。私見たんだから。あなたが弓道部の男子と二人で帰っているところ」
別の女子生徒も話に加わりそんなことを言われた。
——あ、竹早くんと…
この二日間は一人で帰ったため恐らくそれは竹早君のことだろう。彼も巻き込んでしまうことになりそうで焦りが出た。
「たまたま帰り道が一緒になっただけだよ」
「そう…男に媚び売って入部しようとしてるだけなんじゃないのー?」
嫌みたらしく言う彼女達の言葉に段々腹が立ってくる。
「まぁとにかく、入部はやめてよね」
「えっ…?」
「女子がこれ以上増えると七緒くんの邪魔になるじゃない」
私達がいるから間に合ってるわ、などと訳の分からないことを言っている。
「入ったりしたら容赦しないから」
行こう、言うだけ言って彼女達は行ってしまった。一人残されたその場所で何も言い返せなかったことが悔しくて目頭が熱くなる。涙を我慢して気合いを入れるため両頬を叩く。
——泣いちゃダメだ
麻衣が教室で待っているのを思い出し急いで戻る。
「ごめん!遅くなっちゃった!」
「なんだったの?」
「部活の事だった。大丈夫。麻衣、部活は?」
麻衣に笑顔を向けているが果たしてちゃんと笑えているのか不安だ。幸い何も言われずホッと胸を撫で下ろした。
「これから行く」
「じゃあ、私も」
教室で麻衣と分かれ自分は弓道場へ向かった。挨拶をして中へ入ると既に何にかの部員は集まっている。女子更衣室で着替えようと中へ入ると取り巻き女子達がいた。
「あれ?まだ来るの?もう来なくていいって言ったのに」
「わ、私は本当に弓が引きたくてっ!」
「ふんっ。どうせ男目当てでしょ。でも誰もあんたなんかに振り向かないわよ」
「確かに」「言えてる〜」などと周りからも声が聞こえてきて居心地が悪い。何も聞こえないフリをして黙々と着替えを済ませていく。着替えて準備体操をしたのち、基本動作の練習を教えてもらう。
時折竹早君が声をかけてくれるが取り巻き女子の視線が気になり避けるように離れるのを繰り返していた。
——何やってるんだろう…
今日は全然集中できなくて上の空だった。初心者の自分達は早めに上がらせてもらって今は更衣室で着替え中だ。着替えて入り口に向かってる途中でゆうな達に声をかけられた。
「ハル?元気ないけどどうしたの?」
ゆうなが心配そうな顔で聞いてきた。
心配かけさせてしまったことに焦り慌てて笑顔を取り繕う。
「ううん!何でもないよ!ちょっと疲れちゃっただけだから」
「確かに今日はいつもより顔色が良くないですわ」
「そう…?今日はこれで終わりだし早めに帰って休むよ」
「そうした方がいい。初めから飛ばしすぎると体がもたない」
「白菊…妹尾…ありがとう」
彼女達の気遣いが嬉しくて我慢していた涙が溢れそうになった。グッと堪え笑顔で挨拶をして弓道場を出る。少し離れたところまでくると立ち止まり我慢していた涙が堪えきれずに溢れてしまう。
そこへ女子に声をかけられる。
嫌な予感しかしない。
「痛いっ!離してっ!」
自分は今体育館裏まで手を引っ張られ無理矢理連れてこられそこにはまた取り巻き女子が複数人居て嫌な予感は的中した。手を離されると体を押され地面に倒れこむ。
「痛っ…」
「ちょっと。何弓道部の人達と仲良くしてんのよ」
「そうよ!」
今度は弓道部のメンバーと仲良くしていた事にご立腹のようだ。何故自分だけ入学してまだ間もないと言うのにこんな目に合わなければならないのかと悲しくなる。
「入部してもしてなくても話しても大丈夫なんじゃ」
「そんなことっ!」
分かってるわよ!、と声を荒げる一人の女子生徒。
「あんた…」
そう言って近づいてくる。そして立ち上がろうとした自分の体を勢いよく押してまた地面に倒れ込んでしまった。
「な、何するの!」
「生意気なのよ……!」
胸ぐらを掴まれて声が出ない。
むしろかなり苦しくて息が絶え絶えになる。
「ちょっ、ちょっと!そこまでしなくても…」
周りの取り巻き女子達が止めているが目の前にいる女子生徒は睨んだまま自分を見ていた。
「は、な、してっ…」
「言うことを聞いてくれるなら離す」
「い、やだ…」
「入るなんて許さない!」
「私は…入部、する…弓を、引きたい…」
呼吸が苦しくなるが声を絞り出して気持ちを伝えた。
だけど本当に早く離してもらわないと息が苦しい。女子なのにどこからこんな力がきているのか不思議なくらいだ。周りの女子達も自分の顔色が悪くなるのに焦り出して手を離すように引っ張っているがそれでも離してはくれない。もうダメか、そんな時に彼女達の向こう側から声がした。
「おいおめぇらこんなところで…って!何してやがるっっ!」
その声の主と目が合った瞬間状況を理解したのか怒鳴り声と走る足音が分かった。周りの女子達は既に走って逃げており胸ぐらを掴んでいた女子もすぐに手を離して逃げて行ってしまった。
手が離れた瞬間地面に崩れ落ちて必死に酸素を取り込んで咳き込んだ。生理的な涙を流しながら体を横にして息を整える。
「おい…大丈夫かよ…」
「げほっ…はぁ、…お、のぎくん…」
意外な人物がそこに居て目を見開き驚く。何故彼がここに?そもそも何しに来たのかと疑問がたくさん浮かんだ。
「立てるか?とりあえず保健室だな」
怒鳴ったり睨まれたりされるかと思ったがそんなことはなく体を支えてくれる。立とうとするが腰が抜けたのか力が入らない。
「ご、ごめん。小野木くん…立てないみたい…」
呼吸も落ち着いてきて話せるようになると声をかけた。彼は眉間に皺を寄せると舌打ちが聞こえいつもの機嫌の悪い彼になる。
「はぁ…仕方ねぇ」
そうため息をつくと体がふわりと浮いた。
「えっ?!」
「大人しくしてろ」
「いいよ!立てるまでここにいるから!」
「あ"?ごちゃごちゃうるせぇんだよ。急いで手当てしねぇと化膿するだろうが」
「で、でも…!」
それでもやっぱり恥ずかしい。
人に見られるのではないかと慌ててしまう。
「体操着持ってるか」
「えっ?」
「あるのかないのかどっちだっ!」
「ひっ!あります!持ってます!」
思い切り睨まれながら答えると鞄から体操着を取り出す。
「それを顔にかけてろ。それなら誰か分からないだろ」
彼が何故体操着のことを聞いてきたのか今理解できた。頷いて体操着を顔にかけると彼が歩き出す。
保健室に着くと先生が慌てて駆け寄ってきたのが分かった。何があったのかと聞かれるが正直あまり話したくはない。彼女があんなことをしたのは嫉妬からだろうからそんなことであまり大ごとにはしたくなかった。
「泥だらけじゃない…!何があったの?誰がこんな事を…!」
先生が慌てている様子を黙って見ていた。
「じゃあ俺は行くんで」
「ダメよ。まだここにいなさい」
「…チッ。っんだよ…」
弓が好きであろう彼にとっては拷問に違いない。そうだ。彼は弓が好きなのになんで私のところに来てくれたのだろうか。考えれば考えるほど不思議でならなかった。
「先生…私は大丈夫なので彼は部活に戻ってもらっても大丈夫です」
「ダメよ…こんな酷い事されて…」
「それをしたのは男じゃねぇっすよ」
そこに彼の声が響く。
「えっ?男じゃない?」
どういうこと?と先生が混乱し始めた。
「先生?大丈夫ですよ?…私は突き飛ばされて泥だらけになっただけですから…」
「あら!そうなの?てっきり私…」
顔を隠していたからつい悪い方に考えちゃったわ、と苦笑している。先生の考えていることが分かり顔が少しだけ強ばる。
「ち、違いますよ!」
「それなら良かったわ。でも凄い汚れようね…突き飛ばされたって言ってたけど…」
先生に探るような目つきで見られ言葉に詰まってしまう。
——ど、どうしよう…
「まぁ、いいわ。先に手当ね。その後着替えましょう」
先生が傷の手当てをしてくれると体操着に着替えた。
「今日はもう帰るところ?」
「はい、」
「そう…なら君、この子を送って行ってあげて?」
「えっ!」
「はぁ?!何で俺が!」
「ずっと心配そうに見てたじゃない」
「べ、別に俺は、!」
「つべこべ言わない。もう部活も終わる時間でしょう?」
じゃあよろしくね、と先生から保健室を追い出され二人で立ち竦んでいたが小野木君が歩き出した。
「何突っ立ってんだよ。行くぞ」
「あ、うん!」
そして彼の後を追って歩けばもう一度弓道場に着いた。
「中で待ってろ」
「いや、いいよっ」
「あ"ぁ?」
「ひっ、待ちます!中で待たせて下さい!」
彼と一緒に中に入ると弓道部のみんなが一斉にこっちを見てゆうな達が心配そうに駆け寄ってきた。大丈夫だと言ったが心配そうに顔を見合わせている。
「おら…行くぞ」
「かっちゃん!今日は一緒に帰らないの?!」
「七緒。いつも帰ってるだろ。今日はこいつと用があっから先に帰ってろ」
「えー、寂しいよー!」
結局、彼に家まで送ってもらって自分の部屋に入ったが落ち着かない。入部すると決めているのにこんな事がもし続くなら…そう考えたら憂鬱になった。
「…考えてもしょうがない、」
今日出された課題を終わらせようと机に向かったもののペンを握る手はなかなか進まず止めてはため息を吐くのを繰り返した。