安室透
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
癒しのサンドイッチと珈琲
(名前変換無)
プルルルルルル......
夜も更けた頃、あたっていた任務が終わりスマホから着信を入れる。callボタンを押してすぐに溜息を吐いた。流石に疲れが溜まり体が重い。
明日、久々の休暇である事が唯一の救いだ。後は本部......と言っても、上司である"彼"に報告すれば任務完了。
「君か」
何度目かのcall音で彼が出る。
連絡をするといつもこれで始まるのだが...
「降谷さん。それ、なんとかなりません?」
「どう言おうが僕の勝手だ。それより報告は」
「はいはい。報告します」
必要な情報だけを簡潔に報告していく。
「報告は以上です。明日は休みなので連絡しないで下さいね」
上司である彼にこんな事を言えば普通なら首にされてもおかしくはない。けれど彼は、首にするどころか休日だろうがなんだろうが連絡を寄こしてくる。遠慮というものを知らないのだ。
「残念だが、それは約束出来ないな」
「…勘弁して下さい…今回の任務で体力全て持っていかれたんですから…」
伝われ、そう思いながらわざと大きめに溜息を漏らす。
「そうか」
待て待て、それだけ?!、怒りすら覚える彼の言葉に嫌気が差した。
「では失礼します!!」
少しだけ口調を強め通話を切る。
全く…人をなんだと思っているんだあの人は。今度風見さんに酒でも付き合って貰おう。そして同じ上司を持つ身として語らおう。
明日は休日。今日はゆっくり湯船に浸かり体を労わる事にしようかな。
そうして自分はヒールを高く鳴らし帰路に就いた。
プルルルルルル......
夜中のcall音に重い瞼を開けた。時計を見ればまだ夜中の3時。睡眠を邪魔され機嫌が悪くなるが、こんな時間に電話を寄越すなんて彼しかいない。
若干、苛立ちを覚えながらも通話ボタンを押す。
「もしもし」
「僕だ」
「降谷さん...一体こんな時間に、何の、用ですか?」
欠伸を噛み殺し問いかける。
「君はアレルギーはあるのか?」
「はい?」
「だからアレルギーはあるのかと聞いている」
「アレルギー?いえ...特にないですが」
「花粉症はあるだろう」
「?!なんで知って...」
「春先の時期になるとたまにマスクして目薬も差しているだろう?」
「ああ...それで」
数回しか会っていないというのに観察眼が鋭い。
「食べ物にはないんだな?」
「ないです」
「そうか。それだけ聞きたかっただけだ。夜中にすまなかったな」
「いえ...あの降谷さ、」
何でそんな事を聞くのか気になったが尋ねる前に通話が切れた。
「もう!本当に何なのよ...!」
本当に彼は唐突でよく分からない。眠気が吹き飛んだが、彼の事を考えるだけで苛立ちが増しそう。だから考えるのを止めて寝直す為に布団に潜り込んだ。
————ピンポーン...
数時間後。
漸く心地よい眠気に誘われて寝ていた所にまたも邪魔が入る。
————ピンポーン...
もう一度家の主を呼ぶ音が鳴った。居留守をしようかと思ったが、時間を確認すれば早朝の5時。恐らく玄関外にいるのは彼だ。
尽く 睡眠の邪魔をされて不機嫌極まりない。本当に、一体、何がしたいんだ、ぶつくさ悪態をつきながらベッドから降りる。
「はい、」
「朝早くにすまない。玄関を開けてくれないか?」
「何故ですか。こっちは睡眠妨害されて機嫌が悪いんです」
「休暇なのは知っている。だからそれの相手にと思って持って来たんだ」
カメラ付きインターホンの画面向こう側から申し訳なけなさそうに手に持っている紙袋を見せられる。玄関がある方向へチラリと視線を投げ、画面へとまた戻した。
画面向こうにいる上司である彼、降谷零は一体何を考えているのだろうか。しかも家を教えた記憶はない。個人情報保護法違反だ。
「玄関の取手に掛けておいて下さい」
「おや。それだとドリンクがなしだな...せっかくポアロで振舞っている珈琲をと思ったが」
仕方ない、そう言って袋を玄関の取手に掛けようとしたところで声をかけた。
「......待ってください」
玄関に向かい鍵を外す。
「やっと開けてくれたな」
「このご時世ですからね。不必要には開けません」
「なら開けたと言うことは君に必要だったんだな?」
「......珈琲が飲みたいだけです...」
彼が潜入しているポアロには自分も一度だけ訪れた事がある。その時に飲んだ珈琲があまりにも美味しかったのだ。それをまさか上司でもある彼が淹れていたなんて知らずに。
後から風見さんに聞いて驚いた。また飲みに行こうと思ったのに彼が淹れたものだと知ってなんだか気まずく行けずにいたのだ。
「飲みたそうにしていたようだからな」
「別にそういう訳じゃ...」
「風見が言っていたが?」
おのれ風見め!、心の中で彼にパンチを食らわせる。彼も一応、自分からすれば先輩にあたるから悪魔で心の内だけ。
「さて。始めるとしよう」
そうして彼は当然のようにキッチンに立ち、ガサゴソと準備を始めた。
数十分後には珈琲の香りが部屋の中を漂う。
「ポアロ特製サンドイッチだ」
あのお店にサンドイッチがあったとは。テーブルに乗るサンドイッチと湯気がたつ珈琲を目の前に思わず唾を飲み込んだ。
「...まぁ食べて上げてもいいわ」
「どうぞ召し上がれ」
戴きます、手を合わせてサンドイッチを頬張る。味を噛み締め嚥下すれば珈琲も一口啜る。口の中から鼻腔へ抜ける芳ばしい香りに、喉を温めるよう流れる珈琲。
あの不機嫌さも無くなり、ほっと一息つく。
「何見てるんですか」
そこへ視線を感じそちらを向ければ、片肘をテーブルにつけた手に顎を乗せて、今までに見た事もない笑みを浮かべながら自分を見ていた。
「いや、可愛らしいなと思っただけだ」
「ぶっ!?」
口に含みかけた珈琲で咽せる。いきなり何を言うのかと慌てて口元をティッシュで拭きながら隠す。
「変な事言わないで下さい」
「僕は思ったことしか言わない」
「だからっていきなり...」
「今は仮面を被っていないからな。本当の事を言ったまで」
なんてドヤ顔で言われる。そんなルックスで言われるとさすがの自分も頬や耳が熱くなるのを感じた。
「...何が望みですか?」
「別に望みなんてない。そうだな...強いて言えば、君とはもう少し近しい仲になりたいと思っているくらいかな」
「!!」
彼が何を思ってそう発言したのか分からないがこちらはどう反応してよいか困惑する。
「それは一体......」
「おっと、すまない。時間だ」
疑問をぶつけようとしたが彼はジャケットを手に席を立つ。
「ではまた。よろしく頼む」
そう言い残し部屋を出る彼。玄関に残された自分は崩れるようにして座り込む。
「だからなんで、いつも、肝心なところで話を切るのよ!!」
玄関に向かってそう叫べば、履いていたスリッパを投げつけた。本当に、彼がよく分からない。
悶々としながらもスリッパを拾い、またリビングへ戻る。そこにはまだ温かい珈琲と食べかけのサンドイッチが。
「悔しいけど、美味しい...」
珈琲を口にして出た言葉は本音。美味しいものは美味しいのだ。
なんだか彼に振り回されているような気がしたが珈琲とサンドイッチに免じて気にしない事にする。
久しぶりの休暇に思わぬ来客だったが、それと引き換えに美味しいご馳走を食べ癒しの時間を過ごすことが出来たのだった。
※※※
「降谷さん、今日はご機嫌ですね」
「風見。そう見えるか?」
「ええまぁ......少なくとも自分には」
「そうか。それでどうだ?」
「凄く美味しいです!降谷さん料理上手なんですね。
意外です」
「意外とは失礼な奴だ。だが、成功だな」
「成功?」
「気になる子を射止めるには胃袋を掴めというだろう?」
「ごふっ?!」
彼の言葉に咽せる風見。
「降谷さんが自分を...」、なんて勘違いをした風見がそれから暫く態度がおかしく、その原因を彼女が知るのはだいぶ先のこと。
癒しのサンドイッチと珈琲
fin.
2020.3.14
(名前変換無)
プルルルルルル......
夜も更けた頃、あたっていた任務が終わりスマホから着信を入れる。callボタンを押してすぐに溜息を吐いた。流石に疲れが溜まり体が重い。
明日、久々の休暇である事が唯一の救いだ。後は本部......と言っても、上司である"彼"に報告すれば任務完了。
「君か」
何度目かのcall音で彼が出る。
連絡をするといつもこれで始まるのだが...
「降谷さん。それ、なんとかなりません?」
「どう言おうが僕の勝手だ。それより報告は」
「はいはい。報告します」
必要な情報だけを簡潔に報告していく。
「報告は以上です。明日は休みなので連絡しないで下さいね」
上司である彼にこんな事を言えば普通なら首にされてもおかしくはない。けれど彼は、首にするどころか休日だろうがなんだろうが連絡を寄こしてくる。遠慮というものを知らないのだ。
「残念だが、それは約束出来ないな」
「…勘弁して下さい…今回の任務で体力全て持っていかれたんですから…」
伝われ、そう思いながらわざと大きめに溜息を漏らす。
「そうか」
待て待て、それだけ?!、怒りすら覚える彼の言葉に嫌気が差した。
「では失礼します!!」
少しだけ口調を強め通話を切る。
全く…人をなんだと思っているんだあの人は。今度風見さんに酒でも付き合って貰おう。そして同じ上司を持つ身として語らおう。
明日は休日。今日はゆっくり湯船に浸かり体を労わる事にしようかな。
そうして自分はヒールを高く鳴らし帰路に就いた。
プルルルルルル......
夜中のcall音に重い瞼を開けた。時計を見ればまだ夜中の3時。睡眠を邪魔され機嫌が悪くなるが、こんな時間に電話を寄越すなんて彼しかいない。
若干、苛立ちを覚えながらも通話ボタンを押す。
「もしもし」
「僕だ」
「降谷さん...一体こんな時間に、何の、用ですか?」
欠伸を噛み殺し問いかける。
「君はアレルギーはあるのか?」
「はい?」
「だからアレルギーはあるのかと聞いている」
「アレルギー?いえ...特にないですが」
「花粉症はあるだろう」
「?!なんで知って...」
「春先の時期になるとたまにマスクして目薬も差しているだろう?」
「ああ...それで」
数回しか会っていないというのに観察眼が鋭い。
「食べ物にはないんだな?」
「ないです」
「そうか。それだけ聞きたかっただけだ。夜中にすまなかったな」
「いえ...あの降谷さ、」
何でそんな事を聞くのか気になったが尋ねる前に通話が切れた。
「もう!本当に何なのよ...!」
本当に彼は唐突でよく分からない。眠気が吹き飛んだが、彼の事を考えるだけで苛立ちが増しそう。だから考えるのを止めて寝直す為に布団に潜り込んだ。
————ピンポーン...
数時間後。
漸く心地よい眠気に誘われて寝ていた所にまたも邪魔が入る。
————ピンポーン...
もう一度家の主を呼ぶ音が鳴った。居留守をしようかと思ったが、時間を確認すれば早朝の5時。恐らく玄関外にいるのは彼だ。
「はい、」
「朝早くにすまない。玄関を開けてくれないか?」
「何故ですか。こっちは睡眠妨害されて機嫌が悪いんです」
「休暇なのは知っている。だからそれの相手にと思って持って来たんだ」
カメラ付きインターホンの画面向こう側から申し訳なけなさそうに手に持っている紙袋を見せられる。玄関がある方向へチラリと視線を投げ、画面へとまた戻した。
画面向こうにいる上司である彼、降谷零は一体何を考えているのだろうか。しかも家を教えた記憶はない。個人情報保護法違反だ。
「玄関の取手に掛けておいて下さい」
「おや。それだとドリンクがなしだな...せっかくポアロで振舞っている珈琲をと思ったが」
仕方ない、そう言って袋を玄関の取手に掛けようとしたところで声をかけた。
「......待ってください」
玄関に向かい鍵を外す。
「やっと開けてくれたな」
「このご時世ですからね。不必要には開けません」
「なら開けたと言うことは君に必要だったんだな?」
「......珈琲が飲みたいだけです...」
彼が潜入しているポアロには自分も一度だけ訪れた事がある。その時に飲んだ珈琲があまりにも美味しかったのだ。それをまさか上司でもある彼が淹れていたなんて知らずに。
後から風見さんに聞いて驚いた。また飲みに行こうと思ったのに彼が淹れたものだと知ってなんだか気まずく行けずにいたのだ。
「飲みたそうにしていたようだからな」
「別にそういう訳じゃ...」
「風見が言っていたが?」
おのれ風見め!、心の中で彼にパンチを食らわせる。彼も一応、自分からすれば先輩にあたるから悪魔で心の内だけ。
「さて。始めるとしよう」
そうして彼は当然のようにキッチンに立ち、ガサゴソと準備を始めた。
数十分後には珈琲の香りが部屋の中を漂う。
「ポアロ特製サンドイッチだ」
あのお店にサンドイッチがあったとは。テーブルに乗るサンドイッチと湯気がたつ珈琲を目の前に思わず唾を飲み込んだ。
「...まぁ食べて上げてもいいわ」
「どうぞ召し上がれ」
戴きます、手を合わせてサンドイッチを頬張る。味を噛み締め嚥下すれば珈琲も一口啜る。口の中から鼻腔へ抜ける芳ばしい香りに、喉を温めるよう流れる珈琲。
あの不機嫌さも無くなり、ほっと一息つく。
「何見てるんですか」
そこへ視線を感じそちらを向ければ、片肘をテーブルにつけた手に顎を乗せて、今までに見た事もない笑みを浮かべながら自分を見ていた。
「いや、可愛らしいなと思っただけだ」
「ぶっ!?」
口に含みかけた珈琲で咽せる。いきなり何を言うのかと慌てて口元をティッシュで拭きながら隠す。
「変な事言わないで下さい」
「僕は思ったことしか言わない」
「だからっていきなり...」
「今は仮面を被っていないからな。本当の事を言ったまで」
なんてドヤ顔で言われる。そんなルックスで言われるとさすがの自分も頬や耳が熱くなるのを感じた。
「...何が望みですか?」
「別に望みなんてない。そうだな...強いて言えば、君とはもう少し近しい仲になりたいと思っているくらいかな」
「!!」
彼が何を思ってそう発言したのか分からないがこちらはどう反応してよいか困惑する。
「それは一体......」
「おっと、すまない。時間だ」
疑問をぶつけようとしたが彼はジャケットを手に席を立つ。
「ではまた。よろしく頼む」
そう言い残し部屋を出る彼。玄関に残された自分は崩れるようにして座り込む。
「だからなんで、いつも、肝心なところで話を切るのよ!!」
玄関に向かってそう叫べば、履いていたスリッパを投げつけた。本当に、彼がよく分からない。
悶々としながらもスリッパを拾い、またリビングへ戻る。そこにはまだ温かい珈琲と食べかけのサンドイッチが。
「悔しいけど、美味しい...」
珈琲を口にして出た言葉は本音。美味しいものは美味しいのだ。
なんだか彼に振り回されているような気がしたが珈琲とサンドイッチに免じて気にしない事にする。
久しぶりの休暇に思わぬ来客だったが、それと引き換えに美味しいご馳走を食べ癒しの時間を過ごすことが出来たのだった。
※※※
「降谷さん、今日はご機嫌ですね」
「風見。そう見えるか?」
「ええまぁ......少なくとも自分には」
「そうか。それでどうだ?」
「凄く美味しいです!降谷さん料理上手なんですね。
意外です」
「意外とは失礼な奴だ。だが、成功だな」
「成功?」
「気になる子を射止めるには胃袋を掴めというだろう?」
「ごふっ?!」
彼の言葉に咽せる風見。
「降谷さんが自分を...」、なんて勘違いをした風見がそれから暫く態度がおかしく、その原因を彼女が知るのはだいぶ先のこと。
癒しのサンドイッチと珈琲
fin.
2020.3.14
3/3ページ