月明かりの下で
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1.月明かりに照らされて
その日は家近くの神社にお参りに来ていた。
桜の花が咲く春の季節。この神社にも桜の木があるのだが、悠然とそびえ立ち桃色の花弁を咲き乱れさせていた。
今日は大学を卒業したのに就職先がうまく見つからず願掛けに来たのだ。
——はぁ…卒業出来ても無職って……
ついてない、そう思いながらも自分の事だ。就職出来なかった理由が、分かる気がした。流れに身を任せるよにして大学入学して、目標もやりたい事も見つからないまま…何となくで生きてきた自分だ。周りは必死に、やれ就職説明会だ、面接セミナーだ、と……。同期なんてスケジュール帳いっぱいに面接先の企業名が記されていた。
自分にはそこまでやる気力などなく、後回しにしていたらみんなに先を越されて、挙げ句まだ募集していた企業に慌てて面接を応募したものの不合格ばかり。そりゃそうだ。こんなやる気のなさそうな自分を誰が雇うと言うのだ…。
それでも生きていくためには働かなければ。ここから気持ち新たに自分と向き合おう、そう決めたのだ。
お参りの後、神社に咲いている桜を眺める。
風吹くたびに、ヒラヒラと花びらが舞い踊り、見入ってしまうほど美しいものだった。
——夜桜もいいかも……
何気なく思い付いたそれに満足しながら、再度夜に訪れる事を楽しみに神社を後にする。
夜。
今夜は綺麗な満月。月明かりで外も明るい。
歩いて20分くらいのところにある神社に着き、階段を昇って日中も訪ねた桜の元まで向かう。
思っていた通り、桜は月明かりに照らされ、それはとても美しかった。だが、思ったのは一瞬の事。何処ぞから、カン、パァンと音が鳴り響いている。
その音に導かれるよう歩きまわり、建物が見える頃にはまた甲高い音がした。近付いて確認すればどうやら弓道場で誰かが弓を引いているようだった。
——こんな夜に弓道って出来るんだ…
建物の陰からその姿を確認する。
そこには髪を結った男性が真剣な眼差しで弓を構えていた。そして矢を放つとスパァンと高い音を響かせ鼓膜を揺らす。
その瞬間、時間が止まった。
男性から目が離せなくなり、何故だか胸が高鳴る。左胸に右手を当てて深呼吸を数回……気持ちを落ち着かせるもそれが出来ない。
男性を月明かりが淡く照らす。夜風が吹けば桜の花びらが舞い、とても幻想的で……
「…綺麗っ……」
思わず心の声が漏れ出る。
男性はまた構えると真っ直ぐ的を見て矢を放つ。またカン、スパァンと音が響いて鳥肌が立った。その人は矢を放った後腰に手を当てじっと的を見ている。
もっと近くで見たくて足を踏み出す。ジャリっと足元からの音に驚き体から冷や汗が出た。
「ん?そこにいるのは誰だ?」
男性の方から声がして顔を上げる。なかなかのイケメンだ。…そうではなく、彼に話しかけられていることを思い出し応える。
「ご、ごめんなさい!邪魔するつもりはなくて!」
焦りもあり声が上擦ったような気がする。
「別に構わない」
目を細めて小さく笑う彼にまた鼓動が跳ねる。
久し振りのこの感覚に戸惑いつつも近付いてくる彼から目が離せなかった。近くで見る彼は背が高くて、袴?だろうか…身に付けている衣装が様になって本当に素敵だった。
「そんなに見詰められると流石に照れるな」
「あ!すみません!!」
「いや。こんな可愛らしい女性に見詰められるとは…役得だな」
なんて言うもんだから自分は頬を染める事しか出来ず俯く。女性慣れしているのか口が上手い。
「それよりこんな時間に女性が一人とは危ないな……ちょっと待っててくれ」
彼はそう言ったきりなかなか戻ってこない。どれくらい待っただろうか、近くで扉の音がして彼が外へ出て来た。着替えたのだろう、ラフな私服姿だがそれさえもかっこよく見える。
「近くまで送ろう」
「そんな!大丈夫です!近いので一人で帰れます!」
初対面の自分にそこまでしてもらう義理なんてない。
「夜道を一人で歩いて襲われてもみろ。女じゃ男には敵わない。だろ?」
そんな事を言われてしまっては何も言い返せなくなる。「…お願いします」と小さな声で従うしかなかった。
その日は家近くの神社にお参りに来ていた。
桜の花が咲く春の季節。この神社にも桜の木があるのだが、悠然とそびえ立ち桃色の花弁を咲き乱れさせていた。
今日は大学を卒業したのに就職先がうまく見つからず願掛けに来たのだ。
——はぁ…卒業出来ても無職って……
ついてない、そう思いながらも自分の事だ。就職出来なかった理由が、分かる気がした。流れに身を任せるよにして大学入学して、目標もやりたい事も見つからないまま…何となくで生きてきた自分だ。周りは必死に、やれ就職説明会だ、面接セミナーだ、と……。同期なんてスケジュール帳いっぱいに面接先の企業名が記されていた。
自分にはそこまでやる気力などなく、後回しにしていたらみんなに先を越されて、挙げ句まだ募集していた企業に慌てて面接を応募したものの不合格ばかり。そりゃそうだ。こんなやる気のなさそうな自分を誰が雇うと言うのだ…。
それでも生きていくためには働かなければ。ここから気持ち新たに自分と向き合おう、そう決めたのだ。
お参りの後、神社に咲いている桜を眺める。
風吹くたびに、ヒラヒラと花びらが舞い踊り、見入ってしまうほど美しいものだった。
——夜桜もいいかも……
何気なく思い付いたそれに満足しながら、再度夜に訪れる事を楽しみに神社を後にする。
夜。
今夜は綺麗な満月。月明かりで外も明るい。
歩いて20分くらいのところにある神社に着き、階段を昇って日中も訪ねた桜の元まで向かう。
思っていた通り、桜は月明かりに照らされ、それはとても美しかった。だが、思ったのは一瞬の事。何処ぞから、カン、パァンと音が鳴り響いている。
その音に導かれるよう歩きまわり、建物が見える頃にはまた甲高い音がした。近付いて確認すればどうやら弓道場で誰かが弓を引いているようだった。
——こんな夜に弓道って出来るんだ…
建物の陰からその姿を確認する。
そこには髪を結った男性が真剣な眼差しで弓を構えていた。そして矢を放つとスパァンと高い音を響かせ鼓膜を揺らす。
その瞬間、時間が止まった。
男性から目が離せなくなり、何故だか胸が高鳴る。左胸に右手を当てて深呼吸を数回……気持ちを落ち着かせるもそれが出来ない。
男性を月明かりが淡く照らす。夜風が吹けば桜の花びらが舞い、とても幻想的で……
「…綺麗っ……」
思わず心の声が漏れ出る。
男性はまた構えると真っ直ぐ的を見て矢を放つ。またカン、スパァンと音が響いて鳥肌が立った。その人は矢を放った後腰に手を当てじっと的を見ている。
もっと近くで見たくて足を踏み出す。ジャリっと足元からの音に驚き体から冷や汗が出た。
「ん?そこにいるのは誰だ?」
男性の方から声がして顔を上げる。なかなかのイケメンだ。…そうではなく、彼に話しかけられていることを思い出し応える。
「ご、ごめんなさい!邪魔するつもりはなくて!」
焦りもあり声が上擦ったような気がする。
「別に構わない」
目を細めて小さく笑う彼にまた鼓動が跳ねる。
久し振りのこの感覚に戸惑いつつも近付いてくる彼から目が離せなかった。近くで見る彼は背が高くて、袴?だろうか…身に付けている衣装が様になって本当に素敵だった。
「そんなに見詰められると流石に照れるな」
「あ!すみません!!」
「いや。こんな可愛らしい女性に見詰められるとは…役得だな」
なんて言うもんだから自分は頬を染める事しか出来ず俯く。女性慣れしているのか口が上手い。
「それよりこんな時間に女性が一人とは危ないな……ちょっと待っててくれ」
彼はそう言ったきりなかなか戻ってこない。どれくらい待っただろうか、近くで扉の音がして彼が外へ出て来た。着替えたのだろう、ラフな私服姿だがそれさえもかっこよく見える。
「近くまで送ろう」
「そんな!大丈夫です!近いので一人で帰れます!」
初対面の自分にそこまでしてもらう義理なんてない。
「夜道を一人で歩いて襲われてもみろ。女じゃ男には敵わない。だろ?」
そんな事を言われてしまっては何も言い返せなくなる。「…お願いします」と小さな声で従うしかなかった。
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