胸に響くその音を
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10.弓道部入部
週末を前にいよいよ本格的に弓道部の部員として緊張した面持ちで弓道場へと足を進める。
「改めまして。入部した〇〇 ハルです。初心者ですが精一杯頑張ります。よろしくお願いします。」
ジャージに着替えストレッチをした後にトミー先生から集合の号令があった。新入部員達による自己紹介だ。
「初心者の君達もこれで風舞高校弓道部の一員。みな、切磋琢磨しながら仲良くするように。」
「「はい!」」
「うむ。いい返事じゃ。初心者の君達はまずは体作りからじゃな。体力は忍耐力、持久力、精神面において重要じゃ。」
そう言って竹早に目配せをするとプリントが手渡された。
「新入部員の者達はこのメニューをまずはこなすように。」
「トミー先生質問いいですかー?」
「おお、よいぞ。」
プリントを眺めていると新入部員の中から質問の声が上がる。
「ここに書いてあるんすけど、夏までは袴着れないって本当っすか?」
男子生徒の声に釣られてプリントの隅々まで読むと、そんな事を書いてあるのを見つけた。
「そうじゃな。まずは基礎体力をつけ、弓にも少しずつ慣れてきたら袴を着ることになる。形から入るのもありじゃが…弓道の様々な事を知ってからでもよかろう。その方が身が更に引き締まるものよ。」
トミー先生の言葉に納得していたが、周りからは「袴すぐ着れないのかよ」などとどよめきが起きている。
「気持ちは分からんでもないが、ほれ、活動開始じゃ。」
トミー先生の合図で皆玄関へと向かう。まずは走り込みだ。
ぞろぞろと玄関に向かう列に加わり靴を履けば走り出す。先日、鳴宮と会った時と同じコースだ。
鳴宮との出来事を思い出すと胸が締め付けられる。彼には未だに謝れていない。
クラスが離れているし、なかなか会える機会が少なく仕方がないと言えば仕方がないのだが、どうしても彼には一言謝罪の言葉を伝えたかった。
どうしたら伝えられるか考えたけれど、やはり竹早にお願いするしかないか、と考えに至る。
どうにも出来ないことを考えてもどうにもならないのだ。
ジョギングが終わり弓道場に戻ると筋トレやストレッチ、後は弓を引く練習としてゴム引きをする。
「なんかやる事って地味だよなー。」
近くで練習している男子の声が聞こえた。
「確かに地味だな。弓道自体があまり目立たないと言うか…袴はカッケーけどな。」
言えてる、とそこから話題が音楽の話に変わった。
確かに地味だが、弓道はとても美しいと思う。
作法一つにとっても、的を真っ直ぐ見て、一本の矢を射る動作も、全てが綺麗だとそう感じた。
矢を放つ時のその音が耳から、感じた振動が胸から離れない。
昨年の夏を思い出しながら筋トレに励んだ。
翌日。
「え?他の新入部員が辞めた…?」
放課後、道場に向かうとやけに静か。道場に居るのは袴を着ている部員達だけ。
床ぶきをしていたゆうなに聞けば驚く情報だった。
「そうみたい。トミー先生から何も聞いてない?私達は鍵を取りに行った竹早から聞いたんだけど…。」
「ううん、私は今知ったよ。」
そう言えばトミー先生から視線を感じていた様な気がしていたのは気の所為ではなく、やはり事情があったのだと悟った。
「私、着替えて来るね。」
先生がこちらを見ていたということは声をかけようとしていたのだろうか。しかし考えても仕方がないと判断し着替える為、ゆうなに声をかけ更衣室へと向かう。
途中、小野木と目が合うばこちらに向かって来るではないか。思わず身構え肩から提げている鞄の紐を両手でキツく握り締める。
「おい。」
「お疲れ、小野木くん。な、何か用かな?」
彼の気迫に怖気そうになりながらも何とか言葉を振り絞り返答する。
「…お前、どうだ?」
「どうって…?え?」
いきなり何を聞かれてるのかさっぱり理解出来ず困惑してしまう。それが彼の機嫌を更に損ねてしまうのは言うまでもない。
「ちっ。ちょっと着いて来い。」
「え!ちょ、小野木くん?!」
唐突に左手首を掴み引っ張られた。彼の行動に戸惑いを隠せず、驚きと恥ずかしさと入り乱れ心拍数が上がる。
彼の背中を見つめながら後を着いて行けば男子更衣室の前で止まる彼。
まさかとは思ったがそのまさかで、扉を開けて中へ入る。
「かっちゃん、何か忘れも…わぁっと!」
「わぁあ!七緒くん!ごめんなさい!!」
中に入るとそこでは如月が着替え中で、制服のシャツを脱いでいた為彼の上半身が視界に入ってしまった。
思わず右手で自分の目元を覆って隠しながら謝罪する。
ノックもせずに入るとは小野木らしいがこういう場合もあるので考えて行動して欲しいと思ったのだった。
「悪りぃ七緒。次からは気を付ける」
「いやいや!気を付ける、じゃないでしょ!俺の生着替えを晒す気?!」
「あ?コイツが後ろ向きゃいい話だろ。」
「うわぁ…何それ。プライベートを尊重しない男は嫌われちゃうぞ。」
「言ってろ。コイツに薬塗るだけだすぐ終わるから待っとけ。」
薬、の言葉で彼の意図が漸く理解出来た。それならそうと言って欲しいものだ。言葉が足りない。
「七緒くん、ほんとごめんね。」
「良いって。服着たから手を退けてもいいよ。」
如月の言葉に手を退けるとまた制服を着用していた。申し訳なくて眉尻を提げて彼を見やる。
「ハルは悪くないっしょ。無理矢理連れ込むかっちゃんの責任。」
「何だと、七緒。俺は手当ての為にだな…!」
「おっと!かっちゃんの言いたい事は分かるけど、薬を持って道場内に行けば済む話じゃない?」
「うっ…それはそうかもしれねぇけどよ…。」
如月の言葉に勢いがなくなる小野木の姿に少しばかり笑いそうになりながら、ウィンクを飛ばす如月と目が合えば笑みを交わし合うのだった。
結局、そのまま更衣室で小野木が傷薬を塗ってくれ、終わるのを如月が待ってくれた。
二人に感謝しながら更衣室を出れば自分は女子更衣室へと入る。
既に女子部員の三人は着替えを終えているので自分一人だ。
体操着に着替えながら新入部員達の事を考える。
そう言えば如月の取り巻き達も見かけていない。彼が更衣室に居る時は必ず彼女達も更衣室で着替えをし、彼よりも早く道場内で待っていたのだ。
そうすると小野木の視界にも入るわけで彼からの視線が気になっていたようだが。
「本当に私一人だけなんだ…。」
小さく独り言を零す。他の新入部員が自分一人だけだと言う事に少し寂しくなった。初心者は私一人だけなのだ。
同じ境遇の人が一人でも居ると心境も違うもの。切磋琢磨しながら同じ初心者もの同士、仲良くなれたらと考えていたのだ。
弓道のいろはについて初心者ならではの会話が出来たらとも思っていた。
しかし辞めてしまったのなら仕方がない。
荷物を入れたロッカーを閉め、更衣室から出ようと扉に手をかけるとノックが聞こえた。
「竹早だけど、着替えは終わったかな?」
更衣室には自分だけしか居ないことを知ってるのだろう。彼が扉の向こうに居ると思うと先日の事もあり少しだけ緊張が走るが、一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせると扉を開いた。
「着替えるの遅かったかな、ごめんね。」
もしかするともう既に皆が集まって待たせているのかと少しばかり焦る。
「着替え、終わってるね。時間はまだ大丈夫。遼平が今やっと来て着替えてるところだから。」
やれやれ、と言わんばかりの砕けた表情をする彼に安堵しつつ笑みが溢れる。確かに隣の部屋から、「急げー!」と彼の焦る声が聞こえてきた。
山之内らしいと思いながらふと視線を感じて目の前にいる竹早に視線を移す。
彼は真っ直ぐにこちらを見やり、その表情は無に近い。彼は眼鏡ではなくコンタクトだからか彼の瞳からの視線がダイレクトに伝わり一瞬で身体に緊張が走った。
「た、竹早くん…?」
「さっき、小野木と更衣室に入ってたけど何も無かった?それとそんなに遼平が気になる?」
「えっと…」
竹早の抑揚が少なく、僅かに怒気を含んでる様に聞こえる声に一歩後退りをしてしまう。
何故彼が怒ってるのか分からない。
「その…小野木くんからは薬を塗ってもらって、遼平くんの事は別に気になってないよ?ただ今の話を聞いて彼らしいな、って思っただけで…。」
しどろもどろになりながら竹早に話をする。何故こんな事が気になるのかよく分からず、部長だから気にかけてくれているのか、神聖な弓道場だから真剣に取り組め、という事なのか。
初心者の自分には何も分からず悪い事をした気持ちになり竹早を見て頭を下げる。
「ごめん!竹早くん!私悪い事してしまってるのかな…初心者だから弓道場における作法とか分からなくて…!部長として竹早くんは咎めに来たんだよね、本当にごめんなさい!」
瞼を思い切り閉じて彼からの反応を待つ。
「いや…君のせいじゃないよ。何も悪い事はしてないから。そこは安心して欲しい。作法の事なら僕が教えるから心配しなくていいよ。だから頭をあげて欲しい。」
彼の声色は先程とは違って優しいものだった。彼の言葉に安堵しゆっくり頭を上げる。
「僕の方こそすまない。何か勘違いをさせてしまったみたいだ…。」
彼は眉尻を下げて本当に申し訳なさそうにしている。そんな姿に逆に焦る。
「そんな!竹早くんのせいでもないよ!少なくとも気にかけてくれたんだよね?本当にありがとう!」
彼に安心してもらいたくて笑みを向ければ不意に視線を逸らし咳払いをしている。
「コホン…そうだ。これを渡そうと思って来たんだ。」
そう言って彼が胸元から小さな紙切れを一枚取り出し手渡された。
それを受け取り視線を落とすとそこに書かれていたのはトレーニングメニューだった。
「ありがとう、竹早くん。今日はこのメニューをしたらいいんだね。」
「ランニングも入れてるけど、ちゃんと戻ってこないとダメだからね?」
表情は笑顔だが、オーラが穏やかには感じられず引き笑いになりながらも「気を付けます。」と答え彼と共に弓道場内へと向かった。
「ギリギリセーフ!!」
大きく扉を開く音がしたと思えば、同じく大きな声が道場内に響いた。
勿論声の主は彼しか居ない。
「おめーはいちいち声が出けーんだよ!声は落として慎ましく話せ!」
「わぁ!そうだよな!ごめん!」
山之内の大きな声にまず反応したのは言わずもがな、小野木くんだ。
「まぁまぁ。そう言うかっちゃんだって声を荒らげてるっしょ。」
すかさずツッコミを入れるのは如月だが、こういう所は流石だな、と感心する。
「るっせーよ。そんな事よりただでさえ遅れてんじゃねぇか。やる気あるのかよ。」
たくっ、と悪態をつきながら整列を始める彼に続いて皆も並ぶ。
山之内くんはしょんぼりして如月に慰められている。
そんな男子部員の様子を目で追いながら、自分は女子部員の後ろに並んで立った。
「皆おるかな?」
「「こんにちは!!」」
並び終わる頃のタイミングに道場内へと入ってくるトミー先生に挨拶をする。
「うむ。元気でよろしい。さて、皆も知っての通りじゃが初心者の新入部員が一人だけになってしもうてなぁ…。」
そう話し始めたトミー先生は一瞬だけ視線をこちらに向けたのが分かった。先生としっかりと目が合ってしまったのだ。
「わしとしては弓道に触れる若者達が減って寂しいところではある。初心者は〇〇くんだけだが、経験者の皆は己の姿が見本となる様に立ち振る舞い、初心者の〇〇くんはそれを見て習い、教えを乞うのじゃぞ?」
すぐに視線を戻し自分達を見回しながら話すトミー先生。
「はい!」
トミー先生の言葉に緊張しながらも嬉しくもあった。自分の返事を聞くとトミー先生は朗らかに、嬉しそうに何度も頷いた後、合図とともに部活動が始まった。
「少しいいかの?」
トミー先生の話を聞いた後解散して各々の活動に入るところで声をかけられる。声と話し方からしてトミー先生だ。
「どうかされましたか?」
「いやいや。特に何かある訳ではないのじゃが…。」
トミー先生にしては珍しく歯切れの悪い言い方で妙に気になってしまう。
「本来ならば活動が始まる前に初心者の新入部員達が辞めていったこと…それを予め伝えておこうと思ったのじゃが、なかなか言い出せなくての…すまなかった。」
「そんな!先生のせいではないのですし、謝らなくても大丈夫ですよ!」
申し訳なさそうに眉尻を下げて話す先生に悪い気など起こす事は微塵もなく、慌てて声をかけた。
先生から視線を感じていた理由が分かって寧ろスッキリしたくらいだ。
「とは言え、やはり知っておるのと知らんのでは心構えが違うもの。声をかけ、事実を知るとお主も辞めるんじゃないかと…ちと尻込みしてなぁ。」
本当にすまかった、と会釈程度に頭を下げるトミー先生。
不謹慎ながらも先生の言葉が本当に嬉しかった。先生は自分に辞めて欲しくない、初心者でもここに居てもいいのだと言ってくれているようで本当に胸が熱くなる。
「大丈夫ですよ、先生。先に話を聞いていたとしても辞めるなんて事は口にしなかったと思います。確かに寂しいけれど…私の弓道への思いは熱くなったばかりなのですから…これからもっと燃えますよ。辞めたりなんてしません。」
先生の目を真っ直ぐに見て微笑み自分の意思を伝えた。先生は一瞬だけ目を見開き、すぐに表情が朗らかになる。
「うむ。君には感謝せねばならんの。これから励み、弓道の精神を身に染み込ませていくと良い。よろしく頼む。」
「こちらこそ!よろしくお願いします、トミー先生!」
うんうん、と頷く先生に一礼しゆうな達の所へと向かう。先生の言葉を胸に刻み、その足取りは軽い。
「結局残った新入部員はハルだけかぁ。」
ゆうな達と合流した後、2人ペアになりストレッチをする。自分は今日はゆうなとペアだ。
「わたくしとしては静かになってやりやすいですわ。」
白菊らしいな、と気付かれぬように小さく微笑む。
「根性あると思うよ。改めてよろしく」
よろしく、と女子で挨拶を交わせばやる気が漲ってきた。
ストレッチを終えた後、竹早に貰ったメモを確認する。腹筋に腕立て伏せ、ランニング…よくあるトレーニングメニューだ。
「何見てーんの?」
「ひゃわ!七緒くん!ビックリした!」
メモと睨めっこしていた所にひょっこり横から顔を覗かせる彼に本当に驚いた。
「ごめん、でも驚いた顔も可愛ーね。」
なんて言って微笑むものだからたちまちに心臓の鼓動が速くなり顔に熱が集まる。
「あらら。赤くなっちゃって。そんなところも可愛いと思うなー。」
などと、更に追い打ちをかけてくる彼に何を話せばいいのか混乱し戸惑ってしまう。
「七緒、お前は早く準備しろ。それからお前もボーッと突っ立ってないでサッサとトレーニングに集中しろ。」
「もー、かっちゃんは硬っ苦しいって。そんなんだと最後の新入部員居なくなっちゃうぞー。」
「なんだと七緒!」
小野木が如月に突っかかろうとしたところでゆうなが割って入り、「まぁまぁ、君達二人とも喧嘩なら外でして欲しいな。」と間を取り持っていた。
「喧嘩じゃねーし!」と反抗している小野木に「かっちゃんには俺がついてないとね。」と言う如月のやり取りに微笑みながらも彼らに声をかける。
「七緒くんも小野木くんもこれからよろしくね。私は辞めないから安心して!」
親指を立てて意気揚々と挨拶をする。小野木と如月は二人で視線だけ交わした後、如月は満面の笑みを浮かべ、小野木は腕組みをしてこちらに睨みを利かす。
そう見えるだけなのかもしれないが。
「もち!改めてよろしくね!」
「初心者だからって甘くねーぞ。覚悟しとけ。」
だからそういう所っしょ!、と如月に突っ込まれる小野木を見届け外へ出るために玄関へと向かう。
「あー、いたいた!これからランニングだよな!これ俺からのプレゼント!」
靴を手にした時にまた声をかけられる。今度は山之内だ。屈託ない笑顔を見せ手渡されたのはスポーツドリンク。
「ありがとう、遼平くん。でもプレゼントって?」
どうしてプレゼントなのか気になりながらも有難く受け取る。自分も持ってるが恐らくランニングなどしているとすぐになくなるだろうから助かった。
「実はここに来る途中でトミー先生に会って、初心者の新入部員の事聞いたんだ。人数が減っちゃうのは寂しいけど、ハルが残ってくれて安心した。俺も初心者に近いから仲間が増えたようで本当に嬉しくてさ。」
顔中を綻ばせる彼の笑顔は向日葵のように明るく温かいものに感じて胸がいっぱいになった。
「私も遼平くんが弓道部の仲間として居てくれて心強いよ!これ ありがとう!これからよろしくね!」
彼に負けじと笑顔で挨拶をすれば途端にしどろもどろになる彼。不思議に思いながらもメニューをこなさなければと山之内に手を振り、靴を履いて外へ出る。
そして軽く準備運動をしているとまた声をかけられた。
「これからランニングだね、寄り道はしないで時間内に帰ってこないと部長である僕に責任が問われるから気を付けて。」
そんな風に話しかけてきたのは部長である竹早。
「竹早くん、分かってるよ。帰りが遅かったのはあの時だけだったんだから…。」
少し棘があるような彼の物言いに悲しくなりながらも少しばかり反発してみる。
「分かってる。基礎体力をつける為のトレーニングをしっかりこなしていて頑張ってる事も知ってるよ。でも、まだまだこれから。僕が部長として全力でサポートするから辞めるなんてこと言わないで欲しい。」
急に真剣な表情で言われるものだからプレッシャーを感じつつも嬉しさが込み上げる。竹早を始め、皆が初心者の自分の事を受け入れてくれている事が何より有難かった。
小野木の本心は分からないけれど。
「もちろん辞めないよ。まだ始まったばかりだもの…これから練習して弓を引けるようになりたい。竹早くんの指導も頼りにしてるね。これからよろしく!」
竹早にも挨拶をすれば手を振り走り出す。
本当にまだ始まったばかり。
皆と一緒に弓を引ける日が来ることを夢見て、これからの部活や学校生活に胸を踊らせた。
あの時、胸に響いたあの音を、また感じる事が出来る。そんな気がして気持ちはやる気に満ち溢れ、走りながら高い青空を眺めては頬が綻ぶのだった。
週末を前にいよいよ本格的に弓道部の部員として緊張した面持ちで弓道場へと足を進める。
「改めまして。入部した〇〇 ハルです。初心者ですが精一杯頑張ります。よろしくお願いします。」
ジャージに着替えストレッチをした後にトミー先生から集合の号令があった。新入部員達による自己紹介だ。
「初心者の君達もこれで風舞高校弓道部の一員。みな、切磋琢磨しながら仲良くするように。」
「「はい!」」
「うむ。いい返事じゃ。初心者の君達はまずは体作りからじゃな。体力は忍耐力、持久力、精神面において重要じゃ。」
そう言って竹早に目配せをするとプリントが手渡された。
「新入部員の者達はこのメニューをまずはこなすように。」
「トミー先生質問いいですかー?」
「おお、よいぞ。」
プリントを眺めていると新入部員の中から質問の声が上がる。
「ここに書いてあるんすけど、夏までは袴着れないって本当っすか?」
男子生徒の声に釣られてプリントの隅々まで読むと、そんな事を書いてあるのを見つけた。
「そうじゃな。まずは基礎体力をつけ、弓にも少しずつ慣れてきたら袴を着ることになる。形から入るのもありじゃが…弓道の様々な事を知ってからでもよかろう。その方が身が更に引き締まるものよ。」
トミー先生の言葉に納得していたが、周りからは「袴すぐ着れないのかよ」などとどよめきが起きている。
「気持ちは分からんでもないが、ほれ、活動開始じゃ。」
トミー先生の合図で皆玄関へと向かう。まずは走り込みだ。
ぞろぞろと玄関に向かう列に加わり靴を履けば走り出す。先日、鳴宮と会った時と同じコースだ。
鳴宮との出来事を思い出すと胸が締め付けられる。彼には未だに謝れていない。
クラスが離れているし、なかなか会える機会が少なく仕方がないと言えば仕方がないのだが、どうしても彼には一言謝罪の言葉を伝えたかった。
どうしたら伝えられるか考えたけれど、やはり竹早にお願いするしかないか、と考えに至る。
どうにも出来ないことを考えてもどうにもならないのだ。
ジョギングが終わり弓道場に戻ると筋トレやストレッチ、後は弓を引く練習としてゴム引きをする。
「なんかやる事って地味だよなー。」
近くで練習している男子の声が聞こえた。
「確かに地味だな。弓道自体があまり目立たないと言うか…袴はカッケーけどな。」
言えてる、とそこから話題が音楽の話に変わった。
確かに地味だが、弓道はとても美しいと思う。
作法一つにとっても、的を真っ直ぐ見て、一本の矢を射る動作も、全てが綺麗だとそう感じた。
矢を放つ時のその音が耳から、感じた振動が胸から離れない。
昨年の夏を思い出しながら筋トレに励んだ。
翌日。
「え?他の新入部員が辞めた…?」
放課後、道場に向かうとやけに静か。道場に居るのは袴を着ている部員達だけ。
床ぶきをしていたゆうなに聞けば驚く情報だった。
「そうみたい。トミー先生から何も聞いてない?私達は鍵を取りに行った竹早から聞いたんだけど…。」
「ううん、私は今知ったよ。」
そう言えばトミー先生から視線を感じていた様な気がしていたのは気の所為ではなく、やはり事情があったのだと悟った。
「私、着替えて来るね。」
先生がこちらを見ていたということは声をかけようとしていたのだろうか。しかし考えても仕方がないと判断し着替える為、ゆうなに声をかけ更衣室へと向かう。
途中、小野木と目が合うばこちらに向かって来るではないか。思わず身構え肩から提げている鞄の紐を両手でキツく握り締める。
「おい。」
「お疲れ、小野木くん。な、何か用かな?」
彼の気迫に怖気そうになりながらも何とか言葉を振り絞り返答する。
「…お前、どうだ?」
「どうって…?え?」
いきなり何を聞かれてるのかさっぱり理解出来ず困惑してしまう。それが彼の機嫌を更に損ねてしまうのは言うまでもない。
「ちっ。ちょっと着いて来い。」
「え!ちょ、小野木くん?!」
唐突に左手首を掴み引っ張られた。彼の行動に戸惑いを隠せず、驚きと恥ずかしさと入り乱れ心拍数が上がる。
彼の背中を見つめながら後を着いて行けば男子更衣室の前で止まる彼。
まさかとは思ったがそのまさかで、扉を開けて中へ入る。
「かっちゃん、何か忘れも…わぁっと!」
「わぁあ!七緒くん!ごめんなさい!!」
中に入るとそこでは如月が着替え中で、制服のシャツを脱いでいた為彼の上半身が視界に入ってしまった。
思わず右手で自分の目元を覆って隠しながら謝罪する。
ノックもせずに入るとは小野木らしいがこういう場合もあるので考えて行動して欲しいと思ったのだった。
「悪りぃ七緒。次からは気を付ける」
「いやいや!気を付ける、じゃないでしょ!俺の生着替えを晒す気?!」
「あ?コイツが後ろ向きゃいい話だろ。」
「うわぁ…何それ。プライベートを尊重しない男は嫌われちゃうぞ。」
「言ってろ。コイツに薬塗るだけだすぐ終わるから待っとけ。」
薬、の言葉で彼の意図が漸く理解出来た。それならそうと言って欲しいものだ。言葉が足りない。
「七緒くん、ほんとごめんね。」
「良いって。服着たから手を退けてもいいよ。」
如月の言葉に手を退けるとまた制服を着用していた。申し訳なくて眉尻を提げて彼を見やる。
「ハルは悪くないっしょ。無理矢理連れ込むかっちゃんの責任。」
「何だと、七緒。俺は手当ての為にだな…!」
「おっと!かっちゃんの言いたい事は分かるけど、薬を持って道場内に行けば済む話じゃない?」
「うっ…それはそうかもしれねぇけどよ…。」
如月の言葉に勢いがなくなる小野木の姿に少しばかり笑いそうになりながら、ウィンクを飛ばす如月と目が合えば笑みを交わし合うのだった。
結局、そのまま更衣室で小野木が傷薬を塗ってくれ、終わるのを如月が待ってくれた。
二人に感謝しながら更衣室を出れば自分は女子更衣室へと入る。
既に女子部員の三人は着替えを終えているので自分一人だ。
体操着に着替えながら新入部員達の事を考える。
そう言えば如月の取り巻き達も見かけていない。彼が更衣室に居る時は必ず彼女達も更衣室で着替えをし、彼よりも早く道場内で待っていたのだ。
そうすると小野木の視界にも入るわけで彼からの視線が気になっていたようだが。
「本当に私一人だけなんだ…。」
小さく独り言を零す。他の新入部員が自分一人だけだと言う事に少し寂しくなった。初心者は私一人だけなのだ。
同じ境遇の人が一人でも居ると心境も違うもの。切磋琢磨しながら同じ初心者もの同士、仲良くなれたらと考えていたのだ。
弓道のいろはについて初心者ならではの会話が出来たらとも思っていた。
しかし辞めてしまったのなら仕方がない。
荷物を入れたロッカーを閉め、更衣室から出ようと扉に手をかけるとノックが聞こえた。
「竹早だけど、着替えは終わったかな?」
更衣室には自分だけしか居ないことを知ってるのだろう。彼が扉の向こうに居ると思うと先日の事もあり少しだけ緊張が走るが、一つ深呼吸をして気持ちを落ち着かせると扉を開いた。
「着替えるの遅かったかな、ごめんね。」
もしかするともう既に皆が集まって待たせているのかと少しばかり焦る。
「着替え、終わってるね。時間はまだ大丈夫。遼平が今やっと来て着替えてるところだから。」
やれやれ、と言わんばかりの砕けた表情をする彼に安堵しつつ笑みが溢れる。確かに隣の部屋から、「急げー!」と彼の焦る声が聞こえてきた。
山之内らしいと思いながらふと視線を感じて目の前にいる竹早に視線を移す。
彼は真っ直ぐにこちらを見やり、その表情は無に近い。彼は眼鏡ではなくコンタクトだからか彼の瞳からの視線がダイレクトに伝わり一瞬で身体に緊張が走った。
「た、竹早くん…?」
「さっき、小野木と更衣室に入ってたけど何も無かった?それとそんなに遼平が気になる?」
「えっと…」
竹早の抑揚が少なく、僅かに怒気を含んでる様に聞こえる声に一歩後退りをしてしまう。
何故彼が怒ってるのか分からない。
「その…小野木くんからは薬を塗ってもらって、遼平くんの事は別に気になってないよ?ただ今の話を聞いて彼らしいな、って思っただけで…。」
しどろもどろになりながら竹早に話をする。何故こんな事が気になるのかよく分からず、部長だから気にかけてくれているのか、神聖な弓道場だから真剣に取り組め、という事なのか。
初心者の自分には何も分からず悪い事をした気持ちになり竹早を見て頭を下げる。
「ごめん!竹早くん!私悪い事してしまってるのかな…初心者だから弓道場における作法とか分からなくて…!部長として竹早くんは咎めに来たんだよね、本当にごめんなさい!」
瞼を思い切り閉じて彼からの反応を待つ。
「いや…君のせいじゃないよ。何も悪い事はしてないから。そこは安心して欲しい。作法の事なら僕が教えるから心配しなくていいよ。だから頭をあげて欲しい。」
彼の声色は先程とは違って優しいものだった。彼の言葉に安堵しゆっくり頭を上げる。
「僕の方こそすまない。何か勘違いをさせてしまったみたいだ…。」
彼は眉尻を下げて本当に申し訳なさそうにしている。そんな姿に逆に焦る。
「そんな!竹早くんのせいでもないよ!少なくとも気にかけてくれたんだよね?本当にありがとう!」
彼に安心してもらいたくて笑みを向ければ不意に視線を逸らし咳払いをしている。
「コホン…そうだ。これを渡そうと思って来たんだ。」
そう言って彼が胸元から小さな紙切れを一枚取り出し手渡された。
それを受け取り視線を落とすとそこに書かれていたのはトレーニングメニューだった。
「ありがとう、竹早くん。今日はこのメニューをしたらいいんだね。」
「ランニングも入れてるけど、ちゃんと戻ってこないとダメだからね?」
表情は笑顔だが、オーラが穏やかには感じられず引き笑いになりながらも「気を付けます。」と答え彼と共に弓道場内へと向かった。
「ギリギリセーフ!!」
大きく扉を開く音がしたと思えば、同じく大きな声が道場内に響いた。
勿論声の主は彼しか居ない。
「おめーはいちいち声が出けーんだよ!声は落として慎ましく話せ!」
「わぁ!そうだよな!ごめん!」
山之内の大きな声にまず反応したのは言わずもがな、小野木くんだ。
「まぁまぁ。そう言うかっちゃんだって声を荒らげてるっしょ。」
すかさずツッコミを入れるのは如月だが、こういう所は流石だな、と感心する。
「るっせーよ。そんな事よりただでさえ遅れてんじゃねぇか。やる気あるのかよ。」
たくっ、と悪態をつきながら整列を始める彼に続いて皆も並ぶ。
山之内くんはしょんぼりして如月に慰められている。
そんな男子部員の様子を目で追いながら、自分は女子部員の後ろに並んで立った。
「皆おるかな?」
「「こんにちは!!」」
並び終わる頃のタイミングに道場内へと入ってくるトミー先生に挨拶をする。
「うむ。元気でよろしい。さて、皆も知っての通りじゃが初心者の新入部員が一人だけになってしもうてなぁ…。」
そう話し始めたトミー先生は一瞬だけ視線をこちらに向けたのが分かった。先生としっかりと目が合ってしまったのだ。
「わしとしては弓道に触れる若者達が減って寂しいところではある。初心者は〇〇くんだけだが、経験者の皆は己の姿が見本となる様に立ち振る舞い、初心者の〇〇くんはそれを見て習い、教えを乞うのじゃぞ?」
すぐに視線を戻し自分達を見回しながら話すトミー先生。
「はい!」
トミー先生の言葉に緊張しながらも嬉しくもあった。自分の返事を聞くとトミー先生は朗らかに、嬉しそうに何度も頷いた後、合図とともに部活動が始まった。
「少しいいかの?」
トミー先生の話を聞いた後解散して各々の活動に入るところで声をかけられる。声と話し方からしてトミー先生だ。
「どうかされましたか?」
「いやいや。特に何かある訳ではないのじゃが…。」
トミー先生にしては珍しく歯切れの悪い言い方で妙に気になってしまう。
「本来ならば活動が始まる前に初心者の新入部員達が辞めていったこと…それを予め伝えておこうと思ったのじゃが、なかなか言い出せなくての…すまなかった。」
「そんな!先生のせいではないのですし、謝らなくても大丈夫ですよ!」
申し訳なさそうに眉尻を下げて話す先生に悪い気など起こす事は微塵もなく、慌てて声をかけた。
先生から視線を感じていた理由が分かって寧ろスッキリしたくらいだ。
「とは言え、やはり知っておるのと知らんのでは心構えが違うもの。声をかけ、事実を知るとお主も辞めるんじゃないかと…ちと尻込みしてなぁ。」
本当にすまかった、と会釈程度に頭を下げるトミー先生。
不謹慎ながらも先生の言葉が本当に嬉しかった。先生は自分に辞めて欲しくない、初心者でもここに居てもいいのだと言ってくれているようで本当に胸が熱くなる。
「大丈夫ですよ、先生。先に話を聞いていたとしても辞めるなんて事は口にしなかったと思います。確かに寂しいけれど…私の弓道への思いは熱くなったばかりなのですから…これからもっと燃えますよ。辞めたりなんてしません。」
先生の目を真っ直ぐに見て微笑み自分の意思を伝えた。先生は一瞬だけ目を見開き、すぐに表情が朗らかになる。
「うむ。君には感謝せねばならんの。これから励み、弓道の精神を身に染み込ませていくと良い。よろしく頼む。」
「こちらこそ!よろしくお願いします、トミー先生!」
うんうん、と頷く先生に一礼しゆうな達の所へと向かう。先生の言葉を胸に刻み、その足取りは軽い。
「結局残った新入部員はハルだけかぁ。」
ゆうな達と合流した後、2人ペアになりストレッチをする。自分は今日はゆうなとペアだ。
「わたくしとしては静かになってやりやすいですわ。」
白菊らしいな、と気付かれぬように小さく微笑む。
「根性あると思うよ。改めてよろしく」
よろしく、と女子で挨拶を交わせばやる気が漲ってきた。
ストレッチを終えた後、竹早に貰ったメモを確認する。腹筋に腕立て伏せ、ランニング…よくあるトレーニングメニューだ。
「何見てーんの?」
「ひゃわ!七緒くん!ビックリした!」
メモと睨めっこしていた所にひょっこり横から顔を覗かせる彼に本当に驚いた。
「ごめん、でも驚いた顔も可愛ーね。」
なんて言って微笑むものだからたちまちに心臓の鼓動が速くなり顔に熱が集まる。
「あらら。赤くなっちゃって。そんなところも可愛いと思うなー。」
などと、更に追い打ちをかけてくる彼に何を話せばいいのか混乱し戸惑ってしまう。
「七緒、お前は早く準備しろ。それからお前もボーッと突っ立ってないでサッサとトレーニングに集中しろ。」
「もー、かっちゃんは硬っ苦しいって。そんなんだと最後の新入部員居なくなっちゃうぞー。」
「なんだと七緒!」
小野木が如月に突っかかろうとしたところでゆうなが割って入り、「まぁまぁ、君達二人とも喧嘩なら外でして欲しいな。」と間を取り持っていた。
「喧嘩じゃねーし!」と反抗している小野木に「かっちゃんには俺がついてないとね。」と言う如月のやり取りに微笑みながらも彼らに声をかける。
「七緒くんも小野木くんもこれからよろしくね。私は辞めないから安心して!」
親指を立てて意気揚々と挨拶をする。小野木と如月は二人で視線だけ交わした後、如月は満面の笑みを浮かべ、小野木は腕組みをしてこちらに睨みを利かす。
そう見えるだけなのかもしれないが。
「もち!改めてよろしくね!」
「初心者だからって甘くねーぞ。覚悟しとけ。」
だからそういう所っしょ!、と如月に突っ込まれる小野木を見届け外へ出るために玄関へと向かう。
「あー、いたいた!これからランニングだよな!これ俺からのプレゼント!」
靴を手にした時にまた声をかけられる。今度は山之内だ。屈託ない笑顔を見せ手渡されたのはスポーツドリンク。
「ありがとう、遼平くん。でもプレゼントって?」
どうしてプレゼントなのか気になりながらも有難く受け取る。自分も持ってるが恐らくランニングなどしているとすぐになくなるだろうから助かった。
「実はここに来る途中でトミー先生に会って、初心者の新入部員の事聞いたんだ。人数が減っちゃうのは寂しいけど、ハルが残ってくれて安心した。俺も初心者に近いから仲間が増えたようで本当に嬉しくてさ。」
顔中を綻ばせる彼の笑顔は向日葵のように明るく温かいものに感じて胸がいっぱいになった。
「私も遼平くんが弓道部の仲間として居てくれて心強いよ!
彼に負けじと笑顔で挨拶をすれば途端にしどろもどろになる彼。不思議に思いながらもメニューをこなさなければと山之内に手を振り、靴を履いて外へ出る。
そして軽く準備運動をしているとまた声をかけられた。
「これからランニングだね、寄り道はしないで時間内に帰ってこないと部長である僕に責任が問われるから気を付けて。」
そんな風に話しかけてきたのは部長である竹早。
「竹早くん、分かってるよ。帰りが遅かったのはあの時だけだったんだから…。」
少し棘があるような彼の物言いに悲しくなりながらも少しばかり反発してみる。
「分かってる。基礎体力をつける為のトレーニングをしっかりこなしていて頑張ってる事も知ってるよ。でも、まだまだこれから。僕が部長として全力でサポートするから辞めるなんてこと言わないで欲しい。」
急に真剣な表情で言われるものだからプレッシャーを感じつつも嬉しさが込み上げる。竹早を始め、皆が初心者の自分の事を受け入れてくれている事が何より有難かった。
小野木の本心は分からないけれど。
「もちろん辞めないよ。まだ始まったばかりだもの…これから練習して弓を引けるようになりたい。竹早くんの指導も頼りにしてるね。これからよろしく!」
竹早にも挨拶をすれば手を振り走り出す。
本当にまだ始まったばかり。
皆と一緒に弓を引ける日が来ることを夢見て、これからの部活や学校生活に胸を踊らせた。
あの時、胸に響いたあの音を、また感じる事が出来る。そんな気がして気持ちはやる気に満ち溢れ、走りながら高い青空を眺めては頬が綻ぶのだった。
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