鳴宮湊ver.
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2.
「おはよう。」
「鳴宮くん、おはよう。」
時折廊下を歩いていると挨拶を交わすようになった。
彼とはクラスが違う為本当にたまにしか会わないけれど、遼平君に用がある時にクラスへ来た時は声をかけてくれる時もある。
「ごめん遼平。英語の教科書貸してくれないか?」
「俺今日英語ないから持ってきてない〜。」
ごめん!、と謝る遼平君とのやり取りが聞こえ鞄から教科書を取り出すと鳴宮君の前に持って行く。
「私の貸すよ?」
「いいのか?助かる。」
ありがとう、と教科書を受け取ると去って行く彼を見送りも何やら視線を感じチラリと見上げた。
「遼平くん、どうしたの?」
「なんで英語の教科書持ってんのかなー、と思って。」
「明日、小テストあるから友達と確認しとこうと思って持ってきてたの。」
「ぅえ?!小テスト?!後で俺にも教えて欲しい!」
頼む!、と鳴宮君に謝罪した時と同じポーズを取る彼に「後でね。」と伝えればめいいっぱいお礼の言葉を浴び、注目を集めたのは言うまでもない。
※※※
「教科書ありがとう。」
「どういたしまして。」
放課後、弓道場へ向かう途中で鳴宮君と出会い教科書を受け取る。
本当に助かったよ、と話す彼に頷き一緒に歩き出した。
「教科書にさ…、気になる所を見つけたんだけど…。」
「気になるところ?」
そんなところあったかな、と疑問に思いながらしまった英語の教科書を鞄から取り出しパラパラと開いていく。
「ここ。」
そう言って鳴宮君の指先に視線を落として見ればそこにあったのはある時の授業中に落書きをしたイラストと英語のフレーズだった。
「わぁあ!!」
バシン!、と教科書を閉じ慌てて鞄にしまった。
「…見ちゃった…?」
「ごめん、見た。」
口元を手で覆いながら笑いを堪えてる様子の彼に恥ずかしさが込み上げてくる。
「でもそれ、俺知ってる。」
「そうなの?!」
「上手く描けてるよ。」
自分が描いたものは昔みたアニメのキャラクターだがマイナーなキャラな為周りに知ってる人は殆ど居なかったので驚いた。
「これ知ってる人に出会えたの久しぶりかも!」
嬉しい!、とアニメの話で盛り上がった。
だけど彼は弓道を始めるようになってからはアニメなどはあまり見なくなったと話してくれた。
「最近の流行も全然知らないからついていけない。」
少し寂し気に笑う彼を見て自分も何故だか胸が苦しくなった。
「また…教科書かりに来て。」
「え?」
「教科書、かりに来て欲しいの。」
「分かった…。」
不思議そうにする彼を横目にしながら弓道場の中へと入って行く。
※※※
「〇〇、居るか?」
教室で友達と話していると名前が聞こえた。教室の出入り口を見れば鳴宮君の姿があった。
「鳴宮くんどうしたの?」
「いや…教科書貸して欲しくて…。」
少しぎこちなさげに言う彼に頷けば机から教科書を取り出し彼に手渡す。
「今日は授業があるから昼休みに持って来て貰えると助かる。」
「分かった。後で持って来るよ。」
じゃあまた、と自分のクラスへ戻る彼を見届けてから自分も席へと戻る。
「ちょっと〜。彼があの"鳴宮くん"?」
ゆうなの様にニヤケ顔でこちらを見る友達の麻衣だが、それを聞いて視線を合わせられない。
「そうだけど…。」
「ふぅ〜ん。好きなんだ。」
「へっ?!だから違うって!」
「どうだかねぇ〜。」
そこへチャイムが鳴り響き友人は自分の席へと戻る。
授業を受けながら今頃彼は驚いているだろうな、と内心考えながら窓から空を見上げた。
※※※
(鳴宮 side)
あの時、泣かせてしまった彼女とは挨拶を交わしたり少しだけ世間話をするようになった。
しかしそれだけだ。
部活にも真面目に取り組むところを何度か見かけた。いい子である事が分かる。
たまたま教科書を忘れた事をきっかけに、教科書をまた借りて欲しいと言われ借りてきたのだが。
何故彼女がそんな事を言うのか理解出来ずパラパラと教科書を開く。
するととあるページで止まり、そこに一枚の紙が挟まっていた。
見て良いものだろうかと悩みながらもその紙を取り出しノートの上に置く。どうやら自分宛のようだ。
そこに並ぶ文字は恐らく彼女のもので、可愛らしくもどこか整った文字に少し表情が緩んだ。
書かれている文章は先日アニメの話をした事のお礼と自分の事を知るきっかけになったことが書かれていた。
読み進めるに連れてなんだか気恥ずかしくなり家で読もうと丁寧に折り畳んでそっとペンケースの中に忍び込ませたのだった。
昼休み。
教科書を返そうと静弥に声をかける。
「また借りてたんだ。」
「ああ。うっかり忘れて。」
「へぇ…。」
探るような含みを持たせたその声と表情に居心地が悪くなり「行ってくる」と足早にクラスを後にした。
彼女のクラスへ着けばすぐに見つけられ、彼女もすぐに気付きこちらへ走りよって来る。
「教科書ありがとう。」
「どういたしまして。」
「あと、"あれ"も…ありがとう。」
「ふふ、いいえ。」
手紙というフレーズがなんだが口にするのも気恥ずかしくて抽象的な言葉で濁しお礼を伝えれば彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
「二人とも、なんだか楽しそうだね。」
「おわっ!静弥!」
「竹早くんっ!」
そこへ自分の背後から顔を出す静弥に二人して驚き声を上げてしまう。
「驚かすなよ。」
「別にそんなつもりはないけど?」
「でもびっくりしたよ〜。」
なんて話していたけれど、笑顔なのにただならぬ雰囲気の静弥に彼女と顔を見合せた。
ひとまず彼が何故ここへ現れたのか聞いてみる事に。
「何かあったのか、静弥。」
「だから別に何も。それより"あれ"って何?」
話を流してくれない静弥にチラリと彼女を見れば彼女は困ったようなでも何かを思案している様子だ。
自分もどう説明しようかと納得のいく答えを探す。
「鳴宮くんにお礼の手紙を挟んでたの。」
ふと言葉が聞こえ視線を彼女に向けた。
「手紙?」
「そう、手紙。この前たくさんお話をしたから話してくれてありがとう、って…。口で言っても良かったけど、その時は気恥ずかしくて紙に書いて教科書に挟んだの。」
あながち間違ってないし、嘘も言ってないが彼女の言葉に驚きを隠せない。
てっきり言葉を濁すかと思っていたのだ。
「そう、なんだ。二人は仲いいんだね。」
「そうかな…仲良くなってきた、とは思うけど…。」
「だけど手紙のやり取りをする仲じゃないか。」
「やり取りって程でもないよ、私が書いただけだし…。」
しかし静弥の様子に不思議に思いながら二人のやり取りを聞いていたがこのままでは彼女に申し訳ないと思い間に入る。
「静弥どうしたんだ?怒ってないか?」
「…別に、怒ってはない。」
「でもなんだか変だ。いつもの静弥じゃない。」
「いつも通りだけど?」
そうか?、と首を傾げていると静弥の名前がどこからか聞こえる。
どうやら遼平が呼んでいるようだ。
静弥は「呼ばれてるから」と立ち去り、気まずい雰囲気のまま二人取り残される。
「…なんで手紙のこと、話したんだ?」
「竹早くん…ああ言わないと納得してくれないだろうな、って思って…。」
何度か似た様な事があったの、と話す彼女の表情は困惑しているように見えた。
「"答えを聞くまでは逃がさない"って感じで…。」
ちょっと怖かった時があってね、と眉尻を下げながら話す彼女の話が信じられなくて内心驚きを隠せない。
「…静弥が。」
「うん。なんでか分からないけど…。」
「それはあんたの事が好きだからじゃないの?」
「ぉわっ!」
「わっ!麻衣?!」
本日二度目。
二人してまた声を上げて驚く。
「麻衣!急にびっくりするじゃない!」
「ごめん、ごめん。なかなか戻って来ないから何事かと思ってさぁ。」
話は聞かせてもらったよ、と教室のドアの影から姿を現しにやり顔でこちらを見る彼女の友達。
どうも、と軽く挨拶を済ませたが静弥が彼女の事を好きだという言葉が引っかかる。
「と言うか、なんで竹早くんが私の事を好きな事に繋がるのよ。」
そんな自分を他所に会話を進めていく女の子達。
「あれはどう見ても嫉妬でしょ、嫉妬。ヤ、キ、モ、チ。」
「そんな事有り得ないよ…。ねぇ?鳴宮くん…鳴宮くん?」
静弥が嫉妬?ヤキモチ?それが信じられなくて彼女の言葉が届いていなかった。
「鳴宮くん、どうかしたの?」
「え、あ…何でもない!じゃあまた部活で!」
「ちょ、鳴宮くん!」
つま先立ちをしながらこちらを伺う彼女との距離が思ったよりも近くて驚き、我に返れば逃げる様にその場を去ってしまった。
教室に戻って自分の席に着けば、机に顔を伏せて先程の会話を思い返す。
(静弥が彼女を好き…?だから怒ってたのか?)
彼女と出会ってまだ間もないけれど、親しくしてくれる彼女には人として好意は持っている。
静弥が彼女の事を好きだとしても別に構わないと思うのだが何故か違和感が抜けない。
彼女に対しては、いい子だな、頑張り屋さんだな、それだけの認識だ。だから違和感など気の所為だと思い込んだ。
深呼吸すれば少し落ち着きを取り戻す。
そこへ誰か来た気配がしたけれどそれが誰かなんて声を聞かなくてもわかる。
「湊。」
名前を呼ばれて顔を上げれば、立っていたのは静弥でまだどこか不機嫌そうだ。
「…遼平はどうしたんだ?」
「用は済んだから戻ってきた。」
「そう、なんだ。」
あんな話を聞いた後で若干ぎごちなくなる。
「湊。様子が変だ。」
「…変じゃないよ。」
「いや。変だ。何かあったんじゃないか?」
察しのいいこの男に内心イラつく心が少し芽生えたが溜息と共に考えを振り払う。
「何かあったとしても静弥には関係ないだろ。」
「それはそう、だね…。」
振り払ったと思ったけれど残っていたイラつきが言葉となって彼を突き放してしまった。
「ごめん…。こんな風に言うつもりは…。」
「いいよ。湊の言う通りだ。過保護とか干渉しすぎだとかたまに言われる事あるから。」
気を付けないと、と肩を竦める友はいつも通りに見え安堵する。
「てか、そんな事言われてるなら自覚があったりするんじゃないのか?」
「さぁ…。それはどうかな?」
友は笑っているがその裏で何を考えているのか想像し難く、苦笑いするしか出来なかった。
とは言え落ち着かない心持ちで弓を引けばそれがそのまま射に現れる訳で。
「湊。やっぱり今日は変だ。少し休んだ方がいいと思う。」
焦りは禁物だよ、と友に言われ弓を持つ左手に力が入った。
「湊、まだ早気治ってないんだよな…だから俺も無理して欲しくない。」
大きな体を少し屈めながら話す旧友の言葉にも後押しされ小さく息を吐けば、静かに身体を動かし弓を壁に立てかける。
「ありがとう。静弥、遼平。俺少し走ってくる。」
袴からジャージに着替えれば靴を履いて外へと出た。
軽く準備運動をして走り出せば他の部活動の声や音が風に乗って耳に届く。
校門を出て外周を走っていると見覚えのある後ろ姿に走るスピードを少しだけ速め声をかけた。
「〇〇、」
「へ?あ、鳴宮くん!」
どうして?、と走りながら尋ねる彼女の息は少し苦しそうだ。
だいぶ走り込んだのだろうか。
「…ちょっと調子が…。だから気分転換に走りに来たんだ。」
「そうなんだ…。鳴宮、くん…大丈夫?」
走りながら横目で彼女を見れば彼女はこちらに顔を向け、心配そうに見上げていた。
あの違和感が何か分からないままだが、彼女の隣で彼女と話せた事、自分を見て心配してくれてる事が少し嬉しいと思ってる自分が居る。
「平気だよ。走ってたら気分が少し良くなってきたみたいだ。」
「それは…良かった!」
若干息を切らしながらも安堵する彼女の表情を見て自分も表情が緩む。が、次の瞬間彼女が視界から消えた。
「…あいたたた…。」
「平気かっ?!」
「えへへ…。思い切りコケちゃった…。」
あはは、と地面に座ってる彼女の膝を見れば擦りむき血が滲んでいる。
「ごめん。俺が話しかけてたから…。」
「ううん、私が不注意なだけだよ。鳴宮くんが謝ることないから。走ってていいよ?私は保健室に…って、わっ!」
彼女が立ち上がり歩きだそうとするも痛みでよろける所を腕を掴み支える。
「俺も一緒に着いて行くよ。」
「え、でも…。」
「〇〇の傷の方が心配だ。小さな傷でもどうなるか分からない。だから…。」
そう彼女に伝えながらあの時の、事故の事や怪我ではないけれど早気の事を考えていた。
少し自分と身長差のある彼女が歩きやすいように背中の服を掴んで欲しいと伝え、自分は彼女と腕組をする様に持ち、支えながら歩き出す。
ひょこひょこ、と怪我した脚をゆっくり着きながら慎重に歩き、幸いにも校門の近くだったためすぐに敷地内には入る事が出来た。
弓道場は校舎の脇にあるため先に彼女を保健室へと連れて行くことにした。
保健室に入って先生に彼女の治療を任せ、またすぐに戻る事を伝えれば自分は弓道場へと走り出す。
「失礼します。」
「あ、湊!お帰りー!」
「お帰り、湊。気分はどう?」
「うん。少し気分が晴れたよ。それより〇〇が怪我をしたんだ。今保健室で手当てしてもらってる。それを伝えに来たのと、そのまま帰る事になるかもだから荷物も持って行くよ。」
「え…、怪我って…。」
部長である静弥に先程の事を伝えれば目を見開き驚いていた。
「コケて膝を擦りむいたんだけど…あの歩き方はもしかしたら足首をやってるかもしれない。」
「…そう。なら僕が確認しに行くから湊は練習に戻っていいよ。」
そう静弥に言われたが何故かそのまま彼の言葉に頷く事が出来なかった。
彼女が怪我をした時に一緒にいたのは自分だ。心配な気持ちもあるが責任感も感じておりそこは自分が行きたかった。
「部長のお前ぇは練習の指示をしやがれ。」
「部員の怪我の把握をするのも部長の務めだと思うけど?」
「それはコイツに行かせればいいだろ。早気もまだ治ってねぇ奴にウロチョロされたら集中出来ねぇんだよ。」
小野木が親指を自分の方に向け静弥に抗議する。内容に引っかかる部分があるものの今は有難いと思ってしまった。
「そうそう。鳴宮は今日調子出ないみたいだし、ここは任せて竹早は後で話を聞いたらいいじゃん。」
「でも…。」
如月も小野木の言葉に賛同するようにアシストしてくれるも、それでも納得いかない様子の静弥に今度は女子部員達の声が聞こえてきた。
「怪我、心配ですわね…。」
「そうだね。鳴宮が怪我をした場面を見てるんだし、もし森岡先生に説明が必要なら彼が行った方が妥当じゃないかな。」
「はぁ…。分かった。湊に任せるよ。」
妹尾の言葉は妙に説得力がありそれに静弥も納得してくれた。
「はい!あの子の荷物と…あと湊くんの鞄も山之内くんに頼んで持って来たから!」
「なんで俺の分…?」
「そりゃあこの後送り届けてくれるんでしょう?」
「え?」
「え?、じゃない!怪我した女の子を放っておく気なの?」
「いや、俺チャリだし…。」
「それは押して行けばいいじゃない。」
「えー…。」
そんな無茶苦茶な、と思ったものの、あの子をお願いね!、と勢いのある花沢に気圧され戸惑いながらも荷物を受け取り皆の顔を見渡す。
女子部員はどこか達成感がある様な表情をしており楽しんでるようにも見え、遼平は奥の方から手を振り「気を付けて帰れよー!」と大きな声を出し、「邪魔なんだよ。さっさと帰れ。」と小野木はいつもの調子で、「女の子と一緒に下校なんていいなぁ。」なんて呑気な事を言う如月に苦笑いをする。
「このまま帰っていいのか?」
「…湊も調子出なかったし、帰って休んだ方がいい。」
静弥に確認すればそう言うので「分かった。ありがとう。」と荷物を持ち直してから出入口へ歩き出した。
「おはよう。」
「鳴宮くん、おはよう。」
時折廊下を歩いていると挨拶を交わすようになった。
彼とはクラスが違う為本当にたまにしか会わないけれど、遼平君に用がある時にクラスへ来た時は声をかけてくれる時もある。
「ごめん遼平。英語の教科書貸してくれないか?」
「俺今日英語ないから持ってきてない〜。」
ごめん!、と謝る遼平君とのやり取りが聞こえ鞄から教科書を取り出すと鳴宮君の前に持って行く。
「私の貸すよ?」
「いいのか?助かる。」
ありがとう、と教科書を受け取ると去って行く彼を見送りも何やら視線を感じチラリと見上げた。
「遼平くん、どうしたの?」
「なんで英語の教科書持ってんのかなー、と思って。」
「明日、小テストあるから友達と確認しとこうと思って持ってきてたの。」
「ぅえ?!小テスト?!後で俺にも教えて欲しい!」
頼む!、と鳴宮君に謝罪した時と同じポーズを取る彼に「後でね。」と伝えればめいいっぱいお礼の言葉を浴び、注目を集めたのは言うまでもない。
※※※
「教科書ありがとう。」
「どういたしまして。」
放課後、弓道場へ向かう途中で鳴宮君と出会い教科書を受け取る。
本当に助かったよ、と話す彼に頷き一緒に歩き出した。
「教科書にさ…、気になる所を見つけたんだけど…。」
「気になるところ?」
そんなところあったかな、と疑問に思いながらしまった英語の教科書を鞄から取り出しパラパラと開いていく。
「ここ。」
そう言って鳴宮君の指先に視線を落として見ればそこにあったのはある時の授業中に落書きをしたイラストと英語のフレーズだった。
「わぁあ!!」
バシン!、と教科書を閉じ慌てて鞄にしまった。
「…見ちゃった…?」
「ごめん、見た。」
口元を手で覆いながら笑いを堪えてる様子の彼に恥ずかしさが込み上げてくる。
「でもそれ、俺知ってる。」
「そうなの?!」
「上手く描けてるよ。」
自分が描いたものは昔みたアニメのキャラクターだがマイナーなキャラな為周りに知ってる人は殆ど居なかったので驚いた。
「これ知ってる人に出会えたの久しぶりかも!」
嬉しい!、とアニメの話で盛り上がった。
だけど彼は弓道を始めるようになってからはアニメなどはあまり見なくなったと話してくれた。
「最近の流行も全然知らないからついていけない。」
少し寂し気に笑う彼を見て自分も何故だか胸が苦しくなった。
「また…教科書かりに来て。」
「え?」
「教科書、かりに来て欲しいの。」
「分かった…。」
不思議そうにする彼を横目にしながら弓道場の中へと入って行く。
※※※
「〇〇、居るか?」
教室で友達と話していると名前が聞こえた。教室の出入り口を見れば鳴宮君の姿があった。
「鳴宮くんどうしたの?」
「いや…教科書貸して欲しくて…。」
少しぎこちなさげに言う彼に頷けば机から教科書を取り出し彼に手渡す。
「今日は授業があるから昼休みに持って来て貰えると助かる。」
「分かった。後で持って来るよ。」
じゃあまた、と自分のクラスへ戻る彼を見届けてから自分も席へと戻る。
「ちょっと〜。彼があの"鳴宮くん"?」
ゆうなの様にニヤケ顔でこちらを見る友達の麻衣だが、それを聞いて視線を合わせられない。
「そうだけど…。」
「ふぅ〜ん。好きなんだ。」
「へっ?!だから違うって!」
「どうだかねぇ〜。」
そこへチャイムが鳴り響き友人は自分の席へと戻る。
授業を受けながら今頃彼は驚いているだろうな、と内心考えながら窓から空を見上げた。
※※※
(鳴宮 side)
あの時、泣かせてしまった彼女とは挨拶を交わしたり少しだけ世間話をするようになった。
しかしそれだけだ。
部活にも真面目に取り組むところを何度か見かけた。いい子である事が分かる。
たまたま教科書を忘れた事をきっかけに、教科書をまた借りて欲しいと言われ借りてきたのだが。
何故彼女がそんな事を言うのか理解出来ずパラパラと教科書を開く。
するととあるページで止まり、そこに一枚の紙が挟まっていた。
見て良いものだろうかと悩みながらもその紙を取り出しノートの上に置く。どうやら自分宛のようだ。
そこに並ぶ文字は恐らく彼女のもので、可愛らしくもどこか整った文字に少し表情が緩んだ。
書かれている文章は先日アニメの話をした事のお礼と自分の事を知るきっかけになったことが書かれていた。
読み進めるに連れてなんだか気恥ずかしくなり家で読もうと丁寧に折り畳んでそっとペンケースの中に忍び込ませたのだった。
昼休み。
教科書を返そうと静弥に声をかける。
「また借りてたんだ。」
「ああ。うっかり忘れて。」
「へぇ…。」
探るような含みを持たせたその声と表情に居心地が悪くなり「行ってくる」と足早にクラスを後にした。
彼女のクラスへ着けばすぐに見つけられ、彼女もすぐに気付きこちらへ走りよって来る。
「教科書ありがとう。」
「どういたしまして。」
「あと、"あれ"も…ありがとう。」
「ふふ、いいえ。」
手紙というフレーズがなんだが口にするのも気恥ずかしくて抽象的な言葉で濁しお礼を伝えれば彼女は嬉しそうに笑ってくれる。
「二人とも、なんだか楽しそうだね。」
「おわっ!静弥!」
「竹早くんっ!」
そこへ自分の背後から顔を出す静弥に二人して驚き声を上げてしまう。
「驚かすなよ。」
「別にそんなつもりはないけど?」
「でもびっくりしたよ〜。」
なんて話していたけれど、笑顔なのにただならぬ雰囲気の静弥に彼女と顔を見合せた。
ひとまず彼が何故ここへ現れたのか聞いてみる事に。
「何かあったのか、静弥。」
「だから別に何も。それより"あれ"って何?」
話を流してくれない静弥にチラリと彼女を見れば彼女は困ったようなでも何かを思案している様子だ。
自分もどう説明しようかと納得のいく答えを探す。
「鳴宮くんにお礼の手紙を挟んでたの。」
ふと言葉が聞こえ視線を彼女に向けた。
「手紙?」
「そう、手紙。この前たくさんお話をしたから話してくれてありがとう、って…。口で言っても良かったけど、その時は気恥ずかしくて紙に書いて教科書に挟んだの。」
あながち間違ってないし、嘘も言ってないが彼女の言葉に驚きを隠せない。
てっきり言葉を濁すかと思っていたのだ。
「そう、なんだ。二人は仲いいんだね。」
「そうかな…仲良くなってきた、とは思うけど…。」
「だけど手紙のやり取りをする仲じゃないか。」
「やり取りって程でもないよ、私が書いただけだし…。」
しかし静弥の様子に不思議に思いながら二人のやり取りを聞いていたがこのままでは彼女に申し訳ないと思い間に入る。
「静弥どうしたんだ?怒ってないか?」
「…別に、怒ってはない。」
「でもなんだか変だ。いつもの静弥じゃない。」
「いつも通りだけど?」
そうか?、と首を傾げていると静弥の名前がどこからか聞こえる。
どうやら遼平が呼んでいるようだ。
静弥は「呼ばれてるから」と立ち去り、気まずい雰囲気のまま二人取り残される。
「…なんで手紙のこと、話したんだ?」
「竹早くん…ああ言わないと納得してくれないだろうな、って思って…。」
何度か似た様な事があったの、と話す彼女の表情は困惑しているように見えた。
「"答えを聞くまでは逃がさない"って感じで…。」
ちょっと怖かった時があってね、と眉尻を下げながら話す彼女の話が信じられなくて内心驚きを隠せない。
「…静弥が。」
「うん。なんでか分からないけど…。」
「それはあんたの事が好きだからじゃないの?」
「ぉわっ!」
「わっ!麻衣?!」
本日二度目。
二人してまた声を上げて驚く。
「麻衣!急にびっくりするじゃない!」
「ごめん、ごめん。なかなか戻って来ないから何事かと思ってさぁ。」
話は聞かせてもらったよ、と教室のドアの影から姿を現しにやり顔でこちらを見る彼女の友達。
どうも、と軽く挨拶を済ませたが静弥が彼女の事を好きだという言葉が引っかかる。
「と言うか、なんで竹早くんが私の事を好きな事に繋がるのよ。」
そんな自分を他所に会話を進めていく女の子達。
「あれはどう見ても嫉妬でしょ、嫉妬。ヤ、キ、モ、チ。」
「そんな事有り得ないよ…。ねぇ?鳴宮くん…鳴宮くん?」
静弥が嫉妬?ヤキモチ?それが信じられなくて彼女の言葉が届いていなかった。
「鳴宮くん、どうかしたの?」
「え、あ…何でもない!じゃあまた部活で!」
「ちょ、鳴宮くん!」
つま先立ちをしながらこちらを伺う彼女との距離が思ったよりも近くて驚き、我に返れば逃げる様にその場を去ってしまった。
教室に戻って自分の席に着けば、机に顔を伏せて先程の会話を思い返す。
(静弥が彼女を好き…?だから怒ってたのか?)
彼女と出会ってまだ間もないけれど、親しくしてくれる彼女には人として好意は持っている。
静弥が彼女の事を好きだとしても別に構わないと思うのだが何故か違和感が抜けない。
彼女に対しては、いい子だな、頑張り屋さんだな、それだけの認識だ。だから違和感など気の所為だと思い込んだ。
深呼吸すれば少し落ち着きを取り戻す。
そこへ誰か来た気配がしたけれどそれが誰かなんて声を聞かなくてもわかる。
「湊。」
名前を呼ばれて顔を上げれば、立っていたのは静弥でまだどこか不機嫌そうだ。
「…遼平はどうしたんだ?」
「用は済んだから戻ってきた。」
「そう、なんだ。」
あんな話を聞いた後で若干ぎごちなくなる。
「湊。様子が変だ。」
「…変じゃないよ。」
「いや。変だ。何かあったんじゃないか?」
察しのいいこの男に内心イラつく心が少し芽生えたが溜息と共に考えを振り払う。
「何かあったとしても静弥には関係ないだろ。」
「それはそう、だね…。」
振り払ったと思ったけれど残っていたイラつきが言葉となって彼を突き放してしまった。
「ごめん…。こんな風に言うつもりは…。」
「いいよ。湊の言う通りだ。過保護とか干渉しすぎだとかたまに言われる事あるから。」
気を付けないと、と肩を竦める友はいつも通りに見え安堵する。
「てか、そんな事言われてるなら自覚があったりするんじゃないのか?」
「さぁ…。それはどうかな?」
友は笑っているがその裏で何を考えているのか想像し難く、苦笑いするしか出来なかった。
とは言え落ち着かない心持ちで弓を引けばそれがそのまま射に現れる訳で。
「湊。やっぱり今日は変だ。少し休んだ方がいいと思う。」
焦りは禁物だよ、と友に言われ弓を持つ左手に力が入った。
「湊、まだ早気治ってないんだよな…だから俺も無理して欲しくない。」
大きな体を少し屈めながら話す旧友の言葉にも後押しされ小さく息を吐けば、静かに身体を動かし弓を壁に立てかける。
「ありがとう。静弥、遼平。俺少し走ってくる。」
袴からジャージに着替えれば靴を履いて外へと出た。
軽く準備運動をして走り出せば他の部活動の声や音が風に乗って耳に届く。
校門を出て外周を走っていると見覚えのある後ろ姿に走るスピードを少しだけ速め声をかけた。
「〇〇、」
「へ?あ、鳴宮くん!」
どうして?、と走りながら尋ねる彼女の息は少し苦しそうだ。
だいぶ走り込んだのだろうか。
「…ちょっと調子が…。だから気分転換に走りに来たんだ。」
「そうなんだ…。鳴宮、くん…大丈夫?」
走りながら横目で彼女を見れば彼女はこちらに顔を向け、心配そうに見上げていた。
あの違和感が何か分からないままだが、彼女の隣で彼女と話せた事、自分を見て心配してくれてる事が少し嬉しいと思ってる自分が居る。
「平気だよ。走ってたら気分が少し良くなってきたみたいだ。」
「それは…良かった!」
若干息を切らしながらも安堵する彼女の表情を見て自分も表情が緩む。が、次の瞬間彼女が視界から消えた。
「…あいたたた…。」
「平気かっ?!」
「えへへ…。思い切りコケちゃった…。」
あはは、と地面に座ってる彼女の膝を見れば擦りむき血が滲んでいる。
「ごめん。俺が話しかけてたから…。」
「ううん、私が不注意なだけだよ。鳴宮くんが謝ることないから。走ってていいよ?私は保健室に…って、わっ!」
彼女が立ち上がり歩きだそうとするも痛みでよろける所を腕を掴み支える。
「俺も一緒に着いて行くよ。」
「え、でも…。」
「〇〇の傷の方が心配だ。小さな傷でもどうなるか分からない。だから…。」
そう彼女に伝えながらあの時の、事故の事や怪我ではないけれど早気の事を考えていた。
少し自分と身長差のある彼女が歩きやすいように背中の服を掴んで欲しいと伝え、自分は彼女と腕組をする様に持ち、支えながら歩き出す。
ひょこひょこ、と怪我した脚をゆっくり着きながら慎重に歩き、幸いにも校門の近くだったためすぐに敷地内には入る事が出来た。
弓道場は校舎の脇にあるため先に彼女を保健室へと連れて行くことにした。
保健室に入って先生に彼女の治療を任せ、またすぐに戻る事を伝えれば自分は弓道場へと走り出す。
「失礼します。」
「あ、湊!お帰りー!」
「お帰り、湊。気分はどう?」
「うん。少し気分が晴れたよ。それより〇〇が怪我をしたんだ。今保健室で手当てしてもらってる。それを伝えに来たのと、そのまま帰る事になるかもだから荷物も持って行くよ。」
「え…、怪我って…。」
部長である静弥に先程の事を伝えれば目を見開き驚いていた。
「コケて膝を擦りむいたんだけど…あの歩き方はもしかしたら足首をやってるかもしれない。」
「…そう。なら僕が確認しに行くから湊は練習に戻っていいよ。」
そう静弥に言われたが何故かそのまま彼の言葉に頷く事が出来なかった。
彼女が怪我をした時に一緒にいたのは自分だ。心配な気持ちもあるが責任感も感じておりそこは自分が行きたかった。
「部長のお前ぇは練習の指示をしやがれ。」
「部員の怪我の把握をするのも部長の務めだと思うけど?」
「それはコイツに行かせればいいだろ。早気もまだ治ってねぇ奴にウロチョロされたら集中出来ねぇんだよ。」
小野木が親指を自分の方に向け静弥に抗議する。内容に引っかかる部分があるものの今は有難いと思ってしまった。
「そうそう。鳴宮は今日調子出ないみたいだし、ここは任せて竹早は後で話を聞いたらいいじゃん。」
「でも…。」
如月も小野木の言葉に賛同するようにアシストしてくれるも、それでも納得いかない様子の静弥に今度は女子部員達の声が聞こえてきた。
「怪我、心配ですわね…。」
「そうだね。鳴宮が怪我をした場面を見てるんだし、もし森岡先生に説明が必要なら彼が行った方が妥当じゃないかな。」
「はぁ…。分かった。湊に任せるよ。」
妹尾の言葉は妙に説得力がありそれに静弥も納得してくれた。
「はい!あの子の荷物と…あと湊くんの鞄も山之内くんに頼んで持って来たから!」
「なんで俺の分…?」
「そりゃあこの後送り届けてくれるんでしょう?」
「え?」
「え?、じゃない!怪我した女の子を放っておく気なの?」
「いや、俺チャリだし…。」
「それは押して行けばいいじゃない。」
「えー…。」
そんな無茶苦茶な、と思ったものの、あの子をお願いね!、と勢いのある花沢に気圧され戸惑いながらも荷物を受け取り皆の顔を見渡す。
女子部員はどこか達成感がある様な表情をしており楽しんでるようにも見え、遼平は奥の方から手を振り「気を付けて帰れよー!」と大きな声を出し、「邪魔なんだよ。さっさと帰れ。」と小野木はいつもの調子で、「女の子と一緒に下校なんていいなぁ。」なんて呑気な事を言う如月に苦笑いをする。
「このまま帰っていいのか?」
「…湊も調子出なかったし、帰って休んだ方がいい。」
静弥に確認すればそう言うので「分かった。ありがとう。」と荷物を持ち直してから出入口へ歩き出した。