胸に響くその音を
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2.弓道部説明会
それから数日後、未経験者を対象にした弓道部説明会に参加した。麻衣は既にバスケ部に入部し部活動に励んでいる。
自分は入学式の時に出会った彼にハンカチを返さなければとポケットに忍ばせているが、クラスも分からずなかなか会えずにいて途方に暮れていた。
人に聞けばすぐに分かるのだろうけど、入学したてでまだ緊張が解けない。弓道場の外でため息をつきながら待っていると袴姿の女子部員が声をかけている。
「未経験者のみなさん、準備が整ったのでこちらから中に入って下さい」
声を合図に中に入ると初めて入る弓道場に胸がときめく。
——これが弓道場……
大きく開けた向こう側には的があり風が頬をかすめて通り抜けた。目を輝かせてしばし惚けて眺めていると声をかけられる。
「あれ…君はこの間遼平とぶつかった…」
「えっ?あっ!もしかして竹早くん?」
彼は眼鏡をしておらず最初は誰か分からなかった。
「君も弓道部の入部希望者?」
「うん。弓道…やってみたくて…」
「そう。しっかり見て行ってくれると嬉しい」
顔を綻ばせて話すと彼も笑顔で話してくれる。よく見ると袴姿だ。
「竹早くん、もしかして経験者?」
「そうだよ。中学からやってる」
「そうなんだ。入部したら色々教えてね」
「もちろん」
「竹早」
そこで女子部員に話しかけられ「じゃあ」と行ってしまう。
——あっ!ハンカチ!
そこで気付くハンカチの存在。しまった、そう思いつつもまた話しかける度胸はなく彼の姿を目で追った。
「みなさんはこちらに座って待って下さい」
直後に号令がかかり、奥側の隅に正座する。その時入り口で女子生徒の黄色い声が聞こえた。
「きゃー!!七緒くーん!!」
「メッハー♪」
「「「メッハー♪」」」
何事かと不思議に思いながら視線を向ける。そこには女子に囲まれている男子が見えた。
——あ、あの子は女子に人気の…
入学早々、女子に人気の男子がいると噂で聞いていたが彼がそうなのだろうと推測できた。ポカーンとしているとその後ろからも男子が一人入ってきた。
「神聖な弓道場で、うっせぇんだよ」
目つきの鋭い男子が入ってきて自分が睨まれた訳でもないのに冷や汗が出る。そのひと睨みで女子達が後ずさりをしていた。
「そこの男子お二人、経験者ですよね?ちょっと来てもらえます?」
二人が声をかけられこっちに歩いて来る。そしてトミー先生達の前で立ち止まった。
——あの二人も経験者なんだ……
思わず二人を注視する。するとトミー先生が女子部員の紹介を始めた。
「風舞高校弓道部の女子部員じゃ。
妹尾梨可 さん、
白菊乃愛 さん、
花沢ゆうな さん、じゃ」
自分の近くでもあったから挨拶をしている様子を眺めた。
「よろしく。僕は竹早静弥」
「俺は如月七緒 でこっちの顔怖いのが小野木海斗 」
「誰が顔怖いだ」
みんなの会話を聞いていると入り口の方で「失礼しまーす」と騒がしく誰かが入ってきた。
それは先日自分とぶつかった彼で体操着を着ていた。という事は彼も弓道部に入部する予定…なのか?と疑問に思う。だが、彼の後ろに誰かいるのに気付き思考はそちらに持っていかれた。
よく見ると彼もどこかで見覚えがある。竹早君といい、彼といい…とても大事な何かのような気がするのに思い出せない自分に歯痒さが募る。
しばらくするとトミー先生と竹早君が前に立ったので視線を向けた。
「えー。弓道部説明会によく集まってくれたのぉ。ありがとう。膝は崩してくれて構わんよ」
トミー先生がそう言ってくれるので正座をとく。
「ではまずお願いじゃ。弓道は武道じゃ。挨拶をしっかりな」
「はいっ」
みんなに合わせて返事をする。
そこからトミー先生が説明を始め経験者による射義を見てもらうと言って先程山之内君が連れてきた男子を名指しした。
「鳴宮湊くん、ちょっと引いてみてくれんかのぉ」
鳴宮湊くん……やはりどこかで聞いた事がある名前で気になって仕方がない。記憶を手繰り寄せているといつの間にか彼が体操着を着て立っていた。
一礼しゆっくり立ち位置につく鳴宮君。弓を構えた彼に、"あの時"の瞬間が鳥肌を立てながら記憶に蘇った。
それは昨年の夏。
弓道の大会を見に行った時に観戦した彼だった。竹早君と一緒に弓を引いていて、あともう一人かっこいい少年がいたのだ。
その時の事は印象に残っていたのでよく覚えている。鳴宮君が調子を崩して的を外してしまったのだ。他校だったけれど彼の弓は凄く綺麗で感動していたのに…目の前でどんどん悪くなっていくのを見て自分が泣きそうになったのを覚えている。
「チッ。なんだよあいつ」
当時の事を思い返していたらまたいつの間にか鳴宮くんの射が終わっていた。近くに居た小野木君が舌打ちをしていて、鳴宮くんの放った弓を見た…二射とも外れていて彼を追った小野木くんを視線で追う。
調子は戻っていなかったようで彼の事が心配になる。
すると鳴宮君がこちらに向かって歩いて来るのが見え声をかけようとしたが初対面であることを思い出し口を噤んで前を通り過ぎるのをただ見ることしかできなかった。
彼が目の前を通り過ぎた時の悲しいような怒ってるようなそんな表情が頭から離れず俯いた。
「では、今日はこの辺で終わりじゃ。また明日も来てくれると嬉しいのぉ」
トミー先生の挨拶でお開きとなった。
竹早君にハンカチを渡すために外で待っていると如月君を取り巻いていた女の子達に囲まれた。
「ちょっと。何よあなた。七緒くんに何か用なの?」
あまりの気迫にたじろぐ。
「いや…違う人に用があって……」
「本当かしら?」
あはは、と苦笑していると入り口が開き如月君と小野木君が出てきた。
「七緒くーん!」
すぐさま取り巻き女子達が彼のところへ向かったのでホッと胸を撫で下ろしその様子を眺めていると不意に小野木君と目が合う。慌てて視線を逸らし、何だが気まずい。
——小野木くんの視線は鋭いな…
女子部員達も出て来て去って行くのを見届けると最後に竹早君と山之内君がトミー先生と出てきた。
「あっ!同じクラスの!」
「〇〇だよ」
山之内君が気付いて声をかけてきた。
「〇〇ちゃんね!」
「山之内くんは弓道部に入るの?」
ニコリと笑いながら話しかけると屈託のない笑顔で「そうだよ!」と答えてくれた。
「おぉ!君は入部希望の!」
トミー先生も気付いてくれたので軽く会釈をする。
「えっ!弓道部に入るの?!」
山之内君が目を輝かせながら聞いてきたのでコクリと頷く。
「うん。弓道をやってみたくて」
「そっかー!これからよろしくな!」
山之内君は手を握るとブンブンと振ってくるけれど…勢いがあって地味に痛くて少し苦笑する。
「いや、まだ入部してないから…」
「そうだけどさー、もう入部決めてるなら一緒じゃん!」
ニカッと笑う山之内君を見て「人懐っこい性格なんだな」とまた耳としっぽまでありそうな感覚になり、クスリと笑った。
「私初心者だから色々教えてね?せんぱい?」
「うぉー!任せろぉー!」
やる気満々で両手を挙げる山之内君を見てクスクスと笑ってしまう。
「では。気を付けて帰るのじゃよ?」
「はい。トミー先生、さようなら」
「さようなら」
「トミー先生!またねー!」
山之内君はブンブンと大きく手を振ってトミー先生を見送っていた。
「そう言えば君は何か用があったんじゃなかったの?」
竹早君にそう聞かれハッとする。
「そうそう!竹早くんに用があって待ってたの!」
「僕に?」
竹早君は不思議そうにしているのを見て鞄からハンカチを取り出して渡す。
「はい。この間はハンカチありがとう。血で汚れちゃったから新しいのを用意したの」
ごめんね、と謝りながら渡すとふわっと笑って受け取ってくれた。
「汚れていても良かったけど。でもありがとう」
「ううん。こちらこそありがとう」
「おーい!早く帰ろうよぉー!」
「今行く」
少し離れた場所から山之内君が声をかけるので竹早君と一緒に並んで歩く。そこであの彼の事が気になり竹早に聞いてみることにした。
「あの、竹早くん」
「ん?なんだい?」
「さっき矢を射った鳴宮くんって子……大丈夫かな?」
鳴宮君の名前を出すと目を見開いて驚いている。視線を逸らすと何も言わず俯くのでマズイことを聞いてしまったのかと焦る。
「どう、かな…僕にも分からない。けど、きっと湊なら大丈夫だと信じているよ」
竹早君は真っ直ぐ前を向いてそう話すのでホッとした。
「そっか。鳴宮くんも弓道部に入るのかな……私、もう一度彼の射を見てみたい」
あの時の事を思い出し小さく笑うと竹早君が立ち止まる。不思議に思い振り返り声をかけた。
「竹早くん?」
「君は湊の射を見た事があるの?」
じっと真剣な目でこちらを見るのでドキリとするが彼の質問に答えた。
「うん…見た事あるよ…去年の大会だった。凄く綺麗な弓を引くからその大会中はずっと見てたの。でも決勝戦の時にどんどん調子が悪くなっていくのを見て……確か竹早くんも一緒に出てたよね?」
思い出した事をそのまま伝えた。
「だからさっきも心配したの。でも的に当たらなくて……」
先程の彼の表情を思い出して俯いてしまう。
すると影が見えたので顔を上げると目の前に竹早君が立っていた。見上げると彼はふわりと笑う。その表情に思わず胸が高鳴った。
「そうだったんだね。湊を心配してくれてありがとう」
「ううん。私なんてただ見てただけだから…」
「それでも湊のことを知ってる人が居て、なんだか嬉しいよ」
竹早君がそう言ってくれるので安心して笑いかけた。
「うん。ありがとう」
「おーい!まだかー!」
その時また山之内君から声がかかり急いで彼の元に向かった。
「遅いよぉー!」
「ごめん遼平」
「ごめんね!山之内くん!」
その後は途中まで一緒に帰り、バス停で別れる。
少し話せた事で緊張が少し解れた気がする。これからの部活動に思いを巡らせ帰路につくのだった。
それから数日後、未経験者を対象にした弓道部説明会に参加した。麻衣は既にバスケ部に入部し部活動に励んでいる。
自分は入学式の時に出会った彼にハンカチを返さなければとポケットに忍ばせているが、クラスも分からずなかなか会えずにいて途方に暮れていた。
人に聞けばすぐに分かるのだろうけど、入学したてでまだ緊張が解けない。弓道場の外でため息をつきながら待っていると袴姿の女子部員が声をかけている。
「未経験者のみなさん、準備が整ったのでこちらから中に入って下さい」
声を合図に中に入ると初めて入る弓道場に胸がときめく。
——これが弓道場……
大きく開けた向こう側には的があり風が頬をかすめて通り抜けた。目を輝かせてしばし惚けて眺めていると声をかけられる。
「あれ…君はこの間遼平とぶつかった…」
「えっ?あっ!もしかして竹早くん?」
彼は眼鏡をしておらず最初は誰か分からなかった。
「君も弓道部の入部希望者?」
「うん。弓道…やってみたくて…」
「そう。しっかり見て行ってくれると嬉しい」
顔を綻ばせて話すと彼も笑顔で話してくれる。よく見ると袴姿だ。
「竹早くん、もしかして経験者?」
「そうだよ。中学からやってる」
「そうなんだ。入部したら色々教えてね」
「もちろん」
「竹早」
そこで女子部員に話しかけられ「じゃあ」と行ってしまう。
——あっ!ハンカチ!
そこで気付くハンカチの存在。しまった、そう思いつつもまた話しかける度胸はなく彼の姿を目で追った。
「みなさんはこちらに座って待って下さい」
直後に号令がかかり、奥側の隅に正座する。その時入り口で女子生徒の黄色い声が聞こえた。
「きゃー!!七緒くーん!!」
「メッハー♪」
「「「メッハー♪」」」
何事かと不思議に思いながら視線を向ける。そこには女子に囲まれている男子が見えた。
——あ、あの子は女子に人気の…
入学早々、女子に人気の男子がいると噂で聞いていたが彼がそうなのだろうと推測できた。ポカーンとしているとその後ろからも男子が一人入ってきた。
「神聖な弓道場で、うっせぇんだよ」
目つきの鋭い男子が入ってきて自分が睨まれた訳でもないのに冷や汗が出る。そのひと睨みで女子達が後ずさりをしていた。
「そこの男子お二人、経験者ですよね?ちょっと来てもらえます?」
二人が声をかけられこっちに歩いて来る。そしてトミー先生達の前で立ち止まった。
——あの二人も経験者なんだ……
思わず二人を注視する。するとトミー先生が女子部員の紹介を始めた。
「風舞高校弓道部の女子部員じゃ。
自分の近くでもあったから挨拶をしている様子を眺めた。
「よろしく。僕は竹早静弥」
「俺は
「誰が顔怖いだ」
みんなの会話を聞いていると入り口の方で「失礼しまーす」と騒がしく誰かが入ってきた。
それは先日自分とぶつかった彼で体操着を着ていた。という事は彼も弓道部に入部する予定…なのか?と疑問に思う。だが、彼の後ろに誰かいるのに気付き思考はそちらに持っていかれた。
よく見ると彼もどこかで見覚えがある。竹早君といい、彼といい…とても大事な何かのような気がするのに思い出せない自分に歯痒さが募る。
しばらくするとトミー先生と竹早君が前に立ったので視線を向けた。
「えー。弓道部説明会によく集まってくれたのぉ。ありがとう。膝は崩してくれて構わんよ」
トミー先生がそう言ってくれるので正座をとく。
「ではまずお願いじゃ。弓道は武道じゃ。挨拶をしっかりな」
「はいっ」
みんなに合わせて返事をする。
そこからトミー先生が説明を始め経験者による射義を見てもらうと言って先程山之内君が連れてきた男子を名指しした。
「鳴宮湊くん、ちょっと引いてみてくれんかのぉ」
鳴宮湊くん……やはりどこかで聞いた事がある名前で気になって仕方がない。記憶を手繰り寄せているといつの間にか彼が体操着を着て立っていた。
一礼しゆっくり立ち位置につく鳴宮君。弓を構えた彼に、"あの時"の瞬間が鳥肌を立てながら記憶に蘇った。
それは昨年の夏。
弓道の大会を見に行った時に観戦した彼だった。竹早君と一緒に弓を引いていて、あともう一人かっこいい少年がいたのだ。
その時の事は印象に残っていたのでよく覚えている。鳴宮君が調子を崩して的を外してしまったのだ。他校だったけれど彼の弓は凄く綺麗で感動していたのに…目の前でどんどん悪くなっていくのを見て自分が泣きそうになったのを覚えている。
「チッ。なんだよあいつ」
当時の事を思い返していたらまたいつの間にか鳴宮くんの射が終わっていた。近くに居た小野木君が舌打ちをしていて、鳴宮くんの放った弓を見た…二射とも外れていて彼を追った小野木くんを視線で追う。
調子は戻っていなかったようで彼の事が心配になる。
すると鳴宮君がこちらに向かって歩いて来るのが見え声をかけようとしたが初対面であることを思い出し口を噤んで前を通り過ぎるのをただ見ることしかできなかった。
彼が目の前を通り過ぎた時の悲しいような怒ってるようなそんな表情が頭から離れず俯いた。
「では、今日はこの辺で終わりじゃ。また明日も来てくれると嬉しいのぉ」
トミー先生の挨拶でお開きとなった。
竹早君にハンカチを渡すために外で待っていると如月君を取り巻いていた女の子達に囲まれた。
「ちょっと。何よあなた。七緒くんに何か用なの?」
あまりの気迫にたじろぐ。
「いや…違う人に用があって……」
「本当かしら?」
あはは、と苦笑していると入り口が開き如月君と小野木君が出てきた。
「七緒くーん!」
すぐさま取り巻き女子達が彼のところへ向かったのでホッと胸を撫で下ろしその様子を眺めていると不意に小野木君と目が合う。慌てて視線を逸らし、何だが気まずい。
——小野木くんの視線は鋭いな…
女子部員達も出て来て去って行くのを見届けると最後に竹早君と山之内君がトミー先生と出てきた。
「あっ!同じクラスの!」
「〇〇だよ」
山之内君が気付いて声をかけてきた。
「〇〇ちゃんね!」
「山之内くんは弓道部に入るの?」
ニコリと笑いながら話しかけると屈託のない笑顔で「そうだよ!」と答えてくれた。
「おぉ!君は入部希望の!」
トミー先生も気付いてくれたので軽く会釈をする。
「えっ!弓道部に入るの?!」
山之内君が目を輝かせながら聞いてきたのでコクリと頷く。
「うん。弓道をやってみたくて」
「そっかー!これからよろしくな!」
山之内君は手を握るとブンブンと振ってくるけれど…勢いがあって地味に痛くて少し苦笑する。
「いや、まだ入部してないから…」
「そうだけどさー、もう入部決めてるなら一緒じゃん!」
ニカッと笑う山之内君を見て「人懐っこい性格なんだな」とまた耳としっぽまでありそうな感覚になり、クスリと笑った。
「私初心者だから色々教えてね?せんぱい?」
「うぉー!任せろぉー!」
やる気満々で両手を挙げる山之内君を見てクスクスと笑ってしまう。
「では。気を付けて帰るのじゃよ?」
「はい。トミー先生、さようなら」
「さようなら」
「トミー先生!またねー!」
山之内君はブンブンと大きく手を振ってトミー先生を見送っていた。
「そう言えば君は何か用があったんじゃなかったの?」
竹早君にそう聞かれハッとする。
「そうそう!竹早くんに用があって待ってたの!」
「僕に?」
竹早君は不思議そうにしているのを見て鞄からハンカチを取り出して渡す。
「はい。この間はハンカチありがとう。血で汚れちゃったから新しいのを用意したの」
ごめんね、と謝りながら渡すとふわっと笑って受け取ってくれた。
「汚れていても良かったけど。でもありがとう」
「ううん。こちらこそありがとう」
「おーい!早く帰ろうよぉー!」
「今行く」
少し離れた場所から山之内君が声をかけるので竹早君と一緒に並んで歩く。そこであの彼の事が気になり竹早に聞いてみることにした。
「あの、竹早くん」
「ん?なんだい?」
「さっき矢を射った鳴宮くんって子……大丈夫かな?」
鳴宮君の名前を出すと目を見開いて驚いている。視線を逸らすと何も言わず俯くのでマズイことを聞いてしまったのかと焦る。
「どう、かな…僕にも分からない。けど、きっと湊なら大丈夫だと信じているよ」
竹早君は真っ直ぐ前を向いてそう話すのでホッとした。
「そっか。鳴宮くんも弓道部に入るのかな……私、もう一度彼の射を見てみたい」
あの時の事を思い出し小さく笑うと竹早君が立ち止まる。不思議に思い振り返り声をかけた。
「竹早くん?」
「君は湊の射を見た事があるの?」
じっと真剣な目でこちらを見るのでドキリとするが彼の質問に答えた。
「うん…見た事あるよ…去年の大会だった。凄く綺麗な弓を引くからその大会中はずっと見てたの。でも決勝戦の時にどんどん調子が悪くなっていくのを見て……確か竹早くんも一緒に出てたよね?」
思い出した事をそのまま伝えた。
「だからさっきも心配したの。でも的に当たらなくて……」
先程の彼の表情を思い出して俯いてしまう。
すると影が見えたので顔を上げると目の前に竹早君が立っていた。見上げると彼はふわりと笑う。その表情に思わず胸が高鳴った。
「そうだったんだね。湊を心配してくれてありがとう」
「ううん。私なんてただ見てただけだから…」
「それでも湊のことを知ってる人が居て、なんだか嬉しいよ」
竹早君がそう言ってくれるので安心して笑いかけた。
「うん。ありがとう」
「おーい!まだかー!」
その時また山之内君から声がかかり急いで彼の元に向かった。
「遅いよぉー!」
「ごめん遼平」
「ごめんね!山之内くん!」
その後は途中まで一緒に帰り、バス停で別れる。
少し話せた事で緊張が少し解れた気がする。これからの部活動に思いを巡らせ帰路につくのだった。